『トロン』:1982、アメリカ

ケヴィン・フリンが経営するゲームセンターは盛況で、大勢の客が押し寄せている。店内にはライトサイクルというゲームがあり、客が遊んでいる。ゲーム機の中では、戦士のサークがMCP(マスター・コントロール・プログラム)に呼ばれる。MCPが「軍事プログラムを誘拐した。ゲームの対戦相手にする」と言うと、サークは「前から戦いたいと思っていました。軟弱な会計プログラムの相手にウンザリしていた」と嬉しそうに告げた。
しかし実際に捕まったのは、福利用プログラムのクロムだった。彼は何かの間違いだと訴えるが、兵士たちは全く耳を貸さなかった。監禁された彼は、先に捕まっていた保険数理プログラムのラムと出会う。ラムはクロムがユーザーを信じていると聞き、「それが原因だ。MCPはユーザーを信じているプログラムを捕まえている。使い物になると判断されればMCPの一部にされ、そうでなければ命懸けのゲームに参加させられる」と説明した。
フリンは自身が作ったプログラムのクルーに話し掛け、ファイルの捜索を指示した。敵のマシンに攻撃されたクルーは捕まり、MCPの元へ連行される。不正パスワードでシステムに侵入したことを指摘された彼は、迷い込んだだけだと釈明する。ユーザー名を明かすよう要求されたクルーは拒否し、MCPの拷問を受けた。MCPはフリンの仕業だと睨み、自分のユーザーであるエンコム社専務のエド・デリンジャーを呼んだ。MCPはデリンジャーに、またフリンのプログラムが侵入したことを知らせた。「ファイルは隠したが、だんだん手口が巧妙になっている」と言われたデリンジャーは、フリンを見つけるまで全てのアクセスを禁止することにした。
エンコム社でトロンというプログラムを開発しているアラン・ブラッドリーは、突如としてアクセスが遮断されたためデリンジャーの元へ行く。デリンジャーは「不正アクセスがあった。数日で元に戻る」と言い、我慢するよう求めた。アランが開発中のトロンは、MCPも監視するプログラムだった。これまでMCPは多くの外部システムに侵入し、情報を盗んで来た。MCPもデリンジャーも、トロンの開発には大きな危機感を抱いていた。
エンコム社の地下実験室では、ウォルター・ギブス博士が部下のローラたちと共にレーザーを使った物質変換の実験を行っていた。アランは恋人であるローラに、アクセス禁止となったことへの不満を漏らした。ローラは元恋人のフリンが不正アクセスしたと確信し、注意に行こうと決める。アランも同行し、2人はゲームセンターへ赴いた。2人が店に入ると、フリンは見事なゲームの腕前を披露して客の喝采を浴びていた。フリンは元エンコム社のプログラマーで、アランとは同僚だった。
フリンは悪びれずにハッキングを認め、目的を明かす。彼は3年前、5つのゲームを開発した。しかしデリンジャーがプログラムを盗み、自分が開発したと嘘をついて会社に提出した。会社を追われたフリンは悪事の証拠を掴むため、ファイルを探していたのだ。アランは彼に「トロンを使えばシステムを遮断できる」と言い、協力を持ち掛けた。フリンは端末を使うため、アラン&ローラと共に深夜のエンコム社へ潜入した。
MCPはデリンジャーに、ペンタゴンとクレムリンへ侵入して情報を盗む考えを明かした。デリンジャーが反対すると、MCPは「お前の悪事を会社にバラすことも出来る」と脅した。MCPはフリンの侵入を知るとレーザーを浴びせてデジタル変換し、端末の中に引きずり込んだ。MCPはサークに、「ユーザーを捕まえた。訓練して死ぬまでゲームをやらせろ」と命じる。「我々はユーザーに作られました」とサークは困惑するが、MCPは「私は人間よりも優秀だ」と声を荒らげた。
フリンはラムやクロムたちと共にサークの元へ連行され、IDディスクを配布される。サークは最初のゲーム場所で、フリンとクロムを対戦させた。クロムがフィールドから落下しそうになると、フリンに始末するよう命じた。フリンが拒否すると、サークはクロムを落下させた。サークはフリンも始末しようとするが、MCPが「殺すのは、もっとゲームをさせてからだ」と命じた。ライトサイクルのレース場へ連行されたフリンは、アランに瓜二つのトロンと遭遇した。フリンが「ユーザーからMCPを倒すよう言われている」と嘘をつくと、トロンは「私も同じことをユーザーに命じられている」と語った。
フリン、トロン、ラムはライトサイクルのレースに参加し、敵と戦う。フリンはトロンとラムに呼び掛け、レース場所から脱出する。戦車の追跡を撒いた3人は、出入力タワーが見える場所に辿り着いた。フリンが改めてMCPを倒す考えを話すと、トロンが「それにはアランの協力が必要だ」と述べた。トロンは「アランが呼んでいる」と言い、3人は再びライトサイクルを走らせる。戦車の攻撃を受けたフリンとラムはライトサイクルを失い、投げ出されてしまった。
トロンは単独で戦車から逃走し、フリンは瀕死のラムを運んで敵のマシンを起動させる。ラムはフリンがユーザーだと知って笑顔を浮かべ、「トロンを頼む」と言い残して消滅した。フリンは出入力タワーへ向かう途中でビットと遭遇し、一緒に来るよう誘う。トロンは恋人であるヨーリの元へ行き、協力を求める。トロンとヨーリはタワーの番人であるデュモントと会い、ユーザーと交信させてほしいと頼む。デュモントの許可を得たトロンは奥へと進み、アランに話し掛けた…。

監督はスティーヴン・リズバーガー、原案はスティーヴン・リズバーガー&ボニー・マクバード、脚本はスティーヴン・リズバーガー、製作はドナルド・カシュナー、製作総指揮はロン・ミラー、撮影はブルース・ローガン、美術はディーン・エドワード・ミッツナー、編集はジェフ・ガーソン、衣装はエロイス・ジェンソン&ロザンナ・ノートン、コンセプチュアル・アーティストはシド・ミード&ジャン・“メビウス”・ジロー&ピーター・ロイド、音楽はウェンディー・カーロス。
出演はジェフ・ブリッジス、ブルース・ボックスライトナー、デヴィッド・ワーナー、シンディー・モーガン、バーナード・ヒューズ、ダン・ショア、ピーター・ジュラシック、トニー・ステファノ、クレイグ・チューディー、ヴィンス・デッドリック、サム・シャッツ、ジャクソン・ボストウィック、デイヴ・キャス、ジェラルド・バーンズ、ボブ・ニール、テッド・ホワイト、マーク・スチュワート、マイケル・サックス、トニー・ブルベイカー、チャールズ・ピセーニ他。


世界で初めて本格的にコンピューター・グラフィックスを導入したディズニー・プロ製作の映画。
それまでもCGが一部分で使われたことはあったが、この映画では全面的に導入したことが公開当時は大きな話題となった。
監督のスティーヴン・リズバーガーは、これが1980年の『Animalympics』に続く長編第2作。
フリンをジェフ・ブリッジス、アランをブルース・ボックスライトナー、デリンジャーをデヴィッド・ワーナー、ローラをシンディー・モーガン、ギブスをバーナード・ヒューズ、ラムをダン・ショア、クロムをピーター・ジュラシックが演じている。

仮想世界シーンのコンセプチュアル・アーティストとして、ジャン・ジロー・メビウスやシド・ミードが参加している。
まだ若手だった頃のティム・バートンがアニメーター、クリス・ウェッジがCGプログラマー、スーパーバイザーとしてロバート・エイブルが参加している。
監督よりもスタッフの方が遥かに有名で、以降も活躍していることになる。
この作品以降、スティーヴン・リズバーガーが全く有名にならず、他の映画を任されていないことからも、どういう評価だったのかは推して知るべしだね。

「世界で初めてCGを全面的に導入した」ってのが最大の、っていうか唯一のセールス・ポイントなのだが、実はフルCGで描かれているシーンはトータルで約15分しか無い。
ってことは、コンピュータ内部の仮想世界が舞台となっているシーンも、全てCGで表現しているわけではないってことだ。
本当は全てCGで描きたかったが、予算や製作期間の都合で手描きのアニメーションに頼っているのだ。
なので、製作サイドがイメージした完成図よりは随分と質の低い仕上がりになっているってことだ。

「コンピュータの世界をSF的な世界観で表現し、バトルやチェイスを見せる」ってことがやりたいだけなので、ストーリーやドラマは適当だ。映画としての体裁が整えばいいという程度のモノであり、薄くて粗い。
まずゲームセンターのゲームを客が遊んでいる様子を描き、その機械の中にいる戦士を登場させるという導入部分からして違和感がある。
ゲームのキャラクターは人間が操作しているのに、勝手に喋ったり動いたりするってのは、どういうことなのかと。
あと、コンピュータの話として作られているはずなのに、ゲーム機の中の様子から始めているのも違和感がある。

フリンがクルーに話し掛けているのも、これまた違和感。
MCPがデリンジャーを呼び出しており、完全に「意志を持った存在」として設定されているのも同様。
では全てのプログラムが人間と意志疎通できる存在として描かれているのかというと、そうではない。それはMCPだけなので、どういうルールなのかと言いたくなる。
MCPだけが抜群に優れているってことかもしれないが、ロクなプログラムを作れないからデリンジャーはフリンのゲームを盗んだはずなのに、なぜMCPを開発できているのかと。

フリンが「ゲームのプログラムをデリンジャーに盗まれた」と言っているので、エンコムはゲーム会社なのかと思ったら、コンピュータ製品を売っていることをデリンジャーが話している。
ところが、地下ではレーザー光線を使って物質を変換する実験が繰り返されている。
どういう会社なのかと。
ゲームの販売とコンピュータ製品の販売は何の問題も無いけど、レーザー実験は手を広げ過ぎだろ。もちろん後で使うための伏線だけど、あまりにも無理があるだろ。
そのレーザーを浴びたフリンがデジタル化して端末に取り込まれるってのも、どういう原理なのかサッパリ分からないし。

MCPが邪魔なプログラムを簡単に消去するのではなく、やたらとゲームをさせたがるのはデタラメにしか思えない。遊びが好きな性格設定ならともかく、そういうわけでもないし。
そんな設定にしている理由は簡単で、CGで表現したゲームの様子を見せたいからだ。それ以外に、何の理由も無い。
そこからの逆算で、「じゃあゲームのシーンに多くの時間を使うためには、どうすればいいのか」ってことで、MCPを利用しているのだ。
そこが不自然であろうとデタラメであろうと、細かいことは気にしちゃいない。

コンピュータ世界のディティールは甘く、ルールは雑だ。
途中でフリンたちが水を飲むシーンが出て来た時には、デタラメだなあと感じた。それまではデジタルな物しか登場していなかったのに、なぜ水だけは普通に存在するのかと。トロンが「久しぶりの水だ」と美味しそうに飲むけど、水を摂取するプログラムって何なのかと。
あえて評価できるポイントを探すなら、ケバケバしい色彩のカクカクしたCGと、ピコピコしたシンセ音による伴奏音楽は、ピッタリとハマッている。
「いかにも1980年代」だと漢字される映像と音楽を堪能したければ観賞してもいいだろうが、積極的にオススメはしない。
フラットな感覚で向き合えば、お世辞にも出来が良いとは言えないからね。まあ資料的なトコに価値を見出すべき映画かな。

(観賞日:2018年2月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会