『New York 結婚狂騒曲』:2008、アメリカ&アイルランド
エマはラジオで恋愛相談番組を担当し、女性たちから高い支持を受けている。彼女は電話を掛けて来る女性たちに、「おとぎ話のような王子様はいない」「真実の愛を求めたければ、理想とする恋人像を定めること」「ただ恋に落ちるのではなく、友達としても最適な人を選ぶべき」「簡単に妥協せず、相手を見極めないと後悔する」などと助言する。消防士のパトリックと婚約中のソフィアも、エマのファンで番組を聞いていた。ソフィアがパトリックの出場した草サッカーの試合を見ていると、彼はファールでイエローカードを出された。審判に抗議して掴み掛かろうとした彼は、レッドカードを提示されて怒り狂った。
ソフィアは番組に電話を掛け、エマに「今週末には結婚する予定だけど、迷ってる」と打ち明けた。その番組を、たまたまパトリックも仲間のラリーたちと一緒に聴いていた。ソフィアはエマの相性テストで12点だったことを話し、「孤独を恐れているのでは?」という指摘に「そうかも」と同意する。エマは彼女の相談を受け、「何をすべきかは自分で分かっているはずよ」と告げた。パトリックはソフィアから結婚解消を告げられ、町で見掛けると執拗に追い回す。パトリックは考え直すよう求めるが、ソフィアの気持ちは変わらなかった。そのため、パトリックはエマに対する怒りを募らせた。
エマは出版社の社長を務めるリチャードと交際しており、幸せな日々を送っていた。彼女はリチャードの会社から、著書を発売することになっていた。一方、パトリックはインド料理店の2階にあるアパートの一室に暮らしていた。料理店の息子であるアジャイは凄腕ハッカーで、パトリックにエマの出生証明書を見せて「ずっと彼女の文句ばかり言ってる。復讐したいんでしょ」と言う。パトリックはアジャイに頼み、エマと自分が結婚したように戸籍を改ざんしてもらった。
エマはリチャードと一緒に結婚認可申請書へ行き、自分が既婚者になっていることを知らされた。結婚していないことを訴える彼女に、職員は婚姻無効の申請書を公正証書として提出するよう説明した。ただし、それには結婚相手として記されているパトリックの署名も必要だという。リチャードが「我が社のイチオシとして、君の本は初版で7万部も印刷してるのに、タイミングが悪い。ボーレンベッカーによる買収で、我が社の先行きは不透明だ。そこへ君の記事が出れば、アビンドン・ブックスは終わりだ」と弱気に言うので、エマは「私に任せて。自分で解決するから」と告げた。
エマはパトリックの住むアストリアへ行き、レストランで消防署のことを聞く。そこからパトリックのいるバーへ行くが、勧められるまま酒を飲んだ彼女は酔い潰れてしまった。パトリックはエマを抱えて部屋に戻り、ベッドで寝かせた。翌朝、エマが目を覚ますとパトリックは既に出掛けており、「昨夜は楽しかった」というメモが残されていた。慌てて事務所へ出向いたエマは、リチャードからの電話で昨夜のことを訊かれて誤魔化した。父のワイルダーが来ていたが、パトリックからも電話が入り、ほとんど話せないまま立ち去った。
パトリックはエマの置き忘れた書類を持参して現れ、「この近くに公証役場がある」と告げる。エマが「今すぐ?ウェディングケーキの試食があるの。ようやく予約が取れたの」と言うと、パトリックは同じタクシーに乗り込んだ。彼はケーキ店でエマの隣に座り、周囲の客に対して婚約者として振る舞った。彼は無作法にケーキを食べるが、隣の席の婦人は気に入った様子だった。出会いについて質問されたエマは、パトリックと交際しているように装って応対した。
パトリックはエマを連れて、友人である公証人のディープを訪ねた。ディープはパトリックの合図を受け、「確認するには時間が掛かる。1ヶ月か、あるいは1年か」と期間を引き延ばす。エマは「パーティーに遅刻しそうなの。後で人を寄越すわ。明朝には済んでるでしょ」と告げて立ち去った。ディープが「これ以上は協力できない。彼女が可哀想だ」と言うと、パトリックは「自業自得だと分からせたい」と告げる。彼がニヤニヤしながら「それに、実は気持ちが高まって来た」と話すと、ディープは「何を言い出すんだ。気持ちが高まるとか、惚れちまったとか、そんなのは勘弁してくれ」と述べた。
エマは出版記念パーティーの会場へ行き、リチャードと会う。トイレに入ったエマは、ケーキ店の婦人と再会した。彼女は出版社の買収に乗り出したカール・ボーレンベッカーの妻、グレタだった。グレタはカールをパーティーに引っ張って来たこと、彼が会社の清算を考えていることを話し、「リチャードも含めて、後で食事しましょう」と誘う。会場にパトリックが来ると、グレタは「リチャード」と呼んだ。エマはパトリックに駆け寄り、話を合わせるよう頼んだ。
グレタはエマとパトリックをカールの元へ連れて行き、2人を紹介した。パトリックとカールは、サッカーの話題で意気投合した。そこへリチャードが来て夫妻に挨拶しようとすると、エマは慌てて「兄のカールです」と誤魔化した。リチャードがエマを厨房へ連れて行くと、彼女は手短に事情を説明した。リチャードが「評判が失墜しない内に、誤解を解きに行く」と言うと、彼女は「自殺行為よ。会社が清算される。奥さんはパトリックを気に入ってる」と告げる。エマの説得を受け、リチャードは彼女の策に乗ることを承知した。
会場からパトリックが消えたので、エマは留守電に「私のキャリアと結婚が懸かってるの。貴方が必要なの」と吹き込む。レストランでエマがボーレンベッカー夫妻と一緒にいると、パトリックが姿を見せた。彼は「家族の大切な行事があるんだ。皆さんをパーティーに招待したい」と言う。エマと夫妻はパトリックに連れられ、アジェイたちが参加するヒンズー教の儀式を見物した。エマはパトリックと踊り、楽しい時間を過ごす。
「貴方を誤解してたわ」とエマが言うと、パトリックは「俺もだ」と告げてキスをした。エマは慌てて「帰らなきゃ」と言い、その場を後にした。パトリックはアジェイから、「真実を話しなよ。女は正直さを求める」と言われる。エマは父に、「何してるのかしら。結婚式を2週間後に控えて、書類上の夫とインドの儀式に参加するなんて」と漏らす。エマはリチャードと会い、書類を忘れたことを明かして取り乱した様子を見せた。リチャードは「何も心配しなくていい。全て私に任せればいい」と告げた。
リチャードはパトリックと会い、「昨日のことは感謝してる。書類を渡してほしい」と言う。パトリックが「俺がエマに渡すよ」と話すと、彼は「それは駄目だ。私と彼女の人生から君を除外したい。だからエマに会うことも、電話やメールもやめてくれ」と述べた。さらに彼は、「コンピュータに詳しい知人はいるかい?彼女は不具合だと言ったが、私は違うと思う。身近に不具合を正せる知り合いは?」と訊く。パトリックが「思い付かないね」と答えると、リチャードは「必ず突き止める」と口にした。
パトリックはエマの本を読み、ラジオ局へ押し掛けた。彼は番組に電話を掛け、ブースを叩いて自分の所在をエマに知らせる。彼が「本を読んだが、まるで心に響かない。運命の相手を捜す方法も、愛される方法も書いてない」と言うと、エマは腹を立てて「まずは自分の問題を見つめ直すことね」と告げて電話を切った。番組を終えてブースを出たエマはパトリックを追い掛け、2人は激しく言い争いながらエレベーターに乗り込んだ。
パトリックは「相性テストも試してみたが、この本を買うような女には適さないとさ」と言い、他の客を全てエレベーターから降ろした。彼は「適していると思わせてやる」と告げ、エマにキスをする。エマは彼のキスを受け入れ、強く抱き締め合った。監視カメラの映像を見ていた警備員から注意された2人は、エレベーターを出て屋上へ向かう。エマが「私、結婚するの」と言うと、パトリックは「戸籍上の夫として幸せになって欲しい」と述べ、書類を渡して立ち去った…。監督はグリフィン・ダン、脚本はミミ・ヘア&クレア・ネイラー&ボニー・シコウィッツ、製作はスザンヌ・トッド&ジェニファー・トッド&ジェイソン・ブルム&ボブ・ヤーリ&ユマ・サーマン、製作総指揮はアンソニー・カタガス&カム・マティーン&ニール・カディシャ&ブラッド・ジェンケル、撮影はウィリアム・レクサー二世、編集はスージー・エルミジャー、美術はマーク・リッカー、衣装はデヴィッド・ロビンソン、音楽はアンドレア・グエラ、音楽監修はデニス・ルイーゾ。
出演はユマ・サーマン、コリン・ファース、ジェフリー・ディーン・モーガン、サム・シェパード、イザベラ・ロッセリーニ、ブルック・アダムス、ケア・デュリア、ジャスティナ・マチャド、リンゼイ・スローン、アジャイ・ナイドゥー、サリタ・チョウドリー、ジェフリー・テッドモリ、ニック・サンドウ、マイケル・モーズリー、リンジー・クラフト、ヨランダ・ベヴァーン、アデソラ・オサカルミ、サント・ファシオ、ハドソン・クーパー、ジョン・ロスマン、エリザベス・ファータド他。
『恋におぼれて』『プラクティカル・マジック』のグリフィン・ダンが監督を務めた作品。
脚本のミミ・ヘアとクレア・ネイラーは、これがデビュー。ボニー・シコウィッツはTVドラマ『スピン・シティ』のライターで、映画脚本は初めて。
エマをユマ・サーマン、リチャードをコリン・ファース、パトリックをジェフリー・ディーン・モーガン、ワイルダーをサム・シェパード、グレタをイザベラ・ロッセリーニ、カールをケア・デュリア、ソフィアをジャスティナ・マチャドが演じている。この映画が抱えている致命的な欠陥はハッキリしていて、それは「主役2人に魅力を感じない」ってことだ。好感が持てないどころか、むしろ不快感を強く抱いてしまう。
まずオープニング、パトリックはファールでイエローカードを提示されると審判に掴み掛からんばかりの勢いで抗議し、退場処分を受けると怒鳴り散らす。
その段階で、「そりゃソフィアが結婚を迷うのも分かるわ」と感じる。
その後、結婚を撤回されたリチャードは町でソフィアを見つけると消防車のまま追い掛け、マイクを使って呼び掛ける。ソフィアが八百屋に逃げ込むと、「出てくるまで待つぞ」と脅す。
「急にフラれた可哀想な男」ではなく、ただの不快な男でしかない。一応は寂しそうな表情も浮かべているが、まるで同情心を誘わない。パトリックがソフィアにフラれたのは自業自得なのだが、彼は全く自分に非があるとは思っておらず、「ソフィアをそそのかしたエマが悪い」と怒りと憎しみの感情を向ける。
エマは「決めるのは貴方」と判断をソフィアに委ねているし、前述したパトリックの様子を見ている限り、「別れた方が賢明だ」という助言は正しいと感じる。
だからパトリックには全く共感できない。
しかも、そこで「自分に非がある」と認識していないだけでなく、こいつは結局、最後まで「ソフィアにフラれたのは自分のせい」とは気付かないのだ。そういう意味では、こいつは全く成長しないのだ。エマにも非があるならともかく、彼女は何も悪くない。他のアドバイスに関しては、ひょっとすると言い過ぎや決め付けがあったかもしれないが、ソフィアに関しては前述の通り、「パトリックと結婚しなくて大正解」と感じる。
それに、エマの助言が正しいかどうかは別にしても、「フラれたからエマの戸籍を改ざんする」ってのは、情状酌量の余地が無い犯罪行為である。
せめて「以前から2人が親しい関係」ということであれば、まだ何とかなったかもしれない。
しかし、まるで互いを知らない状態で、「逆恨みによる犯罪行為で戸籍上の夫婦になった」というところからロマンスを構築しようってのは、簡単な作業ではない。
実際、失敗している。エマがバーに来た時、パトリックは慌ててビリヤード台の下に隠れる。
彼女が近付いて来ると仕方なく姿を見せるので、だったらアタフタしながら取り繕うのかと思いきや、そこからは余裕の態度を取り続ける。ビリヤードに誘い、店の客たちに「彼女は結婚するんだ」と乾杯を促し、どんどんエマに酒を飲ませる。すっかり自分のペースに巻き込み、逆にエマがアタフタした感じになっている。
だったら、最初にビビって隠れたのは何なのかと。
そこはキャラの動かし方に一貫性が無いぞ。一方、エマが誘われるままビリヤードをやったり、調子に乗って酒を飲みまくったりするのは、キャラの動かし方に無理を感じる。
なぜ彼女は、さっさと事情を説明して書類に署名するよう頼まないのか。もしも他の客に聞かれたくないってことなら、どこかへ移動して2人で話したいと説明すればいい。
そもそも、そこまでのエマの動かし方からすると、「強引なパトリックのペースに巻き込まれ、翻弄されてしまう」というのが不自然なのだ。
そんなに自分の無い、すぐアタフタしちゃう女性には見えなかったのでね。エマが不自然な形で酔い潰れ、パトリックの部屋で一夜を明かす展開になっているので、彼女にも魅力を感じないし、共感できない。あまりにも愚かで軽率すぎるのだ。
その後、パトリックが来た時に公証役場へ行くことよりケーキの試食を優先したり、彼が店まで付いて来て一緒に食べるのを許したりしているのも、やはり展開として無理があると感じる。
グレタから出会いについて訊かれた際、パトリックとカップルを装って話すのも理解不能。そこで婚約者カップルを装わなきゃいけない必要性なんて何も無い。
最初はパトリックが婚約者として振る舞っていたら否定していたのに、なぜグレタから出会いについて訊かれるとカップルとして喋るのか。一方、ケーキ店で婚約者として振る舞い、無作法にケーキを食べるパトリックにも、もちろん魅力など感じない。
こいつの好感度は、登場した時から全く上昇していない。ディープに対して「(エマに)自業自得ってことを分からせて分からせてやりたいんだ」と言っているが、自業自得ってのはソフィアにフラれたテメエのことだよ。「それに気持ちが高まりつつあるんだ」とも彼は言うけど、ニヤニヤしているから本気には思えないし。
しかも、そこでニヤニヤしながらプレイボーイ的に「エマに惚れた」的なことを言うことで、「ソフィアに失恋して落ち込んでいたのに、すんげえ立ち直りが早いな」と感じるし。
だから余計に不快指数が増すだけだ。エマが出版記念パーティーでパトリックをリチャードとしてボーレンベッカー夫妻に紹介するってのも、展開として強引だと感じるぞ。
どうせ、すぐにバレることは確実なのに。
「エマが嘘で誤魔化して」というトコで笑いを作ろうとしているみたいだけど、ちっとも笑いに繋がらない。ただ違和感と不快感を感じるだけ。
一応、「グレタがパトリックを気に入っているので、会社の清算を阻止するため」という名目は用意されているけど、それで腑に落ちることなんて全く無いよ。パトリックがエマに協力したり、儀式のパーティーに連れて行ったりすることろで「パトリックの意外な一面を見たエマが見直す」という展開にしてあるけど、その程度では、そこまでのマイナスを取り返せないよ。
っていうか、復讐目的の犯罪行為に関しては、「それはそれ、これはこれ」と感じるし。
「パトリックのペースに巻き込まれて翻弄されている内に、エマが彼に惚れて行く」という話をやりたいんだろうってことは伝わって来るけど、その筋書き自体が強引になり過ぎているのだ。
そして、そんな男女がカップルになっても、応援する気持ちが湧かない。「性格や行動に問題は多いけどギャップのある男にヒロインがコロッとイカれて、優しくまて物分かりのいい男を袖にする」ってのは、少女漫画では良くあるパターンだ。
この映画は、そういう典型だと言える。
そう考えると、少女漫画が好きな女子なら満足できるのかもしれない。
だけど冷静に考えると、「問題行動が多いけどギャップがある男に惚れる」ってのは、「たまに優しいDV男に依存する」ってのと大して変わらない気もするんだけどね。傍から見ていると、どう考えたってリチャードの方がパトリックよりも、いい男だ。
ところが、この映画ではワイルダーの皮肉っぽい「彼は完璧な男だ」という表現からして、その「立派な男」であることを否定されてしまう。
それを否定されたら、どうすりゃいいのかと。
彼の「いつも正しくあろうとするな。間違っても平気だ」というアドバイスを受けてエマはパトリックを選ぶんだけど、「それは明らかに間違った選択だよ」と言いたくなる。パトリックの強引さで、気の迷いが生じているだけだと言いたくなる。しかも、そこでエマはリチャードを捨ててパトリックに走ったくせに、パトリックが戸籍を改ざんしていたことを知ると、リチャードと結婚することを決めるのだ。
ところが、結婚を決めた後、パトリックから熱烈な告白を受けると、また彼の方に戻る。
なんちゅう身勝手な女だよ。リチャードが不憫で仕方が無いわ。
とにかく、この映画はエマとパトリックの恋愛を応援したいという気持ちが全く湧かず、ただリチャードがひたすら可哀想だと感じるだけだ。(観賞日:2015年4月16日)