『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』:1992、アメリカ
アメリカ北西部の田舎町ツイン・ピークスで、17歳の少女テレサ・バンクスが殺された。FBI地方捜査主任ゴードン・コールの指示により、チェスター・デズモンド特別捜査官とサム・スタンリー捜査官がツイン・ピークスに向かうが、地元警察は非協力的な態度を取る。
2年間も行方不明になっていたフィリップ・ジェフリーズが、ゴードンやデイル・クーパー特別捜査官の前に姿を現した。彼は指輪の中にいたのだと言い残し、瞬時に姿を消す。一方、デズモンドは捜査の途中で行方不明になってしまう。
ツイン・ピークスの女子高生ローラ・パーマーはドラッグに溺れている。ローラは自分の日記帳の一部がちぎり取られているのに気付き、ボブの仕業だと考える。ボーイフレンドの一人ハロルドは、ボブは架空の存在だと告げるが、ローラはボブが自分の命を狙っていると確信していた。
クーパー特別捜査官は、テレサ・バンクス殺害犯は再び殺人を犯すだろうと予言。さらに、その被害者がドラッグに溺れており、セックスを楽しむ女子高生だと予言する。その予言通り、ローラ・パーマーには死の匂いがゆっくりと忍び寄っていた…。監督はデヴィッド・リンチ、脚本はデヴィッド・リンチ&ロバート・エンゲルス、製作はグレッグ・フィンバーグ、製作総指揮はデヴィッド・リンチ&マーク・フロスト、撮影はロン・ガルシア、編集はメアリー・スウィニー、美術&衣装はパトリシア・ノリス、音楽はアンジェロ・バダラメンティ。
出演はシェリル・リー、レイ・ワイズ、デヴィッド・ボウイ、ジェームズ・マーシャル、モイラ・ケリー、ダナ・アッシュブルック、パメラ・ギドリー、クリス・アイザック、ハリー・ディーン・スタントン、キーファー・サザーランド、カイル・マクラクラン、デヴィッド・リンチ、フランク・シルヴァ、ミゲル・フェラー他。
大ブームとなったTVシリーズ『ツイン・ピークス』の、TV放送とビデオ発売が終了した後に公開された劇場版。シリーズの発端となったローラ・パーマーが死ぬまでの1週間が描かれる。
「テレビ版が受けたから、調子に乗って映画版」ということなのだろうが、見事にズッコケた。序盤はテレサ・バンクス殺害事件を捜査する様子が描かれるが、その事件は中盤以降の展開にほとんど関係してこない。
そのため、序盤で登場するクリス・アイザック、ハリー・ディーン・スタントン、キーファー・サザーランドといった面々は、あまり登場した意味が無い。リンチは自分のイメージした映像を、謎めいた台詞によって繋いでいく。伏線らしき場面があったとしても、そこに深い意味は無いので、伏線としては成立しない。
そもそも犯人が誰であろうと、事件の真相がどうであろうと、そんなことに意味は無いのである。奇妙な登場人物と奇妙な台詞、不可思議な行動や不可思議な展開に、一つ一つ意味を求めても仕方が無い。その意味を分かっているのはリンチだけだろう。
いや、おそらくは、リンチ自身にも正確な意味は分かっていないのではないだろうか。ツイン・ピークスという町ではなく、ローラ・パーマーをクローズ・アップしたのは失敗だろう。そのために話が単調になってしまっている。ラリっているローラのイカれた行動ばかり見せられても、あんまり面白くない。やたら叫ぶのも、耳障りなだけだ。
リンチ作品の特徴は「なんだか分からないけど強烈なクレイジー・パワーを感じる」ということなのだが、この作品はパワーが不足しているように感じられる。
禍々しさはあるのだが、捻じ曲がりっぷりが弱いような印象を受けるのだ。リンチは基本的に「やりたいようにやる。興味が無い部分は手抜きする」という映画監督だが、この作品では中途半端にTVシリーズの補完をやろうとしているように思える。それがパワー不足に繋がったのでは無いだろうか。
とはいえ、実際には全く補完にはなっていないのだが。謎は謎のままで終わり、何一つ解明されることはない。それで構わないのだ。謎が残ってこそデヴィッド・リンチなのだ。だからこそ、中途半端にマトモなサスペンスをやろうとしたのは失敗なのだ。