『天使の処刑人 バイオレット&デイジー』:2011、アメリカ

[1: Cold Pizza and a Warm Puppy(冷たいピザと温かい子犬)]
ティーンエイジャーのバイオレットとデイジーは、大好きなバービー・サンデーのコンサートが中止になったことを知る。デイジーが「どうしたらいいの?」と口にすると、バイオレットは「何か考えておく」と告げた。2人は尼僧の格好をしてピザを運び、部屋にいた連中に発砲する。2人は人質になっていた男を連れ出し、追って来た連中を始末した。デイジーが18歳の誕生日を迎え、2人はケーキでお祝いする。しかしバイオレットは浮かない顔で、「18歳になったってことは、もう罰せられる」と言う。彼女は「でも、これを見たらハッピーになるよ。ボスをパーティーに呼んだの」と告げ、デイジーにボスであるチェットからの手紙を渡した。そこには「行けなくて残念だ」と書かれていたが、デイジーは「ボスを呼んでくれたなんて嬉しい」と笑顔を見せた。
デイジーは仲介人であるラスからの電話で、仕事の話を持ち掛けられる。楽な仕事だと言われるが、バイオレットは「絶対に嫌だ」と拒否し、デイジーも「休暇を取れって言ってたでしょ」と言う。その直後、バイオレットとデイジーは、バービーの新作ドレスが出ることを知って興奮する。バイオレットは「絶対に買おうよ」と言うが、「無理よ。お金は家賃に消えたでしょ」とデイジーは告げる。「1着だけなら何とかなるかも」と彼女は言うが、バイオレットは2人分にこだわった。
バイオレットとデイジーはドレスを買うため、仕事を引き受けることにした。2人が待ち合わせ場所に行くと、ラスは「その男はチェットから香水のトラックを奪った。だが、トラックには金の詰まったバッグも乗せられていた。だが、そいつは金を盗んだ後、俺たちに連絡してコケにしてきた。住所も名前も教えてくれた」と告げる。ラスは2人に、標的が朝は出掛けて午後に戻って来ることを話す。そして、「中に入って待ち伏せしろ。大家も俺たちとグルだ。鍵は開いてる。それから音も気にするな。アパートを建て替えるとかで、ほとんど人は住んでない」と述べた。
2人が立ち去ろうとすると、ラスはデイジーに「相棒から目を離すなよ。そしたら生き残れるぞ」と笑いながら告げる。バイオレットが「黙ってよ」と腹を立てても、彼は構わず「ローズのことを聞いてみろ」と告げる。デイジーの質問を受けて、バイオレットはローズが前の相棒であること、撃たれて死んだことを明かす。デイジーは「これで納得できたわ。寝言で彼女のことを話してたの」と口にした。

[2: Dreaming Flowers(夢見る花たち)]
バイオレットとデイジーは標的の家に侵入し、室内をチェックする。電話が鳴って留守電が作動し、「これ以上、私に何かを送るのはやめて。あの花は捨てたから。もう元には戻れないのよ。二度と連絡して来ないで」という冷淡な女の声が吹き込まれる。バイオレットは「戻ってきたら起こして」とデイジーに頼み、ソファーで居眠りを始める。隣で時間を潰していたデイジーも、いつの間にか眠り込んでしまった。帰宅した住人のマイケルは、拳銃を握ったまま眠っている2人を見て、そっと毛布を掛けてやった。マイケルは2人の向かいに椅子を移動させ、そこで新聞を読み始めた。

[3: Him(彼)]
バイオレットとデイジーが目を覚ますと、マイケルが椅子で眠り込んでいた。困惑しながらも2人が拳銃を構えると、マイケルが目を覚ました。彼は全く動じず、微笑を浮かべて「やあ、どうも。空腹ならキッチンに何かあるよ」と告げる。「なぜ来たか知ってる?」とバイオレットが問い掛けると、彼は「ああ、君たちを待ってた」と答える。バイオレットが「何か勘違いしてない?貴方を殺しに来たの」と言うと、「だったら勘違いじゃなさそうだ」と彼は口にした。
困惑したバイオレットは、デイジーにマイケルの身体検査をさせる。武器を所持していないことを確認した後、バイオレットはデイジーを部屋から連れ出す。「きっと何かのテストなのよ」とバイオレットが言うと、デイジーは部屋に入ったら相手を見ずに撃ちまくろうと提案する。バイオレットも賛同し、2人は部屋に戻って目を閉じたまま拳銃を乱射する。しかしマイケルは部屋におらず、焼き立てのクッキーを持ってキッチンから戻って来た。
「遠慮しないで」とマイケルに勧められ、バイオレットとデイジーは戸惑いながらもクッキーを食べた。牛乳もリクエストし、2人がソファーに座って寛いでいると、マイケルは「弾を込めておいたらどうだ?」と告げる。バイオレットから「何を企んでるの?」と訊かれ、彼は「話すつもりはない。君たちには関係ない」と言う。「君たちはプロとして来たんだろ。弾切れなら角の店にある。早く始めてくれ。客が来るんだ。詳しく言えないが、彼らと鉢合わせにならない方がいい」とマイケルは語った。
バイオレットはデイジーを寝室へ連れ出し、「あいつを消すのが任務よ。でも、なぜ撃たれたがっているのか知りたいの。だって変よ。幾ら殺されたがっても、トラックを強奪するなんて。他に方法がある」と言う。詳細を知ると殺せなくなるので、もう話さないでおこうと彼女はデイジーに告げる。バイオレットは先程と同じ方法を使おうと考えるが、予備の銃弾が無いことをデイジーから聞かされた。
バイオレットはデイジーを残し、銃弾を買いに出掛けた。マイケルから「彼女とは、いつから友達なんだい?」と話し掛けられたデイジーは、「もう貴方と喋っちゃダメなの」と告げる。デイジーは「そうだ、留守電が入ってたわ」と教え、「もう喋らないわね」と述べる。マイケルは留守電を確認し、落ち込んだ様子を見せる。デイジーは「バイオレットとは、もう3年になるかな。人形の病院で出会ったの。それ以来、ずっと親友なの」と語った。
デイジーは「時々、彼女が心配になるけど、いつも彼女みたいになりたいって思うの。それから」と話したところで、言葉に詰まった。「どうした?」とマイケルに問われ、彼女は「分からない」と答えた。「彼女は娘に似てる」とマイケルが言うので、デイジーは「あの留守電は娘さん」と尋ねる。マイケルは「ああ。それはどうでもいい。君は気にしないでくれ」と告げた。肩に付いている9の数字を見た彼が「それは何だい?」と訊くと、デイジーは「これはランクよ。私は殺し屋ナンバー9。バイオレットはナンバー8」と告げる。昇格の基準を訊かれた彼女は、「殺した数よ。普通の殺しより稼ぎがいい」と言う。マイケルが「殺し屋ナンバー1は?」と尋ねると、デイジーは「誰も見たことが無い」と答えた。

[4: Violet's Oddyssey(バイオレットの冒険)]
バイオレットは女に電話を掛け、「今いる場所から2ブロック先を行った所。パッと見た感じは金物店。閉店になっていても、それは看板だけ」と告げられる。4人の男たちが歩いて来るのを見たバイオレットは、ゴミ箱の陰に身を隠した。男2人が立ち小便をしている間に、バイオレットは密かに抜け出す。その様子を、女が双眼鏡が観察していた。

[5: Death's Door(死の扉)]
マイケルはデイジーに、「急がないと。私が他でやったことに対して、誰かが来るんだ」と話す。「他に何をしたの?」と訊かれ、彼は「他人の物を盗んだ」と告げる。ドニー・ダッフォから盗んだと聞かされたデイジーは驚き、「本気で殺されたがってるのね」と言う。「奴の手下が来るだろう」とマイケルが告げると、デイジーは「私もバイオレットも、奴らが大嫌いなの。2ヶ月前、バイオレットが奴らにゴミ箱に閉じ込められたの。抜け殻みたいになって帰って来た」と話す。「それだけか」とマイケルが尋ねると、デイジーは「ええ、それしか話していなかったし。他に何が?」と口にした。
バイオレットはドニーの手下4人組に見つかり、「ボスに言っておけ。どんなに不景気でも、お前のような小娘を男の仕事場に送り込むなんて情けないとな」4人が去った後、バイオレットは路地裏で泣いた。彼女が壁に掛かれた「金物店は角を曲がってすぐ」という大きなメッセージに気付く様子を、女が双眼鏡で観察していた。金物店に辿り着いたバイオレットは、店員から奥の黒いドアへ行くよう言われる。バイオレットが弾丸を手に入れている間に、店には3人組の強盗が乗り込んで来た。
デイジーがマイケルと遊んでいると、ドニーの手下たちが押し掛けて来た。一味は拳銃を構え、デイジーに「子供は下がってろ」と告げる。デイジーが時間を稼いでいる間にバイオレットが戻り、一味を皆殺しにした。直後、ドアがノックされたので、バイオレットとデイジーは顔を強張らせる。マイケルは「私が出る。その間に非常階段から逃げろ」と告げて2人を逃がす。ドアを開けると住人のドロレスで、「何か音がしたみたいけど」と不審そうな表情で言う。マイケルは適当に取り繕って彼女を帰らせた。マイケルが部屋に戻ると、2人が残っていて拍手した。
ドロレスは部屋に戻って警察に電話を掛け、「他の部屋から変な音がするの」と告げた。バイオレットとデイジーが死体を浴槽へ放り込んでいる間に、マイケルは椅子に座ったまま眠り込んだ。バイオレットはデイジーに、「そろそろ彼を殺さなきゃ。寝てるから今がチャンスだよ」と告げる。「でも、また弾切れになったんでしょ」とデイジーが言うと、バイオレットは「その通りよ。でも出来るだけ早く調達して来るわ」と述べる。
デイジーが「調達しても、今すぐは無理よ。ちゃんと覚悟したいって言ってたし」と話すと、「他に何か言ってた?殺されたがってる理由とか」とバイオレットは質問する。デイジーは彼女に、マイケルが悪性のすい臓癌を患っていること、他にも転移していることを教えた。「私たちで彼の葬儀に出ない?彼が生きていた証に」とデイジーが言うと、「結局はドニーが子分を送り込んで彼を殺しに来る。だったら私たちが殺す方がいい」とバイオレットは告げる。
バイオレットは胸に警察バッジを付けており、デイジーは「何があったの?」と問い掛ける。バイオレットは嬉しそうに、「金物店で強盗に遭ったの」と明かす。強姦する時に使えそうな道具を彼女が紹介しているところへ、警官たちが駆け付けた。その店は警察署から目と鼻の先にあったのだ。レジにいた店員が隠していた銃で強盗を撃ち、激しい銃撃戦が勃発した。その際、警官から飛んだバッジが胸に付いて、バイオレットは裏口から外に出たのだと語った。
目を覚ましたマイケルは2人が弾切れだと聞き、「奴らの銃を使ったらどうだ」と持ち掛ける。バイオレットは死体を探り、拳銃を発見する。デイジーは全く動こうとしなかったが、バイオレットはマイケルに拳銃を向けて「心の準備はいい?」と問い掛ける。マイケルが「ああ」と答え、バイオレットは引き金を引く。しかしデイジーが「笑っちゃうわよねえ。その銃で、本気で撃つ気なの?」と口にした。困惑するバイオレットに、彼女は「だとしたらプロ失格よ」と告げた。
デイジーはバイオレットに、「科学捜査よ。弾道分析がある。それで撃ったら、ドニーの子分が殺したと思われる。そしたらボスが報酬をくれないかも。しかも、ここにある死体のせいで、ボスから絞られるギャング同士の抗争も激化する。口径が違うから、私たちの銃では使えない」と述べた。デイジーは「一服したい」と言い、部屋を出て階段に座る。バイオレットは銃を下ろし、シャワーを浴びた。
デイジーはマイケルに、なぜ娘が怒っているのか質問した。マイケルは、自分が家出した後で妻が死んだこと、妻が交際していた仕事仲間と共に事故死したことを語る。娘は母の浮気を知らず、離婚のことでマイケルを責め、事故のことでも責めたのだという。「なぜホントのことを言わなかったの?」と訊かれたマイケルは、「娘が思っている母親のイメージを汚したくないんだ」と答えた。「馬鹿よ」と声を荒らげたデイジーだが、「彼女はバービー・テンデーが好き?」と問い掛ける。マイケルが「ああ」と答えると、デイジーは静かに「いい子に育ったのね。じゃあ弾を買って来て、仕事を終わらせる」と告げた…。

脚本&監督はジェフリー・フレッチャー、製作はジェフリー・フレッチャー&ボニー・ティマーマン、製作総指揮はジョン・ペノッティー&ジェームズ・W・スコッチドープル、共同製作はスティーヴ・ケンプ&サラ・コナーズ、製作協力はレイチェル・イスラエル&アイファン・クオーク、撮影はヴァーニャ・ツァーンユル、編集はジョー・クロッツ、美術はパトリツィア・フォン・ブランデンスタイン、衣装はジェニー・ゲーリング、音楽はポール・カンテロン、音楽監修はスーザン・ジェイコブス。
出演はシアーシャ・ローナン、アレクシス・ブレデル、ジェームズ・ガンドルフィーニ、マリアンヌ・ジャン=バプティスト、ダニー・トレホ、リンダ・グラヴァット、タチアナ・マスラニー、コーディー・ホーン、ジョン・ヴェンティミグリア、スチュ・“ラージ”・ライリー、ネヴィル・アーシャンボルト、ダニー・ホック、タフィー・クエステル、ニック・チョクシー、ゲイリー・ホープ、クリス・コロンボ、ベティー・フレッチャー他。


『プレシャス』でアカデミー賞最優秀脚色賞を受賞したジェフリー・フレッチャーが、初めて監督を務めた作品。
ジェフリー・フレッチャーは『プレシャス』が脚本家デビュー作で、それに続く2作目で脚本だけでなく監督も任されるんだから、かなり評価が高いってことなのね。
でも本作品は2011年に製作されて複数の映画祭に出品されたものの評価は芳しくなかったために北米での上映スケジュールが決まらず、ようやく2013年になって限定公開されただけに留まっている。
つまり興行的に失敗した作品ってことだ。

デイジーをシアーシャ・ローナン、バイオレットをアレクシス・ブレデル、マイケルをジェームズ・ガンドルフィーニ、ナンバー1をマリアンヌ・ジャン=バプティスト、ラスをダニー・トレホ、ドロレスをリンダ・グラヴァット、マイケルの娘エイプリルをタチアナ・マスラニー、バービーをコーディー・ホーンが演じている。
「ティーンエイジャーの少女コンビが殺し屋をやっている」という仕掛けの面白さで観客を引き付けようという作品だが、アレクシス・ブレデルは1981年生まれなので、実はティーンエイジャーどころか三十路だったりする。
相棒のシアーシャ・ローナンは1994年生まれなので、ものすごく年齢差もある。
しかし、アレクシス・ブレデルの容姿はちゃんとティーンエイジャーに見えるし、そんなに大きな年齢差を感じさせない。

物語は10のチャプターに分かれており、粗筋に書いた以降は[6: Photosynthesis(光合成)][7: Rose Again(ローズ再び)][8: Nine Divided by One(9÷1)][9A][10: One More Thing(もう1つ)]と続く。
[9A]と出るので[9B]もあるのかと思ったが、それは無かった。
それ以前の問題として、そもそも複数の章で分割している意味があるのか、何か効果が出ているのかというと、特に何も感じない。

ラスが仕事の内容を説明する間、デイジーは彼と『アルプス一万尺』のような手遊びを始める。ラスにしろデイジーにしろ、ふざけた様子は一切無く、真剣な表情のままでそれを始める。
第二章に入った直後、今度は川の近くでバイオレットとデイジーが同じ手遊びをやる。デイジーとマイケルはバイオレットの帰りを待っている間、その手遊びをやる。
牛乳を飲んだバイオレットとデイジーが口の周囲を白くするとか、買い物に出たバイオレットが「けんけんぱ」の遊びをやるとか、そのように2人の幼児性を示す箇所が幾つも用意されている。
そしてマイケルとの関係性を「疑似父子」として描こうとしている。

デイジーの経歴は知らないが、バイオレットは「過去にローズといいう相棒がいた」という設定もあるぐらいだから、それなりのキャリアを積んでいるはずだ。
それにしては、マイケルの家でグースカと眠り込むという失態を冒す。
一応はデイジーに「戻ったら起こして」と言っているけど、迂闊であることは否定できない。前の相棒であるローズが殺されているんだから、もっと慎重に行動するようになるモノじゃないかと。
しかも、自分が眠り込んだら、デイジーが1人で標的と対峙する状況が待ち受けているわけで。
前の相棒が死んでいるのに、今の相棒が標的と1対1になる状況を容易に作り出すってのは、どういうつもりなのかと。

クエンティン・タランティーノが『レザボア・ドッグス』で監督デビューして以降、タランティーノ・シンドロームの症状に陥っていると感じさせる映画が何本も作られた。
この映画も、そんな雰囲気を感じさせる仕上がりになっている。
ジェフリー・フレッチャーは初めての作品ではなく、『プレシャス』で脚本家デビューは終えている。だから今更タランティーノに毒されるはずがないと思ったりもしたのだが、『プレシャス』って原作小説があるんだよね。
自分のオリジナル脚本だから、症状が出ちゃったのかもしれない。

もちろん、タランティーノ・シンドロームの症状に陥っているというのは私の勝手な診断だし、ジェフリー・フレッチャーは全く別の映画や監督を意識していたのかもしれない。
クエンティン・タランティーノの影響なんて、本人的には全く感じていなかったのかもしれない。
しかし受ける印象がそうなってしまった以上は、タランティーノ・シンドロームの自覚症状があろうと無かろうと、結果的には同じようなことなのである。
「タランティーノ・シンドロームだからダメ」「タランティーノ・シンドロームじゃないからOK」ってことではなくて、大切なのは仕上がりの結果だからね。

冒頭、尼僧の格好をしたバイオレットとデイジーがピザを持って町を歩き、バイオレットがピートという医者のことを楽しそうに話す。
「ある日、ピートは自分のやったことに後悔してた。自分の患者5人と寝たの。でもピートは人の道を外れた人間じゃなかったから、罪悪感で医者失格だと落ち込んでた。でも時々、心の声がこう言うの。患者と寝る医者なんて他にも大勢いるだろって。それに、お前は独身じゃないかと。でも彼が罪悪感から逃れた瞬間、別の声がこう言うの。お前は獣医じゃないかって」と語る。
そんな小噺の後、2人はピザ配達に見せ掛けて標的に乱射する。
この流れ、タランティーノの『パルプ・フィクション』を連想させるんだよね。

「ピザの配達人に成り済ますのなら、尼僧の格好は何の意味があるのか」と問われたら、「特に意味は無い」と答えるしかない。
それは単なるコスプレだ。
ようするに、ティーンエイジャーであるバイオレットとデイジーは遊び感覚で殺しの仕事を引き受けていて、だから遊び感覚でコスプレを楽しんでいるってことなんだろう。
っていうか、8と9という数字の書いてあるお揃いのTシャツも含め、そういうファッション的な部分の仕掛けも、何となくクエンティン・タランティーノさを感じてしまうんだよな。

バイオレットはバービーの新作ドレスの値段が300ドルだとデイジーに告げ、「ステイシー・カルペッパーが買った時に、その話で持ち切りだったもん」と言う。
その後の展開で、ステイシー・カルペッターなる人物が登場することは一度も無い。
ステイシー・カルペッパーが何者なのかを説明するセリフも無い。
そうやって、単なる無駄話の要素として個人名を登場させる辺りも、何となくクエンティン・タランティーノさを感じさせる。

バイオレットとデイジーは三輪車でアパートの裏まで行き、鍵を掛けずにサドルに「触ったら殺す」と書いた紙を置く。2人は白いツナギの作業服を着て、ペンキの缶を持っている。
だが、その路地裏で缶を捨てて銃を取り出すので、その偽装は全く意味が無い。尼僧の格好と同様、それも単なるコスプレに過ぎない。
そういう意味の無さも、なんかタランティーノっぽい。
無駄話や脱線が多く、なかなか話が先に進まないのはクエンティン・タランティーノっぽい。
その場でマイケルの膵臓癌や金物店の出来事を描けばいいのに、回想として後から説明するといった構成も、こじつけかもしれないけど何となくクエンティン・タランティーノっぽい。

ドニーの手下4人組が来た時、デイジーは「質問していい?やっぱり止めるわ」と告げ、「言えよ」「何、その言い方」「頼むよ」「他のみんなは?」「頼むよ」「良く出来ました。でも銃をしまうまで言うつもりは無いから」「何のために?」「そしたら疲れないわ」「馬鹿にしてんのか」「もちろん馬鹿にしてる。言う通りにしないと、私の話に付いて行けなくなる。それに疲れちゃったら、お互いの時間が無駄でしょ。言うこと聞かないとお母さんが悲しむわ」などという会話が繰り広げられる。
そういう無駄話も、やはりクエンティン・タランティーノっぽい。
無駄話の後には、バイオレットが銃撃する様子が描かれる。そういう「無駄話と暴力描写の組み合わせ」ってのも、モロにクエンティン・タランティーノっぽい。
その後、バイオレットが「大出血ダンスだよ。アンタも手伝って」で言い、デイジーと共に死体に乗って楽しそうに飛び跳ね、死体の口から血が吹き出すという描写がある。無邪気で楽しそうな様子と残虐な描写の組み合わせも、これまたクエンティン・タランティーノっぽい。

「殺し屋にはランクがあって、ナンバー1は誰も見たことが無い」という設定は、鈴木清順監督が1967年に撮った『殺しの烙印』を連想させる。
そういうカルトな過去の映画から要素を取り込むのも、クエンティン・タランティーノっぽい。
チャプターが分けてあるのも、『パルプ・フィクション』を連想させるし。
「バイオレットとはレキシントンにある人形の病院で出会ったの。お互いに医者で、つまり外科医よ。バイオレットが外科医って言えって。病院で働いてる時は、悪い夢を見なかった」という良く分からない設定もタランティーノの匂いを感じると言ったら、それは言い過ぎなのかな。

バイオレットとデイジーは無駄に弾丸を乱射し、すぐ弾切れになって買いに行かなきゃならない羽目になる。
そういう愚かしさは、今までナンバー8&9の殺し屋としてやって来た設定を考えるとデタラメだ。
終盤、実はデイジーが今まで空砲を撃っていたことが明らかになるが、それは設定として無理があり過ぎる。
金物店での出来事に関しても無理があると感じるが、それはバイオレットが後から説明するだけだから、虚偽の可能性がある。ただし、「真相はこうで」という種明かしは無いままだ。

バイオレットがドニーの手下たちによってゴミ箱に押し込まれたという話も、それだけじゃない可能性があるけど、真相は明かされない。
だから消化不良の印象もあるが、ジェフリー・フレッチャーが『殺しの烙印』の影響を受けているとすれば、不可解な点が多すぎるのは理解できる。
ただし、理解は出来るが、決してプラスに評価できるわけではない。
そして、それが面白さに繋がっているわけでもない。

これが失敗作であることも、評価が低かったことも、実際に見ると良く分かる。ぶっちゃけ、途中で退屈になっちゃったしね。
ただねえ、個人的には、この映画、そんなに嫌いじゃないんだよな。
完全ネタバレだけど、映画の最後、デイジーがエイプリルに「貴方のお父さんの友達だった。お父さんからの贈り物よ」と告げてバービー・サンデーのドレスを渡して少し喋り、「お父さんはいい人だった」と告げるシーンで、なんか涙腺が緩んでしまったんだよな。
ってことは少なからず心を揺り動かされたわけで、だから嫌いじゃないよ。

(観賞日:2015年3月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会