『トゥー・フォー・ザ・マネー』:2005、アメリカ

ブランドン・ラングが幼い頃、父は彼に様々なスポーツを教えた。一緒に野球やバスケット、フットボールをしている時、いいプレーをすれば父は喜び、失敗すれば落胆した。ブランドンは父の笑顔が見たくて、スポーツに力を注いだ。しかし彼が9歳の時、父は家を出た。ブランドンはフットボール部のQBとして高校時代にアリゾナ州大会で優勝し、大学でも決勝まで勝ち残った。プロを目指していた彼は逆転勝利のタッチダウンを決めるが、膝に大怪我を負ってしまった。
プロになることが諦めきれないブランドンは、入団テストを受けながらラスベガスの電話情報サービス会社で働いた。しかしプロになることが出来ないまま、6年が経過した。ある日、彼は同僚の代役として、スポーツ賭博の勝敗予想を頼まれた。ブランドンの予想は的中し、彼はベガスで最高のスポーツ予想屋になった。すると、ニューヨークの大手スポーツ情報会社を経営するウォルターがブランドンに目を付け、電話でスカウトした。高額の報酬を約束されたブランドンは、迷わずにニューヨークへ飛んだ。
ウォルターの会社では、フットボールの情報を無料で提供していた。ブランドンはウォルターから「いい女がいる」と言われ、トニーというネイリストの店を訪ねた。ブランドンは彼女を口説くが、ウォルターの妻だと聞かされた。ウォルターはブランドンに「君は売込みが下手だが、才能がある。それを伸ばそう」と言い、そのためにジョン・アンソニーという新しい名前を与えた。ウォルターはブランドンにコメントを録音させ、何度もダメ出しをする。「確実に勝てると思わせろ」と言われたブランドンは、勢いのある口調でコメントを吹き込んだ。ブランドンに「まだダメだ」と告げたウォルターは心臓発作を起こして胸を押さえ、すぐに薬を飲んだ。
ブランドンは驚異的な的中率で大学フットボールの勝敗を予想し、ウォルターを喜ばせた。ウォルターは夫婦で高級レストランへ夕食に出掛ける際、ブランドンを連れて行った。ブランドンは別のテーブルに現れたアレクサンドリアという美女に気付き、目を奪われた。ウォルターも彼女に気付き、「口説けたら1万ドルをやろう」とブランドンに賭けを持ち掛けた。ブランドンはアレクサンドリアを口説き落とし、その夜に関係を持った。
ウォルターはブランドンを会社へ案内し、彼に用意したオフィスを見せた。ウォルターの会社には3人の予想屋と、サウジーやレジーなど20人のセールス担当者がいる。ウォルターはブランドンに、その両方を担当するよう指示した。彼は「教育を続ける」と告げ、ブランドンを連れてギャンブル依存症患者の集会場を訪れた。ウォルターは18年前から集会に出ていることを参加者たちに話し、ギャンブルを続ける人間の感覚について話す。ギャンブル情報番組の司会者であることに気付かれると、ウォルターは名刺を配って立ち去った。
ブランドンはセールス担当のタミーから、最初の客を紹介された。新規加入のアミールは、ブランドンが自分とは逆の予想を告げたために電話を切ろうとする。ウォルターはブランドンに、要点を示して自信満々に「勝てる」と告げるよう促した。千ドルしか賭けないつもりだったアミールに、ブランドンは自信に満ちた口調で2万ドルを突っ込むよう指示した。その日もブランドンは、85パーセントという驚異的な的中率を叩き出した。
ブランドンはウォルターから、ジョン・アンソニーという人物として番組に出演するよう持ち掛けられる。トニーは慎重に判断するよう助言するが、ブランドンは全く迷わずに承諾した。番組にはウォルターの他に、予想屋であるジェリーとチャックが出演している。収録の直前、ジェリーは新入りのブランドンを素人扱いして扱き下ろした。ジェリーとチャックは自信満々の態度で、饒舌に自身を売り込んだ。しかしブランドンは2人と異なり、落ち着いた口調で視聴者に語り掛けた。帰宅したウォルターは、興奮した様子でブランドンのことをトニーに語る。「いい弟子が出来た。私に何かあっても、あいつがいれば大丈夫だ」と彼は語った。
カールという上客はジェリーを見限り、ブランドンに乗り換えた。トニーが娘を連れて帰宅すると、ウォルターはゲイルという若い女に金を払っていた。ゲイルを帰らせた後、ウォルターは「ジョンの相手をした報酬を支払ったんだ」と説明する。ゲイルが娼婦だと知ったトニーは、「彼のために娼婦を雇ったの?どうしようもない人だわ」とが激怒する。ウォルターが「ブランドンが娼婦と寝たから、お前は嫉妬してるんだな」と言うと、トニーは呆れ果てた。
ウォルターは番組の一番手として扱っていたジェリーを格下げし、そこにブランドンを据えた。弟から電話を貰ったブランドンは、父が電話しているのに繋がらないと言っていることを聞かされる。ブランドンはウォルターに、「電話を盗聴してるか?」と尋ねる。するとウォルターは、「もちろん。仕事に差し支える電話は繋がない」と答えた。父親の連絡も2週間前から取り次いでいないことを聞かされ、ブランドンは激怒する。しかしウォルターは全く悪びれず、ブランドンの父がアル中だと知ると「電話を繋がなくて良かった。私のような新しい父親が必要だ」と告げた。
ブランドンはウォルターから、大物ギャンブラーのノヴィアンが会いたがっていることを知らされる。2人は気難しいと評判のノヴァアンを顧客にするため、彼の暮らすプエルトリコへ出向いた。「交渉に成功したらボーナスをくれます?」とブランドンに問われたウォルターは、「したら、じゃなくて必ず成功させるんだ」と告げた。ノヴァアンと会ったブランドンは自信たっぷりに「週末の試合予想を全て的中させる」と言い、前金の支払いを要求した。そしてブランドンは予告通り、全ての試合を的中させた。
ブランドンはウォルターが10万ドルしかボーナスをくれなかったので、その倍額を要求した。するとウォルターは、「何か貰いたければ今回のような仕事を続けろ。報酬に見合う仕事をしろ」と険しい表情で告げた。ブランドンはアレクサンドリアに電話を掛け、いきなり会いに行く。するとアレクサンドリアは苛立った様子で、「ハッキリと言っておくわ。私は貴方の友達に5千ドルで雇われたの」と告げた。翌週の予想を、ブランドンは火曜日の内に済ませて適当に仕事を切り上げた。3試合しか的中しなかったため、ウォルターは「私への当て付けだろう。取り分を10パーセントに引き上げる」と告げる。しかし翌週、ブランドンが真剣に予想したにも関わらず、わずか2試合しか当たらなかった…。

監督はD・J・カルーソー、脚本はダン・ギルロイ、製作はジェイ・コーエン&ジェームズ・G・ロビンソン、共同製作はウェイン・モリス、製作総指揮はガイ・マケルウェイン&デヴィッド・ロビンソン&ダン・ギルロイ&レネ・ルッソ、製作協力はジェームズ・M・フレイタグ、撮影はコンラッド・W・ホール、編集はグレン・スキャントルベリー、美術はトム・サウスウェル、衣装はマリー=シルヴィー・ドヴォー、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はジョン・フーリハン。
出演はアル・パチーノ、マシュー・マコノヒー、レネ・ルッソ、アーマンド・アサンテ、ジェレミー・ピヴェン、ジェイミー・キング、ケヴィン・チャップマン、ラルフ・ガーマン、ゲディー・ワタナベ、カーリー・ポープ、チャールズ・キャロル、ジェラルド・プランケット、クレイグ・ヴェローニ、ジェームズ・カーク、クリスリン・オースティン、デニース・ガリック、ゲイリー・ハドソン、ジェレミー・ギルバート、スティーヴ・マカジ、スティーヴン・ディモプーロス、マイケル・ロジャース、ウィリアム・S・テイラー他。


『フリージャック』『逃げる天使』のダン・ギルロイが脚本を執筆し、『テイキング・ライブス』のD・J・カルーソーが監督を務めた作品。
ウォルターをアル・パチーノ、ブランドンをマシュー・マコノヒー、トニーをレネ・ルッソ、ノヴィアンをアーマンド・アサンテ、ジェリーをジェレミー・ピヴェン、アレクサンドリアをジェイミー・キング、サウジーをケヴィン・チャップマン、レジーをラルフ・ガーマン、タミーをカーリー・ポープ、チャックをチャールズ・キャロルが演じている。

まず、序盤の展開がものすごく慌ただしい。
ブランドンのナレーションによって進行するのだが、幼い頃に父の笑顔が見たくてスポーツに熱を入れたこと、大学時代に試合で大怪我を負ったこと、プロが諦めきれないまま電話情報サービス会社で働いていることが語られた後、初めてスポーツ賭博の予想をする展開になる。
で、友人のスチュに「タンパベイに大金を賭けろ」と告げるシーンがあって、「スチュは大金を賭けて1万ドルを儲け、僕はベガスで最高のスポーツ予想屋になった」という語りが入る。
いやいや、その一発だけで、もうベガスで最高のスポーツ予想屋になっちゃうのかよ。どんだけ展開が早いんだよ。

「ブランドンがベガスで最高のスポーツ予想屋になるまで」の経緯を、そこまで慌ただしい形で描くぐらいなら、もう「ブランドはベガスでスポーツ予想屋として活躍している」というところから始めた方がいいんじゃないかと。
そこまでの経緯を描きたいのなら、回想の形で触れればいい。
どうせ本作品でもサラッと短く触れているだけなんだし、回想で短く挿入しても大して印象は変わらないだろう。
むしろ、回想で挿入した方が、短くても納得しやすいと思うぞ。

「なぜブランドンの予想が的中するのか」という部分について、腑に落ちるような説明は無い。
一応、「フットボール選手だったから、その分野には詳しい」ということは言えるだろうけど、それだけで高い的中率に納得するのは難しい。細かいデータを分析するとか、独自の理論を持っているとか、彼なりの予想術があるわけではない。
スチュを勝たせる予想にしても、「タンパベイのコーチは元オークランドだから、オークランドの弱点を知り尽くしている」という根拠だけ。
そんなのは元選手じゃなくても、ずっとフットボールを見ている人間なら誰でも着目する情報なのだ。

そもそも、ブランドンがフットボールをしていたとか、父のことなんて、わざわざ冒頭で描いておく必要性も無いんじゃないかと。セリフで触れるだけでも充分だし、何も言及しなかったとしても大して変わらない。
もっと言ってしまうと、ずっとフットボールをしていたとか、大怪我を負ったけどプロを諦め切れずに入団テストを受け続けているとか、そういう設定さえ何の意味も無い。それが後の展開に影響を及ぼすことは皆無に等しいのだ。
その設定をバッサリと削ぎ落としたとしても、物語には何の変化も生じない。
父の笑顔を見るためにスポーツに入れ込んだとか、その父が家を出たってのは、たぶんブランドンとウォルターの関係を疑似親子として重ね合わせようという狙いがあったんだろうけど、それも上手く機能していない。

レストランでブランドンがウォルターから賭けを持ち掛けられ、アレクサンドリアを口説いて関係を持つエピソードは、何のために用意されているのかサッパリ分からない。
後半に入り、実はウォルターが雇っていたということが明らかになるけど、それによって、そのエピソードの意味がハッキリするわけではない。むしろ、ますます何のためのエピソードか分からない。
「それによってブランドンがウォルターに腹を立て、適当に予想をして大外れ」という展開には繋がるけど、それが無くてもブランドンはスランプに陥っていくのだ。
そもそも、ウォルターがアレクサンドリアを雇ってブランドンに口説かせた意味は何なのかも良く分からんし。

ウォルターがギャンブル依存症患者の集会場を訪れるシーンも、やはり意味が分からない。
ウォルターはブランドンに「教育のため」と説明しているが、何の教育にもなっていない。ウォルターが依存症患者に「賭博が問題ではなく、私は負けた時に生き甲斐を感じた。我々は自分が生きていると感じたくて、意図的に間違いを犯す。ギャンブルを続けるのは自分の存在を確認したいからだ」などと語り、正体がバレると名刺を配って立ち去ることで、何がどう教育になっているというのか。
立ち去った後、ブランドンが「ファック」という言葉を始めて口にするとウォルターは「それが聞けたら成功だ」と言っているけど、彼にファックと言わせることが目的だったわけでもあるまいに。ウォルターの行動が、その目的に向けてのモノだったようには到底思えないぞ。
ウォルターは本当にギャンブル依存症で、そのための伏線として描いているんだろうってことは、実は見え見えなんだけど、そういう見方で捉えても、伏線の張り方が下手すぎると感じるし。
あまりにも無理があるよ、そのエピソード。

一応は仕事を始めるまでにウォルターの教育期間があるけど、それによってブランドンが成長した、という印象は薄い。
話し方や自分をアピールする方法については、その教育で変化した部分もあるんだろう。
しかし、例えば番組出演の時に、最初は台本通りのコメントを喋っていたのに途中で捨て去り、穏やかな口調で話すというのは、本人の感覚や才能だけだ。それはウォルターに教わったことを役立てているわけではない。
ようするに、「ブランドンがウォルターの教育を受けて、予想屋としてグングンと成長していった」という師弟関係のドラマ性を感じる部分は薄弱ってことだ。

教育中のウォルターが急に心臓発作を起こすシーンがあって、その後もトニーが心臓を心配していることをブランドンに話すシーンがあったり、「心臓に何かあってもブランドンがいれば安心だ」とトニーに話したウォルターが咳き込んだりと、心臓の病を観客にアピールする箇所が何度も用意されている。
最初に発作のシーンが入った時点で「物語のラインに上手く馴染んでいない」と感じたのだが、その後も心臓に関する描写が入る度に、わざとらしさが目立ってしまう。
しかも、それはウォルターが心臓の病で倒れる展開に向けての伏線かというと、そうじゃないのだ。心臓の持病に関しては、途中から完全に忘れ去られているのだ。
じゃあ何のための設定なんだよ。

ウォルターは全試合の予想を的中させるなど驚異的な的中率を叩き出すが、そこに具体的な根拠や必勝法があるわけでは無い。そういうモノが無いってことは、試合のテレビ中継を見ている様子を詳しく描いても無意味なので、そこも淡白に処理される。
その結果、「本当に当たるのか」という緊迫感も無ければ、的中した時の高揚感も無いという仕上がりになっている。
的中率100パーセントを予告通りに達成する時なんて、セールス担当の若手に勝敗を決めさせているんだぜ。
だから、ブランドンを「すんげえ運のいい奴」としか見ることが出来ない。

ブランドンが予想をズバズバと当てた後や、初めての番組出演を終えた後、ウォルターが彼のことを嬉しそうに妻の前で喋るシーンが描かれるんだけど、それに何の意味があるのか良く分からない。
ウォルターがブランドンとトニーの関係を疑って嫉妬心を示す展開もあったりするが、これまた上手く消化できていない。
結局、この映画が抱えている最大の問題は、「どこに焦点を合わせ、どういう切り口で何を描こうとしているのか」がハッキリしないってことにある。

ウォルターのブランドンに対する感情が、良く分からない。
トニーの前で「いい弟子が出来た」と言っているけど、ボーナスは10万ドルしか与えない。
で、ボーナスをあまり与えずに脅しを掛けた割りには、予想が外れるとすぐに取り分を10パーセントを引き上げる。おまけに、手堅い予想を続けていたジェリーをクビにして、「ジョンには本物の才能がある。それが分からないからクビにする」と言い出す。
もうねえ、まるで理解できないわ。

ひょっとすると、「ブランドンへの対応ウォルターにとってはギャンブルの内であり、負けることで生き甲斐を感じようとしている」ってことなのか。
そうだとしても、すんげえ分かりにくいし、マトモに表現できていない。
それと、最初はブランドンの物語だと思ったのに、途中からどんどんウォルターの物語としての色合いが濃くなっていくという構成も、いかがなものかと思うし。
だからといって、じゃあ「ブランドンから見たウォルター」とか、「ブランドンとウォルターの関係」とか、そこに軸を置いているのかというと、そこもボンヤリしている。後述するけど、最終的にはウォルターとトニーの関係で話を着地させちゃうし。

ブランドンがデータを細かく分析しているとか、独自の予想システムがあるとか、そういうことなら、後半に入って勝てなくなった時に、そこから立て直せる可能性も見える。
しかし、「これまで運の良さだけで勝って来た奴の運が尽きました」ということでしかないので、何をどう見ればいいのかと。
「問題は分かった。ブランドン・ラングに戻れば、また勝てる」と自信たっぷりに言われても、「はあっ?」ってな感じだよ。
しかも、ブランドンとしての予想も外れるし。

最終的に「ブランドンは予想屋稼業から足を洗って少年フットボールチームのコーチになり、ウォルターはトニーの愛によってギャンブル依存から脱却できそうな気配です」という着地にしているけど、えらく急に舵を切っている印象だ。
そもそも、ウォルターが実際にギャンブル依存症であり、それを全く克服できていないことを明らかにしないままで物語を進めるという手法に賛同しかねる。
そこを最初から明らかにした上で進めた方が、色んなことが無駄にボンヤリせず、クッキリとした輪郭線を持つ物語になったと思うのよ。
それを隠して進めていることのメリットが、まるで見えて来ない。

(観賞日:2015年1月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会