『チーチ&チョン イエロー・パイレーツ』:1983、イギリス

1687年、カリブ海。エル・ネブロソや側近のエル・セグンドたちを乗せた帆船は財宝を積み、スペインへ向かっていた。財宝はスペインのカルロス王に献上されるはずだったが、ネブロソは自分の物にしようと決めた。そこへイエロービアードの率いる海賊が乗り込み、船を占拠した。手下のムーンが宝に触ると、イエロービアードは「俺の物だ。手を出すな」と怒鳴った。イエロービアードは殺人と略奪を繰り返して恐れられた海賊だが、脱税の罪で捕まった。しかし長年の拷問にも関わらず、彼は宝のありかを白状しなかった。
20年後、イギリス。ムーンの裏切りで軽犯罪刑務所に収監されているイエロービアードは、来週に出所を控えていた。妻のベティーが15年ぶりで面会に現れ、今年20歳になるダンという息子がいることをイエロービアードを教えた。ダンが何の犯罪にも手を出さず植木屋として働いていると聞き、イエロービアードは幻滅した。ダンは真面目な性格で、暇さえあれば読書ばかりしていた。酒場で働くベティーは、ダンに「父は死んだ」と嘘をついていた。しかしイエロービアードの出所を前にして、彼女は事実を打ち明けた。
イギリス海軍のクレメント隊長は、ランボーン・ホールを過ぎてアン女王の宮廷へ赴いた。彼は女王と面会するが、側近のチャーチル女史が自分に話すよう促した。そこでクレメントは、イエロービアードが隠した財宝を見つけるための作戦を提案した。刑期を延長して脱獄を仕向け、後を追って宝を見つけ出すというのが彼の作戦だ。チャーチルは女王に署名してもらい、速度の出る船を所望するクレメントの要求を承諾した。クレメントはイエロービアードの元へ行き、刑期が140年延長されたことを通告した。
イエロービアードは棺桶に隠れて脱獄し、ベティーが営む酒場へ飛び込んだ。ムーンの手下であるギルバートも、別の方法で脱獄した。イエロービアードが2階の壁を削って地図を取り出そうとすると、ベティーは「写しを作って燃やした。ダンが生まれた時に、頭に地図の刺青を入れた。本人は知らない」と語る。ダンがホールにいると聞き、イエロービアードは海賊の衣装に着替えようとする。彼はベティーからランボーン卿が用意した服を渡され、酒場に来たクレメントに気付かれず外へ出た。
クレメントは諜報員である盲目のピューから「あいつは2階にいる」と聞かされるが、既にイエロービアードはいなかった。クレメントと側近が酒場を去った後、ギルバートはピューに「地図の隠し場所を教えろ」と迫るが、相手にされなかった。ギルバートは酒場の男たちに、「この男は政府の犬だ。役人と喋ってた」と暴露する。男たちが詰め寄ると、ピューは「話したのは宝のことだ」と嘘をついて明かりを消すよう指示した。男たちが指示に従うと、ピューは全員を殺害した。
外に出ていたギルバートはムーンと合流し、酒場に戻って惨殺現場を目にした。ホールに到着したイエロービアードはランボーン夫人に目を付け、茂みに連れ込んで犯した。ダンを見つけた彼は、「そこに頭を置け。切り落とす」と告げる。理由を問われた彼は、頭に地図が書いてある。お前を丸ごと連れて行けない」と答えた。イエロービアードが剣を振り上げて追い回すと、ダンは「いい考えがある。僕を連れてって」と持ち掛けた。
そこへダンの養父であるランボーンが来ると、イエロービアードは「俺の息子なら、こいつを殺せ」と要求した。ダンが「出来ないよ」と断ると、イエロービアードは「だったら俺がやる」と剣を振り上げた。「やめて、きっと役に立つよ」とダンが制止していると、追っ手が現れた。ダンはイエロービアードを荷車に隠れさせ、ランボーンの友人であるギルピン博士の元へ向かった。ダンはギルピンに「新しい薬草が見つかる」と告げ、冒険に同行するよう持ち掛けた。ベティーはイエロービアードたちに、地図を隠したことへの分け前を要求した。イエロービアードたちがポーツマスへ向かう計画を話している様子を、ピューが密かに覗き見ていた。
翌日、ベティーはクレメントに、イエロービアードたちが死んだと嘘をつく。ピューはクレメントから金を受け取り、4人がポーツマスへ向かったことを教えた。ムーンとギルバートはピューを笛の音で誘導し、納屋に閉じ込めて爆破した。港町で合流したダンとギルピンは、海軍が船で働かせるために酔っ払いを強制徴用している現場を目撃した。そこへランボーンも来るが、イエロービアードは現れなかった。海軍士官を襲って軍服を奪ったムーンは手下にダンたちを襲わせ、強制徴用の荷車に積み込む。女を犯そうとしていたイエロービアードは、その様子を目にして後を追う。その夜、イエロービアードは検査の目を盗み、海軍のレディー・イディス号に密航した。
翌朝、ヒューズ船長は甲板に強制連行した男たちを集め、訓練責任者のマーティン大尉やクリスプ大尉を紹介した。ヒューズは「英国海軍の一員になりたくない者は?」と問い掛け、名乗り出た男を射殺した。クレメントはベティーを捕まえ、軍艦に乗せて航行していた。海軍士官に化けてレディー・イディス号に乗船したムーンは、ヒューズに「イエロービアードの息子が乗船している」と報告した。ヒューズがダンとギルピンとランボーンを密航者として捕縛すると、ムーンは手下たちに指示を出した。ムーンはヒューズと部下をボートで追放し、ダンを船長に指名した。針路を問われたダンは、ポーツマスへ向かうよう命じた。
深夜、イエロービアードは操舵手を海に蹴り落とし、針路を変更した。次の朝、ギルピンは針路がズレていると気付き、島の場所を知っている者がいると確信した。ムーンとギルバートは、「真っ直ぐ目的に向かってる」と笑みを浮かべた。同じ頃、クレメントはベティーを脅し、宝の在り処を教えるよう迫っていた。彼は後ろを航行するイディスを発見し、フランス国旗を掲揚して通過させようとする。しかしダンやムーンは攻撃を目論んでいると誤解し、大砲を発射した。クレメントは「誤解を解くためだ」と言い、当たらないよう気を付けて反撃させた。イエロービアードは砲台を奪い、クレメントの船の帆を落とした。
やがて島が近付くと、イエロービアードは海に飛び込んで泳ぎ始めた。ダンは「食糧補給のために降りる」と言ってボートを用意させるが、実際は宝の島だろうと推測していた。エル・ネブロソの要塞では、家来のバードゥゴが新兵器の拷問台を披露した。拷問台は硫酸の池で囲っており、金と宝石以外は何でも溶かしてしまうように出来ていた。バードゥゴが拷問台に座って使い方を説明すると、ネブロソは彼を実験台にして効果を試した。ダンたちが島に上陸すると、ムーンは「俺たちは船を見張る」と告げる。彼はダンたちが戻って来たら始末しようと考え、ギルバートに銃を用意するよう命じた。ダンたちは密林を進むが、ネブロソの家来に襲われる…。

監督はメル・ダムスキー、脚本はグレアム・チャップマン&ピーター・クック&バーナード・マッケンナ、製作はカーター・デ・ヘイヴン、製作総指揮はジョン・デイリー、撮影はジェリー・フィッシャー、美術はジョセフ・R・ジェニングス、編集はウィリアム・レイノルズ、衣装はT・スティーヴン・マイルス、音楽はジョン・モリス。
出演はグレアム・チャップマン、ピーター・ボイル、リチャード・“チーチ”・マリン、トミー・チョン、ベリル・リード、ピーター・クック、マーティー・フェルドマン、ジョン・クリーズ、マーティン・ヒューイット、マイケル・ホーダーン、エリック・アイドル、マデリーン・カーン、ジェームズ・メイソン、ケネス・マーズ、スパイク・ミリガン、ステイシー・ネルキン、ナイジェル・プラナー、スザンナ・ヨーク、フェルディナンド・メイン、ジョン・フランシス、ピーター・ブル、バーナード・フォックス、ロナルド・レイシー、グレタ・ブラックバーン、ナイジェル・ストック他。


モンティー・パイソンのグレアム・チャップマンが主演と監督を務めた作品。
イエロービアードをグレアム・チャップマン、ムーンをピーター・ボイル、セグンドをリチャード・“チーチ”・マリン、ネブロソをトミー・チョン、ランボーン夫人をベリル・リード、ランボーンをピーター・クック、ギルバートをマーティー・フェルドマン、ダンをマーティン・ヒューイット、ギルピンをマイケル・ホーダーンが演じている。
アンクレジットだが、クレメントがベティーの脅しに使うサメ役でデヴィッド・ボウイが出演している。
「サメの役って、どういうことだよ」と理解できないかもしれないが、そこを説明すると長くなるので見てもらうしかない。でも見たところで、そんなに面白いネタになっているわけではないからね。

まず最初に、邦題にコンビ名が入っている「チーチ&チョン」について説明しよう。
チーチ&チョンは、リチャード・“チーチ”・マリンとトミー・チョンによるコンビ。
1978年の『チーチ&チョン スモーキング作戦』以降、1980年の『Cheech & Chong's Next Movie』、1981年の『チーチ&チョンの気分は最高』、1982年の『チーチ&チョンのオンボロ大豚走』、1983年の『チーチとチョンのまだ吸ってるの』、1984年の『チーチ&チョンのコルシカン・ブラザース』と、1980年代に次々と主演作が作られた人気コンビだった。
ミュージシャンとしても活動し、1973年にはグラミー賞も受賞している。

さて、そんなチーチ&チョンの名前が冠になっている本作品だが、前述したように主演はグレアム・チャップマンだ。チーチ&チョンは3番目にクレジットされるが、完全に脇役だ。
それにチーチ&チョンが主演した一連の作品は全てマリファナとヒッピー文化を題材にしたアメリカ映画だが、これは海賊物のイギリス映画。
しかも、ピュー役でジョン・クリーズ、クレメント役でエリック・アイドルが出演しているだけでなく、テリー・ジョーンズとマイケル・ペリンも当初は参加する予定になっていた。
つまり、ほぼモンティー・パイソン映画と言ってもいい作品なのだ。

邦題が原題を無視し、内容に合致しない形になってしまうケースは幾つもある。ただ、基本的には観客に受けることを期待して勝手な邦題を付けるものだ。
この作品は日本で劇場公開されていないが、ビデオを借りてもらうための訴求力を期待して邦題を付けたはずだ。
それを考えると、「なぜチーチ&チョンの人気に頼ったのか」ってのは大いに疑問だ。
前述したようにチーチ&チョンは1980年代のアメリカで何本もの主演作が作られていたが、日本では決して有名だったわけじゃないのよ。むしろ無名と言ってもいい。
それよりはモンティー・バイソンの方が、当時の日本では人気も知名度も高かったんじゃないか。

モンティー・パイソンは関係が険悪になって1983年に活動を停止しているはずだが、この映画ではジョン・クリーズとエリック・アイドルが参加している。
なので、完全に断絶したわけでもなかったのだろう。
ただ、ジョン・クリーズもエリック・アイドルも、この映画は最悪だったと後にコメントしている。
ジョン・クリーズはシナリオを読んだ時点で「これは最悪の映画だ」と確信したが、盟友であるグレアム・チャップマンのために、駄作だと分かった上で出演したらしい。

そんな風にモンティー・パイソンの仲間にも酷評されているぐらいで、これは紛れも無い駄作である。
ちゃんとコメディーとして作っていることは、悲しいぐらいハッキリと伝わってくる。出演者はコメディーとしての演技を見せているし、そういう意味では分かりやすい。「表面上はシリアスだが実は笑いが含まれている」とか、「真面目に演じている中から喜劇が見えてくる」とか、変に入り組んだ構造とか複雑な仕掛けを用意しているわけではない。
ただ、とにかく雑で散らかっているんだよね。笑いが云々という以前に、映画としてのまとまりの悪さや、ストーリーの適当っぷりが気になってしまう。
「それがモンティー・パイソンらしさでしょ」ってことで、寛容に受け入れることは無理だ。短いスケッチを串刺し式に構成しておけば、全体のストーリーが散らかっていても大丈夫だったかもしれないけど、そういうわけでもないし。
あと「笑いが云々という以前に」と書いたけど、話の乱雑さを補えるだけの笑いも無いからね。

イエロービアードは紛れも無い悪党で、やたらと人を殺したがったり、すぐに女を犯したりする。
そういうのを笑えればいいんだろうけど、これっぽっちも笑えない。
「モラルが云々」とか堅苦しいことを言いたいわけじゃなくて、彼のキャラを上手く笑いに昇華できていないだけだ。だから、ただ乱暴で不愉快なだけの男になっている。
周囲の面々もムーンやギルバート、クレメントやピューなど悪玉が多いが、「ワルどもによる宝の争奪戦」という構図が上手く成立しているわけではない。

登場キャラの中にはダンという「常識人」のポジションを担う男がいるが、ここを「観客を映画の世界に引き込むための導き手」として利用しているわけではない。
他の面々がマトモじゃないので、そこを「基準点」にすることで「イカれた奴ばかり」ってのを強調するために活用できているわけでもない。
「ダンが周囲の人間に振り回されて大変な目に遭う」というトコで、笑いを作ろうとしているわけでもない。
彼のようなキャラを配置するのは理解できるのだが、結果的には「いなくても別に」という存在と化している。

グレアム・チャップマンは決して野蛮で暴力的な男じゃないし、そもそも同性愛者だから女性に欲情することも無い。そんな風に彼のことを詳しく知っていれば、そことのギャップでニヤニヤできる部分はあるのかもしれない。
ただ、これはグレアム・チャップマンの熱烈なファンに向けて作られた映画じゃないわけで。それに、幾らグレアム・チャップマンがモンティー・パイソンのメンバーであっても、彼の人気だけに頼るのは厳しいでしょ。
っていうか、きっとグレアム・チャップマンも製作陣も、そういうつもりで作っていないはずなのよね。
結果的に、そこに頼るぐらいしか救う方法が無い仕上がりになってしまっただけだろう。

複数のグループが財宝を狙って互いを攻撃したり欺いたりってのが描かれるのだから、人間関係は入り組んでも仕方がない。ただ、そこを上手く整理しないと、喜劇に入り込むのは難しい。相関図が複雑に絡み合うと、そこを把握する方に意識が取られてしまうからね。
それだけでなく、基本的にストーリーはシンプルで分かりやすい方が望ましい。そこで変に混乱させると、これまた喜劇に入り込めないからね。
でも序盤から、「なんか無駄に分かりにくいな」と強く感じるのよ。
「無駄に」と書いたように、それは笑いを抜きにして物語としては面白くするための戦略なのかというと、そうじゃないからね。笑いを取るために脱線を繰り返し、その結果として無駄に分かりにくくなったわけでもないからね。ただ整理整頓が下手なだけだからね。

イエロービアードが主人公のはずだが、物語の中心に据えるキャラとしてはアウトローが過ぎる。
なので彼はストーリーを引っ張る役目を担当せず、その周囲で勝手に暴れ回っている。マトモな仕事は他のメンメンに任せて、トリックスターのような役回りを請け負っている。
海賊物ってことも含めて、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズを先取りしたような作品と言えなくもない。
だから丁寧に作っていれば、大ヒットしていた可能性もあるかもしれない。でも無いかもしれない。まあ無いな。うん、無い。

(観賞日:2020年7月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会