『ターミネーター:ニュー・フェイト』:2019、アメリカ
1998年、グアテマラのリビングストン。審判の日を阻止して世界を救ったサラ・コナーは、息子のジョンと穏やかに過ごしていた。だが、そこへT-800が出現し、ジョンを始末して立ち去った。22年後、メキシコシティー。全裸女性のグレースが橋から落下して倒れるのを目撃したカップルは、肩を貸して助けようとする。そこへ警官隊が駆け付け、カップルを犯罪者と決め付けて逮捕しようとする。グレースは警官たちを軽く叩きのめし、カップルの男から服と車を奪って去った。
ダニー・ラモスは病身の父と弟のディエゴの3人で、集合住宅に住んでいる。ダニーとディエゴが工場へ出勤した直後、集合住宅の中庭に全裸男性のガブリエルが出現した。彼は住人が持っていた服を奪ってラモス家へ行き、父に「ダニエル・ラモスは?友人です」と告げる。父は彼を怪しみ、「おかしいな。友人はダニーと呼ぶ」と指摘した。ダニーは弟がクビになったと知り、工場長に抗議する。父に化けたガブリエルは、弁当を届けるという名目で工場に入った。グレースは警備員を襲って服を奪い、工場に潜入した。
ガブリエルはダニーを目撃し、射殺しようとする。そこへグレースが駆け付け、ショットガンで吹き飛ばした。グレースは父が撃たれたと思い込んで駆け寄ろうとするが、グレースが「お父さんじゃない。貴方を殺しに来た敵よ」と告げる。ガブリエルは機械の骨格部分が露出するが、すぐに元の姿へ戻った。グレースはダニーとディエゴを連れて逃亡を図るが、ガブリエルが襲って来た。グレースはダニーを守り、ガブリエルと戦った。
工場の外へ脱出したグレースは、ダニーとディエゴに「あれは未来から来たターミネーターで、自分は強化人間だ」と説明する。彼女が車に2人を乗せて逃走すると、すぐにガブリエルがショベルカーで追って来た。ダニーはディエゴに運転を任せ、荷台に乗ってガブリエルを攻撃する。ガブリエルは飛び移って来るが、ダニーが蹴り落とした。車が大破して衝突事故を起こし、ダニーは振り落とされた。衝突の際、ディエゴは金属棒が腹に突き刺さって車から出られなくなった。
グレースはダニーから「弟を助けて」と懇願されるが、「降ろしたら出血死する」と告げる。ガブリエルが追って来たので、グレースはダニーを連れて逃げようとする。ダニーは「弟を置いていけない」と抵抗するが、ディエゴはグレースに「姉貴を頼む」と言う。グレースが強引にダニーを引き離した直後、ガブリエルの車がディエゴの車に突っ込んだ。車は大破して炎上し、ディエゴは死んだ。グレースは泣き出すダニーを説き伏せて逃走を図るが、ガブリエルに追い詰められた。
そこへサラが車で現れ、ガブリエルに発砲して橋の下まで吹き飛ばした。サラはグレースたちに「すぐ戻る」と告げ、ガブリエルの様子を確認に行く。その間にグレースはサラの車を奪い、ダニーを連れて逃亡した。グレースが高熱で苦悶すると、ダニーは薬局へ連れて行く。グレースは銃で薬剤師を脅し、必要な薬を手に入れた。彼女が昏倒したため、ダニーは店の外へ運び出した。するとサラが待ち受けており、「2人に聞きたいことがある」と告げて車に乗せた。
サラはダニーに携帯電話を出させると、「簡単に追跡される」と外へ投げ捨てた。彼女はグレースをモーテルに運んでベッドに寝かせ、氷で冷やして薬を注射した。グレースは眠りの中で、ガブリエルと同じRev-9と呼ばれるターミネーター軍団と戦った時の夢を見た。部隊の仲間は次々に殺され、グレースも深手を負った。救急医療部隊の手当てを受けた彼女は、強化型兵士に志願した。グレースは手術を受け、マイクロリアクターで短時間だけ高い戦闘能力を発揮できる強化人間になった。
目を覚ましたグレースはサラの質問を受け、2042年から来たことを話す。「次はそっちの番」と言われたサラは、若い頃にターミネーターの襲撃を受けたこと、反スカイネットのレジスタンスを率いることになる息子のジョンを守ろうとしたこと、自分とジョンがスカイネットの野望を阻止したことを話す。そして彼女は、ジョンが殺されてからターミネーターを狩ってきたことを語る。「さあ、行くよ」とサラが言うと、グレースは「行かない。ダニーを守るのが私の役目」と拒否する。しかしサラが「この時代を何も知らない。あのターミネーターはデータに自由にアクセスできる。10時間も生きられない」と告げると、グレースは渋々ながらも同行することにした。
サラは車を発進させ、誰がRev-9を差し向けたのか尋ねる。グレースは彼女に、「未来を支配したのはリージョンよ。サイバー戦争のためのAI。それが全ての人類を襲って来た」と説明する。サラはダニーに「なぜ橋にいると分かったの?」と訊かれ、「メールが来る。日時や位置情報が詳しく書かれている」と答えた。これまでに3回のメールが届き、必ず「ジョンのために」という言葉が添えられていた。グレースは暗号化されたメールを解析し、発信場所がテキサス州ラレドの外れだと突き止めた。
グレースはサラとダニーに「司令官が座標のタトゥーを入れた。困った時に行くようにと言われた」と明かし、それがメールの発信場所と同じだと告げる。サラがラレドへ向かおうとすると、ダニーは密輸入業者である叔父のフェリペに頼めると告げた。サラたちは目立たないよう国境を超えるため、車を捨てて列車を使った。一方、Rev-9はラチウムデータセンターに乗り込んで警備員を始末し、ダニーの行き先を突き止めた。
グレースは列車で移動しながら、ダニーに未来の出来事を語った。数十億人が犠牲になったこと、父が殺されたこと、戦争が一段落するとリージョンが生存者狩りを始めたことを、彼女は説明した。サラはダニーに、「アンタが敵と戦うリーダーを産む」と告げる。フェリペの元に着いたダニーは事情を説明し、案内役を引き受けてもらった。Rev-9は無人機のモニター室へ行き、職員たちを始末した。ダニーたちを見つけたRev-9は、無人機を差し向けた。
グレースは無人機に気付き、サラたちに隠れるよう指示した。Rev-9は全ての国境警備員に対し、カルテルの一味がいるので捕まえるよう指示して武器の使用を許可した。サラたちは国境警備隊に包囲され、銃を向けられた。ダニーはサラたちを守るため、降伏することを選ぶ。ダニーが捕まるのをモニターで確認したRev-9は、無人を差し向けた。グレースはダニーを守り、爆撃を受けて深手を負った。サラたちはラレドの収容所へ移送され、グレースは意識不明で医務室に運ばれた。
Rev-9は国境警備員に変身し、収容所を訪れてダニーを始末しようと目論む。サラは独房へ連行されるが、隙を見て職員たちを叩きのめす。意識を取り戻したグレースは拘束を外し、ダニーの元へ急ぐ。彼女は他の収容者を解放して騒動を起こし、ダニーを連れ出した。Rev-9は警備員を次々に殺し、ダニーを追い掛ける。グレースとダニーはヘリコプターに乗り、サラも合流して収容所から脱出した。3人が森の奥にあるメールの発信場所に辿り着くと、小屋の外には「カールのカーテン屋」と書かれたバンが停まっていた。
小屋から出て来たのがT-800だったので、サラは撃ち殺そうとする。グレースが制止すると、彼女は「こいつがジョンを殺した」と怒りを吐露する。T-800はジョンの殺害を認めた上で、「私は変わった」と述べた。彼はジョンの殺害後にアリシアという女性と出会ったこと、彼女が夫から暴力を受けていて息子のマテオも危険だったことを語り、「家族を守ることが、私に生きる目的を与えてくれた」と話した。彼はサラに、「マテオを育てて、アンタの気持ちが分かった。あれ以降は任務が無い。20年掛けて、人間になる術を覚えた」と告げる。メールを送った理由を問われた彼は、「目的を与えたかった。息子さんの死に意味をもたらす」と答えた。
サラは激昂して銃弾を浴びせるが、T-800は全くダメージを受けなかった。アリシアとマテオが帰宅したので、T-800はサラたちに紹介した。ダニーが「どうやって戦うの?」とT-800に訊くと、サラが「ダニーを囮にして始末する」と言う。グレースは腹を立てるが、T-800は「サラが正しい。ターミネーターは任務の遂行しか考えない」と述べる。グレースは「彼女を生贄にはしない」と抗議するが、ダニーは「怯え続けて生きるのは嫌。立ち上がって戦うわ」と強い覚悟を口にした。
T-800はサラたちに、倉庫に隠しておいた大量の武器を見せた。ダニーが銃を手に取ると、サラは撃ち方を教えた。T-800はグレースの「銃では殺せない」という言葉に対し、電磁パルスで倒す方法を提案した。サラが「いい男を知ってる」と協力してくれる人物の存在に言及すると、T-800はビンガムの空軍情報将校を務めるディーンだと知っていた。T-800はアリシアとマテオに別れを告げ、小屋から避難させる。T-800やサラたちはバンで出発し、ビンガムへ向かった…。監督はティム・ミラー、キャラクター創作はジェームズ・キャメロン&ゲイル・アン・ハード、原案はジェームズ・キャメロン&チャールズ・イグリー&ジョシュ・フリードマン&デヴィッド・ゴイヤー&ジャスティン・ローズ、脚本はデヴィッド・ゴイヤー&ジャスティン・ローズ&ビリー・レイ、製作はジェームズ・キャメロン&デヴィッド・エリソン、製作総指揮はダナ・ゴールドバーグ&ドン・グレンジャー&エドワード・チェン&ジョン・J・ケリー&ティム・ミラー&ボニー・カーティス&ジュリー・リン&デヴィッド・ゴイヤー、共同製作はビリー・レイ、製作協力はリー・グルメット、撮影はケン・セング、美術はソーニャ・クラウス、編集はジュリアン・クラーク、衣装はナイラ・ディクソン、視覚効果監修はエリック・バーバ、音楽はトム・ホルケンボルフ。
出演はリンダ・ハミルトン、アーノルド・シュワルツェネッガー、マッケンジー・デイヴィス、ナタリア・レイエス、ガブリエル・ルナ、ディエゴ・ボネータ、フェラン・フェルナンデス、トリスタン・ウジョア、トミー・アルヴァレス、トム・ホッパー、アリシア・ボラチェロ、エンリケ・アルセ、マヌエル・パシフィック、フレイザー・ジェームズ、ペドロ・ルドルフィ、ディエゴ・マルティネス、ケヴィン・メディーナ、スティーヴン・クリー、マット・デヴェル、カレン・ギャグノン、ニール・コーボールド、ローナ・ブラウン、スチュアート・マッカリー、ホセ・セロス、シャデイ・ロペス、ペドロ・ヘルナンデス他。
シリーズ第6作。監督は『デッドプール』のティム・ミラー。
脚本は『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のデヴィッド・ゴイヤー、これが長編3作目となるジャスティン・ローズ、『ジェミニマン』のビリー・レイによる共同。
サラ役のリンダ・ハミルトンは『ターミネーター2』以来、23年ぶりのシリーズ復帰となる。
T-800(カール)を演じるアーノルド・シュワルツェネッガーは、前作に続いての登場。
グレースをマッケンジー・デイヴィス、ダニーをナタリア・レイエス、Rev-9をガブリエル・ルナ、ディエゴをディエゴ・ボネータが演じている。生みの親であるジェームズ・キャメロンが「ターミネーター」シリーズに復帰するという情報を聞いた時には、かなり気持ちが高まった。しかし監督は担当せず原案と製作だけだったので、一気に下がった。
一方、リンダ・ハミルトンが復帰するという情報に関しては、手放しで喜べることだった。
そして映画の序盤、リンダ・ハミルトンがタフなオバサンとして登場し、ショットガンをクールに発砲した時には、大いに興奮させられた。
ただ、この映画で褒められるのは、そこぐらいだ。他はジェームズ・キャメロンが関わった原案も含め、ガッカリさせられることばかりだった。今回の物語は『ターミネーター2』の後日談となっており、『ターミネーター3』以降の作品とは別の時間軸を舞台にしている。
「今までの内容を全て無かったことにして原点回帰を図る」ってのは、シリーズの評価が落ちる中で挽回を狙う時に、良く見られるパターンだ。
このシリーズの場合、2作目まではジェームズ・キャメロンが監督を務めていたし、評価も高かった。
それ以降の3作の評価が低いので、「じゃあ無かったことにすればいいんじゃね?」ってことだ。特に説明も用意しないまま「無かったことにする」という方法も、映画の世界では良く見られる。
ホントは乱暴な手口だけど、大して気にならない。そういうケースを何作も見てきたなのか、もう感覚が麻痺してしまったのだろう。
しかし本作品の場合、3作目以降の内容が全て無かったことにされる理由を用意している。「サラとションがスカイネットの野望を阻止したので、未来が書き換えられた」という形にしてあるのだ。
これなら整合性が取れるし、それなりに納得できる理由にもなっている。「サラの眼前でジョンがT-800に殺される」というプロローグが終わった後、強化人間のガブリエルが全裸で現れる。ダニーが登場した後、今度は全裸のRev-9が出現する。Rev-9がダニーの命を狙うと、ガブリエルが駆け付けて戦う。ガブリエルはダニーを守り、Rev-9と戦闘を繰り広げながら逃走する。
そんな様子が描かれる最初の30分ぐらいの内容は、ザックリ言うとシリーズ1作目の焼き直しになっている。
ほぼ同じことの繰り返しなので、「だったらリメイクでも良かったんじゃないか」と言いたくなってしまう。
サラもT-800も登場させずに、完全リメイクでいいじゃねえかと。「リージョンが未来で人間を襲撃し、未来のリーダーを始末するためにRev-9を差し向けた」という設定も、1作目と全く同じだ。
完全に焼き直しの設定を使うぐらいなら、いっそのことリージョンじゃなくてスカイネットで良くないかと言いたくなる。
『ターミネーター』と言えば、敵はスカイネットというイメージが強いし。
だからこそマンネリ化を避けて新鮮味を持ち込むために新しい敵を用意するってことなら別にいいけど、名前が違うだけで中身は全く同じなんだから。ジェームズ・キャメロンはシリーズに復帰した大きな動機として、「人間と人工知能の関係を描ける」ってことを挙げている。この映画で人工知能として登場するのは、リージョンだ。
だけど、リージョンを使って「人工知能としての意味」を充分に描けているとは言い難い。
それが人工知能である必要性なんて、皆無に等しいでしょ。
そこの構図は「人間vs人工知能」じゃなくて、あくまでも「リージョン」という曖昧模糊とした存在だぞ。人工知能としての掘り下げなんて、全く出来ていないぞ。幾らシリーズ3作目以降を「無かったこと」にしたいからって、冒頭でいきなりジョン・コナーを殺すのは呆れてしまった。
それは3作目以降だけじゃなくて、1作目と2作目も否定することに繋がらないかね。サラにしろT-800にしろ、シリーズを通してジョンを守るために必死で戦っていたはずで。
そりゃあ、2作目でジョンを演じたエドワード・ファーロングは色々と問題を起こしてきた人だし、リンダ・ハミルトンとは違って今回の映画で多くの出番を与えて復帰させるのは難しかっただろう。
だから、少しだけ関わっているらしいが、ほぼ出番を用意しなかった判断は賢明だと思う。
しかし、だからってジョンを殺すのは違うでしょ。このシリーズは作品ごとに新たなターミネーターを登場させてきたが、そのキャラクター設定で観客を引き付けることが出来ていたのは、2作目のT-1000までだったんじゃないだろうか。
それ以降は、どれだけ前作と異なるタイプのターミネーターを登場させても、あまり魅力を感じさせることが出来ていなかった印象がある。そして、それは今回も変わらない。
今回のRev-9には分裂して2体になるという性能があるが、これが敵としての脅威に繋がっていない。むしろ、そこまで役に立つ性能じゃないので、バカバカしさを感じるほどだ。
最先端のターミネーターのはずなんだから、もっと凄い能力を与えようぜ。Rev-9は自らダニーを執拗に追い掛けるだけでなく、ドローンや国境警備隊も利用する。まだドローンに関しては、自分で操作してダニーを攻撃しているので許容できる。
でも国境警備隊を騙してダニーを捕まえさせるってのは、利口ではあるのかもしれないが、敵としての凄みを削いでいる。
それと、2体になる以外の特徴は過去のターミネーターと大して変わらないことも影響したのか、アクションシーンに引き付ける力が弱い。
2体になる特徴も、アクションシーンを面白くするために上手く活用できているとは言い難いし。サラは小屋でT-800を見ると、すぐに撃ち殺そうとする。もちろん、眼前で息子を殺されたんだから、怒りに燃えるのは当然っちゃあ当然だろう。
ただ、2作目でサラとジョンを守って戦ったのも、未来のジョンがプログラムを書き換えたT-800なのよね。それは完全に、サラの中で「無かったこと」になっているのね。
息子を殺されて、記憶が完全に上書きされたのね。
そして、「ジョンを殺したT-800とは別のT-800かも」という考えは全く浮かばないのね。カールを名乗るT-800は、「家族を守ることが、私に生きる目的を与えてくれた」「マテオを育てて、アンタの気持ちが分かった。20年掛けて、人間になる術を覚えた」などと話す。でも、そうやってT-800を人間に近付けたことで、ものすごくヌルくなっている。
で、それを受け入れるにしても、「だったらジョンを殺させちゃダメだろ」と言いたくなるわ。
ジョンを殺した時点で、後から何を言おうと、サラに情報を提供しようと、Rev-9の殺害に協力しようと、全くリカバリーできていないぞ。
そのせいでサラがT-800を憎み、ずっと敵意を剥き出しにしたまま一緒に行動するのも、「そんなの要らないなあ」と。せっかく久しぶりにサラとT-800が揃ったんだから、普通に共闘する話が見たかったよ。一緒に行動し、Rev-9と戦ったり逃げたりするメンバーが多いのも難点になっている。
サラとT-800が途中からずっとグレース&ダニーと行動するのは、個人的には懐古趣味ってことも含めて嬉しくもある。
ただ、本来ならメインであるはずのグレース&ダニーを、邪魔するような感じになっちゃってんのよね。
キャラクターを整理するという意味では、サラとT-800は特別ゲストにして、出番を限定しておいた方が良かったんじゃないかな。(観賞日:2022年2月9日)
2019年度 HIHOはくさいアワード:第2位