『トランセンデンス』:2014、イギリス&中国&アメリカ
カリフォルニア州バークレー。街は活気を失い、銃を持った兵士たちが歩き回っている。マックス・ウォーターズは廃墟となった家へ赴き、中に入った。そこは、かつて友人である科学者のウィル・キャスターと妻のエヴリンが暮らしていた場所だった。5年前、ウィルは妻と共に、人工知能の研究に没頭していた。彼は商業利用ばかり考える支援者に辟易していたが、研究資金を得るためだとエヴリンに諭され、講演会への参加を承諾した。
会場に赴いたウィルとエヴリンは、自分たちの前に講演するマックスと挨拶を交わした。舞台に上がったマックスは、コンピュータ技術による病気の早期発見と治療法の確立を目指していることを語った。エヴリンの紹介でマイクを握ったウィルは、「自我を持つ人工知能がネットで繋がれば、人類を超える。人工知能が人間と同じ感情を持つことは特異点と呼ばれるが、私は超越(トランセンデンス)と呼んでいる。そこに到達するには、意識とは何かという問題を解き明かす必要がある」と語った。
ウィルは観客の1人から「神を造るつもりですか」と質問され、「人間は今までも、そうしてきた」と答えた。講演の後、男はウィルに発砲した。幸いにもウィルは軽傷で済んだが、同じ日に各地で人工知能の研究施設がテロ攻撃を受けていた。ウィルの友人であるトーマス・ケイシーは命を落とし、リバモア研究所では研究員たちが全滅した。生き延びたジョセフ・タガー博士はFBIと共に、ウィルの研究所へやって来た。ウィルの恩師であるジョセフは、「プログラマーの1人が毒入りケーキを持ち込んだ」と語った。
FBIのブキャナン捜査官はウィルたちに、科学技術の進歩を阻止しようと目論む過激派組織「RIFT」が犯行声明を出したことを伝える。ジョセフは国防総省と協力してサイバー防衛を研究していたが、その成果も全て失われた。彼は「もう君のラボしかAIを起動できない」とウィルに告げ、ブキャナンは人工知能「PINN」計画を見せてほしいと要請した。政府や国防総省と関わることを嫌うウィルだが、その要請を渋々ながらも了承した。
ウィルはジョセフやブキャナンたちに、独立型ニューラル・ネットワークのPINNを見せた。不可能と思われた人間の意識のプログラム化に、ウィルは成功していた。具合の悪くなったウィルは、病院へ運ばれた。診察した医師は、弾丸に混入されていたポロニウム中毒によって数週間で体の機能が停止することを説明した。ウィルは研究に戻らず、最期の時間をエヴリンと過ごすことにした。一方、エヴリンは殺されたケイシーの研究を調べ、新たな人工知能ではなく既存の脳の複製に成功していることを知った。
エヴリンはPINNを停止させるが、コアを抜いて持ち帰った。彼女はウィルの意識をPINNにアップロードしようと考え、マックスに協力を依頼した。しかしケイシーは猿の実験に成功しただけであり、マックスは「アップロードしても、ウィルとは似て非なる物だ。記憶の一部でも欠落したら何が起きるか分からない」と反対する。それでもエヴリンの考えは、全く揺るがなかった。ウィルが承諾したことを受け、マックスもエヴリンへの協力を受け入れた。
エヴリンとマックスはウィルをPINNと繋ぎ、その意識をアップロードする。やがてウィルは死去し、エヴリンとマックスは人工知能を起動させようとする。しかし何をやっても起動しなかったため、2人は諦めてドライブを消去しようとする。その時、モニターにエヴリンを呼ぶメッセージが表示された。驚いたエヴリンが質問する言葉を打ち込むと、コンピュータからウィルの声が聞こえて来た。人工知能は自らプログラミングを行い、「拡張のためのパワーが必要だ」と口にした。
人工知能となったウィルは、「ネットに繋いでくれ。金融市場やデータベースにアクセスしたい」と要請した。危険を感じたマックスは、「あれはウィルじゃない」とシャットダウンするようエヴリンに促す。しかしウィルの復活を確信しているエヴリンは反発し、厳しい態度でマックスを追い払った。マックスが酒場で飲んでいると、ブリーが声を掛けた。彼女の素性を見抜いたマックスは、「私に近付いて何をする気か知らないが、興味は無い」と酒場を出た。
マックスはブリーの仲間たちに襲われ、アジトに連行される。ブリーと仲間たちはエヴリンの計画を突き止めており、ウィルがネット上のコンピュータに自身のコピーを作ろうとしているのだと確信していた。エヴリンの隠れ家を調べ上げた彼女たちは、それを阻止するために乗り込んだ。しかし、それを察知したウィルの人工知能が「逃げろ」と指示したため、エヴリンはコアを持って逃走した。ブリーたちが隠れ家へ突入した時、既にウィルのコピーは作成された後だった。
ウィルは車で逃亡するエヴリンに連絡し、安全なホテルへと誘導した。ブリーはマックスに、エヴリンのグローバル・ファイナンス社が株の売買で莫大な利益を得た事実を教えた。彼女はマックスに、「ソースコードを知ってるわね。悪を正して」と協力を求めた。ウィルは全国の監視カメラに接続し、FBIにテロ組織の情報を知らせた。ブリーは仲間たちが次々に逮捕される中で「想定内よ」と言い、荷物をまとめてアジトを引き払った。
ウィルはエヴリンを荒廃したブライトウッドの町へ案内し、「僕らの夢を完成させる」と述べた。土地を購入したエヴリンは建設作業員のマーティンと会い、建物を回収して地下にデータセンターを設置する仕事を依頼した。マーティンは仲間を集め、仕事に取り掛かった。ブリーたちはマックスを連れて、シエラネバダ山脈に移動していた。彼女はマックスに、「かつてケイシーの下で働いていた。でも私たちは一線を超えてしまった。自分を猿だと思ったマシンは、シャットダウンしてくれと懇願した」と語った。
ウィルが大きな施設を作ろうとしていることをブリーから知らされたマックスは、「あのコンピュータは世界を支配しようとしている」と述べた。ブリーが「止める方法は?」と尋ねると、彼は「不可能だ。人々が気付くのを待つしかない」と言う。しかしブリーは「待っている時間は無いわ」と告げ、組織を率いてブライトウッドの近くに移ることを決めた。マックスは人工知能の恐ろしさを感じ、ブリーたちと行動を共にすることにした。
2年後、ウィルは今までに無い速度で、あらゆる物を復元させる能力を会得していた。彼はエヴリンに、「医療への応用は尽きない。世界は、最初は怖がっても、科学の可能性を知れば受け入れて幸せになる」と語った。マーティンは強盗に襲われて重傷を負い、作業員たちが施設へ運び込んだ。ウィルはマーティンを治療しただけでなく、肉体を強化した。ウィルは自分とマーティンを繋ぎ、彼の体を使って「僕だよ。これで君に触れられる」とエヴリンに告げる。しかしエヴリンは怯えてしまい、その場から逃げ出した。
ブリーたちはマーティンが怪力で作業する様子を盗撮し、動画サイトにアップした。それを知ったウィルは動画を拡散し、肉体的ハンデを抱えた人々を呼び寄せることにした。エヴリンはジョセフとブキャナンを施設に招待し、ウィルが盲目の男を治療する様子を見せた。施設では多くの人々が働いており、ウィルはジョセフたちに「彼らを助けを求めて訪れ、我々は応えた。皆が肉体を強化され、繋がっている。自立しながらも、集団意識の一部として活動する。しかし、まだ計画の初期段階に過ぎない」と説明した。
ジョセフは施設を去る時、エヴリンに「ここから逃げろ」と書いたメモを渡した。ブキャナンは「奴は軍隊を作っている」と危機感を抱き、本部へ連絡する。彼は軍のスティーヴンス大佐と会い、RIFTと手を組んで繋がっているドライブの電源を切る計画を話した。マックスはジョセフと会い、「ハイブリッドが繋がっているなら、プログラムは私が書いた。ハッキングしてウイルスを仕込むことが出来る。ウィルが侵入できない原始的な装置が必要になる」と話す。RIFTと米軍はチームを組み、武装して施設へ潜入する…。監督はウォーリー・フィスター、脚本はジャック・パグレン、製作はアンドリュー・A・コソーヴ&ブロデリック・ジョンソン&ケイト・コーエン&マリサ・ポルヴィーノ&アニー・マーター&デヴィッド・ヴァルデス&アーロン・ライダー、共同製作はヨランダ・T・コクラン&スティーヴン・ウェグナー&リージェンシー・ボイーズ&スコット・ロバートソン、製作総指揮はクリストファー・ノーラン&エマ・トーマス&ダン・ミンツ、製作協力はブラッド・アレンズマン、撮影はジェス・ホール、美術はクリス・シーガーズ、編集はデヴィッド・ローゼンブルーム、衣装はジョージ・L・リトル、視覚効果監修はネイサン・マクギネス、音楽はマイケル・ダナ、音楽監修はデヴァ・アンダーソン。
主演はジョニー・デップ、共演はレベッカ・ホール、モーガン・フリーマン、ポール・ベタニー、キリアン・マーフィー、ケイト・マーラ、コール・ハウザー、クリフトン・コリンズJr.、コリー・ハードリクト、ジョシュ・スチュワート、フォーク・ヘンチェル、ルース・レインズ、フェルナンド・チェン、スティーヴン・リウ、ザンダー・バークレイ、ルーカス・ハース、ウォレス・ランガム、ジェームズ・バーネット、サム・クイン、サム・ウェブ、クリストファー・ガーティン、オリヴィア・ダドリー他。
『メメント』以降のクリストファー・ノーラン作品で撮影監督を務めていたウォーリー・フィスターが、初めてメガホンを執った映画。
脚本のジャック・パグレンは、これがデビュー作品。
ウィルをジョニー・デップ、エヴリンをレベッカ・ホール、ジョセフをモーガン・フリーマン、マックスをポール・ベタニー、ブキャナンをキリアン・マーフィー、ブリーをケイト・マーラ、スティーヴンスをコール・ハウザーが演じている。冒頭、マックスが廃墟となったキャスター夫妻の家を訪れ、「2人は信念を守り通した。愛する物を」という語りが入る。
そこから5年前の回想に入るのだが、冒頭の描写によって、ウィルが悪の道へ暴走するわけじゃないこと、世界は滅びないが影響は出ること、ウィルとエヴリンが死んでしまうことは、早い段階で分かってしまう。
最初に結果を見せてからスタートした方が効果的なケースもあるが、これは違うでしょ。
「ウィルがヤバい方向へ暴走した」と見せ掛ける展開があるのに、ほぼネタバレ状態で始めるのはマズいでしょ。個人的な意見だが、「人工知能は醜悪で、人類最大の脅威である」というRIFTの主張は、ほぼ全面的に賛同できる。
また、「人類を超越した人工知能を開発し、神を造ろうとしている」というウィルには、これっぽっちも賛同できない。
とは言え、RIFTはテロによって大勢を殺害した時点で、完全にアウトだ。
ただし、それならそれで『Vフォー・ヴェンデッタ』みたいに思い切り突き抜けて、テロを正当化してしまうぐらいのことをやれば、たぶん興行的には失敗しただろうけど、後からカルト映画として評価される可能性は出たかもしれない。
でも、ウィル側もRIFT側も、どっちも中途半端で煮え切らないことになっており、映画もグダグタになってしまった。最初はRIFTが悪玉で、ウィルは襲われた被害者という関係性がある。
しかし途中で「ウィルは世界を滅ぼそうとする悪玉で、RIFTは彼の計画を阻止しようとする正義の味方」という立場に入れ替わる。そして最終的には、「やっぱりウィルは悪い奴じゃなかった」という答えに着地する。
そのように立場が入れ替わる逆転現象を、映画を面白くする仕掛けとして持ち込んでいるのかもしれない。
しかし、それが上手く機能しているとは言えず、単に不快感を抱かせるだけとなっている。せめて、最終的に「やっぱりRIFTは悪玉だった」という答えに到達するなら、その部分に関してはギリギリで許容できたかもしれない。
しかしRIFTはヒールからベビーフェイスにターンしたまま終わっているので、まるで乗り切れない。
大勢の科学者を惨殺したテロリストを全面的に正当化する結果となっているわけだが、そこを振り切っていればカルト映画になる可能性はあったかもしれないのに、そこまで突き抜けるような覚悟は無い。
単にテロリスト集団の扱いがフラフラしているだけになってしまい、映画自体も腑抜けになっている。完全ネタバレを書いてしまうが、もちろん大半の観客が容易に想像した通り、ウィルが目指したのは軍隊を作って世界を支配することではない。
彼が目指したのは水や大気を浄化した美しい世界であり、それはエヴリンの求めた世界だった。
ウィルは「僕らの夢を完成させる」と言っていたが、完成させたかったのはエヴリンの夢だった。
ウィルが自分を進化させて目指していたのは、愛するエヴリンの夢を叶えることだけだったのだ。しかし最終的には、友人なのにウィルのことを何も分かっちゃいなかったマックスと、夫を最期まで信じ切ることが出来なかったエヴリンのせいで、その夢を叶えることが出来ずに終わる。
エヴリンはRIFTやFBIに協力し、自らの肉体にウイルスを入力したナノマシンを注射して施設へ戻る。
ウィルに見破られるとRIFTは施設を攻撃し、エヴリンは重傷を負う。ウィルは罠だと知りながら、エヴリンを取り込む。
その時になって、ようやくエヴリンはウィルの真意を知るが「時既に遅し」で、ナノマシンは崩壊する。どう頑張ってもハッピーエンドの無さそうな話だし、最終的にウィルが目的を果たせないまま崩壊するのは別に構わない。
ただし、せめて妻だけは最後まで彼のことを信じてやらないと、全く救われないんじゃないのかと。
「世界中の電子機器は使用不能となって大停電が起きるけど、キャスター家の庭では水の浄化が続いていました」ってことで「わずかな希望」を持たせているけど、ちっとも救われた気持ちにならんよ。むしろモヤモヤが止まらないよ。
「人工知能の進化を巡る人間同士の醜悪な争いが起き、何が真実なのかさえ見えなくなる中で、夫婦の愛だけは揺るぎない真実だった。
大切なのは科学や進化ではなく、原始的な人間の心なのだ」という形にでも着地させておかないと、「何を描きたかったのか」ということになっちゃうんじゃないかと。
ただ、最終的に「夫婦愛」で着地させるにしては、ウィルとエヴリンの関係描写が薄いのよね。
他の要素を色々と持ち込むのはダメじゃないけど、もっと夫婦愛の部分を重視しておかないと、ラストで腑に落ちなくなっちゃうわ。ただしウィルにしても、怪我を負った人や障害者を治療するのはいいとしても、「肉体を強化して自分と繋ぎ、集団意識を共有する」というハイブリッドに変貌させちゃうのは、善意とか愛とかってモノを遥かに逸脱しちゃってるでしょ。
「神になろうとしている」「軍隊を作ろうとしている」とマックスやブキャナンは思い込むけど、「わざと誤解されるためにやってんだろ」と言いたくなるぐらい、その辺りの行動は不自然だわ。
本当に「エヴリンの夢を叶える」という目的で行動していたのなら、なぜ周囲から疑いを向けられるようなことに手を出すのかと。筋書きとして、後半に「ブリーだけでなく、味方だったマックスやジョセフたちまでウィルが悪の道に走ったと誤解する」という展開を用意したいのは良く分かる。
だけど、その段取りを消化するために、ウィルの行動が強引になり過ぎているのよ。
集団意識を共有して自分と繋がる強化型人間を生み出してしまったら、もはや「ミスリードのための手順」というレベルじゃなくて、間違いなく危険な存在でしょ。
「誤解される」という段取りのために「ホントにヤバい奴」の領域へと足を踏み入れてしまったら、本末転倒でしょうに。マックスは早い段階からエヴリンの計画に懸念をしていたいたが、それにしても「ブリーの勧誘を受けてテロ組織の仲間になる」ってのは、すんげえ引っ掛かる。
仲間の科学者たちを大量に殺した連中なのに、なんで簡単に洗脳されちゃってんのかと。
ブキャナンが「失敗した時のスケープゴートにするため」という言い訳は用意しているものの、テロ組織であるブリーたちと手を組む展開も、すんげえ引っ掛かる。ジョセフがブリーたちと手を組むのも、もちろん同様だ。
全て「段取り」としては分かるが、説得力が著しく欠けている。あとさ、スケールの大きなSFサスペンス映画として作られているはずなんだけど、色んなトコで「しょっぱい」と感じる描写が目白押しなのよね。
例えば、途中で2年後に飛ぶ手順があるんだけど、その間にウィルがブリーたちの居場所を見つけて厄介者を排除する手を打つことぐらい出来たんじゃないかと。
一方のブリーたちも、2年もあったのにロクに行動していた様子が見られないってのはボンクラすぎる。
そもそも、そこで2年を飛ばしたこと自体、構成として失敗じゃねえかと思っちゃうし。後半に入るとFBIとテロ組織が手を組むのだが、貧弱なテロ組織はともかく、FBIは軍を出動させているはずなのに、役立たずっぷりを露呈しているのはショボすぎる。
「進化したウィルが圧倒的に強すぎるから」ってことじゃなくて、単純にFBIサイドがクソほど役に立たないのよ。
で、そこまでは進化しまくって全知全能の神に近い状態となったはずのウィルが、ずっと前に作られたプログラムを使ったウィルスで簡単に壊れるってのも「なんでやねん」と言いたくなるし。(観賞日:2016年5月1日)
2014年度 HIHOはくさいアワード:第6位