『トロン:レガシー』:2010、アメリカ
1989年、サム・フリン少年は父のケヴィンから、デジタルの世界に入った時のことを聞かされた。ケヴィンはトロンという勇者に出会い、ディスク・バトルや光の壁を作りながら走るバイクを見せてもらった。そしてケヴィンとトロンと共に、プログラムとユーザー両方のための新しいグリッドを作り出した。ケヴィンはクルーという分身のプログラムを誕生させ、全ての情報が無料で提供される新システムを開発した。「ある日、奇跡が起きた。それは次に話してやろう」とケヴィンは言い残して外出したまま、行方不明になってしまった。突如として経営者を失ったエンコム社の重役たちは、共同経営者のアラン・ブラッドリーから実権を奪った。
現在。成長したサムは猛スピードてバイクを走らせ、追って来るパトカーを撒いた。同じ頃、エンコム社では役員会が開かれ、CEOのリチャード・マッキーは深夜12時に新しいOSを発表することを重役たちに話していた。ソフトウェアデザインチームを率いるエドワード・ディリンジャーたちが開発した新OSは、ケヴィンが経営していた時と異なり有料で販売されることになっていた。サムはエンコム社に潜入し、新OSのプログラムを盗んで無料でネット上にアップした。
警備員に見つかったサムは、ビルの屋上からパラシュートを使って逃亡を図る。しかし、駆け付けた警官たちに包囲されてしまい、降参して警察署に連行された。住まいであるガレージへ戻ったサムの前に、アランが現れた。彼はポケベルが鳴ったこと、ケヴィンが経営していたゲームセンターが発信元であることをサムに話す。まるで関心を示さないサムに、アランは「ケヴィンは消える2日前、問題解決だと言ってウチに来た。全てを変えてみせると言っていた。そのまま消えるわけがない」と語った。サムは「そんなことを信じてるのは貴方だけだよ」と軽く言うが、アランはゲームセンターの鍵を渡して「君が行くべきだ」と告げた。
サムは閉鎖されたゲームセンターを訪れ、『トロン』のゲーム機を見つけた。サムは硬貨を投入するが、そのまま出て来た。彼は床の傷に気付き、ゲーム機を動かして隠し扉を発見した。地下へ続く道を進んだサムは、コンピュータが置いてある秘密の部屋に辿り着いた。サムがコンピュータを操作すると、グリッドの世界に取り込まれた。駆け付けた警備隊によって連行されたサムは、ジェムを始めとする女性4人に包囲される。サムは背中にディスクを装着され、、ゲームを始めるよう指示された。
サムはゲームに参加させられるが、ディスク・バトルで立て続けに勝利を収めた。最後の敵としてリンズラーという戦士が登場すると、観客は声を合わせて彼を応援した。リンズラーは圧倒的な力の差を見せ付けるが、垂れた血でサムがユーザーだと気付く。サムが名乗ると、見物していた支配者は彼を連れて来るよう命じた。ヘルメットを外した支配者がケヴィンの顔をしていたので、サムは驚いた。しかし彼はケヴィンではなく、プログラムのクルーだった。
クルーの側近であるジャーヴィスは観客に対し、サムをライトサイクル・バトルに参加させると発表する。クルーは自ら対戦相手に名乗り出ると、チームを率いてライトサイクルを走らせる。サムは味方チームのプログラムと協力して戦うが、窮地に追い込まれてしまう。そこへクオラという女性がライトランナーで駆け付け、サムを乗せて会場から脱出した。ライトサイクルはグリッドの外へ出ると機能しないため、クルーたちは追って来なかった。
ライトランナーが荒野にポツンと断つ建物へ到着すると、そこにはケヴィンが待っていた。ケヴィンは久々の再会を喜び、サムを夕食に誘った。帰らなかった理由について、彼はサムに説明する。ケヴィンはトロンとクルーに手伝ってもらい、グリッドにユートピアを作ろうとしていた。しかし新生命体のアイソーが突如として誕生し、ケヴィンの目指していたデジタル世界は否定された。ケヴィンはアイソーのデジタルDNAが持つ無限の可能性に着目し、世界に届けようと考えた。だが、クルーは完璧な世界を作るのにアイソーが邪魔だと捉え、クーデターを起こした。
トロンの犠牲によってケヴィンは逃亡したが、クルーはアイソーを虐殺した。出入り口のポータルが閉じてしまったため、ケヴィンは元の世界に戻れなくなった。サムが来たことでポータルは開いたが、8時間で閉じてしまう。すぐに脱出しようと促すサムだが、ケヴィンは消極的な姿勢を示す。ケヴィンがポータルに入れば、クルーはディスクを奪おうとする。ケヴィンのディスクは誰でも使えるマスターキーであり、それを使ってクルーが外へ出てしまう恐れがある。だからケヴィンは何もせず、隠遁生活を送っていたのだ。
ケヴィンはクルーがサムをおびき寄せ、新しい駒を使ってゲームを変える気だと確信していた。「勝つためには戦ってはいけない。もはや自分のためだけには生きられない」とケヴィンが語ると、サムは不快感を露わにして反発した。クオラはサムから「なぜ父さんはクルーを怖がってる?自分で作ったんだから壊せばいいだろ」と問われ、「それにはクルーと再融合しなければならない。でもフリンの体が耐え切れない。一緒に死んでしまう」と答えた。
サムが「だったら俺が父さんを守る。何とか外に出て、アランと共に策を練る。俺の世界に戻れば、キー1つでクルーを消せる」と話すと、彼女は「お父さんの言ったこと、良く考えて」と忠告した。クオラはアイソーに協力して戦っていたズースというプログラムの存在をサムに教え、「彼なら助けてくれる」と居場所を教えた。ダウンタウンへ足を踏み入れたサムは、ジェムと遭遇する。ジャーヴィスはサムのライトサイクルもどこから来たのかも突き止め、クルーに報告した。
ケヴィンはサムがダウンタウンへ行ったと知り、ライトランナーで後を追う。ジェムはサムをクラブ「エンド・オブ・ライン」へ案内し、「ズースに用ならキャスターを通して」と告げた。店のオーナーであるキャスターの元にはバーティクというプログラムが訪れ、ズースとの面会を要求していた。プログラムが次々に消されているため、バーティクはズースの指揮で革命を起こそうと考えていたのだ。しかしキャスターは「様子を見させてくれ」と言い、ズースとの面会を許可しなかった。
キャスターはサムがフリンの息子だと知り、プライベート・ラウンジへ案内した。クルーは手下を率いてケヴィンの家へ乗り込むが、既に無人となっていた。キャスターは自分がズースだとサムに明かすが、クルー側へと寝返っていた。クラブに警備隊が突入し、サムに襲い掛かる。クオラが助けに駆け付けるが、攻撃を受けて活動停止に陥る。そこへケヴィンが現れ、サムとクオラを救う。ケヴィンはサムたちを連れて逃亡するが、ディスクを奪われてしまった…。監督はジョセフ・コシンスキー、キャラクター創作はスティーヴン・リズバーガー&ボニー・マクバード、原案はエドワード・キッツィス&アダム・ホロウィッツ&ブライアン・クラグマン&リー・スターンサル、脚本はエドワード・キッツィス&アダム・ホロウィッツ、製作はショーン・ベイリー&ジェフリー・シルヴァー&スティーヴン・リズバーガー、製作総指揮はドナルド・クシュナー、共同製作はジャスティン・スプリンガー&スティーヴ・ガウブ、製作協力はブルース・フランクリン&ジャスティス・グリーン、撮影はクラウディオ・ミランダ、美術はダーレン・ギルフォード、編集はジェームズ・ヘイグッド、衣装はマイケル・ウィルキンソン、追加衣装デザインはクリスティン・ビーセリン・クラーク、視覚効果監修はエリック・バーバ、音楽はダフト・パンク。
主演はジェフ・ブリッジス、共演はギャレット・ヘドランド、オリヴィア・ワイルド、マイケル・シーン、ブルース・ボックスライトナー、ジェームズ・フレイン、ボー・ガレット、アニス・シャーファ、セリンダ・スワン、ヤヤ・ダコスタ、エリザベス・マシス、ユーリー・キス、コンラッド・コーテス、ダフト・パンク、ロン・セルモア、ダン・ジョフレ、ダーレン・ドリンスキー、コフィ・イアドム、スティーヴン・リズバーガー、ドネリー・モントゴメリー、オーウェン・ベスト、マット・フォード、ゾーイ・フリクランド他。
1982年に公開され、世界で初めて全面的にコンピューターグラフィックスを導入した映画として話題となった『トロン』の28年ぶりとなる続編。
コマーシャルの世界で活動していた映像クリエイターのジョセフ・コシンスキーが、映画初監督を務めている。
脚本はTVドラマ『フェリシティの青春』や『LOST』を手掛けたエドワード・キッツィス&アダム・ホロウィッツで、映画は初めて。
ケヴィン役のジェフ・ブリッジスとアラン役のブルース・ボックスライトナーは、前作からの続投。
他に、サムをギャレット・ヘドランド、クオラをオリヴィア・ワイルド、キャスターをマイケル・シーン、ジャーヴィスをジェームズ・フレイン、ジェムをボー・ガレットが演じている。
アンクレジットだが、エドワード役でキリアン・マーフィーが出演している。形だけではなくキッチリと物語が繋がっている続編なので、前作を見ていないと付いて行くのは大変だ。
全く分からないというほどではないだろうが、前作を見ているかどうか、その内容を覚えているかどうかで、理解度は随分と違うはずだ。
幼少期のサムがケヴィンからデジタル世界について聞くシーンを冒頭に用意しているが、あくまでも「前作を見た人に向けての軽い助走」に過ぎない。
ただし、困ったことに、前作を知らない人がわざわざ予習してから見るほど価値のある映画でもないんだよね。この映画は、「ある意味では正しくて、ある意味では正しくない続編」である。
前作の『トロン』ってのは、「映像のインパクトや新鮮味だけで勝負しており、物語としての品質や面白さは度外視」という映画だった。
その続編だから、同じように「映像のインパクトや新鮮味だけで勝負しており、物語としての品質や面白さは度外視」というアプローチをするのは、ある意味では正しいと言える。
でも、それは「単体で見た時に映画としてどうなのか」と考えた時に、正しくないんじゃないかと思うわけで。そもそも、本作品のレベルでは、もはや「インパクトや新鮮味」を与えることが難しいぐらい、他の映画ではもっと凄い映像が描かれているわけで。
映像だけじゃマズいってことなのか、一応は親子愛の要素を持ち込んでいるけど、ちゃんと使いこなせていないから上滑りしているし。
前作に比べればCGは遥かに進化しているので、現在の最先端の技術で電脳世界を表現するのは、ある意味では正しい。
しかし、それが作品としての面白さに繋がらないのであれば、それは正しくないんじゃないかと思う。皮肉なことに、CGが進化して質の高い映像表現が可能になったことによって、「いかにも電脳世界」と感じさせる見た目の面白さが薄れてしまった。
サムがグリッドに転送されても、そこがコンピュータの中の世界だという印象は乏しい。
「いかにもSF」と感じさせる景色は描かれているが、電脳世界じゃなくて「未来の現実世界」みたいな感じなのよね。
ちゃんとした都市や風景が描写されることが、逆効果になっているのだ。冒頭シーンが終わると、成長したサムがバイクを走らせたり、エンコム社の屋上から飛んでパラシュートで降下したり、走る車の屋根に捕まったりというアクションシーンが続く。
序盤に分かりやすいシーンを用意して観客を引き付けようという狙いで、アクションから入る構成にしたのかもしれない。
だけど「現実社会で繰り広げられる、生身のアクション」ってのは、この映画には不似合いじゃないか。
この映画で見せるべきは、電脳世界でのアクションでしょ。現実世界で人間がアクションをやっても、それって普通の映像でしょ。警官たちに包囲されたサムだが、カットが切り替わると釈放されている。
どういうことだか分かりにくいが、サムはエンコム社の筆頭株主なので、すぐに釈放されたってことなのかな。
だけど筆頭株主なら無料の方針を拒否する経営陣を追い出すことも出来そうなものだが、なぜかサムはプログラムを盗んでネットにアップするという、エセ義賊みたいな真似をするのね。
そこに引っ掛かるけど、もっと大きな問題は、そこに何か意味があるのか、そういう描写が後の展開に繋がるのかというと、まるっきりってことだ。サムはゲームセンターの隠し部屋でコンピュータを見つけると、迷わずにプログラムを打ち込む。
「何をやろうとしてる?」とサムは自問するが、それはこっちが言いたい台詞だ。
壁にはグリッドの設計図らしき物が貼ってあるけど、そこまで詳しい情報を父親から聞いていたわけではないよね。
なのに、サムの行動は、まるで「そういう風に打ち込めば物質電子変換装置によってグリッドへ転送される」と最初から分かっていたかのようなのだ。サムがグリッドに転送されると、謎の警備隊が来て他の数名と共に捕獲する。連行されたサムは女たちに包囲され、ディスクを装着される。ゲームに参加するよう指示され、ディスク・バトルが始まる。
いちいち立ち止まっていたらテンポが悪くなるってことなのか、何の説明もせずに話を先へと進める。
普通に考えれば、それは大きなマイナスになるだろう。でも本作品の場合、そんなに支障は無い。
なぜなら、そもそも説明するほどの意味が無いからだ。
もちろん設定としては色々とあるし、例えばサムが捕まったのは「はぐれプログラムと誤解されてから」だ。でも、本作品がやりたいのは「映像表現とアクション」であり、そういうのは極端に言えば「どうでもいい」要素だ。それに、後半に入ると色々と説明が入るけど、ただ退屈なだけだし。ケヴィンはクラブから逃げる際にディスクを奪われるが、それは「警備兵がワイヤーみたいな道具を投げたら、ディスクが背中からスポッと外れる」という形。
そんなに簡単に外れちゃうのかよ。
他の奴らはともかく、ケヴィンのディスクはマスターキーみたいな存在であり、絶対に奪われちゃダメな物なんでしょ。それなら、もう少し外れにくい仕様に改造しておけよ。
っていうか、剥き出しで背中に装着するんじゃなくて、もうちょっと別の方法を考えろよ。アンタが作った世界なんだから、それぐらい出来るはずだろ。ケヴィンはディスクを奪われて絶体絶命かと思ったら、ソーラー・セーラーという列車が近くにあるので、それに乗ってポータルへ向かうという分かりやすい御都合主義。
その際、「列車に飛び乗ったことあるか?」とケヴィンはサムに尋ねるが、だったら飛び乗るアクションがあるのかと思ったら、普通に歩いて乗り込むだけ。
そのタイミングでクオラが最後のアイソーだと判明するが、今まで内緒にしたまま引っ張っていた意味は皆無。ディスクを奪われたんだから、かなりのピンチに追い込まれているはずだが、クオラを修復した後のケヴィンとサムは余裕たっぷりに笑顔で会話を交わす。どうやら緊迫感を醸し出そうという気は、さらさら無いらしい。
ちなみに、こいつらはクライマックスのバトルでも余裕を見せており、要らない緩和を生み出している。
まあ他のトコでも、そんなに緊迫感が高まっているわけではないんだけどね。
だから彼らが余裕を見せようが見せまいが、大して状況は変わらないんだけどね。終盤に入ると、実はリンズラーが改造されたトロンだってことが明らかにされる。
でも、「だから何なのか」と言いたくなる。
トロンはアランが生み出したプログラムであり、ケヴィンがクルーと共にユートピアを作るため協力していた存在だから、かなり重要な意味を持つキャラクターのはずだ。
だけどリンズラーって、「クルーの手下の強い奴」という程度の存在でしかないのよ。戦いの中でトロンの記憶を取り戻して寝返るという手順はあるけど、設定を上手く活用しているとは到底言い難い。
おまけに、リンズラーを演じているアニス・シャーファはトリッキング大会の王者になっているので動ける役者ではあるんだけど、「格闘アクションの面白味」は映像表現に邪魔されちゃってるし。(観賞日:2017年10月3日)