『テキサス』:1966、アメリカ

ルイジアナ州シュリーヴポート。フィービー・アン・ネーラーはスペイン公爵のドン・アンドレア・バルダザールと結婚式を挙げることになり、親友たちに彼の情熱的な愛情表現を自慢した。邸宅には大勢の招待客が集まっていたが、そこへ第6騎兵隊員のヤンシー・コトルが従兄弟のロドニー・スティンプソン大尉&ハワード・シブリー中尉と共に乗り込んだ。ロドニーとハワードは招待客を剣で威嚇し、結婚式の中止を宣言した。
ヤンシーはフィービーの寝室へ侵入し、「僕との婚約は?」と詰め寄った。フィービーが「キスはしたけど婚約したわけじゃない」と言うと、彼は「指輪は?」と訊く。フィービーが「返したら悪いし、あの時の貴方は出撃前で軍服姿が素敵だった」と語ると、ヤンシーは強引に抱き締めてキスをした。ロドニーとハワードに屋敷から連れ出されたドンは、フィービーがヤンシーに抵抗している姿を目撃した。彼はロドニーとハワードの手を振り切り、フィービーの部屋に飛び込んだ。
ヤンシーが剣を構えたため、ドンは彼と決闘する。ハワードがドアを蹴破ると、ドンにぶつかった。ドンは倒れ込み、背中を向けていたヤンシーに激突した。ヤンシーはバランスを失い、バルコニーから転落死した。ハワードはロドニーに、「ドンが背後から突き飛ばした」と報告した。フィービーは「テキサスへ行って。後から追うわ」とドンに言い、配膳室から屋敷の外へ脱出させた。馬で逃亡したドンはカウボーイと遭遇し、服を交換した。
牛飼いのサム・ホリスは友人で先住民のクロンクと共に、第6騎兵隊の事務所を訪れた。彼はコマンチの領土へ行く際の警護を依頼するが、ロドニーは「テキサスは外国だ。騎兵隊は国境を越えられない」と冷たく拒否した。町に着いたドンは、テキサス行きのフェリー代金が15ドルだと知った。男が20ドルの七面鳥が貰える射撃ゲームを主催していたので、ドンは馬を担保にして参加した。彼は買い取ってもらう約束を取り付けて見事な腕前を見せるが、途中で弾が無くなった。通り掛かったホリスはドンが使える人間だと感じ、自分のライフルを貸した。ドンはゲームに勝利し、七面鳥を手に入れた。
ドンは七面鳥を興行主に買い取ってもらおうとするが、クロンクが第6騎兵隊を連れて来たので逃げ出した。ホリスはドンを追い掛けて、逃亡を手伝った。ホリスはドンの名を尋ね、長いので「バルディー」と呼ぶことにした。「借りが出来た。恩返しがしたい」とドンが言うと、彼は「テキサスのモカシンまで一緒に旅をしてくれ」と持ち掛けた。ドンは「殺人罪で追われているんだ」と打ち明けるが、ホリスは彼がお尋ね者だと分かった上で同行を求めた。クロンクが合流すると、ドンは「どこかで見た顔だ」と感じる。クロンクは「コマンチは誰も似たような顔だ」と誤魔化し、ドンは気になりつつもホリスと共に出発した。
小川で顔を洗っていたドンは野牛に襲われ、上着をムレータ代わりに使ってマタドールのような動きを披露する。しかし調子にのったドンが挑発したせいで、野牛の群れが現れた。ホリスとクロンクは威嚇発砲し、群れを追い払った。その間にコマンチがラバを盗んで逃亡したため、すぐにホリスたちは移動することにした。クロンクの言葉で、ドンは彼が騎兵隊を連れて来たことに気付いた。ドンはホリスが護衛させるために騙したと悟り、腹を立てた。ホリスは「俺じゃない、銃の護衛だ。入植者たちに届ける」と説明するが、ドンは納得しない。彼は決闘を要求するが、ホリスは拒否した。
ホリスたちはモカシンへ向かう途中、コマンチの呪医が先住民のロネッタをガラガラヘビの生贄にしようとする現場を目撃した。ドンはロネッタを救うため、馬で飛び出した。彼はロネッタを救うが、ガラガラヘビに足を噛まれた。クロンクはホリスに指示され、ドンの血を吸い出した。ホリスは「コマンチの恨みを買いたくない」と述べてロネッタを置き去りにしようとするが、ドンは「見殺しに出来ない」と反対した。狼煙が上がるのを見たホリスたちに、ロネッタは「戦いが始まる」と教えた。白人の集落にいた彼女は英語を喋ることが出来て、「コマンチは集落を焼き、私を連れ去った」と説明した。
ロネッタが「牛の群れが東から来る」と言うと、ホリスはクロンクに「俺たちの牛だ。モカシンで人手を集めて群れを守ろう」と告げる。ドンが「先に行け」と告げると、ロネッタは「私が彼を連れて行く」と申し出た。ホリスとクロンクが出発した直後、ドンは高熱で意識を失った。ホリスは牛の群れを連れて休憩している仲間のフロイドを発見し、「コマンチが襲って来る。すぐ出発だ」と告げた。張り込んでいたコマンチの族長のアイアン・ジャケットは、すぐに追い掛けようとする。しかし息子のイエロー・ナイフが姿を消していたため、部族を先に行かせることにした。
フロイドはホリスに、「従兄の娘をモカシンへ届ける。水場へ行っている」と話す。フィービーが川で水浴びをしていると、イエローが服を盗んで逃亡した。ホリスは川へ赴き、フィービーに出発することを伝えた。フィービーが服を盗まれたことに気付くと、ホリスは布切れを破いて被せた。彼の粗暴な振る舞いに、フィービーは憤慨した。ドンはロネッタの薬草で腫れが引きし馬でモカシンへ向かった。ホリスはロネッタを騙して口説こうとするが、策略がバレて怒りを買った。
ドンはロネッタを連れてモカシンに着き、住民のサイやヘンリーと挨拶を交わした。交渉を求めるコマンチがやって来たので、サイが対応した。コマンチの使者はロネッタを引き渡すよう要求し、モカシンの住民は迷わずに応じようとする。ドンは「渡せば殺される」と反対するが、住民は受け入れなかった。ロネッタが歩いてコマンチの元へ向かったので、ドンは後を追って「君を見捨てるなんて腰抜けのすることだ」と告げた。
ジャケットは交渉決裂と判断し、ナイフにドンとの決闘を命じた。ドンがナイフを撃退すると、ジャケットは仲間を率いて襲い掛かろうとする。そこへホリスたちが駆け付けると、コマンチは退散した。サイたちはドンに、千エーカーの土地を提供した。しかしフロイドたちは旅の道中で多くの家畜を失っていたため、牛は貰えなかった。ホリスの指示を受けたクロンクは、フィービーに「ホリスがコマンチとの戦いで怪我を負って寝込んでいる」と嘘を吹き込んだ。ホリスはフィービーを欺き、高熱の芝居をして抱き付いた。
ロネッタは野牛の群れがいる場所へドンを連れて行き、コマンチだけが知っている飼い馴らし方を教えた。水の匂いを嗅ぎ付けた群れが走り出すと、ロネッタは「黒い池の水を飲んだら死ぬ」と教えた。ドンは群れの前に立ちはだかり、ロネッタは池に松明を放り込。池から炎が上がると、群れは離れた。ロネッタはドンに、「この辺りは掘ると黒い毒が出る」と告げた。2人は野牛を飼い馴らし、それを知ったジャケットは集落を滅ぼそうと目論む。ドンはフィービーが来ていると知り、急いで交易所に向かった。するとホリスがフィービーを抱き寄せており、ドンは激怒する。ホリスは「俺の女だ」と全く悪びれず、ドンは決闘を要求する…。

監督はマイケル・ゴードン、脚本はウェルズ・ルート&ハロルド・グリーン&ベン・スター、製作はハリー・ケラー、撮影はラッセル・メティー、編集はジーン・ミルフォード、美術はアレクサンダー・ゴリツェン&ウィリアム・D・デシンセス、衣装はヘレン・コルヴィグ&ローズマリー・オデル、音楽はデ・ヴォール、音楽監修はジョセフ・ガーシェンソン、主題歌作詞&作曲はサミー・カーン&ジェームズ・ヴァン・ヒューゼン、歌唱はザ・キングストン・トリオ。
出演はディーン・マーティン、アラン・ドロン、ローズマリー・フォーサイス、ジョーイ・ビショップ、ティナ・マルカン、ピーター・グレイヴス、マイケル・アンサラ、リンデン・チルズ、アンドリュー・プライン、スチュアート・アンダーソン、ロイ・バークロフト、ジョージ・ウォレス、ドン・ベッドー、ケリー・ソードセン、ノラ・マーロウ、ジョン・ハーモン、ディック・ファーンズワース他。


アメリカに滞在していた頃のアラン・ドロンが最後に出演したハリウッド映画。
監督は『女房は生きていた』『すべてをアナタに』のマイケル・ゴードン。
ホリスをディーン・マーティン、ドンをアラン・ドロン、フィービーをローズマリー・フォーサイス、クロンクをジョーイ・ビショップ、ロネッタをティナ・マルカン、スティンプソンをピーター・グレイヴス、ジャケットをマイケル・アンサラ、ナイフをリンデン・チルズ、シブリーをアンドリュー・プラインが演じている。

アラン・ドロンを知っている人からすると「今さら言うまでもない」ってことだろうが、彼は1960年代に母国のフランスで大人気の俳優となった。
1960年に『太陽がいっぱい』の大ヒットで世界的に知られるようになり、『地下室のメロディー』や『黒いチューリップ』などの作品に主演した。
1964年にはナタリー・バルテルミー(ナタリー・ドロン)と結婚し、息子と共にアメリカで暮らすようになった。
この時期に、アラン・ドロンはアメリカ映画に活動の場を移していたのだ。

アラン・ドロンのハリウッド進出第1作は、1964年の『黄色いロールス・ロイス』だ。これはオールスターキャストの映画で、彼の他にもイングリッド・バーグマンやシャーリー・マクレーン、ジャンヌ・モローやオマー・シャリフなど世界各国のスターが出演していた。
次の出演作は、1965年の『泥棒を消せ』。これがアラン・ドロンのハリウッドにおける初めての主演作だ。
翌年の『名誉と栄光のためでなく』ではアンソニー・クインと共演し、オールスターキャストの『パリは燃えているか』にも出演した。
そして最後が本作品で、これを最後にフランスへ帰国している。
彼のハリウッド進出は、完全に失敗だった。

ドンはオーバーリアクションでフィービーの父親に情熱的な態度を示し、強く抱き締める。ハワードとロドニーが連れ出しに来ると、挙式の引率だと勘違いする。
登場した時点から彼はユーモラスだし、「これはコメディーですよ」とアピールしている。
ドンはヤンシーと決闘になるが、剣が折れて短くなるので焦り、必死になって振り回す。
決してシリアスにならず、決闘もコミカルに描かれている。
ハワードがドアを蹴破り、ドミノ方式でヤンシーがバルコニーから転落するのも、やはりコミカルなシーンになっている。

ところが厄介なことに、ヤンシーは転落して死んでしまうのだ。
こうなると、全てをコミカルな出来事として受け入れるのは難しくなる。
「フィービーはヤンシーが死んだと思ってドンを逃がすが、実は生きていた」という設定にするとか、何とかならなかったのか。
ここで死人(しかもアクシデントではあっても明確に加害者がいるわけで)を出すことが、最後まで消えない問題として残るのよ。序盤の傷を、ずっと引きずることになっちゃうのよ。

ドンはヤンシーと決闘する時、連続で剣を折られて短くなる。それでも戦いは続けるが、決して剣技の能力の高さを披露しているわけではない。
しかし射撃ゲームのシーンでは、見事な射撃の腕前を披露している。
もちろん剣術と射撃は別の能力だが、キャラとしての統一感は取れていないように感じる。
「戦闘能力は高いがマヌケな部分もある」という風に見せたかったのかもしれないが、あまり上手くいっているとは思えない。

ドンがロネッタを助けるシーンでは、彼女の救出には成功するものの、落馬して動けなくなり、ガラガラヘビに噛まれている。
このシーンはコミカルってことじゃなくて、ただドンがカッコ悪いだけだ。
「普段は抜けたトコもあるが、いざとなったらカッコ良く活躍する」というわけでもないんだよね。
まあ「だってコメディーだから」と言われたら、そういうことなんだろう。でもアラン・ドロンが演じていることも含めて、ドンのキャラ造形は失敗しているとしか感じない。

フィービーは序盤のヤンシーとの会話シーンを見る限り、酷い女に感じられる。軽いノリで軍服姿のヤンシーに惹かれ、その気にさせておいて、他の男と簡単に婚約する。ヤンシーから貰った指輪は返さず、彼に謝罪することも無いまま結婚しようとする。
ドンがロネッタと知り合うことにより、フィービーは「ただの当て馬としての嫌な女」というポジションになるのかと思った。
ところが、彼女とホリスがカップルになるんだよね。
でも、そうなると彼女のせいでヤンシーが死んでいるのはマズいでしょ。
そういう意味でも、やっぱりヤンシーの死って邪魔な要素になっているんだよなあ。

ドンとホリスはフィービーを巡って対立するが、これも全く笑いになっていない。決闘を始めようとするのも、ただ不愉快なだけ。
特にホリスは、フィービーがドンの花嫁だと知っても全く悪びれないだけでなく、「俺の女だ」と主張するんだよね。こんなの、ただのクズ男じゃねえか。
でも、そんなホリスにフィービーは簡単に惚れちゃうので、「どんだけ尻軽なんだよ」と呆れるわ。
彼女とホリスがカップルになるんだけど、「また絶対に浮気するだろ」と言いたくなるぞ。

騎兵隊がモカシンに来るので、ドンは逃亡する。モカシンはコマンチに襲撃されるが、騎兵隊はドンの捜索に没頭していて全く気付かない。そこでドンはモカシンの人々を救うため、騎兵隊の前に飛び出す。そしてモカシンへ向かい、馬を走らせる。
だが、その前にコマンチは牛の群れに追われて逃げ出している。そして騎兵隊は逃げるコマンチを見ても完全に無視し、ドンを捕まえる。
そうなると、ドンの行為は全くの無意味ってことになる。
笑えるわけでもないし、どういう計算で用意したシナリオなのかサッパリだわ。

(観賞日:2021年8月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会