『デッドロック』:2002、アメリカ
カリフォルニア州モハーヴェ砂漠のスウィートウォーター刑務所にはコンバット・ケージが設置され、ボクシングプログラムが実施されている。スウィートウォーター刑務所に収監されている囚人が、他の刑務所から選ばれた囚人と半年ごとにボクシングの試合で対戦するのだ。メインイベントの前には、スウィートウォーターの囚人が結成したヒップホップ・ユニット「ガット・ボーイズ」のショーが行われる。その日のメインでは、67戦無敗のモンロー・ハッチェンスが別の刑務所から来たヴァーン・ヴァン・ザントと対戦した。モンローは一方的にヴァーンを攻め立て、余裕のKO勝利を収めた。
リングアナウンサーのマーヴィン・ボンズは囚人たちに、元ボクシングヘビー級王者のジョージ・“アイスマン”・チェンバースが翌日に収監されることを知らせた。収監を前にしてジム・ランプレイのインタビューを受けたアイスマンは、「収監されて実戦から離れても、力が衰えることは無い」と自信を見せる。ボクシング団体がタイトルを認めないと発表していることについて、彼は「チャンピオンは俺だ」と主張した。
アイスマンはシーザース・パレスでマンフレディーの挑戦を軽く退け、47戦無敗で王座を防衛した。翌年にWBC王者との統一戦が予定され、全ては順調に運んでいたはずだった。アイスマンはレイプ事件で逮捕されたが、ランプレイのインタビューでは「レイプする必要なんて無い」と無罪を主張した。彼が刑務所に到着すると、リップスコーム所長は面倒を起こさないよう釘を刺した。看守長のマーカーや行政官のアーリーを紹介されたアイスマンは、不遜な態度を見せた。ランプレイからファンへの謝罪を提案された時、彼は激昂して「ファンにも、あの女にも謝らないぞ」と怒鳴っていた。
アイスマンは雑居房へ行き、先客のミンゴ・ペイスに会った。ミンゴが「一緒になって嬉しいよ。アンタに迷惑は掛けない」と低姿勢に出ると、アイスマンは「誰も俺に近付けるな」と命令した。そこへ老マフィアのメンディー・リップスタインが、世話係であるジーザス・“チューイ”・カンポスを伴って訪ねて来た。メンディーは「ここにも王者がいる。君には勝てない」とアイスマンを挑発し、その場を後にした。チューイはアイスマンに、刑務所の王者はモンローだと教えた。
食堂へ赴いたアイスマンは、ミンゴに「モンローはどいつだ」と尋ねた。モンローに声を掛けたアイスマンは、彼が10年前に収監されてから王座を守り続けていることを知る。アイスマンはモンローに平手打ちを浴びせ、看守に制止されながら「チャンピオンはお前じゃない、この俺だ」と言い放った。リップスコームはアイスマンを呼び、「今日のことは大目に見る。記録には残さない」と言う。アイスマンは全く悪びれず、「俺を他の囚人どもと同じように扱うつもりなら考え直せ。俺に何か起きたら大勢のマスコミが押し寄せるぞ」と不敵な笑みを浮かべた。リップスコームはモンローが先に手を出したことにして、彼を独房に移動させた。
アイスマンが中庭でミンゴと話していると、ラットバッグという囚人が「体がなまってないか?」と声を掛けた。ミンゴはアイスマンに、ラットバッグがモンローと同房でマネージャー気取りの男だと教える。アイスマンは「俺を殴ってみろ」と持ち掛け、ラットバッグに顔を殴らせる。彼は他の囚人たちに拍手を求め、ラットバッグの腹を殴り付けて「モンローに言っておけ。チャンピオンはこの俺だ。いつでも倒してやる」と口にした。
アイスマンとミンゴと同じ厨房係に配属され、黙々と仕事をこなした。アーリーはモンローの独房へ行き、別の刑務所へ移送するための調書を取った。アイスマンの元にはマネージャーのヤンク・ルイスが面会に訪れ、「お前のタイトル王座が宙に浮き、新しいチャンピオンを決める試合が組まれた。出所したら新王者と戦える」と語った。ヤンクは「選手には寿命がある。もう35歳だ、時間が無い。お前が築き上げてきた物が消えつつある」と言い、弁護士に頼んで早く出所させてもらうよう説いた。
チューイはマフィアのアルとヴィニーに電話を入れ、メンディーの状況を報告した。彼はアルたちに頼まれ、メンディーの世話をしていた。ミンゴはマーカーから、「アイスマンがスキンヘッドを1人、殴ったらしいな」と確認される。ウィラードという男が「態度がデカいんじゃないのか」と言った時、アイスマンは無言で殴り倒したのだ。アイスマンは弁護士のチャールズ・ソワードから、被害者のトーニー・ローリンズが民事訴訟を起こしたことを聞かされた。チャールズは国税庁が申告漏れで調査に入ること、経済状況が悪化していることをアイスマンに告げ、早く出所してリングで稼ぐ以外に方法は無いと告げた。
チャールズは民事訴訟を専門外にしているため、そちらは別の女性弁護士に任せた。アイスマンが「向こうが誘った。嫌がってなかった」と言うと、弁護士は「検察は暴行と断定しています」と告げた。囚人の黒人グループ「エル・ファシズ」のボスであるサラディンは、ゲイのアントワーヌを贈り物としてアイスマンの元へ派遣した。アイスマンはサラディンの元へ行き、団結を持ち掛ける彼を殴り付けた。彼はサラディンの仲間にも襲い掛かり、独房に監禁された。リップスコームに呼び出されたアイスマンだが、全く反省しなかった。
独房暮らしを続けていたモンローは、事件を起こして捕まった時のことを振り返る。ある日、彼が帰宅すると妻は男と浮気の最中だった。妻は「誰と寝ようと私の勝手でしょ」と開き直り、モンローは浮気相手を暴行して殺した。オークランドのボクシング王者だったモンローは、仮釈放無しの終身刑を宣告された。メンディーはチューイに、「モンローとアイスマンの試合を組んで賭けをする。モンローが勝つ」と告げた。チューイはアルに電話を掛けて事情を説明し、「看守長には話を付けた。所長を何とかしてくれ」と依頼した。
圧力を掛けられたリップスコームは2週間の休暇を取ると決め、マーカーに「その間に試合があっても何も知らないことにする。戻るまでに綺麗に終わらせておけ。証拠は残すな」と述べた。マーカーはモンローを独房から出し、移送が中止になったことを告げた。アイスマンはヤンクを刑務所に呼び、メンディーに「モンローと試合をすれば早く出所できるよう手を回す」という話を持ち掛けられたことを明かす。ヤンクが「モンローは楽に勝てる相手じゃない」と不安を見せると、彼は腹を立てて怒鳴り付けた。
メンディーから試合を持ち掛けられたモンローは、儲けの40%を渡す条件で承知した。モンローとアイスマンは6週間後の試合に向けて、トレーニングを開始した。シャワー室で顔を合わせたモンローとアイスマンは、「ここでは俺がチャンピオンだ」「せいぜい出所の夢でも見てろ」と互いに挑発的な言葉を浴びせた。トーニーはモーリーン・オーボイルのニュース番組に出演し、インタビューを受けて自身の思いを吐露した。
アイスマンが食堂にいると、彼に憎しみを抱く囚人たちがモンローを応援して騒ぎを起こした。看守が制止に入っても彼らは指示に従わず、リップスコームは試合の中止を決定した。納得できないメンディーはリップスコームを脅し、決定を撤回させた。チューイはアルから「こっちはモンローに賭けた」とアイスマンの買収を要求され、即座に拒否した。モンローはサラディンたちから薬を使ってアイスマンの動きを鈍らせる計画を提案されるが、「俺は卑怯者じゃない」と断った…。監督はウォルター・ヒル、脚本はデヴィッド・ガイラー&ウォルター・ヒル、製作はデヴィッド・ガイラー&ウォルター・ヒル&ブラッド・クレヴォイ&アンドリュー・シュガーマン、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&サンドラ・シャルバーグ&ルドルフ・ワイスマイヤー&ダニー・ディムボート&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&ジョン・トンプソン&ウェズリー・スナイプス、共同製作総指揮はジェイソン・E・フランケル、製作協力はアンソニー・ハートマン、撮影はロイド・エイハーンII世、美術はマリア・カソ、編集はフリーマン・デイヴィス&フィル・ノーデン、衣装はバーバラ・イングルハート、音楽はスタンリー・クラーク。
出演はウェズリー・スナイプス、ヴィング・レイムス、ピーター・フォーク、マイケル・ルーカー、ジョン・セダ、ウェス・ステューディー、フィッシャー・スティーヴンス、デイトン・カーリー、マスターP、ジョニー・ウィリアムズ、デニス・アーント、ブルース・A・ヤング、エイミー・アキーノ、エド・ラヴァー、ジョー・ダンジェリオ、ローズ・ローリンズ、モーリーン・オボイル、ニルス・アレン・スチュワート、ジム・ランプレイ、シルク・ザ・ショッカー、C−マーダー、ボズ、ニコラス・カスコーネ、バイロン・ミンズ、テイラー・ヤング、スーザン・ダリアン、ジョナサン・ウェズリー・ウォレス他。
『ジェロニモ』『ラストマン・スタンディング』のウォルター・ヒルが監督を務めた作品。
脚本は『マネー・ピット』『エイリアン3』のデヴィッド・ガイラーとウォルター・ヒル監督による共同。
モンローをウェズリー・スナイプス、アイスマンをヴィング・レイムス、メンディーをピーター・フォーク、マーカーをマイケル・ルーカー、チューイをジョン・セダ、ミンゴをウェス・ステューディー、ラットバッグをフィッシャー・スティーヴンス、ヤンクをデイトン・カーリーが演じている。
ラッパー4人組として、マスターP、シルク・ザ・ショッカー、C−マーダー、ボズが出演している。ウォルター・ヒル監督は本作品を気に入っていたが、興行的には失敗した。そのショックで彼は、2012年の『バレット』まで劇場映画の世界から離れていた。
ただしソフト化されてからの売り上げは好調だったため、ビデオ映画として3本の続編が作られている。
ウォルター・ヒルが「自分のやりたいことを忠実に映像化できた」ってことで、気に入っていたのは理解できる。一方で、興行的に失敗した理由も良く分かる。何しろ、既視感に溢れたベタベタのB級アクション映画だからね。
これで「大ヒット間違いなし」とウォルター・ヒルが確信していたのなら、考えが甘すぎるでしょ。主演が大人気のA級スターならともかく、ウェズリー・スナイプスなんだし。
しかもベタなB級アクション映画として質が高い出来栄えだとは、お世辞にも言えないからね。ちょっと笑っちゃったのは、ヴィング・レイムスの演じるアイスマンのキャラクター造形。たぶん見た人の大半が、マイク・タイソンを連想するんじゃないだろうか。
それは「外見や立ち振る舞い」というだけではない。
ボクシングの元世界ヘビー級統一王者であるマイク・タイソンは、1992年にレイプ事件で収監されて3年間の刑務所生活を送っている。その1度では終わらず、1999年にも運転手への暴行事件を起こして服役している。
そういう経歴も含めて、アイスマンのモデルがマイク・タイソンなのは確実だ。主要キャラクターが登場すると、名前や罪状、収監された年や所属する組織といった情報が画面に表示される(ちなみに最初はチューイ)。親切っちゃあ親切な演出だけど、「のっけから画面がガチャガチャして煩わしいなあ」としか感じない。
そもそも、名前はともかく罪状とか収監された年とか、どうでもいい情報なんだよね。それがストーリー展開において重要な意味を持つことなんて、何も無いんだから。
なので「何となくスタイリッシュっぽいことをやってみたけど、まるで無意味」という趣向になっている。
あと、ヴァーンは試合シーンだけで出番を終えるんだから、こいつのデータは要らないだろ。そんなキャラ紹介のテロッブだけでなく、日付やと刑務所の地図、時刻も画面に表示している。しかし、これも全く意味が無い。
例えば、アイスマンが収監されたのは10月7日で、厨房係に決まったことをミンゴから聞くのが同月12日。つまり5日が経っているわけだが、それが何なのかと。何日が経っていようが、まるで意味が無い。
地図の表記も同様だ。
「囚人が脱走を計画し、所内を移動する」という展開でもあれば地図が効果を発揮することもあるかもしれないけど、そんな筋書きは無いし。アイスマンはモンローが刑務所の王者だと知り、挑発して「俺がチャンピオンだ」と言い放つ。
だけど、モンローが王者なのは刑務所限定だし、いちいちアイスマンが目くじら立てるようなことでもない。
これがモンローの方から「ここでは俺が王者だ」とか「俺の方が強い」と挑発して来たならともかく、向こうは静かにしているわけで。
本物の世界王者であるアイスマンが、そんな「井の中の蛙」に対してマジで腹を立てて対戦を要求するのは、ちょっと無理があるんじゃないか。幾らアイスマンのキャラを「傲慢で短気」と設定しているにしても、筋書きが下手すぎやしないか。最初にモンローが「刑務所の無敗王者」として登場し、後からアイスマンが収監されてくる。
そのアイスマンは現役のボクシング王者だが、やたらと性格が悪い生意気な野郎だ。
モンローを演じているのが主演のウェズリー・スナイプスだし、もちろん「モンローがアイスマンと戦わざるを得なくなる」という物語を描いていくものだと思っていた。「善玉のモンローが、悪玉のアイスマンを倒す」という結末に向けて話を進めていくのだろうと思っていた。
しかし実際のところ、そうではないのだ。アイスマンが収監された後、彼の動きを追うシーンがモンローのパートよりも圧倒的に多い。それだけでなく、なぜか「真面目に厨房係として働く」とか「ミンゴと仲良くやる」といった様子も描かれる。
つまりアイスマンに親近感や好印象を抱かせるための描写が積極的に持ち込まれているのだが、どういうつもりなのか。
そういう様子を描くからには「実はアイスマンは態度は悪いけど好人物で、レイプ事件も冤罪」という設定なのかというと、そうではないからね。レイプ事件については最後まで真実が明らかにされないし、どうも有罪っぽい雰囲気が強いし。
あと、何度もトーニーのシーンを挿入している意味が全く分からんぞ。
そこをアピールするってことは有罪なんだろうと思うけど、彼女への同情心を誘おうとする目的は何なのかと。なぜかアイスマンというキャラで、「チャンピオンの孤独」みたいなモノを描こうとしている。
だけど、それはモンローでも描けるでしょ。
なぜアイスマンのドラマばかりを厚く描いて、本来は主人公であるはずのモンローを長きに渡って放置しておくのか。
だったら最初から、アイスマンを主人公のポジションに据えた話にしておけばいいでしょうに。モンローの方を悪玉にするとか、何ならモンローみたいなキャラは出さなくてもいいでしょうに。アイスマンのパートでは、「刑事訴訟の弁護士たちが来て状況を説明する」とか、「民事訴訟の弁護士が来て話を聞く」といったシーンもある。
しかし、「これってホントに必要な行程なのか」と言いたくなる。
それは彼のパートだけでなく、例えばアーリーがモンローの調書を取るシーンとか、チューイがメンディーの状況をアルたちに報告するシーンとか、「別に無くても良くね?」と感じるトコが多いのだ。
そんな手順で時間を割くぐらいなら、もっと「モンローとアイスマンの対決」に向けて雰囲気を盛り上げるための作業を充実させた方が絶対に得策だと断言できる。ついでに言うと、メンディーというキャラも上手く使いこなせていない。 こいつがモンローとアイスマンの試合を見たがって裏から色々と手を回すんだけど、そんなのが無くても「モンローとアイスマンが試合で戦う」という展開は余裕で作れる。
それでもメンディーという男を配置するからには、もっと「彼がいるからこそ」という必要性を持たせなきゃいけないでしょ。でも、そんなのは何も見えない。
それに最初から喧嘩腰のアイスマンはともかく、モンローの方には戦うモチベーションなんて何も無いんだよね。
そこを高める上で、メンディーが重要な役割を果たすわけでもないし。(観賞日:2020年8月22日)
第25回スティンカーズ最悪映画賞(2002年)
ノミネート:【最悪の助演男優】部門[ピーター・フォーク]