『2012』:2009、アメリカ

2009年、インドのナーガ・デン銅山。地質学者のエイドリアン・ヘルムズリー博士はニューデリー宇宙物理学研究所を訪れ、友人のサトナムと再会した。サトナムはエイドリアンを地下施設へ案内し、量子物理学者のロケーシュを紹介する。エイドリアンはサトナムから、人類史上最大の太陽爆発によってニュートリノの数が観測史上最大になっていること、初めて物理反応を起こしたことを聞かされる。ニュートリノは新しい核粒子に変化し、地球の中心を熱し始めているとサナトムは語る。
アメリカへ戻ったエイドリアンは、資金集めパーティーを開いている大統領首席補佐官のカール・アンハイザーと接触した。エイドリアンが用意した資料を見たカールは、顔を強張らせた。カールは「今から私が上司だ」とエイドリアンに告げ、ウィルソン大統領の元へ向かう。2010年、G8サミットに出席したウィルソンは各国首脳以外を退席させ、世界の終焉が近いことを明かした。チベットのチョーミン渓谷では大規模なダム建設が開始され、住民は移住を余儀なくされた。2011年、アラブの王子は使者のアイザックスから、10億ユーロを請求された。パリのルーブル美術館では、館員のローラたちがモナ・リザの絵画を贋作と入れ替えた。
2012年、カリフォルニア州。テレビ番組では世界滅亡説が取り上げられ、街では地震が頻発して地割れが起きている。しかし売れない作家でタクシー運転手のジャクソン・カーティスにとって、そんなことは全く眼中に無かった。今の彼にとって重要なのは、息子のノア、娘のノアと過ごすキャンプのことだった。ジャクソンは妻のケイトと別れ、子供たちは彼女が引き取っている。ケイトはゴードンという美容外科医と交際中で、一緒に暮らしている。リリーはジャクソンに懐いているが、ノアは父親を嫌っていた。
ジャクソンはリムジンタクシーに子供たちを乗せ、イエローストーン国立公園へ向かった。同じ頃、ベース奏者トニーとピアノ奏者のハリーは日本行きの豪華客船に乗り込もうとしていたが、軽い地震に見舞われた。ローラはフランス国立美術館代表を務めるロランからの電話で、「文化遺産機構に騙された。美術品が保管庫に運ばれていない。明日の会見で真実を話す」と言われる。だが、その直後にロランは自動車事故で絶命した。
エイドリアンはウィルソンに、「私が立てたスケジュールを白紙に戻すべきです。間違っていました」と告げる。しかしウィルソンは、まるで相手にしなかった。そこへウィルソンの娘であるローラが来てロランの死亡事故を話し、「彼は文化遺産機構に騙されたと言ってた。どういうこと?」と尋ねる。ウィルソンは娘と2人になり、「前例の無い国際的な計画が進行中だ。現時点で46ヶ国が参加している」と明かした。
ジャクソンは以前に無かった立ち入り禁止の柵を発見するが、子供たちを連れて中に入った。あったはずの湖が消えており、ジャクソンは困惑する。そこへ陸軍が駆け付け、すぐに退去するよう促した。その様子を、個人でラジオDJをしているチャーリー・フロストが木陰から密かに観察していた。ジャクソンと子供たちは、陸軍のジープで公園内に設置された地質研究所へ連行された。エイドリアンはジャクソンに、湖が消えた原因を調査しているのだと説明した。
サトナムと連絡を取ったエイドリアンは、「地殻の崩壊が始まっている」と告げられる。「早すぎる」と驚くエイドリアンに、サトナムは避難を開始するよう告げた。ジャクソンと子供たちがキャンプ地に戻るとチャーリーが現れ、「政府の連中に何を言われた?」と尋ねた。「あの辺りは不安定な状態だと言われた」とジャクソンが答えると、チャーリーは大笑いした。エイドリアンはカールに電話を入れ、「世界中で地下の温度が急激に上昇しています。今すぐに動かないと」と訴えた。
その夜、ジャクソンはイエローストーンでチャーリーがラジオ番組を生放送していると知り、彼が設置しているトレーラーへ赴く。するとチャーリーは、「黙示録に書かれていた終末の日が訪れる。マヤ暦では2012年に大災害が起きると予言されている。ニュートリノで地球の核が溶ける。終末の日は12月21日だ。政府は混乱を恐れて真実を隠している」と語った。「誰かが真実を暴露するはずだ」と懐疑的な意見を述べるジャクソンに、チャーリーは「暴露しようとした奴らは全て死んだ」と告げ、大量の死亡記事のスクラップを見せた。その中にはジャクソンの知っている科学者も含まれており、チャーリーは「政府は宇宙船を建造してる」と述べた。本気にしないジャクソンに、彼は「早くイエローストーンを出た方がいい。大変なことになる」と忠告した。
ケイトとゴードンが大型スーパーで買い物をしていると、店内に大きな地割れが生じた。ケイトはノアに電話を掛け、すぐに戻るよう告げた。カールはウィルソンに、「方舟の建造は4隻が間に合うそうです」と報告する。「たった4隻か」とウィルソンが言うと、カールは「40万人以上が助かる。これは奇跡です。各国首脳を説得して下さい」と述べた。エイドリアンは予想より早く状況が悪化していることを各国首脳に説明し、残り時間は2日か3日だと告げた。ウィルソンが直ちに避難することを提言すると、反対意見は出なかった。
若い恋人のタマラとボクシング観戦に来ていたロシアの大富豪ユーリ・カルポフは、携帯電話に「乗船を開始せよ」というメッセージを受け取った。子供たちをケイトの元へ送り届けたジャクソンは、ユーリからの電話で「息子のオレグとアレクを迎えに行け。飛行機に乗せろ」と指示された。ジャクソンは生意気な双子のオレグとアレクを車に乗せ、空港まで送り届けた。わざとジャクソンが鞄を乱暴に扱うと、双子は「僕らは大きな船のチケットがあるから生き延びるけど、お前は死ぬんだ」と言い放った。
ジャクソンは小型飛行機をチャーターし、ケイトに電話を掛けて「すぐに荷作りしろ。カリフォルニアが海に沈む」と告げた。ケイトは相手にせず、電話を切った。その直後、激しい地震が発生した。ジャクソンが「早く外に出ろ」と言ってもケイトは「ここの方が安全よ」と反論するが、リリーが飛び出すと他の面々も続いた。全員が脱出した直後、家は崩壊した。巨大な地割れが迫って来る中、ジャクソンは猛スピードで車を飛ばした。
一行が空港に到着すると、チャーター機のパイロットが事故で死亡していた。何度かレッスンを受けたことがあるゴードンに、ケイトは操縦を依頼した。街が崩壊する中、ジャクソンたちは何とか離陸した。ジャクソンはケイトに、「ここだけじゃない。世界中が崩壊する。イエローストーンで会った男が教えてくれた。政府が船を作ってるらしい。それに乗れば安全だ。彼が地図を持ってる」と告げる。
エイドリアンは父のハリーに電話を掛け、「前に中国のダムの話をしたの、覚えてる?始まった。父さんに喋ったのがバレたら殺される。大統領がホワイトハウスからの退去命令を出した」と言う。父親を心配するエイドリアンに、ハリーは「客船ジェネシスは大きな船だ。トニーを一人には出来ない」と別れを告げた。ジャクソンはイエローストーンに着陸し、付いて来たリリーを連れてチャーリーの元へ向かった。しかしトレーラーにチャーリーがいなかったため、周辺を捜索した。
山の上で叫んでいるチャーリーを見つけたジャクソンは、「宇宙船はどこにある?」と尋ねる。チャーリーは「今からじゃ辿り着けない」と言うが、ジャクソンは「飛行機がある。一緒に行こう」と誘う。チャーリーが「ここに残る」と言うので、ジャクソンはトレーラーで走り去る。ジャクソンはトレーラーにあった地図を発見し、ケイトたちと共に飛行機で脱出した。手に入れたのが中国の地図だと知ったジャクソンは、「大きな飛行機が必要だ」と述べた。
世界中で大地震が起き、多くの犠牲者が出ていた。エイドリアンはカールに、「そろそろ警告を出さなくていいんですか」と尋ねる。「それは乗船が完了してからだ」とカールが言うと、「それは2年前のプランです」とエイドリアンは反論する。カールが「では世界滅亡を発表しろというのか。我々は人類存続のために動いているんだ。君は協力しないのか」と告げた直後、ワシントンが7時間後に火山灰で覆われるという連絡が入った。カールはエイドリアンに、「政府を船に移すぞ」と述べた。
教会で祈りを捧げていたウィルソンは、エイドリアンに「死んだ妻から、乗船券はくじで決めたら?チャンスは平等に与えるべきよと言われたことがあった。そうすべきだったかもしれない」と語り、エアフォース・ワンに乗らないことを告げた。エアフォース・ワンへ行ったエイドリアンは、そのことをカールに伝えた。カールは搭乗した面々に、副大統領機が墜落したことを知らせた。ウィルソンは既に搭乗しているケイトに電話を掛け、「今のパパに必要なのは、みんなに真実を話すことだ」と告げた。彼はテレビに出演し、世界の滅亡が迫っていることを国民に打ち明けた。
ラスベガスで立ち往生していたジャクソンたちは、タマラと出会った。彼女はゴードンの患者だった。ジャクソンはユーリに、飛行機で逃げるなら自分たちも乗せてほしいと頼む。ユーリは部下のサーシャから、飛行機を発見したが副操縦士が必要だと言われる。ジャクソンが「ゴードンは凄腕のパイロットです」と告げ、同乗させてもらえることになった。一行は飛行機に乗り込み、中国へ向かった。
チベットの寺院では、少年僧侶のニーマがラマ師に「兄のテンジンがトンネル内で船を建造中だと言っています。世界が滅びるとしたら、どうします?」と問い掛ける。ラマ師は「頭の中が噂で溢れているようだ。まず自分を空っぽにしろ」と説き、トラックのキーを渡した。村に戻ったニーマは、祖母に「兄さんから伝言だ。トンネルで西門で会おうって。兄さんが造った船に乗れる」と言う。「政府は騙してる。洪水が起きるんだ。逃げないと」と彼は話すが、祖母は全く慌てる様子が無かった。
ユーリはジャクソンから「船に乗るのに幾ら支払ったんですか」と問われ、「1人につき10億ユーロだ」と答える。「酷い話ですね」とジャクソンが言うと、彼は「そうか?お前も金があったら同じことをやっていただろ?」と述べた。ゴードンとサーシャは給油のためにハワイへ着陸しようとするが、島全体が炎上していた。ゴードンはジャクソンたちに、着陸装置が取れていることを明かした。ワシントンは大地震に襲われ、街は火山灰に覆われた。地殻の移動が始まり、ジェネシスは大津波に飲み込まれた。津波はワシントンにも押し寄せ、ウィルソンは妻の待つ場所へ旅立った…。

監督はローランド・エメリッヒ、脚本はハラルド・クローサー&ローランド・エメリッヒ、製作はハラルド・クローサー&マーク・ゴードン&ラリー・フランコ、共同製作はフォルカー・エンゲル&マルク・ワイゲルト&アーロン・ボイド、製作総指揮はローランド・エメリッヒ&ウテ・エメリッヒ&マイケル・ウィマー、製作協力はカースティン・ウィンクラー、撮影はディーン・セムラー、編集はデヴィッド・ブレナー&ピーター・S・エリオット、美術はバリー・チューシッド、衣装はシェイ・カンリフ、音楽はハラルド・クローサー&トーマス・ワンダー。
出演はジョン・キューザック、キウェテル・イジョフォー、アマンダ・ピート、ウディー・ハレルソン、ダニー・グローヴァー、オリヴァー・プラット、タンディー・ニュートン、トム・マッカーシー、ジョージ・シーガル、リアム・ジェームズ、モーガン・リリー、ブルー・マンクマ、ズラトコ・ブリッチ、ベアトリス・ローゼン、ジョン・ビリングスレイ、チン・ハン、オスリク・チャウ、フィリップ・オスマン、アレクサンドル・オスマン、ジミ・ミストリー、ヨハン・アーブ、ライアン・マクドナルド、スティーヴン・ハッティー、リサ・ルー、ヘンリー・オー、パトリック・ボーショー、チャン・ツェン他。


『デイ・アフター・トゥモロー』『紀元前1万年』のローランド・エメリッヒが監督を務めた作品。
脚本は『紀元前1万年』と同様、作曲家のハラルド・クローサーとエメリッヒが共同で担当している。
ジャクソンをジョン・キューザック、エイドリアンをキウェテル・イジョフォー、ケイトをアマンダ・ピート、チャーリーをウディー・ハレルソン、ウィルソンをダニー・グローヴァー、カールをオリヴァー・プラット、ローラをタンディー・ニュートン、ゴードンをトム・マッカーシー、トニーをジョージ・シーガル、ノアをリアム・ジェームズ、リリーをモーガン・リリー、ハリーをブルー・マンクマ、ユーリをズラトコ・ブリッチが演じている。

この映画を観賞する上でポイントになるのは、「ローランド・エメリッヒに何を期待するのか」ってことだ。
それを考えると、エメリッヒは期待通り、いや、ひょっとすると期待以上の映画を作り上げたと言えるかもしれない。
彼の特徴は、「話のスケールはデカいけど、細かいディティールは気にしない」「破壊や災害の映像表現は派手だけど、ほぼアトラクション化させる」「人間ドラマは気にするな」ってことだ。
その持ち味が、この映画でも見事に表現されている。

ローランド・エメリッヒが素晴らしいのは、最初から狙ってバカ映画を作っているわけではなく、本人はマジにやっているのにボンクラな仕上がりになってしまうということだ。
人間ドラマにしても、本人が「そこは薄っぺらくてもいいから、派手な映像でドッカンドッカンやりまくるぜ」という意識でやっているわけではない。本人は人間ドラマを充実させているつもりなのだ。
だから、ある意味ではエド・ウッドの魂を受け継いでいる部分がある。
「大金を使えるエド・ウッド」という見方も出来るかもしれない。

話のバカバカしさは冒頭シーンから始まっていて、「人類史上最大の太陽フレアによってニュートリノの数が観測史上最大になり、初めて物理反応を起こし、地球の中心を熱し始めている」という重大な出来事を、なぜかエイドリアンはインドの小さな研究所の研究者たちから知らされる。
それは「普通から見落としがちな現象」というわけではなく、宇宙関係の科学者なら普通に観測できそうな現象なのに、なぜかアメリカの科学機関ではなく、インドの研究者がアメリア政府の科学顧問を呼び寄せて教えるのだ。
「インドでも観測されていた」ということじゃなくて、「ニューデリー宇宙物理学研究所だけが地球の危機を察知した」ということなのだ。

一応はグランド・ホテル形式になっており、前半は多くの登場人物の動きを並行して描いて行く。
しかし何しろローランド・エメリッヒなので、人間ドラマの厚みや深みなんて皆無だ。ただ単に主要キャラを多くして、まんべんなく薄っぺらい中身にしているだけだ。
ただし、じゃあ登場人物を絞り込んでグランド・ホテル形式を避ければ人間ドラマが充実したのかというと、それは無いだろう。
どういう形を取っても、ローランド・エメリッヒが魅力的な人間ドラマを描くことは無いと思う。

各国政府は地球滅亡を察知し、極秘で脱出計画を進めている。真実を暴露しようとした連中は、全員が殺されている。それなのに、なぜかチャーリーだけは真実を知っており、それをラジオで喋っている。
チャーリーは「マヤ暦が云々というオカルトめいた地球滅亡説を信じている奴で、その説がたまたま当たっていた」ということではなく、政府が方舟を作って金持ちだけを乗せようとしている計画まで知っている。
それは個人でやっているローカルな放送だが、それにしたって政府筋に情報は伝わりそうなものだが、なぜかチャーリーは命を狙われることも無い。
たぶん「どうせ与太話だと思われているだろうから放置してOK」ってことなんだろう。
っていうか、それでホントにいいのか。

政府は秘密を知った者を抹殺していたのかというと、そうではない。「秘密を知った上で、暴露しようとした奴は始末する」という方針だ。だから、政府はエイドリアンがハリーに秘密を明かしていると知っていたが、始末せずに生かしている。
それは極秘で進めている計画の重大性からすると、かなりヌルい。
そんなヌルい方法を取っているのに、世界滅亡&方舟での脱出計画は、ほとんど漏れていない。今やネットが普及しており、「暴露しようとしたら始末する」という対処療法では遅すぎるんじゃないかと思うが、意外に大丈夫らしい。
チャーリーがラジオで喋りまくっても、一部の人間以外には相手にされていないしね。
っていうか、それでホントにいいのか。

ジャクソンはチャーリーから地球滅亡について知らされても、まるで相手にしない。
ところが、双子から「僕らは大きな船のチケットがあるから生き延びるけど、お前は死ぬんだ」と言われた途端、なぜか急に「チャーリーの主張は真実だ」と考えが一気に変化する。少しずつ変化するとか、「信じるに値する決定的な証拠を掴む」とか、そういうことではない。
たぶん「虫の知らせ」ってことなんだろう。
ただし、そのように解釈するとしても、説得力に欠けることは否めない。

ケイトにはゴードンという恋人がいて、その関係は良好だ。また、ノアはジャクソンを嫌っており、ゴードンに懐いている。
だが、この映画は「最終的に家族が元の状態に戻る」というゴールを目指している。だから、途中でノアはジャクソンへの嫌悪感を捨て去り、ケイトはジャクソンへの愛情を蘇らせる。
ただし、そこに説得力のある流れや充実した人間ドラマは存在しない。
また、そうなるとゴードンが邪魔な存在になるので、あれだけジャクソンと家族を救うために奮闘してくれたのに、終盤に入って命を落としてしまう。
急にゲートが開いた時にジャクソンは助かるが、ゴードンは転落死するのだ。

そこには「もうゴードンは用済みだから始末する」というストーリー上の都合が、不格好な形でハッキリと見えている。
それも、ある意味では「ジャクソンが持っている幸運」の1つである。
説明しなくても分かるだろうけど、上述した「ジャクソンと家族が驚異的な幸運に守られている」ってのも、もちろん御都合主義だからね。
ただ、それ以外にも御都合主義がテンコ盛りの映画なのだが、ストーリー的には死ぬ意味が何も無いタマラまで終盤になって命を落としているのは、どういう意味の御都合主義なのかサッパリ分からんけど。

ジャクソンと彼の家族は、驚異的な幸運に守られている。どれだけ死にそうなピンチに見舞われても、絶対にギリギリのところで回避する。
大型スーパーで地割れが起きても、ケイトは飲み込まれずに助かる。激しい地震が起きて家が崩壊しても、その直前にケイトと子供たちは脱出している。背後から地割れが猛スピードで迫っても、それより速くジャクソンは車を運転して逃げ切る。
地割れに留まらず、近くの道や建物が崩れたり事故が起きたりしているが、それも全てジャクソンは巧みに回避する。
空港で地割れが起きた時も、間一髪でゴードンが飛行機を離陸させる。離陸した後も建物の崩壊に巻き込まれそうな状況があるが、そこもギリギリで回避する。イエローストーンで大爆発が起きて巨大な火球が飛び散った時も、ジャクソンが運転するトレーラーは後方に一発が命中して燃えるものの、空港に辿り着く。目の前に地割れが起きるが、そこもジャンプしてクリアする。
ジャクソンが地図を探すために車内に残っていたら地割れに落ちるが、無事に這い上がり、走って飛行機に飛び乗る。

ラスベガスで立ち往生していると、たまたまゴードンの患者だったタマラと遭遇し、ユーリとも会う。たまたま副操縦士が不在で、その役目をゴードンが担当することで飛行機に乗せてもらえる。フラップの故障で機体が持ち上がらないが、すぐに直って建物との激突を寸前で回避する。
ハワイが炎上していて着陸することが出来ず、燃料切れで海に不時着せざるを得ない状況に陥ると、「地殻の移動で海が消え、すぐ近くまで中国が来ていた」ということで目的地に辿り着く。
残りのエンジンも停止して氷河に不時着することになるが、機内に積んであったベントレーで脱出する。その際、サーシャが最後まで残って操縦してくれて、彼は死ぬ。
ジャクソンは乗船パスを持っていないので、ユーリと子供たちだけがヘリで救助される。だが、偶然にもニーマと祖父母を乗せたトラックが通り掛かって、ジャクソンたちは乗せてもらえる。テンジンがニーマや祖母の説得に応じて一緒に連れて行くことを了承し、ジャクソンたちは方舟に密航させてもらえる。

方舟の建造現場を見たカールが「さすがは中国人、間に合うとは思っていなかった」と感心するシーンがあるが、その台詞をマジで言わせているのだとしたら、ローランド・エメリッヒは相当な楽天家か、何も知らないボンクラか、どっちかだ。
ワシが世界の首脳なら、人類を救うための方舟を中国に建造させようなんて絶対に思わない。
大量の人員を安価で働かせようということなら、そりゃあ中国は適しているだろう。しかし「絶対的な安全」が求められる建造物を中国に任せるなんて、正気の沙汰とは思えない。
そもそも、チベットで中国に方舟を建造させている時点で、「エメリッヒにとっちゃチベットの情勢なんて無関係なんだな」と思ってしまう。

ケーブルが油圧装置に引っ掛かってゲートが閉じなくなると、「急いで取り除け。閉まらないとエンジンが掛けられない」と船長が言うけど、ゲートが1つ閉じないだけでエンジンが掛けられないって、なんちゅうボンクラなシステムなんだよ。
それと、「方舟だから」ということで錨を装着しているけど、なぜ「方舟としての形」に固執する必要があるんだよ。意味の無い部品なんて無視していいから、何よりも機能性と安全性を重視しろよ。
誰だよ、方舟にこだわったデザインで建造を開始させたボンクラな責任者は。
そんなことだから、ゲートが閉じないとエンジンが掛からないという、不自由な仕様になっちゃうんだよ。

この映画は、「各国の政府関係者や一部の科学者以外は、基本的に金持ちだけが人類滅亡から救われる」という形になっている。
金持ちだけが助かるのは、方舟を建造するための資金が必要であり、その金を出資させているからだ。
全員を救うことが出来ないのなら、「金も権力も無く、今後に必要な知識も無い連中は見殺しにする」ってことだ。
しかし、どうせ世界が滅亡すれば貨幣価値なんて皆無になるはずだし、莫大な借金をして方舟を建造したところで何の問題も無いような気がするんだけどね。

ひとまず「世界が滅亡すれば貨幣価値なんて皆無になるはず」という指摘を置いておくとすれば、「金持ちは生き残れる、貧乏人は死ぬ」というのは、非情ではあるが、なかなか面白い設定ではある。
「絶望的な状況において、ヌルいヒューマニズムなど入り込む余地は無い」ってことだからね。
もちろん、それを「映画としてどうなのか」と考えると、決して大勢の観客を引き付けることが出来る設定ではない。
しかし、そこまで現実的な問題として世界滅亡の危機を大胆にシミュレートしたのなら、それはそれで潔いとも言える。

ところが、そこまでの覚悟は無かったらしく、エイドリアンが何かに付けて「政府の方針は間違っている」と訴える。それでもカールが全否定していたので、エイドリアンを「理想論を唱える非現実的な甘っちょろい奴」という役回りにしておくのかと思いきや、終盤で完全に梯子を外される。
終盤、予測より早く津波がチベットへ到達することが判明すると、カールはパスを持っている人々の搭乗が完了しないまま方舟を発進させようとする。取り残された大勢の人々が船に押し寄せる中、エイドリアンは他の船と通信を繋いで「人間は助け合う生き物だ。今の我々の行為は間違っている。彼らを見殺しに出来ない」と訴えるのだ。
そんなエイドリアンの演説に各国首脳が心を打たれたらしく、押し寄せた面々を搭乗させることになるのだが、そこでカールだけを悪者にして、エイドリアンや各国首脳を善玉扱いにしちゃうのは違うだろ。
そもそも、そこで取り残された面々は、高額でパスを買った金持ちの連中ばかりだ。世界滅亡の事実を知らされないまま死んだ大勢の犠牲者も、知ってから死んだ犠牲者もいる。そのように大勢の連中を見殺しにしておいて、一部の金持ちだけを救って「彼らを見殺しに出来ない。人間性が云々」と訴えるなんて、片腹痛いわ。

ジャクソンを「家族のために頑張る男」という位置付けにして、家族ドラマを中心に据えたパニック映画として構築しようとしているのは良く分かる。それは決して間違った考えだとは思わない。パニック映画の中で人間ドラマを描こうとする時に、「家族愛」をキーワードにするのは、ものすごくオーソドックスなやり口だ。
しかし本作品の場合、その塩梅を完全に間違えた。
その結果、ジャクソンは「家族愛の強い男」ではなく、自分と家族さえ助かれば後はどうでもいいという「身勝手な男」になってしまった。
何しろ、大型旅客機でラスベガスを出発する際も、「まだ大勢の人々が乗れる余裕がある」ということなど全く考えず、ユーリ一行と自分たちだけで飛び去るのだ(そして、それはケイトや子供たちも同様だ)。

ジャクソンは自分と家族が世界滅亡から助かるために奔走しているが、いわゆる活躍らしい活躍は皆無に等しい。小型機を操縦するのはゴードンだし、旅客機を操縦したり不時着させたりするのはサーシャだ。密航できるのはテンジンのおかげだし、基本的にジャクソンは周囲の人々に助けられているだけだ。
終盤、方舟が津波に飲まれてエベレストとの衝突が迫る中、浸水した区画に取り残されたジャクソンは、ようやく仕事らしい仕事をする。エイドリアンに頼まれて、油圧装置からケーブルを取り外すのだ。
しかし、そもそも考えてみれば、ジャクソンたちが密航し、その際にケーブルを引っ掛けなかったら、方舟は出発できていたのだ。ジャクソンのせいで訪れた危機的状況を本人の活躍で回避したところで、それは「大勢の人々を救う活躍」ではなく単なるマッチポンプである。
ジャクソンは命懸けで油圧装置からケーブルを取り外すが、そこに「大勢の人々を救おう」という意識は無い。あくまでも家族を救うための行動だ。ジャクソンの「自分と家族だけが助かればいい」という行動指針は徹底している。
この映画で「大勢の人々を救おう」という意識で行動するのは、エイドリアンぐらいだ。しかも彼は前述したようにエセヒューマニストなので、まるで共感を誘わないし。

無事にゲートが閉じられ、エベレストへの衝突を回避した後、エイドリアンはローラを口説き、いい雰囲気になる。
大勢の犠牲者が出ているのに、そいつらへの思いなんて全く頭に無いらしい。
乗員がデッキに出て晴れ渡る空を見ると、ジャクソンと家族は穏やかな表情を見せる。ゴードンが死んだのに、まるで忘れ去られているらしい。他の面々にも、死んでいった人々に対する追悼の思いなど全く見えない。
結局、「自分たちさえ助かれば後はどうでもいい」ってのは、ジャクソンだけでなく全員だったようだ。

(観賞日:2015年1月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会