『トゥームレイダー ファースト・ミッション』:2018、アメリカ&イギリス

日本最古の女王である卑弥呼は巫女であり、黒魔術を使って国を統治していた。その手は触れただけで死と破壊をもたらしたが、配下の将軍に捕まって無人島に幽閉された。それは「魔の海」に位置する孤島で、卑弥呼は山の地下深くに埋葬された。リチャード・クロフトが入手した古地図によると、卑弥呼は未だに解き放たれるのを待っている。2009年5月17日、リチャードは最愛の娘であるララと別れることになっても、誰よりも先に孤島へ辿り着かねばならないと心に誓った。
現在。ララはロンドンで総合格闘技のジムに通っているが、スパーリングで完敗を喫する。それでも彼女は友人のソフィーに、「もう少しで勝てた」と強気な態度を示す。月謝を滞納している彼女はトレーナーのテリーから支払いを催促され、「すぐに払うわ」と告げる。ララは練習を終えると、自転車便の仕事に出掛けた。ブルースが経営する会社に戻った彼女は、同僚のビルとログが話すキツネ狩りレースに興味を抱いた。先にキツネ役の人物がペンキの流れる自転車でスタートし、それを猟犬役の面々が追い掛ける。ペンキが無くなるまで逃げ切れば勝ちで、600ポンドを総取り出来るというレースだ。
ララはキツネ役に立候補し、レースに参加した。彼女は大勢の面々に追い掛けられながら、街を疾走する。余裕を見せていたララだが、父に似た男の後ろ姿を気にしたせいでパトカーに激突してしまった。警察署に連行されたララが待機していると、クロフト社の重役を務めるアナ・ミラーが身柄の引き取りにやって来た。遺産を相続すれば金に困ることは無いのだとアナが説明すると、ララは断固として拒否した。リチャードの失踪から既に7年が経過し、東京の警察は5年前に捜索を打ち切っていた。アナはララの気持ちを変えさせるため、「書類にサインしないと、財産は全て競売に掛けられる。会社だけでなく屋敷も含まれる」と説明した。
屋敷に戻ったララは、父が出発した日のことを思い出した。リチャードは孤島へ行くことを決めた時、幼いララに「クロフト家の人間には大きな責任がある」と語っていた。彼は寂しがるララに亡き妻のお守りを渡し、「これには特別な力がある。誰かに会いたい時、その人を思い浮かべて力強く握るんだ。そうすれば、その思いが相手に伝わる」と話した。次の日、ララはクロフト社へ出向き、アナと遺産管理人のヤッフェに会って遺産相続の書類にサインしようとする。ヤッフェが取り出した日本の細工箱に気付いたララは、「リチャードから何かあれば貴方に渡すよう言われていた」と聞かされる。
ララが細工箱を適当に回していると、中から鍵と「最後の旅先の最初の手紙」と書かれた紙が出て来た。彼女は書類にサインせず、屋敷へ戻った。ララはメッセージの意味を悟り、地下墓地に入って父の名の「R」の部分を押した。すると鍵穴が出現し、鍵を差し込んで回すと秘密の扉が開いた。ララが階段を下りると大きな地下室があり、机の引き出しにはリチャードが使っていた複数のパスポートが入っていた。ララが地下室に置いてあるビデオを再生すると、リチャードが画面に向かって話し掛けていた。彼は自分が死ぬ可能性を感じ、娘へのビデオメッセージを残したのだ。
リチャードはララに、「卑弥呼に関する研究の全てを焼却してほしい。間違った者の手に渡れば壊滅的な事態を引き起こすかもしれない」と言い残していた。ララは父が残した資料を調べ、2011年7月19日に香港のルー・レンという男の船で島へ渡ったことを知った。ララは母のお守りを売って金を工面し、香港へ飛んだ。船着き場でルーを捜索していたララは、青年3人組に鞄を奪われる。ララは追い掛けて鞄を取り戻すが、ナイフを向けられたので逃走した。彼女が船に飛び込むと、船長が威嚇発砲で3人組を追い払った。
ルー・レンを捜していることをララが話すと、船長は「俺のことだ」と言う。ルーはララを銃で脅して追い払おうとするが、泥酔していたため甲板に落ちて気を失った。ララはシャワーの水を浴びせ、ルーを起こした。するとルーは、リチャードを島に運んだのは自分の父親だと話す。ルーは父親と同じ名前で、リチャードのことは何も知らなかった。父親についてララが尋ねると、「7年前に船で出掛けてから見ていない」とルーは答えた。
ララは孤島に渡ろうと考え、父の日記に書かれている記号を解読しようとする。ルーは時計の針がヒントだと教え、ララは孤島の場所を突き止めた。それが魔の海の真ん中だと知ったルーは、危険すぎると感じて船を出そうとしない。しかし博奕で散財したと見抜いたララが札束を見せて報酬を約束すると、ルーは協力を承諾した。日記を詳しく読んだララは、人類の支配を目論む秘密結社の「トリニティ」がリチャードを監視していたことを知った。
ルーの船は島に近付くが、時化に見舞われてエンジンが壊れてしまう。ララとルーは制御不能になった船を捨てて海に飛び込み、離れ離れになってしまう。ララは島に辿り着くが、何者かに後頭部を殴られて意識を失った。ララが目を覚ますと、そこはトリニティのマサイアス・ヴォーゲルが生活するテントだった。ヴォーゲルは7年前から、卑弥呼の埋葬場所を捜索していた。彼はリチャードの日記を読んで入り口の場所を知り、「君は俺が欲しかった物を運んでくれた」とララに言う。ヴォーゲルはララに、リチャードが協力を拒否したので始末したと話す。
トリニティは大勢の男たちを捕まえて肉体労働に従事させており、その中には捕まったばかりのルーもいた。ヴォーゲルは手下たちに荷物をまとめるよう指示し、キャンプの移動を開始した。ルーと話したララは、彼の父もヴォーゲルに殺されたことを聞かされる。ヴォーゲルはリチャードの日記に書かれていた場所を発見し、作業を始めさせる。彼は病気の男を容赦なく射殺し、ララに拳銃を向けて威嚇した。ルーはトリニティの連中に殴り掛かり、ララを逃亡させた。
発砲を受けたララは丸太の端から落下し、激流に飲まれた。滝壺が迫る中、彼女は飛行機の残骸にしがみ付いた。しかし残骸が滝壺に飲み込まれたため、ララは機内にあったパラシュートを使って森に落ちた。怪我を負ったララは海岸へ移動し、夜になって襲って来た男を始末した。目撃者に気付いた彼女は後を追い掛け、洞窟で暮らすリチャードを発見した。ララは再会に感涙し、リチャードに怪我を手当てしてもらって眠りに就いた。
次の日、ヴォーゲルは卑弥呼の墓を発見し、本部に連絡を入れて輸送の手配を頼む。目を覚ましたララは、リチャードから「トリニティはヴォーゲルを送り込み、卑弥呼を目覚めさせて力を得ようとした。だから止めようとした」と聞かされる。ララが資料を処分していないと聞いたリチャードは、「せっかく私が何年も奴らに無駄足を踏ませていたのに、お前はたった5日で墓に案内した」と腹を立てる。父に「ヴォーゲルが棺を開いたら、卑弥呼の呪いが世界中に放たれる。お前は来るべきじゃなかった」と言われたララは、「島を出ましょう。ヴォーゲルの衛星電話を奪って、助けを呼べばいい」と語った。リチャードが「奴には軍隊がある」と反対すると、ララは弓矢を手にしてトリニティのキャンプへ走った。
ララは見張りの男を始末し、ルーに「私は衛星電話を奪う。みんなで島から逃げるのよ」と告げる。一味が気付いて発砲してくると、ララはルーに捕まっている面々を避難させるよう頼む。リチャードは不用意に墓の入口へ近付き、ヴォーゲルに捕まった。扉の開け方を教えるよう要求されたリチャードが拒否すると、ヴォーゲルは手下に始末させようとする。そこへララが来て手下を始末し、ヴォーゲルに矢を向ける。ヴォーゲルは銃を構え、「お前が矢を放っても引き金は引ける」と言う。リチャードは「ララ、弓を射るんだ。奴を卑弥呼の所へ行かせるな」と告げるが、ララは弓を下ろして扉を開けてしまう…。

監督はローアル・ユートハウグ、原案はエヴァン・ドーハティー&ジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレット、脚本はジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレット&アラスター・シドンズ、製作はグレアム・キング、製作総指揮はパトリック・マコーミック&デニス・オサリヴァン&ノア・ヒューズ、撮影はジョージ・リッチモンド、美術はゲイリー・フリーマン、編集はスチュアート・ベアード&マイケル・トロニック&トム・ハリソン=リード、衣装はコリーン・アトウッド&ティモシー・A・ウォンシク、視覚効果監修はポール・リンデン、音楽はトム・ホルケンボルフ。
出演はアリシア・ヴィカンダー、ドミニク・ウェスト、クリスティン・スコット・トーマス、ウォルトン・ゴギンズ、ダニエル・ウー、デレク・ジャコビ、ハナ・ジョン=カーメン、アレクサンドル・ウィローム、テイマー・ブルヤク、エイドリアン・コリンズ、キーナン・アリソン、アンドリアン・マジヴ、ミルトン・ショア、ピーター・ワイソン、サミュエル・マク、スカイ・ヤン、シヴィック・チュン、ジョセフ・アルティン、ビリー・ポスルスウェイト他。


世界的なビデオゲーム『トゥームレイダー』シリーズを基にした作品。
監督は『THE WAVE/ザ・ウェイブ』のローアル・ユートハウグ。
脚本は、これがデビューとなるジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレットと『アウトサイダーズ』のアラスター・シドンズ。
2001年と2003年に『トゥームレイダー』シリーズが映画化された時はアンジェリーナ・ジョリーがララ・クロフトを演じていたが、今回は『リリーのすべて』『エクス・マキナ』が起用された。
リチャードをドミニク・ウェスト、アナをクリスティン・スコット・トーマス、マサイアスをウォルトン・ゴギンズ、ルーをダニエル・ウー、ヤッフェをデレク・ジャコビ、ソフィーをハナ・ジョン=カーメンが演じている。
ちなみにビル役のビリー・ポスルスウェイトは、ピート・ポスルスウェイトの息子。アンクレジットだが、質屋の店主のアラン役でニック・フロストが出演している。

今回は「卑弥呼を目覚めさせて力を得ようとする一味の野望を阻止する」というミッションがあるのだが、「卑弥呼が死と破壊をもたらす黒魔術の使い手」という邪悪な能力者の設定になっているのは、日本人としては引っ掛かるモノがある。
ただ、これに関しては「そんな風に言い伝えられている」というだけで、終盤に入ると「事実は異なる」ってことが明かされる。
ネタバレだが、卑弥呼は重い疫病を患い、感染の拡大を防ぐために孤島へ渡ったってのが真相だ。
ただ、そうなると「卑弥呼が死と破壊をもたらす黒魔術師」ってのも間違いなので、「卑弥呼を目覚めさせて力を得ようとする」というトリニティの計画は破綻しちゃうと思うんだけどね。

そこに関しては完全にスルーして、「それでもヴォーゲルは卑弥呼を目覚めさせようとする」という流れになっている。
一応、「トリニティは最初から卑弥呼が疫病だと知っており、それを利用した大量殺戮を企てている」と解釈すれば、何とか成立しないわけではない。
ただ、そう解釈しても、腑に落ちるわけではない。
なぜなら、病原菌を利用したテロを画策するなら、卑弥呼の遺体に固執しなくても他に幾らでも方法はあるからだ。

それはともかく、トリニティが卑弥呼の墓を暴こうとしているわけだから、日本が舞台になると思うのは普通だろう。
しかし、なぜか日本列島から離れた孤島が邪馬台国という設定だ。なので、卑弥呼が題材なのに日本人が1人も登場しない。
「卑弥呼の墓」ってのは日本市を意識した設定なのかと思ったら、そうでもないのね。意識していたら、絶対に日本人俳優を起用するだろうしね。
まあねえ、昔と違って、今は日本市場もそんなに稼ぎを期待できない場所になっちゃってるからねえ。

ララは初登場した時、総合格闘技のジムでスパーリングをやっている。相手に一方的にやられて、最後は背後からのスリーパーホールドでタップしている。しかし控室に戻った彼女は完敗を認めず、「もう少しで倒せた」と口にする。
勝ち気な性格ではあるが、運動能力が高いとは言えないってことが、最初のシーンで示されている。
この段階で、早くも「アンジーの時とは全く違うキャラ設定になっている」ってことがハッキリする。
アンジーの時のララ・クロフトは、最初から運動能力の高いスーパーヒロインだった。

ララ・クロフトのキャラ設定をアンジー版から大きく変更したのは「どうせ比較されるのは確実なので、差異を付けたい」という狙いがあったのだろう。
ただ、実は原作通りのキャラ設定でもある。
この映画のベースになっているのは2013年に発売されたリブート版のゲームで、それは「まだララがトレジャーハンターになる前の最初の冒険」という設定なのだ。
ただ、ゲームなら自分で主人公を操作できるから「駆け出しの冒険家」でも全く問題は無いが、映画だと単純に「頼りないヒロイン」となってしまう。

そのままだとララが「口だけで中身の伴わないヒロイン」になってしまうからマズいだろうってことなのか、キツネ狩りのシーンで彼女の運動能力をアピールしている。
ただ、余所見をしてパトカーに激突するオチが待っているので、あまりカッコイイとは言えない。
香港に渡ると男たちを追い掛けて鞄を取り戻すシーンがあるが、これも「ナイフを向けられたので逃げ出す」という展開に繋がっており、やはり「ヒロインがカッコ良く活躍している」とは言い難い。
っていうか、彼女が運動能力を発揮するのって、どっちも「走る速さ」なのね。だからってパルクール的な動きを見せるわけでもないし、アクションシーンとしての面白味は皆無に等しい。

ララが父の残した鍵とメッセージを発見するのは、「適当に細工箱を回していたら開いた」というだけ。そこは偶然に頼り切っているのに、なぜかメッセージの意味を瞬時に解読する知恵は発揮する。
その場によって、ララの知能レベルがコロコロと変化しているわけだ。
知能レベルだけじゃなくて、考え方の問題もあるよな。細工箱の時だって、「何かあるかも」と感じていれば、それを解こうとして触るはずで。そういう形にしておいた方が良かったんじゃないのか。そこを偶然に頼っても、話としてのメリットは無さそうだし。
あと、リチャードのノートに書かれた記号を解読する時は、ルーがチラッと見ただけで「時計の針だ」とヒントをくれるのね。そこは偶然でもなく、ララの超推理でもなく、他人の力に頼るわけね。

ララの行動は、リチャードが全てを犠牲にして頑張って来た努力を全て台無しにしている。
リチャードが指摘するように、彼が偽の情報をトリニティに与えて何年も邪魔して来たのに、ララが島へ来て日記を奪われたせいで、たった5日で卑弥呼の墓を発見されているのだ。
ララが資料を持って島に来なかったら、きっとトリニティは永遠に卑弥呼の墓を発見できなかったはずなのだ。
もちろん「父親に会いたい気持ちが強かった」という理由はあるが、「ララのせいで問題が一気に悪化した」ってのは紛れも無い事実だ。

それでも、まだ問題を解決できるチャンスはあった。リチャードから指示された時、ヴォーゲルに矢を放っていれば、それで片付いたはずなのだ。
でもララは、ヴォーゲルをに矢を放とうとしない。それどころか、パズルを解いて扉を開けてしまう。
もちろん「自分が矢を放つと、ヴォーゲルは殺せてもリチャードも死んでしまう可能性が高いから」という事情はある。でも、彼女のせいで問題が悪化していることは、紛れも無い事実だ。なので、その後で問題を解決しても、それはマッチポンプになってしまう。
しかも、実はララの活躍で問題が解決するわけじゃなくて、リチャードが自らを犠牲にして墓を爆破しているんだよね。
そんなリチャードの死にしても、ララが島に来たことや扉を開いたことが原因と言えなくもないし。

(観賞日:2019年6月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会