『2000人の狂人』：1964、アメリカ
ジョージア州の田舎町。ルーファスは木の上からオープンカーを観察し、オーガスタまでの距離を示す標識の近くにいるレスターに合図を送った。レスターは標識を引き抜くと、道路の真ん中に迂回路の看板を出した。オープンカーに乗っていたジョンとビーのミラー夫妻、デヴィッドとビヴァリーのウェルズ夫妻は罠だと気付かず、迂回路を選ぶ。すると再び迂回を促す看板が置いてあり、一行は男たちの作戦通りにプレザント・ヴァレーという町へ向かった。
町では百年祭が開催されており、大勢の人々が南軍の旗を手にして歩いていた。レスターは標識を元に戻し、ルーファスに合図を送った。町では少年のビリーたちが首吊り用の縄を作り、黒猫を殺害して楽しんでいた。白い車が来るとルーファスは合図を送り、レスターは何もせずに通過させる。次に赤いオープンカーが来ると、今度は罠を仕掛けて迂回路を使わせた。オープンカーのテリー・アダムスとトム・ホワイトも、やはり罠には気付かずプレザント・ヴァレーへ向かった。
ミラー夫妻とウェルズ夫妻が町に入ると、待ち受けていた人々が歓迎して集まった。バックマン村長は４人に挨拶し、フロリダへ行く途中だと聞く。ジョンが「どういうつもりだ。逮捕でもする気か」と鋭く言うと、バックマンは「とんでもない」と否定する。彼が「皆さんを心待ちにしていました」と笑顔で告げると、町人は一斉に笑った。バックマンは「皆さんは祭りの主賓だ。百年前に歴史的事件が起きて、祝賀行事の一環として北部の人間をもてなしている」と説明し、車から降りるよう促した。ジョンは警戒心を抱くが、ビーが降りたので仕方なく後に続いた。
テリーとトムの車が来ると人々は歓迎し、バックマンはビリーに「レスターとルーファスに伝えろ。主賓は揃ったから、もういいとな」と告げた。ミラー夫妻とウェルズ夫妻は、テリーとトムに事情を説明した。バックマンは６人に、「２日間はゲストだ。最高のホテルに最高の食事、最高の余興を用意してある」と告げた。彼は６人に、総責任者のルーファスと実行委員長のレスターを紹介した。「ホテルへ案内しよう」とレスターが言うと、バックマンは同意した。
トムが「祝典には参加したいが、予定があるんだ」と言うと、ルーファスは「来てくれないと困る。帰さないぞ」と苛立つ。「アトランタで教師会がある」とトムが話すと、バックマンは「遅れると電報で伝えればいい。費用は町で支払います」と言う。レスターはルーファスと２人になると、「あと２人、獲物を捕まえてこようぜ」と持ち掛ける。ルーファスは「百年祭には６人のヤンキー。これがルールだ」と告げるが、彼は「俺たちの獲物を手に入れようぜ」と言う。するとルーファスは「俺たちだけで楽しむのも悪くない」と乗り気になるが、バックマンが戻ってきて「祝典のルールを忘れるな」と釘を刺した。
バックマンが「今夜のバーベキューは特別だ。誰を選ぶ？」と問い掛けると、レスターは「最初は女がいいな」と言う。ビーを選ぶことになり、バックマンは「あの女はハーパーに惚れたらしい。亭主はベッツィーを見てた。ベッツィーに亭主を任せ、ハーパーを使って女をバーベキューに誘い出せ」と指示した。ベッツィーはホテルのフロントからジョンの部屋に電話を掛け、町案内を持ち掛けた。ジョンはバックマンに呼ばれたと嘘をつき、部屋を出てベッツィーと合流した。
続いてハーパーがビーに電話を掛け、彼女を誘い出した。ハーパーはビーとキスを交わし、ナイフを取り出して彼女の右手の親指を切り落とした。ビーはハーパーに連れられて、バックマンの元へ行く。バックマンは「すぐに治療する。私は医者でもある」と言い、ハーパーにレスターとルーファスを呼ぶよう命じた。レスターとルーファスはビーを台の上に寝かせ、斧を使って右腕を切断した。ビーは絶命し、バックマンたちは「盛大なバーベキューが出来るぞ」と喜んだ。
トムはテリーの部屋を訪ね、「この祭りはなんか変だ」と言う。テリーは「そうかしら？」と全く気にしていなかったが、トムは「誰も百年祭の意味を教えてくれない」と告げる。彼は百年前の1865年が南北戦争の終結した年であることに触れ、「なぜ北部の人間が主賓として招かれるんだ？」と疑問を呈する。彼は「教師会でアトランタに来ている知り合いに電話する。歴史の教師がいる。分からなくても、こっちの居場所は知ってもらえる」と語り、交換手に電話する。しかしホテルの規則で外部への連絡は出来ず、電報も打てないと言われてしまう。ホテルを出たトムは公衆電話を使い、アトランタのタワー・ホテルにいるジョージに連絡しようとする。しかし明日までは誰も来ないと言われ、仕方なく番号を伝えて切った。実はバックマンが公衆電話に細工し、ホテルマンに成り済ましていた。
その夜、住人はビーの腕をバーベキューで焼いて、大いに盛り上がる。主賓の面々も招かれ、ジョンはベッツィーの肩を抱いて強い酒を煽った。トムだけが見当たらないので、バックマンはレスターやルーファスと共に捜索する。トムはテリーが１人になるのを待って声を掛け、住人に気付かれないよう連れ出した。彼は住人が北軍に殺されたことへの復讐を誓う墓標をテリーに見せ、「この百年祭で北部出身の俺たちは殺される」と告げる。バックマンたちが捜索に来たので、２人は姿を隠した。
ハーパーはウェルズ夫妻に「ホテルまで送ります。休んだ方がいい」と述べ、その場から連れ出した。残った住民は泥酔したジョンを強引に立たせると、「競馬を楽しもうぜ」と言い出した。住民はジョンの手足をロープで縛り、４頭の馬をバラバラの方向に走らせた。ジョンの手足は切断され、住民は盛り上がった。翌朝、ウェルズ夫妻はホテル前で演奏するバンドの音に起こされた。ビヴァリーが「この百年祭は気持ち悪いわ」と言うと、デヴィッドも同意した。彼はフロントに電話を掛けてトムたちに繋いでもらおうとするが、散歩に出掛けたと言われた。２人がホテルを出るとハーパーとベッツィーが待っており、ミラー夫妻はボート遊びに出掛けたと嘘をついた。
ベッツィーはデヴィッドを仲間の元へ連れて行き、樽回しに参加させる。住民は樽にデヴィッドを押し込み、無数の釘を打った。彼らは坂の上から樽を転がし、デヴィッドは釘に体中を突き刺されて死んだ。部屋を出ようとしたトムは見張りを発見し、窓からテリーの部屋に侵入する。彼は見張りを殴って昏倒させ、手足を縛った。トムとテリーは車を探しに行くが、目撃したハーパーに追い掛けられる。しかしハーパーは底無し沼に落ち、そのまま沈んで姿を消した。
ビヴァリーはルーファスに腕を掴まれ、住民が集まっている広場へ連れて行かれた。ルーファスは巨大な岩が乗っている櫓を見せ、「岩が落ちたかどうか判断する審判をやってくれ」と言う。ビヴァリーは嫌がるが、バックマンがルールに従うよう要求した。住民はビヴァリーを台に寝かせて縛り付け、櫓の的に向かってボールを投げ始めた。ルーファスの投げたボールが命中すると岩が落下し、ビヴァリーは押し潰されて死亡した。同じ頃、トムとテリーはビリーと遭遇し、彼を騙して車のあるガレージまで案内してもらった…。監督はハーシェル・ゴードン・ルイス、脚本はハーシェル・ゴードン・ルイス、製作はデヴィッド・Ｆ・フリードマン、撮影はハーシェル・ゴードン・ルイス、美術はデヴィッド・Ｆ・フリードマン、編集はロバート・シニーズ、タイトル曲＆テーマ曲はハーシェル・ゴードン・ルイス、音楽はラリー・ウェリントン。
出演はコニー・メイソン、ウィリアム・カーウィン、ジェフリー・アレン、シェルビー・リヴィングストン、ベン・ムーア、ジェローム・エデン、ゲイリー・ベイクマン、マーク・ダグラス、リンダ・コクラン、イヴォンヌ・ギルバート、ヴィンセント・サント、アンディー・ウィルソン、キャンディー・コンダー他。
『血の祝祭日』のハーシェル・ゴードン・ルイスが監督＆脚本＆撮影、さらにタイトル曲とテーマ曲の作詞と作曲も兼任した作品。
邦題の「狂人」がマズいってことで、後に『マニアック2000』に改題されている。
テリーをコニー・メイソン、トムをウィリアム・カーウィン、バックマンをジェフリー・アレン、ビーをシェルビー・リヴィングストン、レスターをベン・ムーア、ジョンをジェローム・エデン、ルーファスをゲイリー・ベイクマン、ハーパーをマーク・ダグラス、ベッツィーがリンダ・コクラン、ビヴァリーをイヴォンヌ・ギルバート、デヴィッドをヴィンセント・サントが演じている。冒頭からバンジョーが軽快に鳴り響くカントリー・ミュージックが流れるが、およそホラー映画とは似つかわしくない。もしもギャップを狙って選んだＢＧＭだとしても、その作戦は完全に失敗している。
そこで明るさや軽快さをアピールし、町の人々も異様なほど陽気な態度を示しているのだが、だったら「首吊り縄で楽しそうに黒猫を殺す」という残酷な描写を入れちゃダメでしょ。
実際に黒猫が絞殺される様子は画面に出ないけど、殺されたのは明白であって。そこで「こいつらは残酷な連中」ってのを匂わせたら、せっかくの趣向が台無しだ。
異様な陽気さで「なんか不気味」と感じさせる程度なら別にいいけど、殺しの描写は要らんよ。ホントなら最初にプレザント・ヴァレーが写し出されるシーンは、「百年祭で賑わっている」ってのを見せておきたいトコだろう。
だけど集まっている人々は、そんなに多くないのよね。
子供たちが無意味に走り回ったりしているけど、画面の奥に視線を向けると誰もいなくてスッカスカなのよね。
『2000人の狂人』という邦題は数を誇張しておらず原題の直訳なんだけど、ミラー夫妻とウェルズ夫妻を歓迎するシーンにいるのは、せいぜい数十人といった程度だ。このオープニングの描写で、無駄な手順を使っている。
最初に男たちが罠を仕掛けてオープンカーを町へ向かわせる様子が描かれ、続いて百年祭が開催されている町の様子が写る。だったら、もう「騙された人々が町に入って云々」という展開へ移ればいい。
ところが、その後に「白い車は通過させ、テリーとトムの車は騙す」というシーンを描いているのだ。そんなの全く要らないわ。
最初の時点で、６人が一緒に行動していて、一緒に騙される形にでもしてしまえばいいでしょ。同じ手順を重ねても、何の意味も無いでしょ。ルーファスはバックマンから紹介を受けると、「せっかくの獲物だ。大事に扱わせてもらうよ」と言う。
もうさ、完全にネタバレじゃん。騙した６人を殺して食べるつもりってのが、バレバレじゃん。なんで自分で用意した仕掛けを、自分で簡単に崩壊させるかね。計算能力がゼロなのか。
行き当たりばったりにしても、かなりドイヒーだぞ。むしろ、わざと壊しにでも行かないと、そんなことを言わせないでしょ。天然でやっているなら重症だし、意図的なら致命的だ。
いや、もちろん事前にホラーだと分かっている人が大半だろうし、どうせ早い内に最初の殺人は起きるのよ。ただ、そうであっても、実際に殺人が起きるまでは隠しておいた方がいいでしょ。
もしも隠す気が無いのなら、それはそれで見せ方が中途半端だし。隠す気が無いのなら、最初からもっと強くアピールした方が効果的だし。ビーを誘い出したハーパーはキスをするが、すぐにナイフを取り出し、どれだけ切れるか触るよう促す。ビーが触ると、彼は右手の親指に切り付ける。血が出たのでビーが悲鳴を上げると、ハーパーは「治してやるよ」と今度は指を切断する。
ここからカットが切り替わると、ビーはバックマン＆ハーパーと屋内にいる。
親指を切断した奴に連れられてバックマンの元へ行くって、ビーはどんだけボンクラなんだよ。
ちなみに粗筋で「ビーは右腕を切断された」と書いてあるけど、そんなに残酷さは感じないからね。
何しろ、「ビーの傍らに作り物の腕が置いてあるだけ」ってのがバレバレなのでね。バーベキューで盛り上がる中、バックマンたちはトムが見つからないので慌てて捜索する。
でも罠を仕掛けて誘い込んだ大事な獲物なのに、そんなに簡単に見失うなよ。なんで見張りを付けていないんだよ。
トムがテリーを連れ出す時も、同じことを感じるわ。そいつらを殺害して食べるつもりなのに、なんで大勢の住人がいて誰も見ていないのか。何人もいるんだから、専属の見張り役でも用意しておけばいいだろうに。
話を進めるために登場人物をボンクラにするってのは、ダメな映画の典型だわ。ジョンが殺されるシーンについて、「手足をロープに縛られ、４頭の馬がバラバラの方向に走って」ってなことを粗筋では上述した。そう書けば、さぞ残酷な殺人ショーだろうと思うかもしれない。
でも実際には、馬が走り出すと、ジョンが絶叫する表情を捉えるシーンさえ用意していない。
馬が走る様子とベッツィーが笑っている様子を写し、カットが切り替わるとロープに繋がれた作り物の腕を馬がゆっくりと引っ張る姿が出て来るだけ。
まあ陳腐でバカバカしいこと。ビヴァリーは巨大な岩が乗せられた櫓の下に立たされる。もちろん、その岩が発泡スチロールか何かで作られた偽物なのは明白だ。
だけど設定としては「かなりの重量がある巨大な岩」なわけで、どうやって住民は櫓に乗せたのか。
かなりの高さがあるし、「大勢なら出来る」という問題でもないのよ。
あとさ、「審判をやってくれ」と言うけど、その趣向は全く意味が無いんだよね。さっさと彼女を縛り付けて、的に向かってボールを投げりゃいいでしょ。終盤、トムとテリーが車で逃げ出すと、バックマンたちはレスター＆ルーファスに「町の外に出られたら諦めるしかない」と言う。「警察に駆け込まれたら」とレスターたちが焦ると、彼は「どうせ百年祭が終われば誰もいなくなる」と話す。
どういうことかと言うと、実は住民は幽霊なのだ。百年祭りの時だけ復活して、それが終われば姿を消すのだ。
でも、その設定のせいで、そもそも恐怖なんて乏しいけど、終盤になって余計に悪化してんのよね。
そうじゃなくて、普通に「狂人の町」にしておいた方が怖かったと思うのよ。トムとテリーが無事に逃げ延びるだけでなく、「もう追われることは無い」と確定して終わるのも、ものすごくヌルいと感じてしまうし。（観賞日：2021年5月20日）