『テンタクルズ』:1977、イタリア&アメリカ

カリフォルニアのサロナビーチ。突堤で母親が乳母車の赤ん坊をあやしていた。友人が軽トラックで通り掛かったため、母親は赤ん坊を 残して近付いた。友人と話していた母親が振り向くと、乳母車が無くなっていた。慌てて戻ると、乳母車が海に落ちていた。船着き場で船 を清掃していたビル・サリヴァンは、何かに襲われて海に落ちた。釣りをしていたカップルが、彼の腐乱死体を発見した。
赤ん坊の死体も発見され、ロバーズ保安官が捜査に乗り出した。サリヴァンの死体を見に来た新聞記者ターナーに、ロバーズは「あまり 刺激的な記事は書かないでほしい」と頼んだ。翌朝、ターナーが執筆したトロージャン開発会社の海底トンネル工事に関する記事が新聞に 掲載された。ホワイトヘッド社長は副社長コーリーに電話を掛け、工事に問題があるのかどうか尋ねた。コーリーは記事の内容を否定した が、ホワイトヘッドは「こんな記事を書かれただけで信用に関わる。問題があったら許さんぞ」と釘を刺した。
ロバーズは検死医から、サリヴァンと赤ん坊の軟骨や骨髄が吸い取ったように無くなっていることを告げられた。そこにターナーが現れた 。「骨髄を吸い取るような強い吸引力は信じられない」と言う検死医に、ターナーは「巨大な生物が海に潜んでいるに違いない」と告げる 。ロバーズは彼の推論には賛同せず、海洋学者のウィル・グリーソンに海底調査を依頼したことを述べた。
ターナーは水族館へ行き、2匹のシャチを世話しているウィルと会った。ウィルはターナーに、信用している部下2名を調査に差し向けた ことを告げた。ウィルの部下2名は探査ポッドで海底に潜り、外に出て調査を開始した。海底ケーブルや装置をチェックしながら海底を 移動していた時、2人は岩陰に潜んでいた巨大ダコに襲われた。1人は、あっという間に巨大ダコに吸い込まれた。もう1人は慌てて ポッドに戻り、船に引き上げてもらおうとする。だが、カプセルは浸水し、浮上しなかった。
ターナーはホテルのバーにいたコーリーを見つけ、トンネル工事と一連の事件の関係について質問した。コーリーは関係を否定するが、 何かを心配しているような様子を示した。ターナーの妹ティリーは、息子のトミーと彼の友人ジェミーを少年ヨットレースに出場させたい と考えた。彼女は係の女性から登録用紙を受け取り、24時間前に会場のオーシャンサイドまで来るよう説明を受けた。
ウィルはコーリーに呼ばれ、妻ヴィッキーを伴ってやって来た。ターナーは彼を見掛けて挨拶した後、ロバーズの元を訪れた。ロバーズは 「トンネル工事ばかり気にしているようだが、まだ何も詳しいことは分かっていない」と言う。「被害者には何か共通点があるはずだ」と ターナーは口にした。ロバーズの話を聞いた彼は、被害者全員が無線やラジオを使っていたことに気付いた。
ウィルは助手マイクと共に、海底の調査に乗り出した。2人は、大量の魚が逆立ち状態で死んでいるのを発見した。ヴィッキーの妹 ジュディーは、夫のチャックとクルーザーで海に出ていた。そこへ巨大ダコが現れ、2人を襲撃した。ターナーは一連の事件がトンネル 工事の影響だという記事を執筆した。ホワイトヘッドから電話で「確たる証拠も無しに勝手なことを書かないでくれ」と抗議された ターナーは、「私は自分の思ったことを書きますよ」と突っぱねた。
浮上したウィルは、トロージャン建設会社が法定基準を遥かに越えた高周波を電気振動装置で使用し、それが海底の生物に影響を与えたと 確信した。「何か巨大な生物が、機械類を破壊したのだ」と彼は口にした。「何でしょう、サメですかね」と言うマイクに、ウィルは 「おそらく巨大なタコだ」と答えた。岸に戻ったウィルは、ジュディーたちが行方不明だと知った。ヴィッキーは船をチャーターして捜索 に向かい、沈み掛けている妹夫婦の船を発見した。直後、巨大ダコが出現し、ヴィッキーは殺された。
ホワイトヘッドはコーリーを呼び付け、「何か隠していることがあるだろう」と問い詰めた。コーリーは、法定基準を超えるテストを 繰り返していたことを打ち明けた。トミーとジェミーはティリーに見送られ、少年ヨットレースに参加した。ウィルはターナーとロバーズ に「巨大タコに違いない。大タコの吸盤に比べたら虎の爪なんて大したことが無い」と告げた。
ターナーたちは、ヨットレースの開催を知った。ロバーズは沿岸警備隊に危険区域を広げて、レースを中止するよう連絡することにした。 ヘリやボートから、レース参加者に中止が伝えられた。そこに巨大ダコが現れ、次々にヨットを転覆させる。少年たちは救助されるが、 ジェミーだけは戻らなかった。ウィルは飼い慣らしたシャチたちを使い、巨大ダコを退治しようと考える…。

監督はオリヴァー・ヘルマン、脚本はジェローム・マックス&ティト・カルピ&スティーヴン・W・カラバトソス&S・モルテーニ、 製作はE・F・ドリア、製作協力はA・カポネット、製作総指揮はオヴィディオ・G・アソニティス、撮影はロベルト・デットーレ・ ピアッツォーリ、編集はA・J・カリ、美術はM・スプリング、音楽はS・W・チプリアーニ。
出演はジョン・ヒューストン、シェリー・ウィンタース、ボー・ホプキンス、ヘンリー・フォンダ、クロード・エイキンス、ヘレナ・ マケラ、デリア・ボッカルド、チェザーレ・ダノーヴァ、アラン・ボイド、シェリー・ブキャナン、フランコ・ディオジーネ、マルク・ フィオリーニ他。


スティーヴン・スピルバーグの『ジョーズ』がヒットした後、雨後の筍のように作られた亜流作品群の一つ。
「テンタクルズ」は触手という意味。
ビデオタイトルは『怪獣大パニック/テンタクルズ』。
監督のオリヴァー・ヘルマンは、製作を担当しているオヴィディオ・G・アソニティスの変名。この人は監督第1作となる『デアボリカ』 で『エクソシスト』と『ローズマリーの赤ちゃん』をパクっていたが、2作目も亜流映画を作ったわけだ。

どういう経緯で配役が決定したのか分からないが、出演者は『ジョーズ』の二番煎じ映画とは思えないぐらい豪華な顔触れになって いる。
ターナー役は監督として『黄金』や『赤い風車』などを手掛け、俳優としても『チャイナタウン』『風とライオン』などに出演している ジョン・ヒューストン。
ティリー役は『アンネの日記』『ポセイドン・アドベンチャー』のシェリー・ウィンタース。
ホワイトヘッド役は『十二人の怒れる男』『絞殺魔』のヘンリー・フォンダ。
ロバーズ役は『リオ・ブラボー』『続・荒野の七人』のクロード・エイキンス。
ウィル役は『ゲッタウェイ』『アメリカン・グラフィティ』のボー・ホプキンス。
やや年齢が高めではあるものの、ハリウッドで充分な実績を残していたメンツが、イタリアの亜流映画のために集まっている。

この映画、日本で配給したのは東宝東和だった。
東宝東和と言えば、スパック・ロマンというデタラメなジャンルを作ったり(『オルカ』の公開時に『スター・ウォーズ』に便乗するため にデッチ上げた謎のジャンル)、原題とは無関係な邦題を付けたり(『バタリアン』とか『サンゲリア』とか)、ボンクラ魂満開の宣伝 活動を繰り広げた素晴らしい会社である。
そんな東宝東和は、『デアボリカ』の時には「サーカム・サウンド」という音響立体移動装置を用意し、本作品の公開時には新開発の 「トレンブル・サウンド」なるものを用意した。
これは特殊録音した音を特殊コントロールボックスを通して流し、超低周波で震動効果を発揮する超立体音響システムらしい。
「何のこっちゃ分からん」と思った人もいるかもしれないが、あまり気にしなくてもいい。
東宝東和の「新開発の音響システム」ってのは、ほとんどハッタリみたいなモンだから。

冒頭、走っているタクシーの無線が聞こえる。タクシーはヨットレースの看板の下で客を拾い、サロナビーチまで乗せる。義足の男性客が 芝生を歩くと、カメラは乳母車の赤ん坊をあやす母親に移動する。
その母親と赤ん坊が写るまでの映像は、必要性が無いでしょ。
っていうか、その男は義足なのでサリヴァンだと思われるが(顔が写らない)、タクシーでビーチまで行ったのかよ。
赤ん坊をあやす母親の後、水中にいるタコの姿が映し出される。そして、水面に顔を出すタコ視点の映像になる。
でも、その後で再び水中にいるタコの様子を写してしまうので、「水面に出てないじゃねえか」と思ってしまうぞ。
それ以前の問題として、写っているのは明らかに普通のタコであって、巨大ダコじゃないんだよね。巨大に見せようとしているのかも しれんが、全く見えないぞ。

母親は、軽トラックで親友が来たので話しに行く。その背後を車が通過する度に、乳母車が画面から消える。そして大型トラックが通過 した後に、乳母車が消えている。
これはサスペンスの演出としては上手いのだが、たまたま上手い演出になっただけで、監督にセンスがあるわけではない。
その証拠に、母親が慌てて戻ると乳母車は海に浮かんでいるが、突堤には「そこに何かが現れた」という不気味な形跡が何も残されて いない。
それだと、海の怪物に食われたんじゃなくて「誰かに誘拐された」というサスペンスの方がふさわしい。
そもそも海から乳母車までの距離を考えると、あの秒数でタコが海から現れて赤ん坊を連れ去って海に消えるのは困難だ。海から 3メートルも離れた突堤にいたんだぞ。

サリヴァンが襲われるシーンでは、物音がしたので友人が船に行くと、彼が消えているという形にしてある。
ただ、襲われたのなら悲鳴の一つぐらい上げるはずなのに、それは全く無かった。
で、カップルが釣りをしているとサリヴァンの腐乱死体がガバッと水面から飛び出すが、それは動きとして変でしょ。インパクトを 見せたいってのは分かるけど、そこは漂ってくるのを発見するという形にでもした方がいいでしょ。
ちなみに、巨大ダコに襲われた死体が写るのは、そのシーンのみ。
で、死体を見たターナーとロバーズは「骨だけだ」「まさに骸骨だ」と言っているけど、カップルが見つけた時には腐乱死体だったのに、 いつの間に骨だけになったのか。

基本的にタコは本物を使っているので、実際に人間と絡む映像は、ほとんど使えない(ハリボテのタコの足を使っているシーンも部分的 には存在する)。
なので、ウィルが派遣した部下が襲われるシーンでも、まずタコが水中にいるカットを入れることで「そこにタコがいますよ」と示し、 それを見つけた部下のリアクションは別撮りしている。
部下の一人は岩陰から噴射された墨の中に入っているのだが、それが「いきなり吸い込まれた」というシーンだったことは、もう一人の 部下の通信で初めて理解できた。

部下が海で死んだのに、しかも一人は船との通信で妙なことまで言い残しているのに、ウィルは全く気にしている様子が無く、かなり ノンビリしている。
彼はコーリーに呼ばれたから調査に来ているが、そうじゃなくても部下が死んだのだから、すぐに飛んで来いよ。
で、彼が調査に潜ると、大量の魚が海底に頭をつけて逆立ち状態で死んでいる。
たぶん不気味さを出したいんだろうけど、バカバカしさしか感じないような死に方だ。
なぜ普通に死んでいる姿にしておかなかったんだろう。

チャックが襲われるシーンでは、タコ視点の映像を使っている。
これは『ジョーズ』でもやっていたから、その演出自体を、それだけで陳腐だというつもりはない。
ただ、サスペンスを煽る音楽を流しておいて「友人ドンがチャックを襲うイタズラでした」というコケ脅しを1度ならず2度までもやる のはいただけない。
で、チャックは襲われて死ぬんだが(いつの間にかヴィッキーとドンは消えている)、その死体はスケキヨ(厳密に言うとスケキヨ じゃないけど)みたいに両足を海上に出して逆さに浮いている。
監督は逆さにするのが好きなのか。

海底を調査したウィルは、マイクに「(機械類を破壊した巨大な生物は)サメですかね」と言われると「おそらく巨大なタコだ」と口に する。
なぜタコだと言い切れるのかは分からない。
ヴィッキーは船をチャーターして妹夫婦を捜索し、船を発見する。その前に沿岸警備隊が捜索しているはずなのに、なぜ船を発見 できなかったのかは不明。
ヴィッキーの前に巨大ダコが現れるが、ただ単に水が勢い良く噴射されるだけ。もちろん「ヴィッキーを襲う巨大ダコ」という映像は 無い。

ジェミーの母親が訪れて「一緒に行きますか」と言ったことで、ターナーやロバーズはヨットレースがあることを知る。
だけどターナーはともかく、ロバーズは地元の保安官なんだから、ヨットレースが開催されることぐらい把握しておけよ。
で、そのヨットレースの海上にタコが出現するのだが、ここでは「タコの頭らしき物体が水面に見えて近付いて来る」という映像がある。
だけど、それがタコの頭には全く見えない。
っていうか、タコってそんな泳ぎ方はしないと思うぞ。それだと立ち泳ぎじゃねえか。

タコは頭を上に出して泳いでいたのに、画面が切り替わってトミーのヨットを襲う時は逆立ち状態で、触手でヨットを掴んで沈めて いる。
どんだけ俊敏に体勢を入れ換えたんだよ。
で、次々にヨットを沈めたのに、なぜかタコは全ての子供を食うわけではなく、大半は救助されている。
ってことは救助艇もタコに襲われていないってことになる。
そんな中でジェミーだけは戻ってこないが、一人の骨髄を吸い取っただけで腹一杯になったってことか。

ターナーが主役かと思ったら、彼は終盤を待たずに画面から退場し(ついでにティリーやホワイトヘッドも退場)、ウィルが主役の座に 座る。
そんなウィルが最後に巨大ダコと戦うのかと思ったら、それも違っていた。
クライマックスでタコと戦うのはシャチだった。
そんでシャチに食い殺されるタコも情けないんだが、それ以前の問題として、画面が暗いし、どアップすぎるので、何が起きているのか 良く分からないんだよな。
そんなこんなで、グダグダのまま映画は終幕。

(観賞日:2010年7月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会