『テキーラ・サンライズ』:1988、アメリカ

かつて麻薬のディーラーとして名を売ったマックは、今は足を洗ってカタギの仕事を始めていた。だが、顧問弁護士のアンディが麻薬の取り引きに行くことを知り、付き添いでホテルに向かう。取り引き相手の男は、ニックという相棒を連れてきた。ニックはマックに部外者は外に出るべきだと告げ、自らも部屋を出る。
実はニックは刑事で、マックとは幼馴染みだった。ニックはマックが逮捕されるのを避けるため、部屋から彼を逃がしたのだ。ニックはマックが来ることを知りながらホテルに行かせた連邦麻薬捜査官のハルに、非難の言葉を浴びせる。
ハルはマックが今でも麻薬ディーラーの仕事を続けており、行き付けのレストランを取り引き現場に使っているのではないかと疑って盗聴していた。レストランに出向いたニックはオーナーのジョアンと出会い、彼女に惹かれるようになる。
ハルは情報屋を通じて、麻薬取り引きの大物カルロスがメキシコから大量のコカインを持ち込むという情報を得ていた。彼はニックに対して、カルロスと旧知の仲であるマックに近付き、取り引きに関する情報を得るよう指示を出す。
ニックはジョアンに会いに行き、マックの過去を明かす。ニックがジョアンに惹かれていることを知ったマックは、ジョアンに愛を告白する。2人は警察が盗聴しているのも知らず、激しく愛し合う。ジョアンとの愛を確認した直後、マックの前にカルロスが現れる…。
監督&脚本はロバート・タウン、製作はトム・マウント、製作総指揮はトム・ショウ、撮影はコンラッド・L・ホール、編集はクレア・シンプソン、美術はリチャード・シルバート、衣装はジュリー・ワイズ、音楽はデイヴ・グルーシン、音楽監修はダニー・ブラムソン。
出演はメル・ギブソン、ミシェル・ファイファー、カート・ラッセル、ラウル・ジュリア、アリー・グロス、アーリス・ハワード、J・T・ウォルシュ、ガブリエル・デイモン、アン・マグナソン、ギャレット・ピアソン、エリック・シール、トム・ノーラン、ドーン・マーテル、ララ・スロートマン、バド・ベティカー、ケニー・ムーア、ジェイソン・ランダル、ボブ・スウェイン、ジム・ベントレー他。


多くの映画でシナリオを手掛け、アカデミー賞で脚本賞を受賞した経験もあるロバート・タウンが、脚本と監督を兼ねた作品。マックをメル・ギブソン、ジョアンをミシェル・ファイファー、ニックをカート・ラッセル、ハルをJ・T・ウォルシュが演じている。
メル・ギブソン、ミシェル・ファイファー、カート・ラッセルは、ヘロヘロなキャラクターに殺されている。ラウル・ジュリアやJ・T・ウォルシュといった役者が脇を固めているが、キャラクターのポジショニングが安定せず、勿体無い扱いになっている。

とにかく、これをどういう作品にしたいのかという方向性が見えてこない。
例えば冒頭、ニックがマックを逃がすシーンは、2人の関係と友情を示すことを目的とするならば、すんなりとマックが現場から立ち去って次のシーンに移るべきだろう。
ところが、マックは駆け付けた警察に発見され、慌てて姿を隠しながら逃亡を図るという展開が待っている。
だが、だからといってサスペンス・アクションとしての盛り上がりがあるのかというと、そこまでのスリルは無くて、警察からはあっさりと逃げ切る。だったら、無駄に警察に見つかるシーンなど入れず、さっさと次のシーンに移るべきだろう。

登場人物の行動も、さっぱり意味の分からない部分が多すぎる。
例えばニックはマックの麻薬ディーラーとしての過去についてジョアンに喋るのだが、本当に彼との友情があるのなら、そんなことを女にベラベラと喋ったりはしないだろう。
ハルもかなりキテレツで、ニックがマックと親友であり、彼を逮捕することを避けていると知っているのに、盗聴している音声を聞かせる。しかも、積極的に捜査に携わらせる。普通に考えれば、犯人の逮捕を避けているような人間は捜査から外すべきだろうに。

麻薬取り引きを巡るサスペンスと、女を巡るロマンス、どちらも扱おうとして、見事に「二兎を追う者、一兎をも得ず」を実践してしまった。話を全くまとめ切れていない。
あっちへフラフラ、こっちへフラフラと、どうにも落ち着かず、散漫な印象。
ジョアンを巡るマックとニックの関係を描いている分、2人の男の友情は薄いし、だったらロマンスが充実しているのかというと、そうでもないし、麻薬取り引きを巡るサスペンスやアクションが盛り上がるのかとというと、そういうわけでもない。
サスペンスとロマンスが上手く絡み合って、1プラス1が2ではなく3にも4にもなればよかったのだろうが、実際には“1プラス1イコール2”どころか、そもそも足し算が成立していない。
サスペンスとロマンス、それぞれがバラバラに存在しているだけなのだ。

マックの息子が海で事故を起こすとか、マックが別れた妻への金を間違えてジョアンに渡すとか、色々とエピソードはあるのだが、その多くはメインストーリーと上手く関わりを持っておらず、無駄に寄り道をしているだけに終わっている。
マックとニックを繋ぐポイントとして麻薬取り引きとジョアンの2つが用意されているのだが、ジョアンと麻薬取り引きの関わりは非常に薄いため、彼女が出てくると麻薬の話は消えて、麻薬の話が始まると恋愛模様が消えるという具合になっている。

後半に入って、必死でジョアンを麻薬取り引きと絡ませようとしているのだが、その強引なことといったら。そのせいで、全ての登場人物の行動がデタラメになり、いったい何がやりたいのか、サッパリ分からないような状態に陥ってしまう。
ロマンスの部分を全て削除すれば、サスペンス・アクションとして、もう少しマシな出来上がりになったかもしれない。
それにしても、メル・ギブソンとカート・ラッセルのコンビなら、シンプルなアクション映画を撮った方が良かったのでは、と思ってしまう。

 

*ポンコツ映画愛護協会