『タイタニック』:1997、アメリカ

海底に沈んだアメリカの豪華客船タイタニック号の探索が、ブロック・ロベット率いるクルーによって行われていた。彼らの目的は世界最高と言われるブルーダイヤだったが、引き揚げた金庫の中からは発見されず、代わりにブルーダイヤを身に付けた女性を描いたスケッチ画が見つかった。
そのニュースをテレビで見ていた老女ローズは驚く。そのスケッチ画に描かれた女性は自分だったのだ。探査船に向かったローズは、ブロック達にタイタニック号での出来事を語り始める。それは1912年、84年の前の出来事であった。
上流階級に育った若き日のローズは、母ルースや婚約者キャル達と共に、イギリスを出航してニューヨークへ向かうタイタニック号に乗り込んだ。一方、貧乏画家ジャック・ドーソンは、三等乗船券を掛けたポーカーに勝って、友人ファブリッツィオと共にタイタニック号に乗り込んだ。
船内でローズを見掛けたジャックは、彼女に興味を惹かれる。自分の将来が全て決まっていることに絶望したローズは、夜中に船から身を投げようとする。それを目撃したジャックは、ローズに話し掛けて身投げを思い留まらせた。
その事件をきっかけに、2人は次第に親密になっていく。やがて愛し合うようになった2人だが、ローズの周囲の人々は身分の違うジャックとの関係を断ち切ろうとする。そんな中、タイタニック号は氷山に衝突して破損し、海中へと沈み始める…。

監督&脚本はジェームズ・キャメロン、製作はジェームズ・キャメロン&ジョン・ランドー、共同製作はアル・ギディングス&グラント・ヒル&シャロン・マン、製作協力はパメラ・イーズリー・ハリス、製作総指揮はレイ・サンキーニ、撮影はラッセル・カーペンター、編集はコンラッド・バフ&ジェームズ・キャメロン&リチャード・A・ハリス、美術はピーター・ラモント、衣装はデボラ・L・スコット、特殊視覚効果はデジタル・ドメイン、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はレオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、ビリー・ゼイン、キャシー・ベイツ、ビル・パクストン、グロリア・スチュアート、フランシス・フィッシャー、バーナード・ヒル、ジョナサン・ハイド、デヴィッド・ワーナー、ヴィクター・ガーバー、ダニー・ヌッチ、スージー・エイミス、ルイス・エイバーネイシー他。


もはや説明不要とも言える大ヒット作。第70回アカデミー賞で、史上最多となる11部門(最優秀作品賞、監督賞、撮影賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、主題歌賞、音響賞、音響効果編集賞、特殊視覚効果賞)を受賞した。
5年の歳月、240億円の製作費が掛けられた。メキシコのスタジオには、ほぼ原寸大のタイタニック号のレプリカが作られた。調度品などの内装も、全て当時と同じように再現された。
というわけで、「金と時間をたっぷり掛ければ、これぐらいのことは出来ちゃうのよ」ということを、全世界に証明してみせた作品である。

多くの人々が亡くなったという悲劇性は無い。描かれているのはジャック&ローズの恋愛。ラブストーリーとしての要素とパニック映画としての要素は全く融合することなく、完全に分離している。
残念ながら、こんな恋愛物語で感動できるほど、私は純朴な人間ではない。

ブルーダイヤが物語の始まるきっかけになっているのは疑問。なぜなら、それはローズがキャルからプレゼントされたものだからだ。ジャックとローズの恋愛ドラマが主軸なのだから、2人の関係を象徴するような小道具が物語の発端になるべきではないのだろうか。

一部を除けば、1912年に起こったタイタニック号での出来事が描かれる。そして、それは全てローズが語っているという形式を取っている。つまり、ブロック達は老婆の昔話を2時間以上も延々と聞かされているわけだ。そう考えると、ちょっと笑えてしまう。
それにしても、ジャックがポーカーで勝って乗船券を手に入れた話などは、ローズは現場に居合わせていないのだから、本当かどうかは分からないだろ。ジャックが船室に監禁されている時の出来事も、ローズはその場にいなかったのだから、知るはずが無いのだし。

ローズが過去を語り始めるまでの前置きが長すぎ。ブロックの仲間がタイタニックの衝突事故についてベラベラと語るシーンなんて、もっと短くても構わない(もしくは要らない)と思うぞ。というか、そもそもローズが探査船に行く必要性も分からないが。

ジャックを演じるのはレオナルド・ディカプリオ。ジャックは貧乏画家のはずなのに、髪はキッチリ整えられているし、不精ヒゲが生えていることも無い(航海中に生えてくることも無い。髭剃りを持っていたとは思えないが)。見た目がスッキリしていて、みすぼらしさや貧しさは全く感じられない。
ローズを演じるのはケイト・ウィンスレットローズは自分の将来に絶望しているのだが、それが贅沢でワガママな考えにしか思えない。身投げしようとする行動も、甘ったれているとしか見えない。そう見えてしまうと、もはや悲劇のヒロインとは思えない。

乗船者はジャックとローズの他にもたくさんいるわけだが、個性を存分に発揮してくれる脇役キャラクターは存在しない。どうやら脇役を描くことに興味は無いらしい。例えばジャックの友人ファブリッツィオなどは、あっという間に消えてしまう。
ビリー・ゼイン演じるキャルにしろ、キャシー・ベイツ演じるモリーにしろ、もっとストーリーに絡んでくるべきだったのでは。デヴィッド・ワーナー演じるキャルの執事ラブジョイにしても、ジャックに嫌がらせをしただけで終わってるし。

もともと紋切り型のキャラクター造形をしているのだから、キャルやラブジョイは他の人を押しのけて助かろうとして海に投げ出されてしまうとか、そういう形にすればいいのに。「憎まれっ子世にはばかる」みたいな形で終わってるのはどうなんだろうか。
ジャックの扱いも悪い。あの描き方だと、ただ逃げ遅れて救命ボートに乗れなくて死んだだけだ。彼は主人公なんだから、ローズを助けようとして命を落とすとか、そういう形にすべきでしょうに。彼はタイタニック号の中で死ぬべきだったと思うぞ。

「冷たい海水に濡れているのに、メイン2人に寒いことを示す表現がほとんど無い」とか、「水の中を泳いできたはずなのに、衣装や体が全く濡れていない」とか、ツッコミを入れたくなる場面は幾つかあるのだが、それは2人の愛の力が呼び起こした奇跡なのかもしれない。

特撮技術は素晴らしいと言いたいところだが、所々で作り物だと分かるアラがある。特に船と海とが同時に映し出される場面では、不自然さが感じられる。人間がタイタニック号から投げ出される場面でも、作り込み過ぎたのが逆効果になっている部分がある。

ローズが「素晴らしいデッサン」「才能がありそう」と賞賛するジャックのスケッチ画は、絵の素人である私には特に優れたものとも見えないが、それらは全てジェームズ・キャメロン監督が描いたものらしい。つまり、自画自賛しているわけだ。なるほどね。

 

*ポンコツ映画愛護協会