『ツイステッド』:2004、アメリカ

サンフランシスコ市警で警官を務めるジェシカ・シェパードはナイフを突き付けて強姦しようとしたエドマンド・カトラーを投げ飛ばし、手錠を掛けて逮捕した。殺人課刑事への昇進が決まっている彼女はバーへ行き、仲間たちに祝福される。ジェシカは相棒のウィルソン・ジェファーソンと酒を飲み、嬉しそうな様子を見せる。ウィルソンが殺人課について悪口を言っていると、隣へ来た男が突っ掛かった。ジェシカはウィルソンに酒を取りに行くよう頼み、その男を軽くあしらった。
ジェシカが仲間のジミー・シュミットと飲んでいると、市警本部長のジョン・ミルズがやって来た。ミルズは警官だったジェシカの亡き父の元相棒で、彼女にとっては父親代わりの存在だった。ミルズはジェシカの能力を評価しながらも、カトラーを逮捕する際の単独行動を批判した。バーを出たジェシカは他の店に立ち寄り、カウンターで女性と飲んでいたラリー・ゲーバーという男に目を付ける。ジェシカはラリーを口説き、彼のアパートで肉体関係を持つ。自宅へ戻った彼女は、木箱に入れてある人形や父の遺体写真を確認した。
ジェシカはメルヴィン・フランク医師のカウンリングに通っているが、何の問題も抱えていないと話した。彼女はインストラクターの元へ行き、ヤワラスティックの使い方を教わった。刑事課へ出勤したジェシカは、相棒となる先輩のマイク・デルマルコを呼んでもらい、バーでウィルソンに突っ掛かった男だと知った。マイクはジェシカに、仲間のデイル・ベッカーやジョン・フラナガンを紹介した。マイクはデイルがカトラーの担当だったことを話し、同僚たちの恨みを買っていると教えた。なぜ昨夜は言わなかったのかとジェシカが聞くと、彼は「君を尾行していたから言えなかった」と答えた。
カトラーは弁護士のレイ・ポーターに、「彼女は車で僕を拾い、あの場所に誘い込むと急に乱暴になった。これは罠だ」と訴える。レイは彼に、判事が保釈を考えていると告げた。ジェシカから「あんな奴の弁護なんか受けないで」と言われたレイは、「彼の父親は製薬会社の社長だ。息子を守ってくれと頼まれた」と話す。レイは元検事補で、かつてジェシカと付き合っていた時期もあった。ジェシカは両親のことをメルヴィンから訊かれ、「自動車事故で死んだ」と答える。しかしメルヴィンは真実を知っており、25年前に父が母を殺して自殺したことを指摘した。ジェシカは苛立ちを示し、「仕事とは関係が無い。私には何の問題も無い」と告げた。
帰宅したジェシカは酒を飲んで眠りに落ち、マイクの電話で目を覚ました。彼は事件発生を知らせ、ジェシカを車に乗せて遺体発見現場の埠頭へ向かう。現場にはウィルソンが来ており、ジェシカは彼をマイクに紹介した。撲殺された遺体を調べたジェシカは、別の場所で殺害されたことを見抜いた。遺体の手や顔を見た彼女は1ヶ月ほど前に関係を持ったボブ・シャーマンだと気付き、トン警部補に報告した。トンはジェシカを捜査から外そうとするが、マルコが「彼女は容疑者か?」と擁護したので担当を続行させることにした。
鑑識官のリサが検死を行うが、証拠となるような物品は何も発見できなかった。翌日、ジェシカとマルコは周辺を調査するが、手掛かりは何も得られなかった。署に戻って報告を入れたジェシカは連続殺人に発展する可能性に触れるが、トンも同僚たちも相手にしなかった。その夜、ジェシカがマイクと酒場へ行くと、かつて関係を持ったジミーが現れた。ジミーは笑顔で手を振るが、ジェシカが冷たく無視すると店を出て行った。帰宅したジェシカは酒を飲み、意識を失ってベッドに倒れ込んだ。
翌朝、ジェシカはマイクからの電話で目を覚まし、溺死体の発見を知らされた。鏡で顔を確認した彼女は、右目の痣と左手の小さな傷に気付いた。現場に到着したジェシカは遺体を確認して、ラリーだと気付いた。リサが検死を行うと、耳元から犯人の物と思われる血が採取できた。ジェシカはメルヴィンから、過去の問題をパートナーか上司に相談すべきだと助言される。反発するジェシカだが、ミルズの家を訪れて悩みを打ち明ける。ミルズは彼女に、目の前の事件に集中するよう忠告した。
ジェシカはラリーとの関係を内緒にしていたが、デイルから嘲笑を浴びて激怒する。彼女はデイルに蹴りを浴びせて襲い掛かろうとするが、マイクに制止された。マイクが外へ連れ出すと、ジェシカはラリーとも寝たことを話した。ジェシカとマイクはミルズとトンを呼び出し、事情を説明した。ミルズはトンに、ジェシカを担当から外さず何も知らないように振る舞えと指示した。ミルズはトンに、ジェシカを囮に使って犯人を誘い出す考えを示した。
ジェシカはマイクと共に被害者周辺の聞き込み調査を行うが、自分が一緒にいたという情報しか出て来なかった。ジェシカが帰宅すると、ジミーが侵入していた。ジェシカは「もう終わったのよ」と呆れたように言うが、ジミーはセックスを求めて抱き付いた。ジェシカが殴り付けて拒否すると、ジミーは彼女を罵って立ち去った。次の日、ジェシカは勝手にカトラーと面会し、駆け付けたラリーから批判される。リサの元へ出向いたジェシカは、採取した血液が前科者のデータベースと合致しなかったことを知らされた。
デイルがラリーと寝たことを指摘して挑発したため、ジェシカはマイクが喋ったのだと思い込んだ。彼女はマイクの家へ押し掛け、激しく糾弾する。マイクは「裏切ったとでも思ったのか」と怒鳴り、何があったのか説明するよう要求した。彼は去ろうとするジェシカを引き留めて夕食を振る舞い、デイルたちは君の能力を恐れているのだと告げた。ジェシカはマイクのキスを受け入れるが、すぐに体を離した。帰宅したジェシカはレイからのメッセージカードとバラの花束を見つけるが、ヨリを戻す気は無かった。
酒を飲みながらバラを処理していたジェシカは、意識を失って倒れ込んだ。、翌朝、ジェシカはレイの家を訪ね、ジャグジーで殺されている彼を発見した。また同じ手口で殺害されており、ジェシカはマイクの事情聴取を受けた。彼女はメルヴィンに飲み過ぎて記憶が無いことを明かし、自分が殺したのではないかと考えてしまうのだと話した。またバーを訪れたジェシカは酒を飲み、幻覚に見舞われた。彼女は自身の血液を採取し、リサに分析を依頼した…。

監督はフィリップ・カウフマン、脚本はサラ・ソープ、製作はアーノルド・コペルソン&アン・コペルソン&バリー・ベーレズ&リン・ラドミン、製作総指揮はスティーヴン・ブラウン&ロビン・マイジンガー&マイケル・フリン、共同製作はピーター・カウフマン&シェリル・クラーク、製作協力はシェリルアン・マーティン、撮影はピーター・デミング、美術はデニス・ワシントン、編集はピーター・ボイル、衣装はエレン・ミロジニック、音楽はマーク・アイシャム。
出演はアシュレイ・ジャッド、サミュエル・L・ジャクソン、アンディー・ガルシア、デヴィッド・ストラザーン、ラッセル・ウォン、カムリン・マンハイム、マーク・ペルグリノ、タイタス・ウェリヴァー、D・W・モフェット、リチャード・T・ジョーンズ、リーランド・オーサー、ジェームズ・オリヴァー・ブロック、ウィリアム・ホール、ジョー・デュア、ジェームズ・ヘチム、ドリュー・レッチワース、ダイアン・エイモス、アニー・ロング、デヴィッド・テネンバウム、レナード・トーマス、ジョー・ドラゴ、ブルース・F・マロヴィッチ、ダニー・ロペス、リン・トミオカ、レスリー・ケイ、アンジェラ・ツェー他。


『ライジング・サン』『クイルズ』のフィリップ・カウフマンが監督を務めた作品。
ジェシカをアシュレイ・ジャッド、ミルズをサミュエル・L・ジャクソン、マイクをアンディー・ガルシア、フランクをデヴィッド・ストラザーン、トンをラッセル・ウォン、リサをカムリン・マンハイム、ジミーをマーク・ペルグリノ、デイルをタイタス・ウェリヴァー、ジミーをD・W・モフェット、ウィルソンをリチャード・T・ジョーンズ、カトラーをリーランド・オーサーが演じている。

序盤にジェシカが「ヤワラ」のインストラクターの元へ通い、謎の棒を使って戦う武術を教わるシーンがある。しばらくすると、その棒でジェシカが戦うシーンも出て来る。
ここで使われる棒は「ヤワラスティック」と呼ばれているが、架空の武器ではなく実在する。
空手家の窪田孝行が考案した「クボタン」という護身用具がそれだ。
ただ、「クボタン」ってのは登録商標なので、純正品以外の商品は他の名称が付けられており、その中に「ヤワラ」や「ヤワラスティック」という呼び方もあるのだ。

序盤、ジェシカが仲間と盛り上がっているバーを出るので帰宅するのかと思いきや、別の店へ行く。そこで女と飲んでいた1人の男に目を付け、彼を誘ってセックスに及ぶ。
「行きずりと見せ掛けておいて、実は恋人同士」みたいな設定は無く、ホントに逆ナンしただけの相手だ。
そんなアバズレ満開の女がヒロインで大丈夫なのかと心配になってしまうが、不安は物の見事に的中する。
彼女のアバズレ設定が、この映画をポンコツに貶めている最大の要因なのだ。

ジェシカは「根っからのビッチ」とか「セックスが大好き」ってことではなくて、「過去に辛い体験があり、そのせいで精神を病んで酒とセックスに逃げている」という設定がある。
しかし、「幼少期に父が母を殺して自殺した」という出来事を体験していても、「セックスに溺れる」という設定が必要不可欠なわけではない。
それでもジェシカをビッチにしているのは、「そのせいで彼女が殺人容疑者になる」という部分がミステリーの軸になっているからだ。

しかし、ジェシカをアバズレ設定にしてまで持ち込んだ重要な仕掛けは、残念なことにミステリーの面白さには全く繋がっていない。それどころか、「ジェシカがボンクラすぎる」という印象が強くなっている。
エロティック・サスペンスならともかく、そういうサービスを意識しているわけではない。
実際、ジェシカが男と肉体関係を持つシーンは何度もあるが、セールス・ポイントになるようなエロさは全くと言っていいほど感じられない。
そこは単に、ジェシカが疑われるための仕掛けとして使われているだけだ。

ジェシカは酒を飲んで行きずりの男とセックスしたせいで、マズい立場に追い込まれてしまう。酒を飲んで失神するから記憶が無く、「気を失っている間に殺人が行われている」と悟る。
それなのに同じことを繰り返すので、底抜けのバカにしか見えない。
手柄を重ねて殺人課に昇進したぐらいだから頭のキレる優秀な刑事のはずだが、そんな様子は皆無。刑事じゃなくて素人だとしても、かなりボンクラな部類に入るんじゃないかと。
たぶん設定としては、「酩酊&行きずりのセックスとは縁を切りたいけど、中毒だから繰り返してしまう」ってことだろうとは思うのよ。
ただ、「必死で止めようとする」という努力が欠如しているし、そこでの苦悩や葛藤も乏しいのよね。

最初の遺体発見現場へジェシカが赴いた時、手や顔を見て何かに気付いた様子を見せる。そして短い回想シーンによって、かつて彼女がバーで出会っていたことを示す。
じゃあ殺されたのは序盤にジェシカが逆ナンしたラリーなのかというと、全くの別人だ。「1ヶ月ほど前にバーで出会ってセックスした相手」という設定であり、観客からするとそこが初登場なのだ。
そうなると、回想シーンで「あの時の」という風に見せられても、まるで意味が無い。
ジェシカにとっちゃ「まさか、あの時の」という驚きはあるだろうけど、こっちからすると「いや誰だよ。知らねえよ」ってことになってしまう。

ジェシカが犯人として疑われることになるが、もちろん彼女が殺していないことは明白だ。
「主人公が容疑者となるが記憶が無い。でも実際に犯人だった」という作品も存在するが、この映画がそれに該当しないことは見えている。
では真犯人は誰なのかってことになるが、実は犯人候補が2人しか登場しないのだ。
そりゃあ「主要キャラの誰もが候補」と捉えれば数は増えるが、大半は最初から除外しても全く問題が無いと確信できちゃうのでね。

そろそろ完全ネタバレに突入していくが、実は私が「犯人候補」と考えていた人物の内、片方に関しては製作サイドにミスリードとして使う気が全く無かったことが終盤に入って判明する。
その人物ってのはメルヴィンなのだが、駐車場で彼がジェシカの前に現れるシーンを見た時に、「ここでミスリードする気ってことか」と思ったのよね。でも実際には観客に彼を怪しませようとする気が皆無なので、じゃあ何のためのシーンなのかと言いたくなるわ。
そうそう、同じように「意味ありげだけど全く無意味」という存在がいて、それはカトラー。
途中でジェシカが勝手に面会するシーンもあったりするけど、本筋には全く絡まず途中で無造作に放り出されている。

製作サイドが「こいつが犯人」とミスリードを狙っているのは、メルヴィンじゃなくてマイクだ。
終盤になって「血液検査でジェシカの飲んだ酒にレイプ・ドラッグが混入されていた」ってことが判明すると、急に「犯人はマイクに違いない」ってことになる。
しかし残念ながら、そこのミスリードを感じることの出来る観客は決して多くないんじゃないか。むしろ、そこで「マイクが犯人」とジェシカに主張する奴が犯人だってことが見えちゃうんじゃないか。
つまり、犯人はミルズってことだ。

実際、ミルズが「マイクが犯人」と主張した直後、彼が真犯人であることは簡単に判明する。
何しろ、本人が馬鹿な言動によって示すのだ。だから前述したように、メルヴィンに疑いの目が向くようなことも無い。
いわゆる「解決編」の処理が陳腐そのもので、まだジェシカは何の手掛かりも得ていないのに、犯人サイドから勝手に「ワシが殺した」ってのをバレバレの行動で明かしているのよね。
「彼の行動に不審を抱いたジェシカが犯人と悟る」という展開はあるけど、ミステリーとしては何の面白味も無い。
いや、「ミステリーとしては」と書いたけど、それを抜きにしても面白さなんて見当たらない。

ちなみにミルズは、ジェシカの両親も殺している。
ミルズはジェシカの母親に横恋慕しており、浮気しまくっているので我慢できなくて父親も含めて殺したという設定だ。
で、その娘も同じようにアバズレ三昧なので、それを止めるために関係を持った相手を次々に殺したとミルズは説明する。
ジェシカのビッチぶりは随分と前から続いていたはずなのに、なぜ今になって殺人を始めたのかという理由はサッパリ分からない。
それ以前の問題として、動機に説得力が無くてバカバカしいし。

(観賞日:2019年2月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会