『ツイン・ドラゴン』:1992、香港

28年前、香港の病院で双子の男児が誕生した。同じ病院に負傷した凶悪犯が搬送されて来たが、彼は隙を見て警官の拳銃を奪った。彼は発砲して手錠を外し、男児の片方を人質に取った。救急車で逃走を図った凶悪犯は捕まるが、男児は外に放り出されてしまった。たまたま通り掛かったホステスは男児を見つけ、息子として育てることにした。双子の両親は行方不明の男児を捜索するが見つからず、諦めてアメリカへ渡った。
現在、暗黒街で育ったボミーはチンピラとなり、普段は自動車修理工として働いている。一方、裕福な家庭に育ったマーは幼少時代から音楽の英才教育を受け、若手指揮者として活躍している。マーがピアノを弾いていると、仕事中のボミーの両手が勝手に鍵盤を押すような動きを見せた。自分では意識していない指の動きに、ボミーは当惑した。一方、ボミーがクシャミをすると、同じタイミングでマーも鼻が刺激されてクシャミをした。
マーは誕生日を迎え、両親と多くの友人たちに祝ってもらう。ボミーは兄貴分のターザンと共に、死んだ義母の墓参りに赴く。ターザンはボミーに付いて来てもらい、「ウィンに女を取られた。カタを付ける」と言ってホテルのラウンジへ乗り込む。ウィンはマフィアの幹部で、カーレーサーとしても活躍している。ターザンが取られたと言っている女は、ラウンジ歌手のバーバラだ。ボミーはウィンを挑発するが、大勢の手下たちと戦う役回りはボミーが担当した。
ボミーはバーバラを逃がすが、ターザンのヘマもあって彼と共に捕まった。しかしターザンがレースで勝負しようと挑発すると、ウィンは乗って来た。ウィンは「30万持って船着き場へ来い。マカオで勝負だ」と自信満々で告げる。ホテルを出たボミーたちの元に、バーバラが戻って来た。バーバラがターザンを知らなかったので、ボミーは嘘をついていた兄貴分に腹を立てた。しかし気を取り直した彼はバーバラに「ターザンのことをよろしく頼む」と告げ、その場を去った。
マーは演奏会のため、香港を訪れた。30万を工面するためにホテルを訪れていたボミーは、マーと遭遇した。2人は互いに相手の顔を見て、瓜二つなので驚いた。ホテルに入ったマーは、香港の後援者である実業家のタンと会った。タンはマーの世話係として、娘のスンを呼び寄せていた。タンは2人を結婚させようと目論んでいるが、恋人がいるスンに全くその気は無かった。しかしタンは娘の意志を無視し、マーに色っぽく迫るよう要求した。
ボミーとターザンはモーターボートを買い、大陸へ逃亡しようと目論んだ。しかしボートの密売屋が情報を流したため、ウィンと手下たちがやって来た。ボミーたちはモーターボートで逃走を図るが、ターザンは怪我をして病院に運ばれた。しかしウィンもトラックにはねられ、大怪我を負って病院送りになった。ウィンの手下たちはボミーに、「携帯電話を手放すな。連絡したら、すぐに来い」と命じた。
スンがマーの練習を見学していると、恋人のロッキーが怒って乗り込んで来た。ロッキーが暴れ出すので、タミーはマーを連れて会場から逃げ出した。ボミーはホテルの喫茶店でバーバラと会い、ターザンの見舞いに行くよう頼む。隣の席に、マーとスンがやって来た。すぐにロッキーが追って来たので、2人は店を出る。ロッキーはボミーを目撃し、マーと誤解して殴り掛かろうとする。スンもボミーをマーと誤解し、彼を助けようとした。余裕でロッキーを叩きのめすボミーを見て、スンはすっかり惚れ込んだ。
一方、バーバラはマーと遭遇し、ボミーと間違えた。マーが高級車でホテルを出ようとすると、バーバラは助手席に乗り込んだ。マーはバーバラが以前は音楽家志望だったことを聞き、「まだ希望はあるよ」と告げる。ボミーは自分がモテていると思い込んだまま、スンに連れられてマーの部屋へ行く。マーがピアノを見事に演奏するので、バーバラは困惑した。マーはバーバラに「リサイタルのつもりで」と促し、ピアノを弾かせて歌わせた。マーとバーバラはキスを交わし、ボミーはスンと関係を持った。
バーバラを連れてホテルに戻ったマーは、ロッキーに見つかったので慌てて逃げ出そうとする。しかしロッキーはボミーに叩きのめされて感服しており、「弟子にして下さい」と頼んで来た。マーは困惑するが、ロッキーが必死にお願いするので、「ピアノで指の練習をして」と告げた。マーはその場を離れ、エレベーターに乗り込んだ。バーバラは未だに彼が音楽家というのは嘘だと思っていたが、「それでもいいわ。騙されてあげる」と笑顔で口にした。
マーがトイレに入ると、自分と同じ格好をしたボミーがいた。ボミーはマーと誤解され、ホテルマンに指揮者の服を着せられていたのだ。互いに顔を見合わせた2人は瓜二つなので驚き、バーバラとスンが人違いをしていることを悟った。2人は洗面台に置いた携帯電話を手に取り、トイレを後にした。その際、2人は携帯電話を間違えて持ち去ったことに気付かなかった。ボミーはバーバラのいるロビーへ行き、マーはスンが待つ車に乗り込む。バーバラとタミーは、それぞれ相手が元に戻ったことにも気付かなかった。
マーがイチャイチャしてくるスンに困惑していると、ウィンの手下から電話が掛かって来た。「早く来い」と怒鳴られた彼は、携帯を間違えたことに気付いた。彼はボミーに電話を入れ、外に出て来るよう頼む。しかしホテルにマフィアが来たため、ボミーは「無理だ」と言う。バッテリーが切れたため、通話は切れてしまった。マーは電話を取り替えるため、ホテルへ戻った。マフィアから逃亡するために外へ出たボミーは、運転手に促されるまま車に乗り込んだ。
運転手はボミーをマーと誤解したまま、コンサート会場へ向かう。一方、バーバラがマフィアに囲まれていると、マーがやって来た。マーはボミーと間違えられ、マフィアに連行された。彼らはマーに車を運転させ、護送車からボスを助け出すよう要求した。一方、コンサート会場に連れて行かれたボミーは逃げ出そうとするが、スンに促され、仕方なくステージへ出た。マフィアは護送車を襲撃し、警官隊と激しい銃撃戦を繰り広げた。
ボミーは指揮棒を振りながら途中でロビーへ出て、マーに電話を掛けた。助けを求めるボミーに、車内で待機しているマーは「こっちは銃撃戦だ」と発砲音を怖がりながら言う。ボミーは「弾に当たらないように隠れてろ」と述べ、マーは「指揮なら好きにやればいい。プロのオーケストラだから大丈夫だ」と告げる。ステージに戻ったボミーは、会場を動き回りながら適当に指揮棒を振る。マーは手下に命令され、護送車を運転して警官隊から逃走する…。

監督はツイ・ハーク&リンゴ・ラム、ン、原案はツイ・ハーク&テディー・ロビン&チェン・タンチョー&ウォン・イク、脚本はツイ・ハーク&チェン・タンチョー&バリー・ウォン、製作はン・シーユエン、製作総指揮はテディー・ロビン、製作協力はチェン・タンチョー&デヴィッド・チャン、撮影はウォン・ウィンハン&アーサー・ウォン、美術はビル・ルイ&ラム・チュンハイ、編集はマク・チーシン、衣装はチョン・チーリョン、アクション指導はトン・ワイ&トニー・リャン&ユエン・ウーピン&ツイ・シウミン&クリス・リー&ジャッキー・チェン、音楽はローウェル・ロー。
出演はジャッキー・チェン、マギー・チャン、ニナ・、テディー・ロビン、アルフレッド・チョン、ワン・ロンウェイ、チュー・ユアン、トン・ワイ、アンソニー・チェン、ジェイミー・ラク、、ラウ・カーリョン、バリー・ウォン、エリック・ツァン、ジェームズ・ウォン、シルヴィア・チャン、ジョン・ウー、デヴィッド・ウー、アン・ホイ、メイベル・チャン、カーク・ウォン、ツイ・シウミン、ツイ・ハーク、リンゴ・ラム、ン・シーユエン他。


『アゲイン/明日への誓い』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』のツイ・ハークと、『いつの日かこの愛を』『聖戦』のリンゴ・ラムが共同で監督を務めた作品。
ツイ・ハークがドラマ部分、リンゴ・ラムがアクション部分を担当する分業制で制作されている。
ボミー&マーを演じたジャッキー・チェンが彼らの監督作に主演するのは、これが初めて。
バーバラをマギー・チャン、タミーをニナ・リーが演じている。
香港や日本での公開は1992年だが、アメリカでは『ラッシュアワー』の大ヒットを受けて翌年の1999年に公開されている。

マギー・チャンとニナ・リー以外の出演者は、全て香港映画監督協会員。
出演順に見ていくと、看護婦がアン・ホイ(『女人、四十。』『スタントウーマン/夢の破片(かけら)』などの監督)、ボミー&マーの父がジェームズ・ウォン(『プロジェクトA』の主題歌などを手掛けた作詞・作曲家)、ボミー&マーの母がシルヴィア・チャン(『悪漢探偵』や『皇帝密使』などに出演)、刑事がデヴィッド・チャン(『ドラゴンvs7人の吸血鬼』『ブラッド・ブラザース』などに出演)。凶悪犯がカーク・ウォン(『ガンメン/狼たちのバラッド』などの監督)。
ボミーの義母がメイベル・チャン(『誰かがあなたを愛してる』などの監督)、旅客機の乗客としてエディー・フォン(『あの愛をもういちど』などの脚本)やプーン・ユンリョン(『迷宮少女/サイキック・ガール』などの脚本)、ターザンがテディー・ロビン(『友は風の彼方に』や『タイガー・オン・ザ・ビート』の音楽担当)、誕生パーティーの客としてレイモンド・リー(『ドラゴン・イン』などの監督)、アンドリュー・ラウ(『いますぐ抱きしめたい』『チャイナホワイト』などの撮影監督)、リー・チーガイ(『愛という名のもとに』の脚本)、ピーター・チャン(『愛という名のもとに』の監督)、オー・シンプイ(『復讐は薔薇の香り』の監督)ら。
墓地の女性役でクララ・ロー(『あの愛をもういちど』などの監督)、ウィン役でアルフレッド・チョン(『復讐の挽歌』『冒険活劇/上海エクスプレス』などの脚本)、ウィンの手下役でワン・ロンウェイ(『冷血十三鷹』『必殺のダブルドラゴン』などに出演)、ホテルマン役でアンソニー・チェン(『霊幻道士・完結編/最後の霊戦』などに出演)、タミーの父親役で楚原チュー・ユアン(『流星胡蝶剣』『大丈夫日記』などの監督)。
ボートを売る密売屋役でデニス・チャン(『キックボクサー』シリーズなどに出演)、ワゴンの運転手役でトン・ワイ(『孔雀王』『欲望の翼』などの武術指導)、医師役で劉家良ラウ・カーリョン(『少林寺三十六房』『阿羅漢(あらはん)』などの監督)、超能力者を連れてくる男役でガイ・ライ(『レスリー・チャン あの日にかえりたい』の監督)、超能力者役でバリー・ウォン(『男たちのバッカ野郎』『ゴッド・ギャンブラー』などの監督)。

オーケストラのメンバーとしてチン・シウトン(『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』シリーズなどの監督)、ゴードン・チャン(『ファイト・バック・トゥ・スクール』などの監督)、マック・タイ・キット(『妖獣都市〜香港魔界篇〜』などの監督)、ノーマン・ロウ(『傷だらけのメロディー』などの監督)、ラウ・カーウィン(『魔界天使』『少林寺 破戒大師伝説』などの監督)、フォン・ハックオン(『少林寺怒りの鉄拳』『燃えよデブゴン/カエル拳対カニ拳』などに出演)、イップ・ウィンチョ(『ノラ・ミャオ レディ・ブレイド』の監督)ら。
タミーの恋人役でジェイミー・ラク(『相続ゲーム』『バストロイド 香港大作戦!!』などの監督)、喫茶店のボーイ役でデヴィッド・ウー(『スパイゲーム』などの監督)、喫茶店のレジ係の役でジェイコブ・チャン(『黄昏のかなたに』などの監督)、デパートの店員役でクリフトン・コー(『ホンコン・フライド・ムービー』『ミスター・ココナッツ』などの監督)、デパートの客役でチェン・タンチョー(『ユン・ピョウin ポリス・ストーリー』『マカオ極道ブルース』などの監督)。
ホテルマンの上司役でフィリップ・チャン(『新Mr.BOO!香港チョココップ』『デブゴンの霊幻刑事(キョンシー・デカ)』)、AVプロデューサー役でエリック・ツァン(『悪漢探偵』『蒼き獣(おおかみ)たち』などを監督)、車工場の工員役で本作品を監督したツイ・ハーク&リンゴ・ラムとプロデューサーのン・シーユエン、神父役でジョン・ウー(『男たちの挽歌』『ワイルド・ブリット』)、手紙を持ってくる男役でツイ・シウミン(『少林寺・激怒の大地』『クレージー警部/替え玉大作戦』などの監督)。
香港映画のファンからすれば、ある意味では豪華すぎるキャスティングとなっている。

本作品でジャッキー・チェンが1人2役を演じていることに関して、日本公開時は「ジャッキーが内村光良(ウッチャンナンチャン)を見てアイデアを思い付いた」という風に宣伝されていた。
でも、明らかに日本での受けを狙った嘘だわな。
たぶん元ネタは、前年にアメリカで公開されたジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作『ダブル・インパクト』ではないかと思われる。
「香港で産まれた双子が生き別れとなり、片方がアメリカで成長して争いと無縁の暮らしを送り、片方は香港でヤクザな世界の住人になり、再会後に協力して悪党と戦う」というコンセプトが、まんま同じだしね。

ジャッキー・チェンがアクションスターであることを考えれば、「ボミーとマーがタッグを組んで戦う」という展開に期待したくなってしまう人もいるだろう。
しかし、マーの方は戦闘能力が全く無いキャラ設定なので、それは無い。
また、仮にタッグを組んで戦うとしても、それは「同じような戦い方をする2人が一緒に敵と戦う」というだけだから、それほど面白いアクションシーンにならないような気もする。
ボミーとマーを異なるファイト・スタイルのキャラとして演じ分ければ話は別だが、例えば「マーはアメリカ・スタイルの戦い方をする」なんて味付けは、たぶんジャッキーもリンゴ・ラムもやりたがらないだろう。

「ボミーがマーに成り済まし、アクションっぽい動きでオーケストラを指揮する」というシーンには面白さがあるが、それは1人2役じゃなくても出来ることだ。
また、マーがボミーに間違えられる方のエピソードは、特にこれといって面白いモノも無い。
そんな風に考えていくと、「じゃあジャッキー・チェンが1人2役を演じている意味って一体何なのか」と思ったりもする。
その答えは明白で、特に意味なんて無いのだ。

1人2役というのは、日本では1950年代から1960年代のスター役者が良くやっていた。
例えば長谷川一夫や中村錦之助(萬屋錦之介)、大川橋蔵、美空ひばりといった面々が、「女形役者と盗賊」とか「将軍と魚屋」とか「与力と旗本」とか「姫様と町人」とか、そういうことをやっていた。
その頃の1人2役ってのは、それ自体に映画として大きな意味があるというよりも、「スターが複数の役を演じる」ということで観客が喜んでもらおうという意識が強かった。
ようするに、「スターが全く異な2つの役を演じていますよ」というだけで観客を映画館に呼び込めるような、そういう時代だったのだ。
1980年代以降、アイドルがTVドラマで1人2役を演じるケースも良く見られるようになったが、それも基本的には同じことだ。「アイドルの1人2役ファンのでご機嫌を窺う」ってことだ。

前置きが長くなってしまったが、この映画も、そういうトコロに意味を持たせているんだろう。
1992年当時のジャッキー・チェンと言えば、香港ではバリバリのトップスターだった。
「そんなジャッキーがチンピラと指揮者という全く異なる2つの役柄を演じている」という要素を売りにして、観客を呼び込もうとする狙いがあったんじゃないだろうか。
だから前述したように、1人2役を演じている意味を見出せなくても、別に構わないのだ。意味なんて要らないのだ。

アクションだけに絞り込んでみると、ジャッキー・チェンに1人2役を演じさせるよりも、片方を異なるアクション俳優に演じてもらい、「ボミーとマーが協力して敵と戦う」という展開にしてくれた方がいい。
そっちの方が、アクション映画としての楽しみは増えるだろう。
しかし、これは「ジャッキー・チェン主演のスター映画」なので、「アクション映画としての面白さ」よりも「ジャッキーの魅力をいかにアピールできるか」ということに主眼が置かれている。
マーが全く格闘能力の無いヘタレ設定なのも、アクション映画として捉えれば不満が生じるが、「ジャッキーの色んな面を見せる」ということを考えれば決して間違っちゃいないのだ。

ストーリーに関しては、いかにも香港アクション映画らしく、初期設定を説明する導入部分を過ぎると、後は行き当たりばったりの連続となっている。
脚本家としてツイ・ハーク、チェン・タンチョー、バリー・ウォン(黄炳耀)の3人の名前が表記されるが、たぶん当時の香港映画の常として、その場その場でコロコロと内容が変更されていったんじゃないだろうか。
ツギハギだらけの構成で、すぐにユルさが生じる。良い意味で「ユルい」と表現する場合もあるが、この映画が持っているユルさは全面的に悪い意味だ。

例えば、最初に少年時代のマーがピアノを演奏している様子が写し出され、そのまま成長した彼がピアノを弾いている様子に移る。だからマーはピアニストになったのかと思っていたら、香港へ渡ってから指揮者であることが分かる。
そりゃあ「ピアノも得意な指揮者」ということではあるんだが、別にピアニストの設定でもいいんじゃないかと思ってしまう。
「ボミーがマーに扮してオーケストラを指揮する」というシーンがあるので、それをやるためには指揮者の設定じゃないとマズいんだけど、それって必要不可欠な要素というわけでもないし。
先にアイデアとして「アクションとしての指揮シーン」があって、そのために指揮者の設定にしてあるような印象が強いけど、逆算してのシナリオ作りが雑なんじゃないかと。

スンはマーにマッサージされ、あっという間に眠り込んでしまうので、その時点で彼との結婚に前向きになっているように見える。だが、その後はマーの練習を見学して退屈そうな様子を見せる。そのくせ、「貴方は優しい人だけど、迷ってる」などと口にする。で、ボミーと会うと彼に好意を寄せる。
「マーと誤解している」という状態ではあるが、ってことは「本物のマーには好意が無かった」という裏返しになるわけで、だったらマーに惚れているような様子を少しでも見せるのはダメでしょ。
一方、ボミーがバーバラと出会った時点では、カップルになるような雰囲気が漂っている。バーバラはマーと出会い、ボミーと誤解したまま心の距離を近付ける。
結局、ボミーとスン、マーとバーバラがカップルになるのだが、だったら最初の時点で「ボミー&バーバラ」と「マー&スン」がカップルになりそうな雰囲気を作っちゃダメでしょ。

ボミーとマーはホテルで初対面し、瓜二つなので驚く。しかし、すぐに別行動を取ってしまい、そこは「出会って驚いた」というだけで終わらせてしまう。
そんな雑な処理にするぐらいなら、初対面のタイミングを遅らせた方がいい。ターザンやタミーのような周囲の人間をボミー&マーと出会わせ、人違いをする様子を描くシーンを先に幾つか見せておいて、それから初めてボミーとマーが初対面するシーンを用意し、そこでは彼らが会話を交わすための時間をちゃんと割くべきだろう。
開始から50分後、トイレで遭遇した2人は「そっくりだ」と驚くが、まるで初対面のようなリアクションは変だろ。お前ら、前半で会ってるじゃねえか。
っていうか、そこを初対面のシーンにしておけばいいのよ。序盤の淡白な初対面シーンなんて要らないのよ。

ボミーたちがモーターボートで逃走を図った際、ウィンが走って来たトラックにはねられて怪我を負うのは展開としてギクシャクしている。
その後、ウィンが入院していると、謎の男が超能力者が連れて来るが、それがデタラメな展開であることは言わずもがなだろう。
そこは超能力者も「なんでやねん」と言いたくなるが、そもそも超能力者を連れて来た男も「お前は誰やねん」って話だし。
そんで医師がパンチ一撃で超能力者を壁に叩き付けるってのもメチャクチャだ。

マーはロッキーに指の練習をするよう告げた後、「記者会見の時間だ」と口にする。
だからタミーのいる高級車に乗り込んだのは記者会見の場所へ向かうためなのかと思ったら、マーと誤解されたボミーが連れて行かれたのはオーケストラのコンサート会場。
記者会見じゃなかったのかよ。
一方、マーは護送車からウィンの助けるよう要求されるが、護送車を襲撃したり警官隊と銃撃戦を展開したりするのは全て手下たちで、マーが手伝わなきゃいけない必要性が全く無いぞ。

ボミーとマー、バーバラとスンの恋愛劇がメインとして描かれていく中で、マフィアが絡む話は脇に追いやられる。
護送車襲撃にマーが加担する展開はあるが、それは指揮棒を振るボミーとのカットバックを見せたいがためのモノであって、極端に言えばマフィアが関与しなくても「マーがボミーと誤解されて何かチンピラっぽい仕事をする」というシーンであれば成立する。
しかも、マーは全く戦闘能力の無い男だから、アクションシーンなのにジャッキー・チェンが全く活躍できないという困ったことになっている。
っていうか、そもそも銃撃戦がメインだから、ジャッキー・チェンの持ち味を発揮できる内容ではないけど。

ぶっちゃけ、ウィン一味の存在意義というのは、かなり弱い。だからクライマックス、「1時間以内に埠頭まで鞄を持って行かないと人質のターザンを殺す」と脅しを受け、ボミーとマーが現場へ向かうという展開は、まるでスムーズな流れになっていない。
そもそもターザンの存在なんて完全にカヤの外になっていたし。
あと、「鞄を持って来い」ということなんだけど、「鞄って何だよ」と思っちゃう。
確かにマーはホテルへ戻る際、鞄の入った車を拝借しているけど、その鞄を巡る物語が展開されていたわけじゃないので、そこで急に鞄を巡る話になっちゃうのは違和感しか無いぞ。
それと、「一緒に行こう。きっと役に立つ」と自信満々にマーは言うのだが、ほぼ役立たずだぞ。アイデアでもあるのかと思ったら、何も無いし。

(観賞日:2014年9月4日)


第22回スティンカーズ最悪映画賞(1999年)

ノミネート:【チンケな“特別の”特殊効果】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会