『トラブル・イン・ハリウッド』:2008、アメリカ

ハリウッドで活躍する映画プロデューサーのベンは、ヴァニティー・フェア誌で「大物プロデューサートップ30」に選出され、集合写真の 撮影に赴いた。プロデューサーとしての力を示すには、当然のことながら真ん中の位置に写っていた方がいい。スタジオに入ったベンは、 コーディネーターに「みんなの立ち位置を考え直した方がいいんじゃないか」と促す。この2週間は、彼にとって試練の時だった。全ては 彼が担当した映画『フィアスリー』の特別試写会から始まった。
月曜日。『フィアスリー』の試写会には一般の観客の他に、映画会社の社長ルーも来ている。作品はショーン・ペン主演のサスペンス・ アクションだ。物語の終盤、主人公の飼い犬が頭部を悪党に撃ち抜かれる残虐な描写に、観客はすっかり引いてしまう。試写会の後、ベン は部下のカールから、「主人公が死ぬ場面は『第三の男』のパクリですよ」と告げられる。招待していた仕事仲間のジョニーは、次回作に 出資したいというヘアサロンチェーン経営者ジミーをベンに紹介した。
トイレに入ったベンは、宣伝担当者が映画を酷評しているのを耳にする。ヒロインのエージェントであるディックがいたので感想を訊くと 、「良かったと思うよ、音楽が」という答えが返って来た。『フィアスリー』はカンヌ映画祭のオープニング上映が決まっているが、ベン はルーから「このままだと大コケよ」と告げられる。ベンが試写会のアンケート結果に目を通すと、散々な評価ばかりだった。
火曜日。ベンは新聞を開き、エージェントのジャック・マクドナーが自殺したという記事を読む。彼は離婚した2番目の妻ケリーの家へ 行き、幼い子供たちを車に乗せる。そこは1年前までベンが暮らしていた家でもある。今週末は、ベンが子守りをすることになっている。 ベンはまだケリーに未練があり、それを隠そうともしない。ケリーの方も完全にベンへの気持ちを断ち切ったわけではなく、「電話しても いいか」と問い掛けられると「いいわ」と答える。
ベンは子供たちを学校へ送った後、脚本家のスコットから「脚本が出来た」と言われる。『ダヴィンチ・コード』の花屋版だと説明され、 ベンは「花の映画なんて当たらない」と却下した。ベンは撮影間近のブルース・ウィリス主演作の現場にいる部下のカルに電話を入れ、 リハーサルの様子を訊く。するとカルは、ブルースが山男みたいなヒゲ面で現れ、しかもメタボ体型になっていることを話した。
ベンは1番目の妻マリリンの家へ赴く。17歳の娘ゾーイを学校へ送るためだ。ゾーイが何か悩みを抱えている様子なので、ベンは「彼氏の ことなら相談に乗るぞ」と声を掛けた。マリリンに会ってゾーイの恋人について尋ねると、彼女は「恋人のことは私に何も話してくれない 。貴方に似たのね」と嫌味を言われる。高校へゾーイを送り届けた後、ベンはジェレミーがオフィスに来たという連絡を受けた。彼は オフィスへ向かいながら、電話でジェレミーを説得する。
ジェレミーが「ラストシーンを変更したら自分の作品じゃなくなる」と修正を拒否するので、ベンは「このままだとルーがカンヌへの出品 を取り止めるかもしれない」と告げる。それでもジェレミーが納得しないので、ベンは彼を連れてルーの元へ赴く。ジェレミーは自分の 考えを語り、犬を殺すシーンの必要性を主張した。するとルーは「2500万ドルも出したのよ。多額の投資をしたんだから、そっちも要求に 応じて」と言う。ジェレミーは反論するが、ルーは冷淡に「最終編集権はこっちにある。私が編集し直すわよ」と告げた。
ジェレミーが感情的になって暴れたので、ベンがなだめて外に連れ出した。ベンはケリーの家に行き、彼女とベッドインしようとする。 だが、寸前になってケリーが「やっぱりダメよ」と躊躇する。「高い弁護料を支払って離婚したのに、複雑なのよ、心が揺れてる」と彼女 が漏らすので、ベンは「私もそうだ」と言ってキスしようとする。そこへカルから電話が入り、「ブルースが来たぞ」と言われる。ベンが ブルースを電話に出してもらうと、彼は「ヒゲのことで俺に不満が?」と喧嘩腰で告げる。
ベンがブルースと話していると、仕事優先の態度にケリーが不機嫌になる。それでもベンが電話を続けていると、ケリーは怒って部屋を 去った。ベンはベッドの下に、男物の靴下を発見した。彼が映画会社へ行くと、メンテナンス業者が作業をしていた。ベンはカールに、 「試写会がダメだったからって、別のプロデューサーを入れるつもりか」と怒りをぶつける。カールは「カーペットの入れ替えです。貴方 が頼んだことですよ」と言うが、ベンは信用せず、ルーの差し金だと疑う。
ベンは編集室へ行き、ジェレミーと会う。ジェレミーが「アンタの裏切りで全て台無しだ」と荒れるので、「ルーを見返そう。カンヌで賞 を獲得するんだ」とベンは言い、犬殺しのシーンをカットするよう説得する。情緒不安定なジェレミーは、泣いて「分かった」と承知した 。ベンはカルからの電話でブルースの問題解決を促され、「俺が行くよ、説得する」と答える。スコットを目撃したベンは、彼がベッド下 に落ちていたのと同じ柄の靴下を履いているのに気付いた。
ベンはブルースの映画の現場へ行き、カルと話す。3日後には撮影に入るスケジュールとなっている。衣装合わせをしているブルースの 説得に行くと、彼は「俺のこだわりが分からないのか」と激怒する。ベンが「観客はヒーローに恋をするんだ。その格好だと困る」と説明 しても、彼は「この姿で半年間、女からダメ出しされたことは無いぞ。アンタには失望した」と物を投げまくって暴れ回った。
ベンはブルースの映画を製作する会社の社長シドニーと電話で話し、「ヒゲも悪くないかもしれない」と言ってみる。しかしシドニーは、 「ヒゲを剃らなければ製作は中止だし、ブルースと君を訴える」と告げる。ベンはブルースのエージェントであるディックに電話を掛け、 説得を頼んだ。ベンはケリーの留守電に「いつでも電話をくれ、大事な用があって、君と話したい」とメッセージを吹き込んだ。
ベンはジョニーの招待を受け、出資者であるアバの会食パーティーに出席する。ケリーから電話が入ったので、彼は席を離れる。ベンが 「あのベッドで誰かと寝たか?」と訊くと、ケリーは「もう夫じゃないのよ」と不愉快そうに答える。ベンが「知る権利はあるだろ。月に 3万ドルは渡しているんだから」と言うと、彼女は怒って「サイテーね、寝たわよ」と告げる。「行ってもいいか」というベンの問い掛け に、ケリーは「ダメよ」と冷たく告げる。
パーティー会場にディックが来たので、ベンは「ブルースと話したのか」と尋ねる。ディックは「それとなく伝えた」と答えるが、詳しく 訊くと、まだ何も言っていないことを明かす。「タイミングを見ないとダメだ。セラピーの日は不機嫌だからキレる」とディックは言い訳 するが、ベンは「知るか。明日には話せ」と要求する。ベンがトイレに入ると、ローラという女が「貴方の映画は全て見てるの」とナンパ してくる。「これからも会えるなら、何をしても構わないわ。いつでも電話して」と彼女はベンに番号を渡した。
ベンはケリーの家の前に車を停め、窓に写る彼女の影を確認する。ベンは電話を掛けるが、留守電になっている。彼はケリーが男と一緒に いる影が窓に写るのを目にした。水曜日。ベンが起床して体操していると、昨晩に関係を持ったローラが挨拶して帰っていく。シドニー からは、問題解決を急かす電話がオフィスに何度も掛かっていた。ベンがオフィスに到着すると、ケリーとジェレミーから同時に電話が 掛かって来た。ジェレミーからの電話を取ると、「早く来いよ」と言われる。次にケリーの電話を取るが、もう切れていた。
ベンが編集室へ行くと、ジェレミーは「10分ほどカットした」と再編集した映像を見せる。ラストシーンは、犬が撃たれずに死んだ主人公 の元へ駆け寄る映像に差し替えられていた。「これで文句無しだ」と安堵するベン。「なぜ気が変わった?」と訊くと、ジェレミーは 「向精神薬のおかげだ」と答える。ベンはルーに電話を入れ、ジェレミーが編集をやり直したことを告げる。「私も見たいわ」とルーが 言うので、ベンは「午後2時に」と告げる。
ベンはディックに電話を入れ、ブルースの説得を急かした。彼はケリーと共に、愛情を保ったまま別れるためのセラピーに出向いた。ベン はセラピストから結婚中の浮気を問われ、一度だけあったことを認める。「過去より現在の話をしよう」とベンは提案するが、セラピスト から「次回にしましょう」と言われる。クリニックを出てエレベーターに乗っていると電話が鳴るが、ベンは出ようとしない。隣にいた ケリーは思わず微笑し、「ありがとう」と頬にキスをした。
ベンはディックが雲隠れしたという連絡を受け、彼を捜し出した。ディックによると、ブルースを説得しようとしたら、激怒してクビに されたという。ディックと話していたベンは、ケリーとスコットがキスしているのを目撃した。ジャックの葬儀に参列したベンは、ゾーイ がいるので驚いた。彼女がジャックと深い関係にあり、さらにドラッグまで教わっていたと知って、ベンはショックを受けた。
葬儀の後、出席していたスコットが話し掛けて来るので、ベンは「ケリーのことだろ。お前が寝た女もベッドも家も、元々は俺の物だ」と 激怒して殺害する妄想を膨らませる。しかしスコットの用件は、花屋の映画のことだった。出演者が決まったので、プロデュースを依頼 したいという。「その前に解決する問題がある。ケリーのことだ。君は既婚者だぞ」とベンが言うと、スコットは「それがどうした。俺は 幸せじゃないんだぞ」と口にした。ベンが花屋の映画の主演俳優を尋ねると、ブラッド・ピットだという。
ベンは埋葬の儀式に行き、参列していたブルースを説得しようとする。しかしブルースは「アンタはただのプロデューサーだ。いなくても 困らない」と言い、ベンに対して攻撃的な姿勢を示した。金曜日。ついにフルースの主演作のクランクイン初日となった。シドニーの会社 の幹部連中も、スタジオにやって来た。トレーラーから出て来たブルースにヒゲが無いのを見て、ベンは安堵の表情を浮かべた…。

監督はバリー・レヴィンソン、原作はアート・リンソン、脚本はアート・リンソン、製作はロバート・デ・ニーロ&アート・リンソン& ジェーン・ローゼンタール&バリー・レヴィンソン、製作総指揮はトッド・ワグナー&マーク・キューバン&エリック・コペロフ、撮影は ステファーヌ・フォンテーヌ、編集はハンク・コーウィン、美術はステファニア・セッラ、衣装はアン・ロス、音楽はマーセロ・ ザーヴォス、音楽監修はアラン・メイソン。
出演はロバート・デ・ニーロ、ショーン・ペン、キャサリン・キーナー、ジョン・タートゥーロ、ロビン・ライト・ペン、スタンリー・ トゥッチ、クリステン・スチュワート、マイケル・ウィンコット、ブルース・ウィリス、 ジェイソン・クラヴィッツ、マーク・イヴァニール、レミー・セルマ、クリストファー・エヴァン・ウェルチ、リリー・ラーベ、サム・ レヴィンソン、ローガン・グローヴ、アレッサンドラ・ダニエル、カリーナ・バック、ピーター・ジェイコブソン、ムーン・ ブラッドグッド、アリ・バラック、ポール・ハーマン、ジョナサン・チャールズ・キャプラン、ブランドン・キーナー他。


『アンタッチャブル』や『ヒート』、『ファイト・クラブ』など数多くの作品を手掛けてきた映画プロデューサー、アート・リンソンの 回想録を、彼自身の脚本で映画化した作品。
監督は『スフィア』『バンディッツ』のバリー・レヴィンソン。
ベンをロバート・デ・ニーロ 、ルーをキャサリン・キーナー、ディックをジョン・タートゥーロ、ケリーをロビン・ライト・ペン、スコットをスタンリー・トゥッチ、 ゾーイをクリステン・スチュワート、ジェレミーをマイケル・ウィンコットが演じており、ショーン・ペンとブルース・ウィリスが本人役 で出演している。

もっと弾けたノリにしちゃえばいいのに、妙にシリアスなんだよな。
これって、シニカルなコメディーなんじゃないのか。それにしては、ちっとも喜劇としてスウィングしてくれない。
「シリアスなタッチの中で喜劇の色が滲み出る」という作品もあるかもしれんが、この映画は、そういうのを狙う類の作品じゃないと 思うなあ。むしろ、もっとテンポ良くジェットコースター的にするとか、ドタバタ色を強めるとか、とにかく「喜劇」としてのノリを前面 に押し出した方が良かったと思う。
なんて悲哀の物語にしちゃったのかなあ。

『フィアスリー』の試写会のシーン、描写が中途半端だ。
ここは「犬の頭が撃ち抜かれる残酷な描写に観客が引く」というところだけを際立たせるべきでしょ。それなのに、その前から観客たちの 中には、映画を見ずに喋っていたり、退屈そうにしていたりするような面々もいる。
つまりラストシーンが無くても、やはり不評だっただろうなあという印象を受けるのだ。
まあ、犬殺しの描写を入れるような監督だから、それ以外の部分でも色々と問題があった可能性は高いけどさ。

しかし描写としては、やはり「ラストシーンが全てを台無しに」という風に見えるべきでしょ。
だから、それ以前に、映画に集中していない、入り込んでいない観客を写すべきではないし、ベンは作品に入り込んでいる観客の反応を 見て満足そうにしているべきだよ。
で、そのラストに待ち受けている犬殺しのシーンで、観客と同じぐらいショックを受けるという形にすべき。
っていうかさ、ベンは試写会の前に、そのラストシーンを知っていたのかな。
そこがハッキリしていないのも、手落ちに思えるぞ。

試写会の後のシーンも、ダラダラしているし、まとまりに欠ける。
ジョニーがベンに出資者を紹介するとか、宣伝担当者がトイレで映画を酷評しているとか、そういう描写、無くてもいいんじゃないか。
いっそのこと、試写会が終わったところで即座にカットを切り替えて、「ルーがアンケート結果をベンに見せて、ラストシーンの変更を 要求する」というところへ移っても良かったんじゃないかと。

ベンはカルからの電話で、ブルースがヒゲ面&メタボ体型でリハーサルに現れたことを知らされる。
そんなことを知らされたら、その時点で大きな問題でしょ。でもベンは「私が何とかする」と言い、すぐに別のエピソードに入って しまう。ひとまずブルースのことは置いておくのだ。
だったら、その時点では知らせない方がいい。
っていうか、それは言葉で説明するより、いきなり「ベンが現場へ行ったらブルースがヒゲ面&メタボで現れるので唖然とする」という形 にした方が、インパクトがあるでしょ。
ブルース本人が現れる前に、ネタをバラすようなことをするのは、上手いやり方とは思えない。

ベンは「オフィスにジェレミーが来た」という知らせを受け、オフィスへ向かいながら電話でジェレミーと話す。
そこ、なんで電話なのよ。オフィスへ行ってから、面と向かって話し合いをすればいいじゃないか。どうせオフィスへ向かっているん だし。
あと、ディックにブルースの説得を依頼するのも電話なのね。
ひょっとして「プロデューサーは色んな人に電話を掛けまくるような仕事です」というのを見せたいのかもしれないが、それは効果的な 演出とは思えないなあ。

主要キャストとの会話シーンは、ちゃんと面会する形で見せた方がいいよ。
電話での会話だと、いちいちカットを切り替えないと表情を見せられないという不都合があるし。
相手が何をしているのかは見えないので、それに対する反応も見せられない。
ディックのケースなんかは、あえて「ディックの格好や行動をベンに見せず、観客だけに見せる」ということで何か喜劇的なモノを狙って いるのかもしれないが、だとしたら不発に終わっている。

ベンの私生活や家族に関するエピソードは、映画製作を巡る2つのエピソードと全く絡んで来ない。私生活での出来事が、意外な形で映画 製作に影響を及ぼすとか、そんな面白味は皆無だ。『フィアスリー』のエピソードとブルース・ウィリスのエピソードも、まるで関連して いない。それぞれのエピソードは、全てバラバラのままになっている。
あと、ジェレミーは意思にそぐわぬ要求をされて激怒し、ブルースも意思にそぐわぬ要求をされて激怒しているので、大まかに言うと トラブルのパターンが一緒なんだよね。
そこは全くタイプの異なるトラブルを用意すべきじゃないの。
なんで似たような内容にしちゃうのか。

ジェレミーは説得に応じるし、ブルースもなんか良く分からないけどヒゲを剃り落してくれる。
問題解決の経緯には、何の面白味も無い。
意外なことがきっかけで問題が解決するとか、相手は要求を飲まなかったのに結果オーライになるような意外な展開が待ち受けているとか 、そういうのは全く無い。
カンヌでジェレミーが元々のフィルムに戻して上映するというのも、まるで意外性は無い。その前のジェレミーの挨拶からすると、「まあ 、そうなるんだろうな」という予想通りの展開だ。

ハリウッドの映画業界を描いたバックステージ物だが、「そんなことがあるんだ」「そんな風になっているんだ」と、新発見として感じる ようなことは何も無い。
映画会社が編集に関して最終的な権利を持っているとか、プロデューサーが色々と大変だとか、そういうのは映画ファンなら知っている ことだ。
編集を巡って監督と映画会社が揉めるとか、役者が勝手な役作りをして困るとか、そういうのも「良くあることだよね」としか感じない。
特に目新しさの無いエピソードを、予定調和の中で描いている。
テンポも悪いし、ものすごく淡々としていてメリハリに乏しいし、意外な展開も全く無い。

(観賞日:2012年6月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会