『ダーティファイター』:1978、アメリカ

長距離トラックの運転手ファイロ・ベドーは、腕っ節には相当の自信がある。友人オーヴィルがマネージャーを務め、ストリート・ファイトで金を稼ぐことも少なくない。ファイロは、ストリート・ファイトで稼いだ金でオランウータンのクライドを引き取り、家で飼っている。
カントリー歌手のリンと出会ったファイロは、彼女に一目惚れしてしまった。リンと付き合い始めたファイロは、彼女にスカイラーという男がおり、7000ドルを貰う約束をしていることを聞く。リンはデンバーに店を開く夢を持っており、金を貯めているというのだ。
ファイロはリンと話している最中、絡んで来た暴走族“ブラック・ウィドー”の2人組を殴り倒した。彼は2人組のバイクを売り払い、その金をリンに渡した。だが、リンが置き手紙を残し、姿を消してしまった。荒れたファイロは、店にいた警官のプットナムを殴り倒した。
ファイロはオーヴィルとクライドを連れて、リンを追ってデンバーへと向かう。途中、オーヴィルが拾ったエコーという女も加わった。暴走族とプットナム&相棒は、姿を消したファイロを探し始める。ファイロはストリート・ファイトで旅の資金を稼ぐ。
ハイウェイをランニングしていたファイロは、車を走らせているリンと再会した。リンは、スカイラーと話を付けるので、翌日に会おうとファイロに約束した。次の日の夜、ファイロは待ち合わせの場所に出向くが、約束の時間を過ぎてもリンは現れなかった…。

監督はジェームズ・ファーゴ、脚本はジェレミー・ジョー・クロンズバーグ、製作はロバート・デイリー、製作協力はフリッツ・メインズ&ジェレミー・ジョー・クロンズバーグ、撮影はレックスフォード・メッツ、編集はフェリス・ウェブスター&ジョエル・コックス、美術はエレイン・セダー、音楽監修はスナッフ・ギャレット。
出演はクリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、ジェフリー・ルイス、ビヴァリー・ダンジェロ、ルース・ゴードン、ウォルター・バーンズ、ジョージ・チャンドラー、サム・ギルマン、ロイ・ジェンソン、ジェームズ・マクイーチン、ビル・マッキニー、ウィリアム・オコンネル、ジョン・クエイド、ダン・ヴァディス、グレゴリー・ウォルコット、ハンク・ウォーデン他。


『ダーティハリー3』のジェームズ・ファーゴ監督がメガホンを執った作品。邦題からは、ハードなアクション映画っぽいイメージも受けるが、これは中身のテイストはあまり考えず、完全に『ダーティハリー』に便乗してタイトルを付けただけだろう。
ファイロをクリント・イーストウッド、リンを当時のイーストウッドの女ソンドラ・ロック、オーヴィルをジェフリー・ルイス、エコーをビヴァリー・ダンジェロ、オーヴィルの母をルース・ゴードン、最後にファイロが戦うタンクをウォルター・バーンズが演じている。

ファイロという男、ハッキリ言ってメチャクチャだ。他人の物を勝手に盗んでおいて、文句を言われたらボコボコに殴り倒す。自分からぶつかっておいて、文句を言われたらボコボコに殴り倒す。理不尽大王だ。ダーティハリーが凶悪犯に対して暴力的なのとは、訳が違う。どう頑張っても、単なる乱暴者にしか見えない。
そして、このファイロという男、そういうメチャクチャな性格や行動を「だけど憎めない奴」として許せるだけのモノを持っていない。コミカルな仕草などで、そこを上手くフォローできれば何とかなったのかもしれないが、イーストウッドにそんなことは無理だろう。

オランウータンを飼っていることは、おそらく話のキーポイントの1つであり、クライドをコメディーリリーフとして使おうとしているのだと思うが、上手く使いこなせていない。ファイロとクライドの友情を描けば、もう少しマシになったと思うのだが、ほぼ皆無。
クライドは、人間と同じ動きを見せるだけで、だから可愛いという印象は与えるかもしれないが、コメディーリリーフになっていない。人間とオランウータンが歩いているという、ビジュアルとしての面白さはあるかもしれないが、出オチで終わってしまう。

せっかくのクライドが大して活躍しない上に、オーヴィルやエコーも単なる同行者という感じ。暴走族や警官も、そんなに面白い存在になっていない。じゃあ主人公が目立ちまくっているのかというと、そういうわけでもないのだから、どうなっているのやら。
オーヴィルの母は、もっと使えそうなキャラクターだ。彼女がライフルを撃ちまくって暴走族を撃退するシーンが、この映画のハイライトだろう。彼女の周囲にだけは、笑いが起きそうな予感が漂っている。だが、なんせ後半になるとファイロが旅に出てしまうので、ほとんど出番が無くなる(前半も、そんなに出番があるわけではないが)。

コメディー・タッチというよりも、ノンビリしているだけに思える。
それも、薄い話で上映時間を埋めるため、引き延ばした結果としてノンビリになってしまったという感じ。
アクションシーンもあるにはあるが、アクション映画のアクションという印象は弱い。
ストリート・ファイトのシーンは、ゴツゴツした殴り合いで、スカッとするモノではない。

前半は、女と語り合って、男と殴り合って、なんかウダウダ、チマチマとやっている内に、何となく過ぎて行くと。ほとんど話が進んでいないような気もするのだが、そうではない。それなりに話は進んでいるのだが、その中身が薄っぺらいだけのことだ。
後半に入ると、ノホホンとした旅が続く。
旅は金が無くなるとストリート・ファイトで金を稼ぐという行き当たりばったりな内容だが、ストーリーそのものが行き当たりばったりっぽい。

暴走族と警官が追って来るが、そのことをファイロは知らないわけだし、それを知った直後には相手をノックアウトしてしまうので、追いかけっこの面白さは無い。撃退された連中が、再び追って来るようなことも無い。せっかくファイロがトラック運転手という設定で、暴走族と警官がバイクと車に乗っているのに、カーチェイスも無い。
最後は、悪い女に騙された後、その女とは全く無関係なタンクとストリート・ファイトで戦うという、何がやりたいんだか良く分からない展開。ちなみに、タンクはそこだけに登場するキャラクター。
冴えない、締まらない話だ。
なんでヒットしたのやら。


1978年スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最も苛立たしい非人間キャラクター】部門[オランウータンのクライド]

ノミネート:【最悪の助演女優】部門[ルース・ゴードン]
ノミネート:【最悪のカップル】部門[クリント・イーストウッド&オランウータンのクライド]
ノミネート:【最悪のグループ】部門[暴走族のブラック・ウィドー]
ノミネート:【最悪の歌曲・歌唱】部門「I Seek The Night」(ソンドラ・ロック)

 

*ポンコツ映画愛護協会