『デ・ヴィル家への招待状』:2022、アメリカ
イギリスのニュー・カーファックス・アビー。デ・ヴィル家の屋敷で暮らす女性は、深夜に執事のフィールドから体が弱るので食事を取るよう促された。女性が拒否すると、フィールドは「貴方の行動には誰もが懸念を抱いています」と告げる。女性は怪力で彼を突き飛ばし、部屋を飛び出した。彼女はワイヤーを首に括り付けると、廊下に飾ってある石像を抱き上げた。女性は「私で全て終わらせる」と呟き、飛び降りて自殺した。
アメリカ。イヴィー・ジャクソンは大学院で美術を学びながら、ケータリングのアルバイトで生計を立てている。彼女は14歳で父を亡くし、数ヶ月前に母が癌で死去した。母は癌になる前から、イギリスに行って家族のルーツを知りたいと言っていた。イヴィーは専門サイトに遺伝子の検体を郵送し、親族を調べてもらうことにした。結果が判明し、イヴィーはイギリスに住むオリヴァー・アレグザンダー三世が親族だと知った。オリヴァーはイヴィーに、面会を望むメールを送って来た。
イヴィーは親友のグレイスから危険だと忠告されるが、不動産関係の家業でアメリカに来たオリヴァーと会った。オリヴァーはイヴィーの曽祖母であるエマリンが1925年に使用人と密通したこと、内緒で出産して別の男性と結婚したこと、使用人が赤ん坊を引き取って育てたことを説明した。オリヴァーは一家全員がイヴィーを歓迎していると語り、もうすぐ親戚のマーティンがデ・ヴィル家の令嬢であるセシルと結婚することを明かした。彼はイギリスの田園地方で盛大に祝うのだと言い、イヴィーを招待する。イヴィーは「旅行する余裕が無い」と断るが、オリヴァーが「旅費は出す。大叔父が君に会いたがっている」と話すので参列することにした。
イヴィーはイギリスへ行き、デ・ヴィル家の豪邸を見て驚いた。彼女が到着した時、ちょうど新たに雇われた5人のメイドが来ていた。イヴィーは屋敷の主人であるウォルターと挨拶を交わし、好感を抱いた。執事のフィールドは彼女を邸内に案内し、書斎は改装のために閉鎖中だと述べた。邸内には多くの美術品が飾ってあり、フィールドはウォルターの趣味だと説明した。侍女のスウィフトはイヴィーを寝室へ案内し、鏡が割れていて交換の手配中だと告げた。
部屋の窓には鉄格子が設置されており、スウィフトは「この時期はモズが攻撃的になるので」と説明した。部屋には呼び鈴があり、用事があれば鳴らすようスウィフトは告げた。壁には若い女性の肖像画が飾ってあり、スウィフトは「先代の奥様です。最近、亡くなりました」と述べた。その夜、ジョギングに出たイヴィーは、窓から見ている女性が「私で終わらせる」と呟く様子を目撃した。イヴィーは飛び起き、それが夢の内容だと知った。
水を飲むため部屋を出たイヴィーは、フィールドがメイドたちを集めて「ここで指示を待つんだ。すぐに呼ばれる」と言う現場を目撃した。そこへスウィフトが来て、危険だから部屋に戻るようにと促した。呼び鈴が鳴ったので、フィールドはメイドのイモジェンに書斎の掃除を命じた。書斎に入ったイモジェンが蝋燭に火を付けると、すぐに全て消えてしまった。蓄音器が勝手に動き、レコードの曲が流れ始めた。イモジェンは天井に張り付いている何者かの存在に気付き、悲鳴を上げた。
翌朝、イヴィーは叔父のジュリアスや大叔父のアルフレッドなど親族の面々に会った。アルフレッドは「一族は全て男性で絶望していた」と言い、イヴィーを歓迎した。フィールドはメイドのディヤともう1人に、地下貯蔵庫からワインを取って来るよう命じた。ディヤたちは貯蔵庫に行き、何者かに襲われた。イヴィーが寝室に戻るとドレスが吊るしてあり、今夜のパーティーで着てほしいというウォルターのメッセージが添えてあった。イヴィーが窓の外に目をやると、モズが瀕死の状態になっていた。
イヴィーはドレスに着替えてパーティーに出席し、花嫁介添人のヴィクトリア・クロップストックとルーシー・ビリングトンに会った。ルーシーは自分たちの一族がデ・ヴィル家の腹心であること、ビリングトン家は法律顧問でクロップストック家は会計顧問であることをイヴィーに語った。イヴィーはウォルターに誘われ、音楽に合わせて一緒に踊った。ヴィクトリアはオリヴァーに、「お祝いを言わないと。アレグザンダー家の女性不足が解消された」と告げた。ウォルターはイヴィーを会場から連れ出し、アトリエに案内した。イヴィーは彼に口説かれ、キスを交わした。
深夜12時になってイヴィーが寝室に戻った後、ヴィクトリアはウォルターに「楽しんだようね」と声を掛けた。ウォルターが「新鮮で気に入ったよ」と言うと、彼女は「初々しいわね」と微笑した。ウォルターは「穏便に」と告げ、冗談めかして済まそうとするヴィクトリアに「本気だぞ」と釘を刺した。イヴィーは侵入者の存在に気付き、慌ててベッドの下に隠れた。ウォルターが部屋に来たので、彼女は「何かいる」と訴えた。しかしウォルターが電気を付けると、何も異常は無かった。
イヴィーはウォルターに添い寝してもらい、会話を交わして落ち着いた。翌朝、彼女はヴィクトリアとルーシーに誘われ、スパへ赴いた。ヴィクトリアが「人を知るには過去を知らないと」と言うと、イヴィーは「目の前の人が全てよ。過去を探る必要は無い」と反論した。するとヴィクトリアは意味ありげに微笑し、「綺麗事だわ。密室で彼が何をしてるか、少しでも興味は無いの?」と問い掛けた。イヴィーが誤って指先から出血すると、ヴィクトリアは口にくわえて吸い取ろうとする。イヴィーが指を引っ込めて「どうかしてる」と腹を立てると、ヴィクトリアは軽く笑った。
イヴィーは書斎に忍び込み、自分の調査資料を発見した。ウォルターは彼女に責められ、「泊める前に客を知りたかった。オリヴァーが親切心で資料をくれた」と説明する。彼が謝罪して「こうなるとは思っていなかったが、君に惹かれてる」と言うと、イヴィーは「同じ気持ちよ」と告げた。彼女はウォルトとキスを交わし、肉体関係を持った。イヴィーはウォルトの用意したドレスに着替え、挙式の前夜祭に出席した。新郎新婦の姿が無いのでウォルトに尋ねると、彼は微笑を浮かべるだけだった。
ウォルトは集まった面々に対し、「我々4家は代々、支え合って来た。だが長い間、重要な存在が欠けており、同盟は不均衡に悩まされてきた」と挨拶のスピーチを始めた。彼は「今夜、失われた絆が結び直され、再び強固になる」と語り、イヴィーとの結婚を宣言した。困惑するイヴィーを放置し、一同は拍手を送った。フィールドはメイドを殺害し、その血をグラスに注いだ。グラスを受け取ったウォルトの発声で、一同は完敗した。イヴィーは屋敷を去ろうとするが、捕まって監禁されてしまった…。監督はジェシカ・M・トンプソン、脚本はブレア・バトラー、製作はエミール・グラッドストーン、製作総指揮はマイケル・P・フラニガン&ジェシカ・M・トンプソン、撮影はオータム・イーキン、美術はフェリシティー・アボット、編集はトム・エルキンス、衣装はダニエル・ノックス、音楽はダラ・テイラー。
出演はナタリー・エマニュエル、トーマス・ドハティー、ショーン・パートウィー、ステファニー・コーネリアセン、アラナ・ボーデン、ヒュー・スキナー、コートニー・テイラー、ティアン・チャウドリー、キャロル・アン・クロフォード、スコット・アレクサンダー・ヤング、イアン・リンゼイ、リリ・ウォルターズ、エリザベス・カウンセル、ヴィラグ・バラニー、ジェレミー・ウィーラー、ヴィクトリア・モンホー、セリーナ=ベティー・ダイアナ・シャライヒャー、アンナ・ライザ・ムラニー、サイモン・サボー、ピーター・リンカ、スティーヴン・サラッコ、ガボール・マツス、カタ・サルボ他。
『ワイルド・スピード』シリーズや『メイズ・ランナー』シリーズのナタリー・エマニュエルと、『ディセンダント』シリーズのトーマス・ドハティーが出演したホラー映画。
監督のジェシカ・M・トンプソンは、これが長編2作目。
脚本は『ポラロイド』『アトラクション』のブレア・バトラー。
イヴィーをナタリー・エマニュエル、ウォルターをトーマス・ドハティー、フィールドをショーン・パートウィー、ヴィクトリアをステファニー・コーネリアセン、ルーシーをアラナ・ボーデン、オリヴァーをヒュー・スキナー、グレースをコートニー・テイラー、ディヤをティアン・チャウドリーが演じている。由緒正しい英国の上流階級の豪邸。冒頭で描かれる女性の強い決意による自害。事情を知らない若い女性が、美しい屋敷の主人と出会って恋に落ちる。
主人は紳士的に振舞うが、何か秘密がありそうな雰囲気。夜ごとに起きる不気味な現象。厳格で高圧的な執事と、仕事を指示されて次々に襲われるメイド。
ってなわけで、いわゆるゴシック・ホラーである。
ただし演出としてはジャンプ・スケアが多用されており、そこに関してはゴリゴリのゴシック・ホラーというわけではない。良く言えば、「手堅くまとめた怪奇映画」ってことになるだろう。そして悪く言うならば、「何番煎じだよ」ってな感じの映画である。
素直な感想としては、そりゃあ完全に後者である。
ひょっとすると、「古典的なジャンルであるゴシック・ホラーと、最近のホラー演出であるジャンプ・スケアを組み合わせれば充分に勝負できるんじゃないか」と思ったのかもしれない。しかし残念ながら、その組み合わせにしても、そんなに目新しいわけではないんだよね。
あと、ジャンプ・スケアは多用する一方で、直接的な残酷描写は避けている。雰囲気を重視する辺りは、ゴシック・ホラー的な演出だ。
ただし、そこに観客を引き付ける力があるのかというと、かなり弱い。もちろん、何でもかんでも目新しさがあれば面白くなるわけではない。昔から使われて来た要素の組み合わせでも、やり方次第では上質な作品に出来る。
しかし本作品には、心を掴まれるようなシナリオや目を奪われるような演出は、これといった見当たらない。良くも悪くも、小ぢんまりと綺麗にまとめようとしている。
だから大きな破綻は無いが、これといった魅力も見当たらない。
仮に私が宣伝担当だったとして、「この映画のセールスポイントは何ですか」と問われても返答に窮してしまうだろう。イヴィーは屋敷で過ごしている間、ウォルトたちに対して疑問も不審も全く抱かない。怖い出来事があっても、その一発だけで持続しない。
つまり、「ヒロインを怖がらせることで観客の不安を煽る」という方法は取っていないわけだ。
そしてイヴィーがウォルトに惚れて幸せ一杯の気分のまま、「実は生贄の花嫁として呼ばれたのでした」という真相が明かされる。
イヴィーが調べて情報を得る手順は皆無のまま、ウォルトが勝手に詳しい事情を説明してくれる。ウォルトは前夜祭のスピーチで、「遠い昔から、君たち人間の一族は私に妻を差し出して来た。3人の花嫁。3は魔法の数字だ。見返りに私は代々、3家を守り繁栄させてきた。花嫁が揃った時、私の力は何よりも強くなる。アレグザンダー家のエマリンが我々の元を去った時に云々」などと、ベラベラと饒舌に説明する。
それはイヴィー以外の出席者が既に知っている情報なので、そこでグダグダと喋る必要など全く無い。
もちろんスピーチの体裁を取りながら観客に説明しているわけだが、あまり恰好のよろしいモノではない。寝室に侵入してイヴィーを脅かしたのはヴィクトリアだが、その目的は「ただの遊び」だ。ようするに、まるで意味の無いイタズラなのだ。
しかも彼女は、わざわざイヴィーに「ウォルトが密室で何をしてるか興味は無いのか」などと言い、それが結果的にはイヴィーが書斎に侵入する行動に繋がっている。
そんなことをしてもヴィクトリアとしては何のメリットも無いし、むしろ避けた方がいい行動ばかりだ。
キャラをトリックスター的に使いたかったのかもしれないけど、ただの呆れたバカにしか見えない。粗筋で書いたようにイヴィーは監禁されるわけだが、ただ「どうすればいいのかしら」とオロオロしているだけ。脱出の方法を思案したり、行動を起こしたりすることは無い。
どうやって話を展開させるのかと思ったら、スウィフトが「エマリンの友人だった」ってことで自分を犠牲にしてイヴィーを逃がしてくれる。
それまでに「前夜祭で複雑な表情を浮かべる」など、一応の布石は打っていた。
しかし、安易な御都合主義という印象は否めない。屋敷から逃亡したイヴィーは、町に住む老夫婦に助けを求める。
そうそう、今さら言うまでも無いだろうけど、ここまでの描写でウォルトが吸血鬼ってことは誰でも分かるはずだ。その上で、老夫婦が電話を掛ける際に「ジョナサン&ミナ・ハーカー」と名乗っている。なので、そいつらがウォルトとグルなのはバレバレだ。
それなのに、名前を聞いてもイヴィーは全く気付いていない。
まあ「吸血鬼伝説に疎い」ってことなんだろうけど、だったらジョナサン&ミナ・ハーカーと名乗らせる手順は無くて良かったんじゃないかと。ミナからカモミール・ティーを飲むよう促されたイヴィーは、集合写真を見てハーカー夫妻がウォルトの仲間だと気付く。
だけど、それで脱出できるわけじゃなくて、ミナに頭を殴られて気絶しちゃうんだよね。
だったら、もうカモミール・ティーに混入された薬で眠り込む形でも良かったんじゃないのか。
ようするに、「カモミール・ティーを飲んだ後に写真を見て気付く」とか、「薄れゆく意識の中、夫婦がジョナサン&ミナ・ハーカーと名乗る声を聞く」とか、そういう手順にした方が良かったんじゃないのか。屋敷に連れ戻されたイヴィーは、ウォルトに「何者なの?」と尋ねる。
ウォルトは「祖国ではストリブイやノスフェラトゥと呼ばれている。ワラキアでの別名は竜の息子」などと語り、イヴィーは彼の正体を悟る。
でも、こっちからすると「とっくに分かってたから」という情報なので、「私の正体は」と得意げに明かすタイミングが遅いんだよね。
それなら、イヴィーが「貴方の正体はこれでしょ」と指摘するような形にでもした方がいい。イヴィーは急に「自分で全て終わらせる」と決意し、結婚式でウォルトの血を吸うと屋敷を火事にする。そしてウォルトの胸に杭を打ち、ヴィクトリアとバトルになる。
しかし、そこでルーシーがヴィクトリアに反逆し、内輪揉めで2人とも死ぬという萎えるだけの展開が待ち受けている。
その後、イヴィーはフィールドとウォルトを立て続けに始末し、屋敷を出る。
そしてエピローグとして「2週間後」が描かれ、イヴィーとグレイスがバーに入ったオリヴァーの退治に向かう姿で終幕となる。だけど、最後の最後で急にグレイスを「吸血鬼退治の相棒」として扱われても、「そこまでに彼女の出番って、そんなに無かっただろ」と言いたくなる。
最後で急に吸血鬼一族に関与させるのは、どう考えてもキャラの使い方に失敗している。
っていうか、いっそ「イヴィーとグレイスが吸血鬼一族を退治する」という話をメインにしてくれた方が面白くなりそうな気がするぞ。
もちろん全く別物になっちゃうけど、期待感を刺激されないまま低空飛行で終わるゴシック・ホラーよりは、そっちで荒唐無稽に振り切ったアクション映画の方が、少しは可能性があったんじゃないかと。(観賞日:2025年4月27日)