『トリプルX:再起動』:2017、アメリカ&中国&カナダ

トリプルX創設者のオーガスタス・ギボンズは世界的なサッカー選手のネイマールと中華料理店で接触し、エージェントとして勧誘する。「僕は英雄じゃない、サッカー選手だ」とネイマールが断ると、ギボンズは「失礼、勘違いだ」と店を出ようとする。そこへショットガンを持った強盗が現れると、ネイマールはテーブルに置いてあった物を蹴って強盗に命中させる。強盗が昏倒するのを見たギボンズは大笑いし、「世界は君を必要としている」と改めて誘う。そこへ人工衛星が落下し、レストランは爆発して炎に包まれた。
CIA幹部のジェーン・マルケたちはニューヨーク本部で緊急会議を開き、ギボンズとネイマールが死んだ事件について話し合う。ジャンという男が手下のセリーナとホークを率いてビルに侵入していたが、マルケたちは全く気付いていなかった。ジェーンは全ての人工衛星を自由に操れる装置「パンドラの箱」を見せ、それをハッキングした黒幕が会議室にいることを指摘した。ジャンたちは会議室に飛び込んで幹部たちを次々に殺害し、パンドラの箱を奪った。3人が外に出ると、仲間のタロンが遅れて現れた。ジェーンはパンドラの箱を取り戻すため、ギボンズの部下を使うことにした。
エージェントの仕事を離れた初代トリプルXのザンダー・ケイジは、世界中を回りながらXスポーツに興じる日々を送っていた。しばらくドミニカ共和国で暮らしていたザンダーは、次の目的地について考える。ジェーンはザンダーに罠を仕掛け、能力が落ちていないことを確認した。彼女はザンダーに、ギボンズが殺されたことを教えた。ジェーンはジャンの一味が起こした事件について説明し、何の記録も残されていないゴーストだと告げる。復帰を要請されたザンダーは、ギボンズの弔い合戦として引き受けることにした。
ロンドンへ赴いたザンダーは政府の監視下にあるハッカーのエインズレーに協力を依頼し、ジャンの率いるチーム・ゴーストがフィリピンのカラモアン半島にいることを突き止めた。チーム・ゴーストはパンドラの箱を破壊する任務を受けていたが、ジャンが独断で計画を変更したのでセリーナは反発した。ジャンは「あの装置で欲しい物が手に入る」と主張し、「世界を敵に回すわ」とセリーナが言っても考えを変えようとしなかった。
ザンダーはジェーンと共にイギリスの空軍基地へ赴き、ギボンズの用意していた特殊輸送機に乗り込んだ。離陸した後、彼はジェーンからNSA捜査官のベッキーや特殊部隊のポール・ドノヴァン隊長を紹介された。ジェーンは特殊部隊をサポートに付けようと考えていたが、ザンダーは手を組むことを拒否した。ザンダーはスナイパーのアデル・ウルフ、スタントドライバーのテニソン・トーチ、DJのニックスと連絡を取り、チームを組むことにした。ジェーンが作戦を説明しても、彼らは全く従おうとしなかった。
ザンダーたちはベッキーから秘密道具を受け取り、カラモアン半島へ侵入する。しかしチーム・ゴーストは、彼らの動きを察知していた。ザンダーはナイトクラブへ行き、ジャンたちと会った。パンドラの箱を見せたジャンは、その引き渡しを拒否した。ジャンはザンダーに、自分たちもギボンズに勧誘されたトリプルXだと告げた。ロシア軍が戦闘ヘリで島に現れ、店を攻撃した。チーム・ゴーストとチーム・トリプルXは、店に乗り込んで来たロシア軍と戦いながら逃走する。ザンダーはバイクを奪ってセリーナを救い、ニックスはテニソンに助けられた。セリーナはパンドラの箱を破壊し、ザンダーに誘われてジャンと袂を分かった。
ロシアの人工衛星がモスクワの競技場に落とされる事件が発生し、犯行グループは世界中のスパイプログラムを24時間以内に解除するよう要求するメッセージを出した。セリーナはザンダーたちに、チーム・ゴーストが衛星を悪用するCIA幹部を発見したものの、正体を暴く直前にギボンズか殺されたと語る。ザンダーはセリーナの破壊したパンドラの箱が試作品であり、本物は犯行グループが持っていると知る。ジャンが会議室に突入した時の映像を調べたザンダーは、1人だけ冷静に対応している長官が黒幕だと確信した。ジェーンは大統領に連絡し、長官を追う許可を貰った。
セリーナは「軌道の関係でパンドラの箱が再接続する。主信号を追えば半径30キロ以内に位置は特定できる」と説明し、長官の現在地がミシガン州デトロイトだと突き止めた。長官と部下たちは廃ビルの一室をアジトにして、次の計画を進めていた。ザンダーたちはNSAの隠れ家に本部を設置し、準備に取り掛かる。ベッキーは箱が起動したことを探知し、判明したビルへ急行するようザンダーたちに指示した。同じ頃、チーム・ゴーストも長官のアジトを突き止め、現場へ向かっていた。渋滞に巻き込まれた両チームは車を降り、戦いながらビルを目指す…。

監督はD・J・カルーソー、キャラクター創作はリッチ・ウィルクス、脚本はF・スコット・フレイジャー、製作はジョー・ロス&ジェフ・キルシェンバウム&ヴィン・ディーゼル&サマンサ・ヴィンセント、製作総指揮はヴィンス・トティーノ&スコット・ヘミング&リック・キドニー&グロリア・ボーダーズ&ザック・ロス、共同製作はマーラ・レヴィン、製作協力はリン・ルシベロ=ブランカテラ、撮影はラッセル・カーペンター、美術はジョン・ビリントン、編集はジム・ペイジ&ヴィンス・フィリッポーネ、衣装はキンバリー・ティルマン、音楽はブライアン・タイラー&ロバート・ライデッカー。
出演はヴィン・ディーゼル、ドニー・イェン、サミュエル・L・ジャクソン、トニ・コレット、ディーピカー・パードゥコーン、クリス・ウー、ルビー・ローズ、トニー・ジャー、ニーナ・ドブレフ、ロリー・マッキャン、ハーマイオニー・コーフィールド、トニー・ゴンザレス、マイケル・ビスピン、アル・サピエンザ、ナイジェル・ベネット、テリー・チェン、ダニエル・キャッシュ、アンドレイ・イヴチェンコ、ショーン・ロバーツ、ニッキー・ジャム、アリアドナ・グティエレス、チャールズ・キャロル、ヘクター・アニバル他。


「トリプルX」シリーズの第3作。第1作でザンダーを演じたヴィン・ディーゼルが主演として復帰し、製作総指揮も務めている。
監督は『イーグル・アイ』『アイ・アム・ナンバー4』のD・J・カルーソー。脚本は『殺しのナンバー』『アウトバーン』のF・スコット・フレイジャー。
ギボンズ役のサミュエル・L・ジャクソンは、3作連続での出演。2作目で主演を務めたダリアス役のアイス・キューブも登場。
ジャンをドニー・イェン、ジェーンをトニ・コレット、セリーナをディーピカー・パードゥコーン、ニックスをクリス・ウー、アデルをルビー・ローズ、タロンをトニー・ジャー、ベッキーをニーナ・ドブレフ、テニソンをロリー・マッキャン、エインズレーをハーマイオニー・コーフィールド、ポールをトニー・ゴンザレス、ホークをマイケル・ビスピンが演じている。

どうやらヴィン・ディーゼルは『ワイルド・スピード』シリーズの大ヒットに味を占めたらしく、「同じことをやったら『トリプルX』の方も復活させて長く続くシリーズに出来るんじゃねえか?」と思ったようだ。
具体的には、「国籍や人種の異なるメンバーを集めてチームを編成する」というアイデアである。
そのため、1作目は「Xスポーツのスーパースターがスパイになって活躍する」という話だったのに、全く違うテイストで3作目は作られている。
「だったら別の映画として作れよ」と言いたくなるが、そこはやっぱり『トリプルX』というブランドを利用する狙いがあるんだろう。ヴィン・ディーゼルが降板してアイス・キューブが主演を務めた2作目はコケてシリーズが打ち止めになったが、1作目は大ヒットしているわけでね。
『ワイルド・スピード』は3作目で興行的に失敗したのに4作目から驚異的なV字回復を見せたが、こちらのシリーズでもヴィン・ディーゼルは同じようなことを狙って本作品を製作している。

キャスティングに関しては『ワイルド・スピード』のアップデート版を狙ったのか、世界各国から、そして様々なジャンルから集めている。
香港からはドニー・イェン、タイからはトニー・ジャーという2人の格闘アクション俳優を招聘した。
さらにインドの人気女優であるディーピカー・パードゥコーン、韓国の男性アイドルグループ「EXO」で活動していた中国系カナダ人のクリス・ウー、オーストラリア出身のトニ・コレットとルビー・ローズ、ブルガリア出身のニーナ・ドブレフ、スコットランド出身のロリー・マッキャン、イギリス人のハーマイオニー・コーフィールド。
映画と異なるジャンルからは、元NHLプレーヤーのトニー・ゴンザレスや現役UFCファイターのマイケル・ビスピン、そしてブラジルのサッカー選手であるネイマールを招聘している。

冒頭でギボンズとネイマールが話している場所は、中華料理店だ。ギボンズはアメリカ政府の人間で、ネイマールはブラジル人。
なので中華料理店である意味が、そこからは全く見えない。
ここで「もしかすると」と嫌な予感がした人がいたら、それは大正解だ。最近は中国資本がどんどんアメリカ映画に突入されるようになっているが、この映画も同様だ。中国の会社が製作に絡んでいるので、なぜか不自然に中華料理店から始まるのだ。
とは言え、クリス・ウーは起用されているが「世界各国から集められたキャストの1人」に過ぎないし、物語の舞台が不自然に中国や香港へ飛ぶことも無いので、それほど中華風味が濃いわけではない。

そもそも1作目の時点では、「トリプルX」ってのはザンダー・ケイジだけに許された称号だった。彼が「X」を3つ並べた刺青を入れていたことから、その異名が付けられたのだ。
ところが2作目では、なぜかトリプルXが「ギボンズ配下のエージェントの称号」へと変化していた。それに伴って、「トリプルXはXスポーツの能力を用いて任務を遂行する」という設定も廃棄された。2作目のダリウスは射撃の得意なネイビーシールズという設定で、もはやトリプルXがトリプルXである意味は完全に死んだ。
2作目でトリプルXに関する設定を崩壊させたので、もう怖いモノなんて無い。
「なぜザンダーが長きに渡って姿を消していたのか」ってのも説明しないまま話を進めるが、細かいことは気にしちゃいけない。

この映画がいかに雑で手抜き感覚なのかは、序盤から顕著に表れている。
ギボンズやネイマールが登場すると職業と名前がテロップで表示されるのだが、ネイマールの時は「アベンジャーズの勧誘と勘違い」という備考もある。
これってネタとして使うのなら、会話劇の中で「アベンジャーズの勧誘と勘違いしていた」ってことを観客に明かさないと機能させることが難しい。最初に「アベンジャーズの勧誘と勘違い」と文字で示したことによって、笑いのネタとしては死亡寸前だ。
それでも、会話の中で「アベンジャーズと思っているネイマールとトリプルXについて説明するキボンズの意識のズレ」を使えば喜劇になるが、そういう仕掛けも無い。

CIA本部のシーンでも、雑な手抜き作業は続く。「いかにしてジャンたちがCIA本部の厳重な警備をかいくぐって潜入したか」というのは、何も描かれていない。
なので本部の警備がユルユルだったようにしか思えないし、ジャンたちの優秀さも伝わらない。一味が3人だけで簡単にパンドラの箱を奪えるのは、CIAの警備体制が杜撰で人員も少ないからだとしか思えない。
それと、遅れてタロンが現れた時にバイクの奴が襲い掛かるが、ありゃ何なのかと。そいつは顔も見せないままで倒されているが、「1人だけ外にいてバイクで現れる」ってのは、ものすごく不自然だ。
タロンのアクションを見せるために、やられ役を用意するのは一向に構わない。ただしバイカーだけが意味ありげに「特殊な存在」のように出て来るので、邪魔なノイズになっている。

前述した「ギボンズやネイマールが登場すると職業と名前がテロップで表示される」という演出自体は、全面的に否定したくなるようなモノではない。そういう手法を使うなら、それを徹底してくれたら、ある意味では潔いとも言える。
ところがジェーンやジャンたちが登場する時は、テロップが出ないのだ。それは中途半端だろう。彼女たちの時も、同様の演出を採用すべきだ。
特にジャンの一味については、マトモなキャラ紹介が用意されていないので、テロップで名前にプラスして特技か何かを表示した方がいい。
そう思っていたら、ザンダーが仲間を集める時にはアデルとデニソンとニックスにテロップが入るが、もっと徹底すりゃいいのに。

ジェーンはザンダーの腕が鈍っていないことを確かめる時、「爆弾の入った鞄をベンチに残し、武装した兵士たちに包囲させる」という方法を取る。この時、ザンダーは「動くな」と命じた兵士の隙を見て銃を奪い、余裕の態度で周囲に発砲する。姿を見せたジェーンから「いつ気付いた?」と問われた彼は、周囲の人々の不可解なポイントを詳しく説明する。
つまり彼は、俊敏な動きで相手の隙を突く能力や、周囲の不審点を敏感に見抜く推理力を持っていることを証明したわけだ。
それによって、確かに「エージェントとしての腕は鈍っていない」ってことは証明できたかもしれない。
しかしザンダーって、そもそもXスポーツの達人としてギボンズのスカウトされたはずだ。なので、「兵士の銃を簡単に奪って発砲する」という動きは、ザンダーというキャラの本質からは外れている。
登場シーンでXスポーツの能力は既に披露されているので、それを改めて見せても二度手間になるだけという問題はある。ただ、そこはザンダーというキャラの扱いを間違えているとしか思えない。

ザンダーが味方になる面々と会う手順に入ると、ここでも雑な作りがハッキリと見える。
エインズレーと会うシーンは全く意味が無くて、ただハーマイオニー・コーフィールドを登場させるという意味しか無い。それに値するほどの大物ゲストならともかく、そうじゃないので単なる「要らないシーン」になっている。
続いてチームのメンバーを集める手順に入るが、「なぜDJが必要なのか」という疑問には誰も答えてくれない。政府の重要な任務を遂行するのに、どう考えてもDJは不要だ。
ザンダーは「最強のチームだ」と言うけど、「どこがだよ」というツッコミ待ちにしか思えんぞ。
実際、ニックスの存在意義はゼロだと断言できる。

ジェーンの罠を見破った時には「マッチョなだけじゃなくて頭もキレるのよ」ってトコをアピールしたザンダーだが、その後はオツムが空っぽにしか思えない言動が続く。
ストーリー進行そのものがパッパラパーな状態になっているので、それも当然だ。
だからザンダーだけでなく、登場するキャラは総じてバカだ。利口なことを言っているように見えても、実際はボンクラ揃いだ。
話の中身はスッカラカンで、無駄なシーンで時間を稼いでいる。主人公の脳味噌が筋肉というだけでなく、映画自体が筋肉バカの状態だ。
派手なアクションとノリの良さだけで、強引に突っ切ろうとしている。

NSAの隠れ家に本部を設置し、いよいよ長官を捕まえてパンドラの箱を奪還する最終任務に取り掛かろうとする中、ザンダーとセリーナが呑気に無駄話をする時間帯を設ける。
もう物語も佳境なので、普通に考えれば緊張感を高めていかなきゃいけない頃だ。
そこでダラダラと無駄話を繰り広げるなんて、他の作品なら「計算能力が無い」ってことになるだろう。
しかし、この映画は最初から最後まで緊張感とは無縁の呑気なノリなので、それでも全く問題は無いのだ。「それが仕様」ってことなのだ。

チーム・トリプルXとチーム・ゴーストという2つのグループを用意したんだから、この両チームが激しいバトルを繰り広げる様子を最後まで描けばいいはずだ。
ところが、前半の時点で「どちらもギボンズに勧誘されたエージェントであり、目的は同じ」ってことが判明する。そして後半に入り、「長官の目的を阻止してパンドラの箱を奪う」という目的が提示されると、なんと手を組んでしまうのだ。
「個人が特技を駆使してタイマンを張る」という見せ場など無いまま、何の決着も付かずに両チームの対戦は消化不良で終わる。
それだけでも不満が大きいのだが、そのせいで「せっかくドニー・イェンやトニー・ジャーを起用したのに、彼らのアクション能力を充分に活用しているとは到底言い難い」という状況が起きている。そこまでのアクションシーンの演出にしても、カットを短く切り刻むというハリウッドお得意のやり方だし。
ただ、そもそもヴィン・ディーゼルの俺様映画なので、ドニー・イェンやトニー・ジャーも所詮は引き立て役に過ぎないんだよね。

2つのチームのバトルを消化不良に終わらせたまま手を組ませるんだから、そんな彼らの敵になる人物、もしくは組織は、それだけの脅威を感じさせてくれるパワーが無きゃ困る。
しかし長官は「腐った世界だから衛星を落とし続ける」と言うだけの、これまた脳味噌が筋肉みたいな知的レベルの低いキャラだ。
その後には「実はジェーンが黒幕」ってことが明らかになるが、ラスボスとしてのパワーは皆無だ。
何より、もう戦闘能力でトリプルXに対抗できるキャラがいないってのは、クライマックスの大きな痛手になっている。

(観賞日:2018年7月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会