『トップ・シークレット』:1984、アメリカ

東ドイツ。汽車の屋根で将校と戦った英国諜報員のセドリックは、飛び降りて逃亡した。東ドイツ最高司令部では、ヴァン・ホルスト大佐が「国境は厳戒態勢で、全ての出国ビザを発給停止しました。フラモンド博士の監視は倍に増やし、ポラリス型機雷も完成します」などと上層部の面々に説明していた。ストレック将軍は「NATO潜水艦隊の運命は、日曜には我々の手の中だ」と語り、カモフラージュ作戦のことをクランプラー少佐に尋ねた。
クランプラーは「文化フェスティバルを開催します」と述べ、ソ連からテナー歌手のウラジミール・ビレトニコフが参加することを話す。さらに彼はアメリカの指揮者であるバーンスタインがキャンセルしたため、代理の音楽家としてニック・リヴァースという男が来ることを明かした。最新のレコードが司令部に届いており、クランプラーは曲を流した。ニックはアメリカの大人気ロック歌手で、ヒットチャートで1位から4位までを独占するほどだった。
ニックがマネージャーのマーティンと汽車で東ドイツの国境に着くと、ホーストがやって来た。彼はニックに、「馬鹿な好奇心は持つな。そのために招いたのではない」と警告した。ニックは市内に入り、フェスティバルを前にした歓迎式典に出席した。式典を密かに観察したセドリックは、売り子に化けた連絡員と接触する。彼が「ベルリン急行に乗っていたのがバレた」と言うと、連絡員は「レジスタンスに裏切り者がいる」と教えた。
フラモンドが監禁されている場所についてセドリックが尋ねると、「場所は分からんが、新兵器の開発を強制されている。今夜、バレエに行け。レジスタンス指導者のトーチに会え」とチケットを渡した。セドリックは連絡員に指示された店へ車で向かおうとするが、運転手はスクラップ工場に向かう。運転手が外へ出ると、車は機械で押し潰された。ニックがカフェへ行くと、マーティンは「喉が痛いので先に休む」とホテルの部屋に戻った。
ヒラリーという女は連絡員と接触し、セドリックについて「ホテルの部屋で待っている」と聞く。連絡員は追っ手に狙撃され、ヒラリーはカフェに逃げ込む。支配人は「今夜はフェスティバルのお客様だけです」と追い出そうとするが、ヒラリーに興味を抱いたニックが「自分の連れだ」と告げた。ヒラリーは自分を捜索している秘密警察の面々を気にしながら、ニックと話す。ニックがステージで歌を披露している間に、ヒラリーは店から逃げ出した。
ヒラリーがホテルの部屋に戻ると、セドリックが現れた。彼は「罠だ。情報が漏れている」と教え、「早く君の父親を救い出さないと」と口にする。セドリックが「今夜、バレエでトーチという男に会う。レジスタンスの指導者だ」と話すと、ヒラリーは自分が行くと申し出た。その夜、バレエ公演を観劇していたニックは、男がヒラリーに拳銃を突き付ける様子を目撃した。ニックは男と格闘し、拳銃を奪い取る。男はニックに突進をかわされ、バルコニーから階下に転落して死亡した。
ニックが「警察を待とう」と言うと、ヒラリーは「彼が警官よ」と告げる。ヒラリーは劇場を出て逃亡しようとする時、ニックに「貴方を巻き込んでしまった。一緒に逃げて」と誘う。ニックは「僕は政府の招待客だ。心配ない」と告げ、ヒラリーを逃がした。彼は秘密警察に捕まり、ストレックから協力を要求される。「なぜ邪魔をした?」とホルストに尋問されたニックは、「女性に銃を向けていたから」と説明した。ニックと格闘になった男は警部で、病院から死亡の連絡が届いた。
ストレックは部下にニックを暴行させ、情報を吐かせようとする。牢からの脱出を試みしたニックは、フラモンドのいる地下牢に迷い込む。フラモンドは1年前に秘密警察に地下牢へ閉じ込められたこと、ポラリス機雷を作らされていること、拒否すれば娘を殺すと脅されていることをニックに話す。完成の期限は、NATOの全潜水艦が海峡を通過する日曜だ。ニックは発見され、銃殺刑にされそうになる。しかしストレックは国際紛争を避けるため、処刑を中止してニックを舞台に出すことにした。
ニックがコンサートを終えると、舞台裏に侵入していたヒラリーが連れ出す。射殺のために待機していた兵士たちから逃れて公園に着いたヒラリーは、ニックに「近くに古書店がある。レジスタンスの仲間よ」と言う。全て話すよう求められた彼女は、「1年前、父が秘密警察に連行された」と写真を見せる。ヒラリーがフラモンドの娘だと知ったニックは、一緒に古書店へ赴く。ヒラリーが「トーチに会いたい」と言うと、店主のヨルゲンソンは「連絡を取ってみましょう」と翌朝まで屋根裏部屋で宿泊するよう促した。
ヒラリーはニックから子供時代の話をするよう求められ、叔父が南海の船旅に連れて行ってくれた少女時代の出来事を語る。嵐で船は沈み、彼女はナイジェルという少年と2人で孤島に流れ着いた。そこで2人は家を建て、食糧を手に入れ、愛が芽生えた。しかしナイジェルは漁に出たまま帰らず、ヒラリーは数ヶ月後に通り掛かった船に救助された。翌日、ニックとヒラリーはアルベルト・ポテトの農場を訪れた。するとレジスタンスのドゥクワやデジャヴ、ムースたちが集まっており、ヒラリーはトーチとの面会を求めた。そこに現れたトーチがナイジェルだったので、ヒラリーは再会を喜んだ。
ニックはトーチたちにフラモンドと会ったことを教え、日曜にポラリス機雷が完成することを告げる。兵士たちが農場を包囲して発砲して来たので、ニックたちは応戦する。敵を一掃したニックたちは、ピザ・ハウスへ移動した。ナイジェルは仲間に、フラモンドの救出計画を説明する。ニックが去ろうとすると、ヒラリーは協力を要請した。レジスタンスのラトリーンは、裏切り者が敵に情報を伝えている証拠を入手した。ニックたちは飛行機からパラシュートで降下し、フラモンドの救出に向かった…。

監督はジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカー、脚本はジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカー&マーティン・バーク、製作はジョン・デイヴィソン&ハント・ロウリー、製作協力はトム・ジェイコブソン、製作総指揮はジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカー、撮影はクリストファー・チャリス、美術はピーター・ラモント、編集はバーナード・グリブル、衣装はエマ・ポーテウス、音楽はモーリス・ジャール。
出演はヴァル・キルマー、ルーシー・ゲタリッジ、ピーター・カッシング、ジェレミー・ケンプ、クリストファー・ヴィリアーズ、ウォーレン・クラーク、マイケル・ガフ、ハリー・ディトソン、ジム・カーター、エディー・タゴー、オマー・シャリフ、ビリー・J・ミッチェル、イアン・マクニース、ディミトリ・アンドレアス、ジョン・カーニー、O・T、ジョン・シャープ、リチャード・メイエス、ラッセル・ソマーズ、マンディー・ナン、リー・シェワード、サラ・モンタギュー、ジェリー・パリス、デヴィッド・アダムス、ジェフ・ウェイン、シドニー・アーノルド、ヤノス・クルクス他。


『フライングハイ』に続いてジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカーが監督&脚本を務めた作品。
ニックをヴァル・キルマー、ヒラリーをルーシー・ゲタリッジ、ヨルゲンソンをピーター・カッシング、ストレックをジェレミー・ケンプ、ナイジェルをクリストファー・ヴィリアーズ、ホルストをウォーレン・クラーク、フラモンドをマイケル・ガフ、ドゥクワをハリー・ディトソン、デジャヴをジム・カーター、ムースをエディー・タゴーが演じている。

おバカ満開のコメディー映画なのだが、その割りにはスタッフと出演者が無駄に豪華。
「後にビッグになる面々が多く参加している」ってことじゃなくて、既に著名だったメンツが参加しているのだ。
音楽担当は『アラビアのロレンス』と『ドクトル・ジバゴ』でアカデミー賞作曲賞を受賞したモーリス・ジャール。
撮影は『素晴らしきヒコーキ野郎』や『ナバロンの嵐』のクリストファー・チャリス。
美術は『007/ユア・アイズ・オンリー』『007/オクトパシー』のピーター・ラモント。

出演者では、書店の店主が『スター・ウォーズ』で帝国軍のターキン司令官を演じていたピーター・カッシング。
そんなカッシングとハマー・フィルム・プロダクションの作品で何度も共演していたマイケル・ガフがフラモンド役で出演しているが、たぶん2人の起用はZAZトリオの趣味だろう。
だが、何と言っても特筆すべきは、セドリック役のオマー・シャリフ。
『アラビアのロレンス』と『ドクトル・ジバゴ』でゴールデングローブ賞助演男優賞と主演男優賞をそれぞれ受賞した名優が、こんなバカ映画に出ているのだ。

冒頭、東ドイツを走る汽車の屋根で、セドリックとストレック将軍が戦っている。石のトンネルが近付いたのでセドリックは身を伏せるが、背中を向けている将校は気付かずに激突する。するとトンネルは崩壊するが、将校はピンピンしている。
司令部にスパイ逃亡を報告する兵士は、バイクを建物の外に停めて棒に紐で繋ぐ。司令部ではシリアスな雰囲気で会議が行われており、ストレックはドイツ統一の計画を口にする。
そこで流れてくるニック・リヴァースの曲は、モロにザ・ビーチ・ボーイス風。そして画面が切り替わり、ライフルを持った水着の男たちがサーフボードを抱えて海へと走る姿が写し出されてタイトルロールになる。
男たちがサーフィンをしたり、水着の女性たちと学校の廊下を走ったりするのは青春映画風だが、ライフルを携えたり発砲したりするトコでヘンテコさが出ている。

ニックがヒットチャートで1位から4位までを独占しているのを示す時、5位に入っているのはエリック・クラプトンで6位はデュラン・デュラン。ニックの4位の曲はデュエットで、組んでいる相手はカントリー歌手のタミー・ワイネット。
MSGのコンサートでは、他にスティーヴィー・ワンダー、リンダ・ロンシュタット、フランク・シナトラも出演する中でニックがメインになっている。
ややこしいのが、歌っているのはザ・ビーチ・ボーイズ風のサーフィン・ホットロッドなのに、ニックのモデルはエルヴィス・プレスリーってことだ。この作品は、かつてエルヴィス・プレスリーが主演を務めていたような、アイドル映画をネタにしているのだ。
ただ、そこを土台に使っているけど、『フライングハイ』と同じくストーリーは体裁を整えるために用意されているだけであり、ほぼ意味 は無い。その場でその場でパロディーと小ネタを次から次へと盛り込んでいき、それを繋ぎ合わせて1本の映画にしている。

汽車で東ドイツへ向かうニックは、窓の外を見て絵を描いている。でも汽車は走っているから景色はどんどん変化しており、ニックの絵は「カメラを素早く横移動させて木を撮影した映像」みたいになっている。
汽車が駅に着くて憲兵が男を包囲し、数匹の犬が吠えている。男は小包を抱えているが、中身は骨。だから小包が落ちて骨が床に散らばると、犬たちが群がる。
出発のベルが鳴ってニックが窓の外を見ていると駅が遠ざかるが、それは台車に乗っている駅の方が移動している。
画面にヨーロッパの地図が出ると、パリを出た汽車が東ドイツに入ったことを示す点線が表示される。東ドイツの部分がアップになると、ニックが汽車を降りて車に乗ったことを示す音が流れる。そして路線図の中に無数の点が増えて行き、車の移動を示す。だが、それが途中で変になり、パックマンの画面に変化する。
歓迎式典が始まると名誉の鍵を渡すプレゼンターとして東ドイツの五輪チームが登場するが、女子なのに異様にムキムキ。

セドリックはパーティー・グッズの売り子に化けた連絡員に接触するが、周囲にバレないよう途中で「こんな商品は」と勧められる行動が挟まれる。最初は花の匂いを嗅ぐよう言われ、顔を近付けると水が発射されてビチャビチャになる。次は葉巻を勧められ、吸うと爆発する。最後にスプレーを渡され、噴射しようとすると底が抜けて顔がクリームまみれになる。
改めて書いておくが、そういう目に遭うキャラを演じているのが世界的名優のオマー・シャリフだ。
式典の最後には東ドイツ国家の斉唱があるが、最初から最後までデタラメだ。「ハイル、ハイル、東ドイツ」から始まるが、「きっと後悔する国、逃げ出したくなる国。トンネルを掘っても壁を乗り越えても無駄。必ず撃ち殺される」という歌詞になっている。
レストランへ赴いたニックがテーブルに行くと、手紙が置いてある。マーティンの「今日は出席できない。喉が痛いので先に失礼する」という彼の声が聞こえてくるが、「ニックが手紙を文面を読んでいる」と見せ掛けて、実は拡声器を使って近くで本人が喋っている。

ヒラリーは連絡員に接触した時、「これをニューヨークへ」と封筒を渡している。追っ手に撃たれた連絡員は封筒を燃やすが、何か重要な手紙なのかと思いきや「出版情報センター宛」と書かれている。
カフェ支配人が「外国から素晴らしい歌手をお迎えしております」などとビレトニコフを紹介して歌ってもらおうとすると、勘違いしたニックがステージへ上がる。彼はバンドに楽譜を渡し、Little Richardの『Tutti Fruti』をノリノリで披露する。
ヒラリーがホテルの部屋に戻ると、車ごとスクラップされて小さくなったセドリックが現れる。彼が咳き込んでいると、ヒラリーは車にガソリンを注入する。チケットを取ろうとするセドリックだが、車に閉じ込められているので上手く手が使えずワイパーが顔に当たったり水が出たりする。ヒラリーがチケットを取ろうとすると、オッパイがセドリックの顔に当たる。
スクラップされた車の被り物を着けた状態で、オマー・シャリフは真剣に滑稽な芝居をしている。

『くるみ割り人形』のバレエ公演では、バレリーナが男性ダンサーの股間の膨らみを土台にして空中を歩く。
ニックがヒラリーを襲う男の顔を掴むと、手を離してもしばらくは元に戻らない。
逃げ出したニックとヒラリーは清掃用具入れに隠れようとするが、清掃員が隠れている。そこで隣の「Prop Room」に入ると、大量のプロペラが置いてある。
牢獄に入れられたニックは、壁に20を意味する線を書いている。そこにマーティンが迎えに来ると、「もう20分も入ってる」と告げる。
マーティンは「手は全て尽くした。大使館、ドイツ政府、領事館。国連大使にも相談した」と言い、「妻を満足させられん」と嘆く。

ニックは牢の通風孔から脱出しようとするが、同じ独房にある別の通風孔から戻って来る。何度か繰り返すと、便器から顔を出したりする。
フラモンドはポラリス機雷について、「強力な磁気機雷だ。遥か彼方の潜水艦でもくっつく」と言う。ニックが勝手に作動させると、壁を突き破って潜水艦が突っ込んでくる。
ニックたちが書店に行くと、ヨルゲンソンは虫眼鏡を使って本を読んでいる。虫眼鏡のせいで左目が大きくなっているように見えるが、虫眼鏡を外しても全く同じ大きさの左目をしている。
ヨルゲンソンの書店では、ニックが高い場所に本を投げると、スポッっと本棚に吸い込まれる。ヨルゲンソンが本を吹くと、そこに埃が一瞬で集まる。ニックとヒラリーが滑り棒を掴むと、力を入れていないのにスルスルと上昇する。
そんな様子が描かれる間、ヨルゲンソンとヒラリーはスウェーデン語を話している設定で、字幕が出ている。しかし、そこは全て逆再生している映像だ。つまりヨルゲンソンとヒラリーは英語を話していて、それを逆再生した台詞を「スウェーデン語」として出しているのだ。

屋根裏部屋にカットが切り替わると、ヒラリーの「いいのよ、気にしないで。初めての時にはよくあることよ」という声が聞こえる。それは彼女が読んでいる本の文章。
ヒラリーが語るナイジェルと孤島に流れ着いた出来事は、『青い珊瑚礁』のパロディー。
農場でヒラリーはナイジェルと再会するが、彼は孤島で暮らしていた時と全く同じ格好。
レジスタンスの中にはデジャヴという男がいて、「どこかで前に会ったかな?」と口にする。

クライマックスでニックがバイクを走らせるシーンは、『大脱走』のパロディー。
ニックとナイジェルが揉み合って川に落ちると水中酒場があり、西部劇チックな格闘シーンになる。
それ以外にも色々とネタは出て来るのだが、そろそろ面倒になって来たので「後は自分で見て確かめてください」と書いておこう。
個人的には、オマー・シャリフが登場しなくなってからは一気に喜劇としてのパワーが落ちるという印象だ。もうさ、オマー・シャリフが真面目な顔でバカなことをやっているだけで、なんか面白いからね。

(観賞日:2020年8月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会