『逃走車』:2013、アメリカ

アメリカ人のマイケル・ウッズはパトカーに追われ、南アフリカ共和国の街を車で逃走していた。その少し前、彼は空港の駐車場から、アメリカ大使館で働いている元妻のアンジーに電話を掛けていた。会いに行く予定より遅れていることについて、マイケルは「機械の故障で飛行機が遅れた上に、税関で時間が掛かって」と言い訳する。「以前とは違う。変わったんだ」とマイケルが言うと、アンジーは「その言葉を信じたいわ。お願いだから失望させないで」と告げる。マイケルは「20分で行く」と約束した。
マイケルがハーツ・レンタカーに頼んだのはセダンだったが、駐車場に用意されていたのはミニバンだった。マイケルは電話を掛け、事情を説明した。しかし受付係の女性が「こちらへお越し下さい。支店長が戻ってから対処します」と言うので、彼は「このままでいい。人が待ってるんだ」と告げて電話を切った。マイケルは駐車場を出発するが、慣れない右ハンドルと左側通行に戸惑った。しかも全く知らない場所の上に南アフリカの言葉も分からないため、マイケルは地図を見ながらヨハネスブルグの街を移動した。
マイケルが渋滞に巻き込まれていると、アンジーから電話が掛かって来た。マイケルは渋滞のことを説明し、「俺は1年半も待った。少し待ってくれ」と頼んだ。アンジーは渋滞が嘘だと思い込み、「仮釈放で旅行が認められて、やり直せると思っていたのよ。これ以上は傷付けないで」と電話の向こうで泣き出した。マイケルは「嘘じゃない。本当に渋滞で車が動かないんだ。今回は失望させない」と告げる。しかし実は、仮釈放での出国申請は却下されていた。
グローブボックスで音が鳴ったのでマイケルが開けると、携帯電話が入っていた。携帯をチェックすると、「誰にも知られるな」という文面のメールが届いていた。しばらく車を走らせていたマイケルは、床に落ちている拳銃を発見した。携帯が鳴ったので取ると、「メール確認の返事はどうした?」という男の声が聞こえてきた。マイケルが「誰だ?どういうことだ?」と尋ねると、相手は「その携帯をどこで手に入れた?」と質問する。マイケルが事情を簡単に説明すると、相手は電話を切った。
マイケルは廃車置き場に車を放置し、徒歩で大使館へ向かおうとする。しかし携帯が再び鳴ったので、車に戻った。電話の相手は刑事のスミスと名乗り、「空港での秘密捜査中に手違いがあった。その車には覆面捜査官が乗るはずだった。他の車を手配したから、指定の場所へ行ってくれ」と告げてスマッツ通り78番倉庫を指示した。車を発進させたマイケルだが、同じ名前の通りが幾つもあるので苦労する。アンジーから電話が掛かって来たので、マイケルはスマッツ通りの場所を教えてもらった。
タイヤが泥道にハマったので、マイケルはエンジンを吹かして抜け出そうとする。その際、振動で後部座席が倒れ、手足を拘束されて猿ぐつわを噛まされている女が転がり出て来た。女が目を覚ましたので、マイケルは危害を加えないことを説明してから猿ぐつわを外した。しかし手の拘束を外してやると、女はいきなり拳銃を手に取った。マイケルは慌てて取り押さえ、拳銃を奪い取った。彼は激怒して「後ろに座ってろ」と命令し、車を再び発進させた。
女はマイケルの隙を見て拳銃を奪い、「来た道を戻って」と要求する。マイケルはスピードを上げて急ブレーキを掛け、拳銃を奪い返した。スミスから電話が入り、マイケルは「調べたぞ。10日前に出所したそうだな。保釈条件を破って国外に出た。別れた妻のいる大使館へ行くんだろ。刑務所に戻りたいか。5分以内に来なかったら逮捕する」と脅された。マイケルは縛られた女がいたことを説明するが、何も言わずにスミスは電話を切った。
女は「何も知らないのね」と言い、自分がレイチェルという検事であること、ベン・バーンズという権力者が国際的な性的人身売買に関与している証拠を掴んだこと、秘密の暴露を阻止するために拉致されたことを話す。「そんなことは警察にでも言ってくれ」とマイケルが苛立ったように告げると、レイチェルは「バーンズは警察署長よ」と述べた。彼女は「警察は私を殺す気よ」と説明して協力を求めるが、マイケルは「俺は関係ない」と拒否した。
指定された倉庫にマイケルが車を滑り込ませると、いきなり発砲された。レイチェルが慌てて「早く逃げて」と告げ、マイケルは車を発進させる。2台の車が追跡して来るが、マイケネは何とか蹴散らして逃走した。レイチェルは「知人に助けを求めるわ」と言い、黒人居住区へ向かってもらう。最初の知人に断られたレイチェルは、歩いているベンジーという男を見つけて声を掛ける。しかしベンジーは「学校で8歳の息子が脅迫を受けた。巻き込まないでくれ」と告げて走り去った。
アンジーが心配になったマイケルに、レイチェルは「大使館へ連絡して外出しないように言って」と告げる。留守電になっていたので、マイケルはメッセージを残した。マイケルがアンジーを迎えに行こうとするので、レイチェルは「連中が待ってる。私たちを殺す気よ」と反対する。それでもマイケルが考えを変えないので、レイチェルし大使館の外交部に電話を掛ける。すると職員は、アンジーが人と会うために外出したことを告げた。
マイケルの運転する車が大使館に近付くと、レイチェルは「連中の仲間がいるわ」と言う。外へ出て来るアンジーに気付いたマイケルは、「中に戻れ」と叫びながら大使館の前を通過する。その際に発砲を受け、レイチェルは重傷を負う。マイケルが病院へ行こうとすると、彼女は「病院に行ったら連中に見つかるわ」と言い、人目に付かない地下駐車場へ向かわせる。大量に出血した彼女は助からないと悟り、マイケルの携帯に訴追のための証言を吹き込んだ。
レイチェルは「裁判所へ行って、信頼できるムズカ判事を見つけて」と言い残し、息を引き取った。マイケルは遺体を駐車場に置き、その場を離れて考え込む。するとスミスから電話が入り、「私は全ての警官を動かせるし、君の車も知っている。それに君の奥さんが一歩でも外に出れば、待ち受けている部下が捕まえる」とマイケルに言う。スミスは「決断の材料を、もう1つやろう」と告げ、ラジオを付けるよう促した。ラジオを付けたマイケルは、自分がレイチェル殺害の容疑者になっていることを知った。不敵に笑うスミスに、マイケルは「決断しろと言ったな。たった今、決断した。答えはファック・ユーだ」と言い放ち、裁判所へ向かって車を走らせる…。

監督&脚本はムクンダ・マイケル・デュウィル、製作はライアン・ヘイダリアン&ピーター・サフラン、製作総指揮はポール・ウォーカー&エディー・ムンバロ&ジェフリー・ケーナ&バジル・フォード&トリシャナ・セヴナレイン&ゲイリー・キング、撮影はマイルズ・グッドール、編集はミーガン・ギル、美術はスー・スティール、音楽はジェームズ・マッテス&ダニエル・マッティー。
主演はポール・ウォーカー、共演はナイマ・マクリーン、ジス・ドゥ・ヴィリエ、レイラ・ヘイダリアン、ツェポ・マセコ、アンドリアン・マジヴ、ウェリル・ンズーザ、マンガリッソ・ンジェマ、アーネスト・クバイ、エリーゼ・ヴァン・ニーカーク、シゾ・モツォコ、シヴィウェ・マジブコ、ブランドン・リンゼイ、ポール・ピータース、ベン・テジベ、ケイト・ティリー、ボンガニ・マーラング、セムビ・ヴィラジ他。


「ワイルド・スピード」シリーズのポール・ウォーカーが主演と製作総指揮を兼ねたカーアクション映画。
監督&脚本のムクンダ・マイケル・デュウィルは、2011年の南アフリカ映画『Retribution』に続いて今作が2作目。
マイケルをポール・ウォーカー、レイチェルをナイマ・マクリーン、スミスをジス・ドゥ・ヴィリエ、アンジーをレイラ・ヘイダリアン、ベンジーをアンドリアン・マジヴ、ムズカをマンガリッソ・ンジェマが演じている。

「全編が車載カメラの映像」というのが本作品の大きな特徴であり、セールス・ポイントでもある。っていうか、そのアイデアだけで勝負しようとしている作品だ(厳密に言えばラストシーンで車内からカメラが出てしまうので「全編」ではないのだが、そこは大した問題ではない)。
多額の予算を使った大作映画ではないことを鑑みても、1つのアイデアだけで勝負しようってのは悪い考えじゃない。
ただし、この映画は、そのアイデアを思い付いた段階で、ほぼ思考がストップしているように感じられる。いかに面白く膨らませるか、いかに最大限の有効活用をするかというところの工夫に乏しい。
せいぜい「建物のガラスに車が映って色を塗り替えたことが分かる」というシーンぐらいだろう。
映し出せる範囲を制限したことが、ただのハンデになっている。
そのハンデを遥かに超えるだけの面白さを作り出すことが出来ないのなら、車載カメラの映像に限定している意味が無い。普通に撮影した方がいい。

それと、車載カメラとは言うものの、車内に固定して取り付けられているカメラというわけではないんだよね。車の中にいる撮影監督が場面によって位置を変えて、様々な方向にカメラを振っている。
それによって制限が中途半端になっているように感じられる。
それと、POV(主観映像)のように「登場人物が撮影している」という形ではないのに車内限定の映像ってのも、微妙な違和感に繋がっている。
ひょっとすると、固定カメラでもPOVでもないのなら、車内からの映像に限定している意味や面白さはどうやっても出ないんじゃないかと思ってしまったりするんだけどなあ。

映像面での面白味が無いだけでなく、ドラマの方も冴えない。
とにかく主人公に全く感情移入できないってのが、致命的な欠点だ。
まず保釈条件を破って国外に出ている時点で、ただの阿呆でしかない。「別れた妻に会いたいから」という動機は、まるで同情を誘わない。
ルール違反を犯して会いに行っても、それがバレた時点で「また失望させられた」ってことでヨリは戻せなくなるだろ。それに帰国したら捕まって、またムショへ逆戻りでしょ。
そこまで無理をしてアンジーに会いたがる理由が、イマイチ分からんぞ。
もうちょっと我慢することは出来なかったのか。「早く会わないと時間が無い」という事情があるわけでもないんだし。

マイケルがヤバい車にずっと乗り続けるのは、まるで理解不能だ。
車内で拳銃を見つけた段階で、まずはレンタカー会社に連絡しろよ。
それと、携帯が鳴って1度目に出るのはいいとしても、車を置いて徒歩で大使館へ向かおうとした時、わざわざ戻ってまで出るのはワケが分からん。「ものすごくお人好し」というキャラ設定だったりするのか。
でも、そうであるならば、レイチェルを発見した時、すぐに事情を詳しく聞こうとしないのは不可解だ。なぜ何も事情を質問せず、彼女を乗せたまま倉庫へ向かうのか。
厄介だと思ったのなら、彼女を降ろして倉庫へ向かえばいいじゃねえか。

レイチェルから「警察が自分を殺そうとしている」と聞かされたマイケルが、それでも倉庫へ向かうのは理解不能。刑事が指定した場所なんだから、そこへ行ったら少なくともレイチェルが殺されることは目に見えているでしょうに。
そんで発砲を受けたら「なぜ撃つ?」と驚いているけど、テメエはレイチェルの説明を何も聞いてなかったのかよ。なぜ撃つのかって、そりゃあ殺そうとしているからだよ。
マイケルだけじゃなく、悪党サイドも相当のボンクラだ。
なぜレイチェルを放り込んだ状態で、レンタカーを駐車場に放置しているのか。秘密の暴露を阻止したいから拉致したのなら、さっさと始末すればいいでしょうに。
どこかへ連行するつもりだったとしても、一度は彼女を積んだままレンタカー会社に返却しているってことになるんだぜ。お前らは何がしたいのかと、朝から晩まで問い詰めたくなるぞ。

レイチェルの遺体が発見された後、スミスはマイケルに電話を掛けて「全ての警官を動かせるし、お前の車は分かっているし、奥さんが外に出たら逮捕するし、お前はレイチェル殺害の容疑者になっている」と説明して決断を迫る。
だけど、そこまで追い込んでしまったら、もうマイケルに残されているのは「判事の元へ行く」という行動しかないでしょうに。それしか彼が助かる方法は無いでしょ。
そこまで逃げ道を全て塞がれてしまったら、例えばスミスの元へ行ったとしても、殺されるか逮捕されるかの二択だ(まあ殺されるわな)。
スミスが何をどう決断させたかったのか、サッパリ分からんぞ。

マイケルは裁判所へ行く途中、車のボディーを赤色に塗り替える。
それで警察にバレないようにしようってことなんだけど、そこまでして同じ車に乗り続けなきゃいけないかね。
裁判所までは、そんなに距離が離れているわけでもないから、車を捨てて歩いても行けるんじゃないか。
むしろ車の色を変更するよりも、その車を誰かにタダで譲り渡し、変装して裁判所を目指した方が良さそうな気もするぞ。
結局、塗装を変えても、裁判所まで来たら簡単に見つかっちゃってるから大して意味が無いし。

(観賞日:2014年9月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会