『トロイ』:2004、アメリカ&イギリス&マルタ
3200年前、ミュケナイの王アガメムノンは数十年にわたる戦いにより、ギリシャのほぼ全域を掌握した。さらなる勢力の拡大を目指す彼に 、軽蔑の眼差しを送る者がいた。ギリシャ(アカイア)軍最強の戦士と呼ばれる男、アキレスである。アキレスはアガメムノンに呼ばれ、 テッサリア王トリオパスの兵士ボアグリウスと戦うよう要求される。アキレスはアガメムノンに悪態をつきながらも戦いに挑み、勝利を 収めた。だが、アキレスはトリアパスに、「アガメムノンは俺の王ではない」と告げる。
スパルタの王メネラオスはトロイの王子ヘクトルと弟パリスを招き、両国の和平締結を祝って宴を開いた。メネラオスは、妻ヘレンが パリスと許されぬ恋に落ちていたことを知らなかった。パリスはヘレンを船に乗せ、スパルタを去る。メネラオスは兄アガメムノンの元へ 行き、協力を求めた。アガメムノンは弟の頼みを引き受け、トロイへ攻め込むことを決める。
ギリシャのプティアで従弟パトロクロスと剣の稽古をしていたアキレスの元に、イタケーの王オデッセウスがやって来た。アガメムノンの 使者である彼は、ギリシャのために戦って欲しいとアキレスに頼んだ。一方、ヘクトルとパリスはトロイに戻り、父であるプリアモス王に 迎えられた。プリアモスはパリスを怒ることもなく、ヘレンを歓迎した。ヘクトルとパリスは、巫女になった王族ブリセウスとも再会した。 ヘクトルは戦いを避けるためにヘレンを送り返すようプリアモスに求めるが、受け入れられなかった。
大勢のギリシャ軍は海を渡り、トロイの海岸に現われた。アキレスは他の船を待たず、一隻だけで着岸する。アキレスと50人の兵士達は、 アポロンの神殿を襲撃した。アキレスの軍勢は神殿の兵士たちを壊滅させ、神官も殺害する。そこにヘクトルが現われるが、アキレスは 「誰も見ていないのに殺しては勿体無い。戦いはまた明日だ」と告げ、立ち去るよう求めた。
夜、アキレスは配下のエウドロスから、神殿で見つけた巫女ブリセウスを捧げられた。ブリセウスはアキレスを恐れることもなく、太陽神 アポロンが報復すると言い放った。アキレスはブリセウスに、「お前だけは助けてやる」と告げる。アガメムノンはアキレスを呼び出し、 ブリセウスを奪い取る。アキレスは激怒して剣を抜くが、ブリセウスに「争いはやめて」と言われ、その場を去った。
トロイではプリアモスの下、ヘクトルや指揮官グラウコス、神官長アルケプレトスらが集まって戦いに向けた会議が開かれていた。 パリスは皆の前で、「戦いを止める方法はある。明日、ヘレンを賭けてメネラオスと戦う」と宣言した。ギリシャ軍はトロイの城塞へと 向かうが、アキレスは同行しなかった。ヘクトルとパリスは城塞を出て、アガメムノンとメネラオスに会う。アガメムノンは、ヘレンを 返してトロイが支配下に入れば戦いをやめると告げる。だが、ヘクトルは即座に拒絶した。
パリスは、メネラオスとの一騎打ちで解決するよう申し入れた。アガメムノンは拒否しようとするが、メネラオスに頼まれて承諾した。 いざ戦いが始まると、メネラオスが圧倒した。殺されそうになったパリスは逃げ出し、ヘクトルの足元にしがみついた。メネラオスは剣を 振り下ろそうとするが、ヘクトルに殺された。アガメムノンは軍勢に突撃を命じ、戦いが始まった。しかし難攻不落の城壁を誇るトロイ軍 を相手にギリシャ軍は苦戦を強いられ、アガメムノンはオデッセウスの進言を受け入れて一時退却を選ぶ。
アガメムノンはオデッセウスからアキレスと和解するよう求められ、戦いで勝利するために承知した。アガメムノンはブリセウスを兵士に 与えていたが、アキレスが彼女を奪い去った。アキレスが眠っている間に、ブリセウスは剣を彼の首筋に突き付けた。しかし目を覚ました アキレスは、「やれよ」と平然と告げた。アキレスに体を求められたブリセウスは、彼を受け入れた。
オデッセウスがアガメムノンの使者としてアキレスの元を訪れ、戦いに戻るよう求めた。だが、アキレスは故郷へ帰る準備をしていた。 パトロクロスはアキレスの甲冑を身に着け、トロイ軍と戦った。ヘクトルは相手がアキレスだと思って対決し、パトロクロスを殺した。 アキレスは怒りに燃え、たった一人でトロイの城塞へ赴き、ヘクトルに対決を要求する…。監督はウォルフガング・ペーターゼン、inspiredはホメロス『イリアス』、脚本はデヴィッド・ベニオフ、製作はウォルフガング・ ペーターゼン&ダイアナ・ラスバン&コリン・ウィルソン、撮影はロジャー・プラット、編集はピーター・ホーネス、美術はナイジェル・ フェルプス、衣装はボブ・リングウッド、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はブラッド・ピット、エリック・バナ、オーランド・ブルーム、ダイアン・クルーガー、ブライアン・コックス、ショーン・ビーン、 ブレンダン・グリーソン、ピーター・オトゥール、サフロン・バロウズ、ローズ・バーン、ジュリー・クリスティー、ジェームズ・コズモ、 ジュリアン・グローヴァー、ナイジェル・テリー、ヴィンセント・リーガン、トレヴァー・イヴ、オウェイン・ヨーマン、タイラー・ メイン、ネイサン・ジョーンズ他。
ホメロスの英雄叙事詩『イリアス』に着想を得て、ギリシア神話上の戦いであるトロイア戦争を描いた歴史スペクタクル大作。
ちなみにイリアス、トロイア、トロイは全て同じ都市を示す言葉。
音楽担当は、当初はガブリエル・ヤーレだったが、製作サイドの「イメージかに合わない」という理由で降板させられ、急遽、ジェームズ・ ホーナーが作っている。
監督は観客に神々の目線で見てもらうというコンセプトで作っているらしいが、誰にも感情移入させず俯瞰で 見せる映画ってのは、観客にそれを面白いと感じさせることが難しいと思うなあ。アキレスをブラッド・ピット、ヘクトルをエリック・バナ、パリスをオーランド ・ブルーム、ヘレンをダイアン・クルーガー、アガメムノンをブライアン・コックス、オデッセウスをショーン・ビーン、メネラオスを ブレンダン・グリーソン、プリアモスをピーター・オトゥールが演じている。
他に、ヘクトルの妻アンドロマケをサフロン・バロウズ、ブリセウスをローズ・バーン、アキレスの母テティスをジュリー・クリスティー 、グラウコスをジェームズ・コズモ、トリオパスをジュリアン・グローヴァー、アルケプレトスをナイジェル・テリー、エウドロスを ヴィンセント・リーガン、ギリシャ軍の将アイアスを元プロレスラーのタイラー・メイン、ボアグリウスをプロレスラーのネイサン・ ジョーンズが演じている。ギリシャ軍最強の男アキレスがブラッド・ピットというのは、ちょっとキツいものがある。
いや、「ギリシャ人なら黒髪に黒い瞳で褐色の肌だろう。金髪の白人はおかしい」などと、人種的なことを言っているのではない (そこはギリシャ人ではない私としては、そんなに気にならない)。
そうではなく体格の問題だ。
本人としては肉体作りをしたらしいが、まだ厳しい。
ギリシャ剣劇だから重厚感溢れる戦いになるのかと思ったら、ブラッド・ピットに合わせたのか、どこか軽い。
アキレスがやたら左足で踏み切って右斜めに傾きながらジャンプして敵を攻撃する動きを見せるが、これも軽い。
いや、主人公が中国の武侠映画のキャラならそれでもいいよ。
でも、ギリシャ剣劇における勇者アキレスで、それは違うんじゃないのかと。アキレスとヘクトルの一騎打ちは大きな見せ場として用意されていると思うんだが、ここも違和感が強いアクションなんだよな。
まるで『グリーン・デスティニー』の影響でも受けたかのような、「剣舞」の動きになっている(剣じゃなくて槍だけど)。
しかし中国の武侠映画のようなスピード感には欠けるのよね。
だから「教えられた振り付けを頑張ってこなしています」という印象になる。
アクションシーンだけはジョン・ミリアス監督にでも任せるべきだったか。しかもヘクトルはトロイ最強の兵士のはずが、強さを感じさせない。アキレスに全くダメージを与えられずに殺される。
アキレスが神の子なら、無敵の戦士としてヘクトルとの圧倒的な差を見せ付けるのもいいかもしれない。
でも、そういう設定じゃないんでしょ。
「弱点のアキレス腱を攻撃されなければ死なない」ということも、話の中で打ち出しているわけじゃないし。
だったら、ヘクトルとの戦いでは、もう少しヘクトルが善戦する形にしても良かったんじゃないのかと。
逆にアキレスの圧倒的な強さを見せたかったのだとすれば、ヘクトルとの一騎打ち以外での見せ方、アピールが足りないし。トロイア戦争は、神々の対立が発端となっている。
宴に招待されなかった争いの女神エリスが投げ入れた黄金の林檎を巡り、ヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神が対立した。ゼウスは 審判としてパリスを呼び寄せ、三女神はそれぞれ何かを与える約束をした。パリスは、最も美しい女を与えると約束したアフロディーテを 選んだ。アフロディーテの誘いにより、パリスはメネラオスの妻ヘレネ(映画ではヘレン)を奪い去った。
パリスがメネラオスからのヘレネ返還要求を拒否したことで、戦争が勃発するのだ。
ギリシア神話におけるトロイア戦争は、そういう経緯がある。戦争が始まってからも神々は関与してくるし、また兵士の中には神の子もいる。
だが、この映画では、神々は全く関与していない設定に変更されている。
神々に弄ばれるような形で人間が戦う話だと、観客を惹き付けられないという判断だったのだろうか。
テリー・ギリアムが脚本を序盤だけ読んで監督のオファーを断ったらしいが、分かる気がするなあ。
ギリアムが関わるのなら、神々が登場する内容の方がいいよなあ。着想は『イリアス』から得ているが、中身は大幅に違っている。
前述のように神々が全く関与しないというのもそうだし、『イリアス』の物語はトロイア戦争が始まって10年目の出来事だが、映画では 10年の戦争を数日間に短縮している。
また、劇中では木馬作戦が描かれているが、『イリアス』には登場しない。
本来、木馬作戦はアキレスの死後の出来事だ。
トロイア戦争といえば木馬作戦が有名だから、入れておかなきゃいかんだろうという判断なのか。アキレスが序盤で言うように、「1人のギリシャ男が妻を寝取られただけ」で大規模な戦争をやっているわけである。
望んで不倫した奴らのために、なんで殺し合いをしなきゃいかんのかと思ってしまう。
登場した段階で既に不倫関係にあり、「なぜ、どうやって、どこに惹かれ合ったのか」という不倫までの経緯が描かれていないことが、 パリスとヘレンのボンクラな印象に拍車を掛ける。ヘレンが後からセリフによって「メネラオスといた時の自分は孤独で云々」と言って いるが、全く共感を誘わない。
物語を変更するのはいいとしても、ヘレンが自ら望んでパリスと浮気する形にしたのはマズかった。
でも、これまでにトロイア戦争を題材にした映画では、『トロイ情史』や『トロイのヘレン』、『トロイアの女』でもヘレンはパリスと ネンゴロになってトロイへ行ってるんだよな。
映画の世界では、ヘレンは自らパリスと関係を持つ浮気女にすることが決まっているのか。監督はヘレンを出したくなかったようで、それは正解だったと思う。
ただ、製作サイドの要求で出さざるを得なくなったのであれば、ヘレン役にはもっと有名な女優を起用すべきだった。
何しろ、ヘレンのせいで、国同士の戦いが勃発しているのだ。そこが無名役者では、役者不足だ。
それはブリセウス役にも同じことが言える。アキレスが彼女のために行動するのだから、もっと有名女優を起用すべきだった。
器量がいいか悪いかとか、そういう問題ではない。カリスマ性の問題だ。パリスが幾つも浮名を流したという設定は要らないだろ。
戦争になることが分かっていながらヘレンを連れ帰るだけでもボンクラなのに、ますますボンクラ度数を上げてどうすんの。
こいつをイヤなヤローとして描くのならそれでもいいけど、そうじゃないだけにツラいモノがある。
で、パリスを徹底してボンクラに描くのかと思ったら、「ヘレンを賭けて一騎打ちする」と言い出すという、中途半端に男らしい 部分を見せたりする。
さらに後半になると、普通に勇ましい男になっているのね。プリアモスが自分で和平を決めたはずなのに、ヘクトルから「和平のためにヘレンを送り返すべき」と言われた時は、迷わず戦争を選んでいる。 どういうことなのよ。
そこはもっと悩むべきじゃないのか。
プリアモスに限らず、この映画って、ほとんどのキャラクターが「なぜ行動するのか、何を考えているのか」ってのが分かりにくいなあ。
監督は人間ドラマに興味が無かったのか。アキレスのモチヴェーションがどこにあるのか、良く分からない。
一度は拒否したトロイへの出征に彼を向かわせたモノは何だったのか。
「名前を残すため」と口では言っているが、そこにモチヴェーションがあったようには感じられない。
そこも含めて、アキレスの行動理由が良く分からない部分が多く、また苦悩や葛藤も見えないため、共感しづらいキャラとなっている。アキレスがブリセウスと出会った後は、彼女のために行動するというシーンが増えるが、これもワケが分からない。
だって、ブリセウスと出会った直後に、もう彼女に「争いはやめて」と言われて剣を収めるのよ。
一目惚れですか。
アキレスがブリセウスをトロイに戻しておきながら、木馬作戦で潜入したら彼女を探しに行くという行動もワケが分からない。
探しに行くぐらいなら、なぜヘクトルの亡骸と一緒に帰らせたのかと。
ただの阿呆にしか見えないぞ。アキレスは援軍を待たず、自分の船だけで着岸してアポロンの神殿に突っ込んでいる。
本人が無謀に突っ走るのは構わないが、仲間を巻き添えにするなと言いたくなる。
少人数でも圧倒できるような作戦を立ててから突っ込むならともかく、普通に突撃しているから、いきなり何人か殺されてるじゃん。
そんで殺されてから、ようやく陣形を整えてるじゃん。ギリシャ軍の側で最も光っているのは、アキレスではなくオデッセウスだろう。
ただ、そのオデッセウスにしても、「アキレスに比べれば」という程度に過ぎない。
オデッセウスが何者かという説明は薄いし、アキレスとの信頼関係を納得させるための描写も薄いし。
何より、知将であるはずのオデッセウスが、その知将ぶりを発揮するというシーンが全く見られない。アキレスよりも、行動理由も苦悩も見えるヘクトルの方が遥かに共感しやすい。
だが、ではヘクトルを主人公にすれば良かったのかというと、それも問題はある。
ボンクラなパリスのために必死こいて戦うので、そんなヘクトルまでボンクラに見えてしまうのだ。
ちなみに原作では、ヘクトルは災いの元であるパリスを非難しているし、彼のためにメネラオスを殺したりしない。神話性を失ったことで、物語に粗が見える結果となった。
木馬を「海神ポセイドンへの贈り物だから」という理由で簡単に城塞の中へ入れてしまう展開なんて、阿呆にしか見えない。
神々の存在を排除する際に、「どうやったら粗の少ない作品になるか、どうやったら安っぽくない作品になるか、どうやったら登場人物に 魅力を与えられるか、どうやったら話に説得力を持たせられるか」ということをあまり考えず、ただ神を抜くことだけで満足してしまったのか。
第27回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[ブラッド・ピット]
ノミネート:【最悪の言葉づかい(男性)】部門[ブラッド・ピット]