『天地創造』:1966、アメリカ

初めに神は天と地を作り、光と闇によって昼夜を作った。二日目は天を作り、三日目は大地と海、草木を作った。四日目は星を作り、 五日目は海の獣と鳥を作った。六日目は地の獣を作り、最初の人間の男アダムを作った。神は、人間の姿を自分に似せて作った。さらに神 はアダムを眠らせ、あばら骨を1本抜き取って、そこから最初の女イヴを作った。
神はアダムとイヴをエデンの園へ行かせたが、「善悪の知識の実だけは食べるな、食べると死ぬ」と警告した。だが、蛇にそそのかされた イヴが禁断の木の実を食べ、アダムにも勧めて食べさせた。神は蛇を全ての動物の最下層に置き、イヴには孕みの際の苦しみを与えること を告げる。そしてアダムには、額に汗して地から糧を得ることを強いた。
アダムとイヴには、カインとアベルという2人の男児が誕生した。やがて2人は成長し、カインは土を耕す者、アベルは羊を飼う者と なった。収穫の時期、彼らは神に捧げ物をした。だが、神はカインの捧げ物に目を留めなかった。激情にかられたカインは、アベルを殺害 した。さすらい人となったカインは、エデンの東にあるノドの地に移り住んだ。
カインは妻を娶り、彼の一族は増えていった。やがて人々は悪に満ちていき、自身の行いを悔いた神は、人間も鳥も獣も全て滅ぼそうと 考えた。ところで、アダムとイヴにはセトという三男がおり、その子孫にノアがいた。彼は妻と3人の息子セム、ハム、ヤペテ、息子達の 妻らと暮らし、心正しく神を敬っていた。ある時、彼は神の声を聞いた。神は「洪水を起こし、全ての生き物を滅ぼすことにした。糸杉で 箱舟を作り、お前と家族が乗り込め」と告げた。神は、信仰に厚いノアの家族だけは助けようと決めたのだ。
ノアは周囲の人々に嘲笑されながら、森の真ん中で息子達と共に箱舟を作り始めた。ノアが箱舟を完成させると、神は全ての動物を 1つがいずつ乗せるよう告げた。ノアが指示通りにした後、大洪水がやって来た。やがて箱舟は、アララト山に漂着した。ノアは鳩を 飛ばして水が引いたことを確認し、動物達を解放して箱舟の外へ出た。
ノアの子孫クシュの息子ニムロデは、神をも恐れぬ傲慢な王となった。彼は自身の力を誇示せんがため、民を扱き使って天まで届くバベル の塔を築き始めた。神は、この愚かな行為は言葉が同じであるがゆえに起きたと考えた。そこで神は、人々に違う言葉を話させるように した。これにより人々は混乱し、世界各地へ散っていった。
それから神は、アブラムの誕生まで10世代を待った。示す地へ行くよう神から指示されたアブラムは、妻サライと亡き弟の息子ロトを 連れて旅に出た。彼らはカナンの地に到着し、そこを根城にして放牧の生活を始めた。だが、やがてアブラムとロトの家来が反目するよう になった。そのため、ロトはアブラムの警告に背いてソドムの町へと移った。
シンアルの王アムラフェル、エラサルの王アルヨク、エラムの王ケドルラオメル、ゴイムの王ティドアルという南方の4人の王が手を結び 、ソドムの王ベラ、ゴモラの王ビルシャ、アドマの王シンアブ、ツェボイムの王シェムエベル、ベラすなわちツォアルの王という死海の 同盟軍と戦った。ソドムは略奪に遭い、ロトと家族は捕虜になった。それを知ったアブラムはソドムに攻め入り、ロトと家族を救出した。 神に勝利の捧げ物を贈ったアブラムとサライは、改名するよう告げられ、アブラハムとサラになった。
アブラハムは神から、サライに息子イサクを授けると約束された。だが、何年が経過しても約束は果たされなかった。彼は妾のハガルから 息子イシュマエルに祝福を与えるよう求められるが、神との契約に従って断った。アブラハムとサラは随分と年老いたが、まだ子供に 恵まれなかった。そんな中、神の使者が現われ、再び戻った頃にはサラに男児が誕生していると告げる。
神の使者はアブラハムに、ソドムとゴモラを滅ぼすつもりだと告げた。アブラハムが「もしも10人の心正しき者がいても滅ぼすのですか」 と問われ、「その者たちのために滅ぼすことを止めよう」と答えて去った。神の使者はソドムを訪れ、ロトに家族を連れて逃げるよう指示 した。ただし、何があっても振り返らぬよう命じた。しかしロトの妻は振り返ってしまい、塩の柱と化した。
サラに息子が生まれ、イサクと名付けられた。イサクが成長すると、サラはハガルとイシュマエルを追い出した。やがて神はアブラハムに 、イサクを連れて旅立ち、生贄に捧げるよう命じた。アブラハムは神への忠誠から、何も知らないイサクを連れて旅立つ。目的地に到着 した時、初めてイサクは自分が生贄だと知った。イサクはそれを受け入れ、アブラハムの指示に従った。アブラハムはナイフで息子を殺害 しようとするが、神の声が制止した。それは、神がアブラハムの信仰心を確かめるための作業だったのだ…。

監督はジョン・ヒューストン、脚本はヴィットリオ・ボニチェリ&クリストファー・フライ&ジョナサン・グリフィン&イヴォ・ペリリ、 製作はディノ・デ・ラウレンティス、製作協力はルイジ・ルラスキ、撮影はジュゼッペ・ロトゥンノ、編集はラルフ・ケンプレン、 美術はマリオ・チアリ、衣装はマリア・デ・マティエス、音楽は黛敏郎。
出演はマイケル・パークス、ウラ・ベルグリッド、リチャード・ハリス、ジョン・ヒューストン、スティーヴン・ボイド、ジョージ・C・ スコット、エヴァ・ガードナー、ピーター・オトゥール、ゾーイ・セーリス、ガブリエル・フェルゼッティー、エレオノラ・ロッシ= ドラゴ、フランコ・ネロ、パペラ・マッジオ、ロバート・リーティー、ピーター・ハインツェ、ロジャー・ボーモント他。


旧約聖書の創生記に基づいて作られた映画。準備期間3年、製作日数2年、総製作費72億円の大作。
「人間の誕生」「アダムとイブ」「ノアの洪水」「バベルの塔」「ソドムとゴモラ」「アブラハムの試練」のエピソードが綴られる。
監督は『アフリカの女王』のジョン・ヒューストンで、チャップリンに断られたノア役を自ら演じ、ナレーションや神と蛇の声も担当している。
アダムをマイケル・パークス、イブをウラ・ベルグリッド、カインをリチャード・ハリス、ニムロデ王をスティーヴン・ボイド、 アブラハムをジョージ・C・スコット、サラをエヴァ・ガードナー、神の使者をピーター・オトゥール、ハガルをゾーイ・セーリス、 ロトをガブリエル・フェルゼッティー、ロトの妻をエレオノラ・ロッシ=ドラゴが演じている。
なお、マイケル・パークスの声は、なぜかデヴィッド・ワーナーによって吹き替えられている。

短く感想を述べるとすれば、「だから何なのか」ということになる。
「聖書のエピソードをそのまま映像化しました。どうですか」と映画に問われるので、「そうですか、それは良かったですね。で?」と返したくなる感じ。
前述のように6編のオムニバス的な構成だが、各章の主人公における血の繋がりは、物語にエピック・ロマンとしての効果を与えていない。

こちらとしては壮大なスペクタクル・ロマンをイメージしていたのだが、そういうモノが今一つ広がらない。
例えばノアのエピソードなどは、箱舟は巨大だし、大洪水シーンも迫力が無いわけではない。
ただ、それがドラマとして生きていない。
そこに向けての物語の高まりが無いのだ。
話が散漫になっているため、脳内でそこだけを切り取って受け止めるような形となってしまうのだ。

なんかドキュメンタリー番組の再現フィルムみたいに、中身がドラマというより「聖書の要約・説明」になってんのね。
この地を神が作る最初の6日間をナレーションと補足的映像で綴る冒頭から、もう「かったるい」と思ってしまう。
これが娯楽大作ではなく、「誰にでも簡単に聖書の内容が分かるようにカトリック教会が製作した啓蒙映画」ということであれば、そこに 存在意義が生じるだろう。
だが、普通に商業映画のマーケットに出回る映画としては、厳しいものがある。

っていうか、仮に啓蒙映画として売るにしても、これで啓蒙になるかどうかは疑問だな。
だって、神がテメエで人間や獣を作っておいて全滅させようとする大掛かりなマッチポンプだったり、信仰心を確かめるために父親に息子 を殺すよう命じるという残酷なことをやったり、ロクなもんじゃねえぞ。
あと、信者の方も、「神の使者を守るためなら娘を煮ようが焼こうが構わないから持ってけドロボー」と言うロトのような奴も出てくるし 、こっちもロクなもんじゃないぞ。
最後のアブラハムのエピソードの収め方なんかは、まるで神への忠誠のためなら自分の子供を殺すのも厭わないのが正しいことであるかの ように描かれているけど、そりゃ違うだろ。
むしろ息子を助けるためなら神に反旗を翻すぐらいの方が人間としては真っ当だと思うぞ。
信仰心がゼロのワシには、これを見ても「宗教なんてロクなもんじゃねえな」としか思えないね。

何しろプロデューサーがディノ・デ・ラウレンティスなので、「ベストセラーを映画化すればヒットするんじゃねえの。そうだ、世界一の ベストセラーといえば聖書じゃないか。だったら聖書を映画化すればヒットは間違いないじゃん」ということで、安易な金儲け精神で企画 したんじゃないかと、邪推しているんだが。
でもまあ、普通のベストセラー本と聖書では、売れてる理由が違うんだよな。
聖書ってのは、中身が面白いから売れてるわけじゃないもんな。

ディノ・デ・ラウレンティスは、この作品を「聖書シリーズ第1弾」と銘打って公開した。
しかし興行的に芳しくなかったため、シリーズは続かなかった。
もしも本作品がヒットしていたら、次はどういう聖書映画を作るつもりだったんだろう。ちょっと気になるな。
上手くいったら出エジプト記、レビ記、民数記、申命記と映画化するつもりだったのかな。

 

*ポンコツ映画愛護協会