『トレジャー・プラネット』:2002、アメリカ

3歳のジム・ホーキンスは、一冊の絵本に夢中だった。それは、銀河系の貴重な鉱物を積んだ商船を、フリント船長率いる海賊たちが襲撃 するという内容の絵本だった。その絵本は絵が飛び出して動き、ナレーションも付いている。絵本を読んでいると、部屋に母のサラが やって来た。「これからいいところなんだ」とジムが言うので、サラは付き合うことにした。フリントは財宝を奪い、その隠し場所を秘密 にした。その宝は、今も銀河の彼方にあるトレジャー・プラネットに隠されているという。ジムは、「いつかトレジャー・プラネットは 見つかるよね。絶対に本当だよ」と言い、眠りに就いた。
それから12年後、ジムは15歳になった。彼は禁止区域でソーラー・サーファーを乗り回していたが、ロボット警官たちに捕まった。サラは 小さな宿「ベンボー亭」を営んでおり、そこには様々な種類の宇宙人が宿泊していた。古い知り合いの天文物理学者ドップラー博士も、宿 で食事をしていた。そこへ、警官に連れられたジムが戻ってきた。ジムは保護観察中にも関わらず、また交通法違反で逮捕され、度重なる 違反で乗り物を没収された。
警官たちは「今度やったら少年院行きだ」と告げて立ち去った。サラは「貴方、本気で少年院に入りたいの」とジムを叱り付けた。適当に 聞き流して屋根に上がったジムは、サラがドップラーに「もう限界よ。ウチの人が出て行ってから、ジムは立ち直れないみたい」と愚痴を こぼしているのを耳にした。ジムは学校を落第して遊び歩き、いつも問題ばかり起こしてサラを困らせていた。
ジムは壊れた小型宇宙船が近くに墜落するのを目撃し、現場へと走った。宇宙船から出て来たパイロットのビリー・ボーンズは大怪我を 負っており、「あいつが来る。俺の宝箱を狙ってる。悪魔みたいなサイボーグと手下たち」と口にする。宝箱を運び出したところで、彼は 苦悶して倒れ込んだ。ジムは肩を貸し、ベンボー亭にビリーを運び込んだ。ビリーはジムに「あいつらに宝箱を渡しちゃいけない」と言い 、宝箱の中の球状の物体を渡して息を引き取った。
その直後、ベンボー亭の上空から海賊船が現れ、海賊一味が降り立った。一味がベンボー亭を攻撃してきたため、ジム、サラ、ドップラー は馬車に乗り込んで逃亡した。ベンボー亭は海賊に燃やされてしまった。ドップラーの屋敷に避難したジムは、球体に触れた。すると球体 かに光が飛び出し、室内に立体的な宇宙地図を描き出した。その地図にはトレジャー・プラネットの場所も示されていた。
ジムは高揚した様子で、サラに「母さん、この地図が僕を導いてくれる」と告げる。サラは「ただの伝説よ」と止めるが、ドップラーは 「一人で行くのは無茶だから私が付いて行く」と言い出した。ドップラーは「いっそ宇宙に出して修行させるのも悪くないぞ」サラを説得 した。ジムはスペースポートへ向かい、ドップラーが手配した宇宙船R.L.S レガシー号に乗り込んだ。
レガシー号では、既に船長と乗組員が出航の準備をしていた。アメリアというネコ型宇宙人が女船長で、アローという一等航海士が彼女の 側近だ。ドップラーが宝の地図のことを口にすると、慌ててアメリアは彼とジムを船長室に連れ込み、「あの船員たちの前で宝の地図の ことを言うのは軽率です」と注意した。アメリアは球体を預かり、鍵を掛けたクローゼットに保管した。
アメリアはドップラーに、「貴方の雇った船員たちは好きじゃありません」と述べた。それからアローに、ジムをコック見習いとして 料理人ジョン・シルヴァーの元へ連れて行くよう命じた。ジムが調理室へ行くと、シルヴァーはサイボーグで、右腕と右脚は完全に機械に なっていた。彼は何にでも変身できる小さなエイリアンのモーフをペットとして飼っていた。
ジムはシルヴァーがビリーを襲った海賊ではないかと睨み、それとなく故郷モントレッサでの出来事を話した。ビリー・ボーンズの名前を 出すと、シルヴァーは「聞き覚えがねえなあ。この港にはサイボーグがウヨウヨいるからな」と告げた。しかし、彼は実際に、宿を襲撃 した海賊一味の親分だった。シルヴァーはジムが去った後、モーフに「あいつには気を付けねえとな」と話し掛けた。
レガシー号は出港し、宇宙空間に出た。ジムはシルヴァーから甲板の掃除を命じられ、不満顔で仕事を始めた。船員たちは「うろちょろ するなよ」と彼を威嚇し、それに反発すると船員の一人スクループは殺そうとする素振りを示した。シルヴァーが現れ、それを制止した。 そこにアローが来て、「規則を破ったら監禁するぞ」と船員たちに釘を刺した。スクループはアローに怒りを覚えた。
シルヴァーは船員たちを船室に集め、「おとなしく俺の言うことを聞いてろ。あのガキは何も考えられなくなるぐらい扱き使ってやる」と 凄む。ジムが甲板にいると、シルヴァーが「父ちゃんからケンカのやり方を教わらなかったのか」と尋ねてきた。ジムが「出て行ったきり 戻ってこないよ」と寂しそうに言うと、シルヴァーは「それじゃあ俺がみっちり叩き込んでやろう。これからは俺の目の届く所へずっと 置いておく」と述べた。
翌日から、ジムはシルヴァーに様々な仕事を付きっ切りで教え込まれた。ジムが機械の体になった理由を尋ねると、シルヴァーは「夢を 追ってると失う物もある」と答えた。その直後、超新星爆発によってエネルギー波が押し寄せ、宇宙船は危機に陥る。全員がロープで体を 船に縛り付けて吹き飛ばされないようにするが、今度は爆発で誕生したブラックホールに船が吸い込まれそうになった。
ドップラーはエネルギーの大波が来ることを計算し、アメリアに伝えた。その大波に乗って脱出しようと考えたアメリアは、アローに 「畳んだセールを再び張りなさい」と命じた。アメリアから指示を受け、ジムは全員の命綱を確認した。しかしアローは命綱をスクループ に切断され、船から落下してブラックホールに吸い込まれた。船は大波を利用し、その空間から脱出した。
スクループはアメリアに、「アローが投げ出された。命綱が外れてました」と虚偽の報告をした。ジムが責任を感じて落ち込んでいると、 シルヴァーが「お前は凄いことをする力を秘めている。自分で進路を決めて最後までやり抜け」と元気付けた。ジムはシルヴァーの胸を 借りて泣いた。だが、モーフの悪戯で早朝に目を覚ましたジムは、シルヴァーと船員たちの会話を偶然にも盗み聞きしてしまい、彼らが 海賊だと知ってしまった。
スクループは、シルヴァーがジムに甘すぎることに反発を抱いていた。それを指摘されたシルヴァーは、「俺の頭にはフリントの宝のこと しか無い。あいつに秘密を嗅ぎ回られないように優しくしただけだ」と苛立ったように言う。その時、見張り係がトレジャー・プラネット を発見し、全員が甲板に出た。望遠鏡を取りに戻ったシルヴァーは、外に出て来たジムと鉢合わせした。
ジムは慌てて船長室へ飛び込み、アメリアに海賊のことを知らせた。海賊たちが攻撃して来たので、ジム、アメリア、ドップラーはボート に飛び乗って脱出した。しかしレーザーボールによる爆撃を受け、ボートはトレジャー・プラネットに不時着した。ジムが持って来た球体 はモーフが化けた姿で、本物は宇宙船に残されたままだった。怪我を負ったアメリアは、ジムに偵察を命じた。
モーフを連れて密林に入ったジムは、ベンというお喋りなロボットと遭遇する。ベンは置き去りにされ、100年も独りぼっちだったという。 「フリント船長を覚えている」とベンが口にしたので、ジムは宝のことを尋ねる。するとベンは「メカの中心」と財宝のありかについて 語り出すが、回線がショートしておかしくなってしまった。彼はメモリー回路を無くしていた。
ジムが「隠れる場所を探さないといけないから、もう行くよ」と告げて立ち去ろうとすると、ベンは寂しそうに落ち込んだ。ジムは「一緒 に来てもいいけど、うるさくするのはやめろ」と告げた。するとベンは「家で休憩したら」と持ち掛け、自分の家に招待した。これで 隠れ場所の問題は解決できた。ドップラーはアメリアを抱えて家に運び込んだ。壁には古代の象形文字が刻まれており、それは球体の地図 に描かれていたものと同じだった。
その時、海賊たちが現れて攻撃して来た。シルヴァーは「弾を無駄遣いするな」と叫び、白旗を掲げてジムに「話をしたいだけだ」と 呼び掛ける。一味はジムたちが地図を持っていると思っているのだ。「俺たちが上手くやれば大金持ちだ。地図を渡せば財宝の半分をお前 にやる」とシルヴァーは提案するが、ジムは「アンタに財宝はやらない」と拒絶する。シルヴァーは「明日の朝までに地図を渡さないと、 お前らを大砲で粉々に吹き飛ばしてやるからな」と脅しの言葉を告げ、その場から立ち去った。
家に戻ったジムが対策を考えていると、ベンは「僕は裏口からいなくなる」と口にした。その裏口から外に出られると知り、ジムは穴に 飛び込んだ。穴の出口は、シルヴァーたちが眠っている野営地の近くにあった。ジムは「レガシーに乗り込み、レーザー砲を使えなくして 、地図を取って帰って来る」という作戦をベンに説明し、海賊のボートを拝借することにした。
ジム、ベン、モーフは海賊のボートでレガシー号へ行き、地図を取り戻した。しかしレーザー砲を停止させようとしたベンが間違った配線 を抜いたために警告音が鳴り響き、ジムは船に残っていたスクループに発見されてしまう。格闘の末、ジムはスクループを宇宙の彼方へ 追いやった。しかしジムが地図を持って家に戻ると、海賊一味はドップラーとアメリアを縛り上げて待ち受けていた。シルヴァーは球を 開くことが出来ず、ジムに「開けろ」と要求した。ジムは「地図が欲しけりゃ俺も連れて行け」と持ち掛け、財宝探しに同行しながら逆転 のチャンスを狙う…。

監督はジョン・マスカー&ロン・クレメンツ、原作はロバート・ルイス・スティーヴンソン、原案はロン・クレメンツ&ジョン・マスカー &テッド・エリオット&テリー・ロッシオ、脚本はロン・クレメンツ&ジョン・マスカー&ロブ・エドワーズ、製作はロイ・コンリ& ジョン・マスカー&ロン・クレメンツ、製作協力はピーター・デル・ヴェッチョ、アート・ディレクションはアンディー・ガスキル、編集 はマイケル・ケリー、伴奏音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード、オリジナル歌曲はジョン・レズニック。
声の出演はジョセフ・ゴードン=レヴィット、ブライアン・マーレイ、エマ・トンプソン、デヴィッド・ハイド・ピアース、マーティン・ ショート、デーン・A・デイヴィス、マイケル・ウィンコット、ローリー・メトカーフ、ロスコー・リー・ブラウン、パトリック・ マクグーハン、コーリー・バートン、マイケル・マクシェーン、トニー・ジェイ、オースティン・メジャーズ他。


ロバート・ルイス・スティーヴンソン子供向け冒険小説『宝島』を、舞台を宇宙に変えて映像化したディズニーの長編アニメーション映画 。
ジムの声をジョセフ・ゴードン=レヴィット、シルヴァーをブライアン・マーレイ、アメリアをエマ・トンプソン、ドップラーを デヴィッド・ハイド・ピアース、ベンをマーティン・ショート、モーフをデーン・A・デイヴィス、スクループをマイケル・ウィンコット が担当している。
ビリーの声を担当したパトリック・マクグーハンは、これが遺作となった。

ディズニーが壮大なスケールの冒険アニメを作ろうとした時は、必ず大失敗しているという印象がある。
『コルドロン』もそうだし、『アトランティス/失われた帝国』もそうだった。
そうなってしまう原因の1つは、ディズニーアニメは基本的にクロージング・クレジットを除くと約90分の尺なので、スケールの大きな物語を完結 させるには時間が足りないということだ。最初から無理のある企画なのだ。
あと、舞台を宇宙に変更した意味は、良く分からない。
単に宇宙空間をCGで描写したいという映像的な意欲だけだったのかもしれないが。

冒頭、3歳のジムは楽しそうに絵本を読んでいる。
だけど「悪党たちが商船を襲って財宝を奪う」という物語を幼い子供が喜んで読んでいるってのは、しかも母親も楽しそうに付き合って いるというのは、ディズニー的にはOKなんだろうか。
その海賊が義賊ならともかく、完全に悪党だぞ。
それと、まず冒頭シーンで「これは近未来の物語です」ということを分からせていないのもマイナス。
飛び出す絵本は近未来的だけど、部屋の内装は現代と全く変わらないので、時代設定が未来だという印象は全く受けない。
絵本の中の世界を描写するよりも、まずジムが生きている世界観、時代設定を、観客にアピールしておくべきではなかったか。

その後でベンボー亭にいるエイリアンたちが登場するが、そこがエイリアンも存在する惑星だというのも、その場面までは分からない。
たった1シーン、せいぜい5分程度のタイムラグだが、それは些細なことのようで、実はものすごく大きな失態だと感じる。
5分後でも構わないが、12年後、2つ目のシーンになってしまうというのが痛いのだ。
人間しか登場しない世界観かと思ったら、そうじゃないってのも、12年後まで分からないってのはね。

あと、父親の不在についても、最初のシーンでは描かれていない。
その時点では、父親はまだ家出していなかったのだから、登場させておくべきではなかったか。
いや、それよりも、いきなり12年後から始めれば良かったのだ。
幼い頃のジムが宝の惑星の存在を信じていたというエピソードを描いておくことに、それほど大きな意味が感じられないのよね。

サラがドップラーに「ウチの人が出て行ってから、ジムは立ち直れないみたい」と愚痴るシーンで、ようやくジムの父親が家を出たことが 明かされる。
それが原因でグレたのなら、そのエピソードは先に描いておくべきじゃないのか。
先どころか、その後で回想として描かれることさえ無いのだ。それは完全に手落ちだろう。
そもそも冒頭シーンで父親との触れ合いが全く描かれていないので、「父が出て行ったことによってジムが受けたショック」は全く 伝わらないぞ。普通に母と2人で仲良くやっていたように感じられたぞ。

球体が示したトレジャー・プラネットの場所を見たジムは、「母さん、この地図が僕を導いてくれる」と高揚した感じで言う。
だが、彼を突き動かす動機としては、そのシーンはものすごく脆弱でパワーに欠けている。
それなら、ドロップアウトしている設定にするよりも、いっそのこと分かりやすく「ずっと宝の惑星を探していた」という設定にでもして しまった方が遥かにマシだ。

レガシー号には海賊一味が船員として乗り込んでいるが、そんな「いかにもワルそう」という感じの船員を、なぜドップラーは雇ったのか 。
どういう経緯でそいつらを雇ったのか。
なぜ、そんな悪党にしか見えない奴らを引率する仕事を、アメリアは引き受けたのか。
その辺りがサッパリ分からない。
例えば「そもそも雇うつもりだったクルーが何かの事情で契約できなくなり、都合良く海賊一味が現れたので、時間も無いし、仕方なく」 とか「海賊たちがドップラーを騙して、別の優秀な船員たちに成り済まして契約を交わした」とか、そういう描写があれば納得できるが、 そういう経緯は全く描かれていないのでね。
一応「誤魔化してオメエらを雇わせた」というシルヴァーのセリフはあるけど、それだけでは説明として全く足りていない。

ジムがシルヴァーに様々な仕事を付きっ切りで教え込まれるシーンは、音楽に乗せたダイジェスト処理になる。
その中では、ジムの父が家を出た時のことに申し訳程度に触れているが、それじゃあ不足も不足だ。
ダイジェストで「ジムがシルヴァーに父のような感情を抱く」ということを描いているつもりのようだが、そちらのボリュームも明らかに 不足している。

「シルヴァーは単なる卑劣な悪党ではなく、愛情のある憎めない男」というキャラ設定は、この物語にとって、とても重要な要素だ。 しかし、そこを上手く表現出来ていないので、ただ「中途半端なキャラ造形」としか感じない。
いっそのこと、シルヴァーは完全無欠の悪党に設定しておけば良かったんじゃないか。どうせジムと実父の関係性も、シルヴァーとの 擬似親子関係も、それほど効果的に使われていないし。
それでも、まだシルヴァーは、ジムよりはマシだといえるかもしれない。
ジムに至っては、中途半端も何も、主人公としての魅力を全く感じさせない男になっている。

(観賞日:2010年7月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会