『TEKKEN -鉄拳-』:2010、アメリカ&日本

戦争によって政府は崩壊し、世界の支配権をめぐって多くの企業が争った。勝ち残った8つの大企業がアイアン・フィスト連合を結成し、 世界を分割することになった。アメリカを支配するのは、その中で最も強大な企業であるTEKKENコーポレーションだ。彼らが毎年開催して いる武術トーナメントは、命を懸けた真剣勝負だ。TEKKENシティーの塀の外には、荒れ果てたスラム街“アンヴィル”がある。風間仁と いう青年は、そこで暮らしていた。
仁は銃を持った連中に追われ、必死でギャングゾーンを逃走する。そこへ三島財閥の警備部隊である“鉄拳衆”が現れ、仁を追っていた 連中を銃殺する。仁は身を隠し、何とかやり過ごした。彼は反体制グループのガレージへ行き、TEKKENコーポレーションから盗んで来た 機械を渡して金を受け取った。彼が外に出ると、三島財閥の総帥である三島平八が大型スクリーンでアイアン・フィスト・トーナメントに ついて語っていた。トーナメントは4年連続で三島財閥が優勝しており、今年は2日後にTEKKENシティーで開催される。一般参加の枠が 1つ空いており、強豪選手のマーシャル・ローも、その枠を巡って争うことになっている。
仁はバーへ行き、バーテンダーに溜まっていたツケを支払った。彼は闇商人のデンスローに声を掛け、コーヒーを高額で購入した。店を 出ようとすると、反体制グループのヴォスクとハンスーが現れて「仲間になる気になったか?」と話し掛けて来た。「いや」と仁が言うと 、ハンスーは「お前は強い。ストリートファイトしてた」と口にする。仁が「金のためだ」と告げると、ヴォスクは「大義のために戦え。 企業の暴君どもを倒すために戦うんだ」と持ち掛ける。しかし仁は「俺には関係ない」と冷たく言う。
平八は息子の一八に、「トーナメント開催中はお前に鉄拳衆の指揮を任せる。アンヴィルの警備を強化しておけ」と指示した。「今日は スピーチをやらせてください」と一八が頼むと、彼は「お前の仕事は警備だ。失望させるなよ」と告げる。セクター9の家に帰宅した仁は 、母親の準からTEKKENコーポレーションに逆らわないよう諭され、激しく反発した。彼は外出禁止令が出ているにも関わらず、家を出て 行く。彼は恋人のカーラと遭遇し、彼女と情事にふけった。
反体制TEKKENコーポレーションのビデオサーバーに侵入しようとするが、ガレージを突き止めた一八と鉄拳衆が突入した。鉄拳衆は ガレージにいた面々を始末し、検索によって仁の存在も突き止めた。準は風間家に乗り込んで来た鉄拳衆から仁の居場所を問い詰められる が、返答を拒絶した。別の場所にいた一八は、セクター9を焼き尽くせと手下に命じた。風間家は燃やされ、準は死亡した。
仁は「三島が母を殺した」と怒りを燃やし、必ず復讐を遂げると心に誓った。彼がシティーへ行くと、スティーヴ・フォックスという男が 「市民代表としてトーナメント予選に出る奴はいないのか」と呼び掛けている。彼が「ここに100グローバルドルある。マーシャル・ロウ と1ラウンド戦った奴には、これをやる」と言うと、一人の巨漢が名乗り出た。仁は「俺も出る」と告げ、会場に案内される。ケージでの 予選は1ラウンド3分で行われる。
マーシャル・ロウが相手選手を圧倒して倒す様子を見た巨漢は、怖がって逃げ出した。仁は苦戦しながらも何とかロウを倒し、市民代表に なって本大会の出場権を得た。他の選手にはスポンサーがいて、出場登録やトレーニングの用意など細かい仕事をしている。スティーヴは 賞金の20パーセントで仁のマネージメントを引き受けた。一方、一八は父が自分に厳しく当たり、後継者として認めてくれないことに 苛立ちを募らせていた。
トーナメントの出場者は、仁も含めて10名だ。レイヴンは忍術のエキスパートで、エディー・ゴルドはカポエイラの達人、セルゲイ・ ドラグノフはコマンドサンボの使い手だ。骨法を使うアンナと合気道を使うニーナのウィリアムズ姉妹は、プロの殺し屋だ。クリスティー ・モンテイロは総合格闘技の武術家、ミゲル・ロホはジポタ柔術のスペシャリスト、吉光は剣術の達人で本物のサムライだ。ブライアン・ フューリーはキックボクサーで、TEKKENコーポレーション所属の現チャンピオンだ。
スティーヴと共に宿舎へ入った仁は、トレーニングしている選手たちの元へ行く。彼はクリスティーに見とれて話し掛ける。彼女に「貴方 、市民代表ね。強そうには見えないわね」と言われ、仁は微笑して「今の言葉、後悔させるよ」と言う。トーナメントが始まり、最初の 対戦はレイヴンとエディーに決まった。レイヴンがマウントパンチで勝利した。次はミゲル・ロホと仁の試合になった。スティーヴは 「あいつは右フックを出す時、必ず左に体重を掛ける。そこを狙え」とアドバイスする。ミゲルを倒した仁は我を忘れて殴り続け、 スティーヴが「もう終わってる」と叫んで制止した。
試合の後、仁とスティーヴが廊下を歩いていると、配下を引き連れた一八がやって来た。彼はフォックスに「戻って来たのか」と声を 掛ける。スティーヴが仁を紹介すると、一八は「父も褒めていたよ」と言う。「ミスター三島にお礼が言いたい。会わせてくれないか」と 仁が告げると、彼は「勝ち続ければ会える。お前のファイト・スタイルを見たことがあるが、父親はトーナメントに出た選手か」と質問 してきた。仁は「父のことは知らない」と答えた。
仁が木人を使って鍛錬を積んでいるのを、クリスティーが物陰から見ていた。仁が部屋で休んでいると、クリスティーが来て「一緒に外へ 出ない?」と誘う。一八は仁のデータを調べ、自分のDNAと合致することを知って驚いた。クリスティーは仁をクラブへ連れて行き、 「今日の試合は何?アイアン・フィストは殺し合いじゃないのよ。このままじゃ、いつかトラブルになるわ」と忠告した。2人は一緒に 踊り、抱き合ってキスをした。
宿舎へ戻った仁は、クリスティーが部屋を去った後、覆面コンビの闇討ちを受けて怪我を負う。異変に気付いたクリスティーが部屋に戻る と、襲った2人は逃亡した。スティーヴは「アンヴィルの人間が勝つのを、奴らは妨害しているんだ」と言うが、仁は「もしかしたら他に 理由があるのかも」と口にする。彼の母親が準だと知って驚いたスティーヴは、「かつて彼女とコンビを組んでいた。彼女はTEKKEN所属の 選手だった」と語る。何も知らなかった仁はショックを受けた。
仁はクリスティーから「大会のことは忘れて、どこかに隠れて」と言われるが、「俺は逃げない。俺がここに来たのは三島を殺すためだ」 と強い口調で告げる。彼を襲ったのはウィリアムズ姉妹で、一八の指示を受けて動いていた。戻って来た姉妹に、一八は「お前たちは奴を 見くびっている。俺がお前たちのヘマの尻拭いをするんだ」と苛立ちを示す。翌日。クリスティーはニーナとの対戦が決まる。仁はニーナ が暗殺者の一人だと気付いた。クリスティーはニーナを圧倒して勝利した。
一八はブライアンに高額の報酬で仁の始末を依頼するが、「俺は金なんて要らないんだよ」と拒否される。一八は「身体強化改造は大会 ルールに違反する。永久追放になるぞ」と彼を脅した。仁は吉光との第2試合が決まり、かつてスティーヴが使っていたパワーグローブで 負傷した腕を保護する。平八は「このカードは準決勝に取っておく方がいい」と言い、対戦カードの再選を部下に指示した。すると一八は 「そんなことはさせない」と鉄拳衆に銃を構えさせ、平八に「もう待つのは御免だ。TEKKENは俺が貰う」と宣言した。
試合が始まると、仁は吉光に一方的にやられる。一八は吉光に、仁を抹殺するよう合図を出した。彼は平八に、「風間仁が死ぬところを 見るがいい。俺の若気の至りで出来た息子だよ」と言う。平八は隙を見て、非常事態発生のボタンを押す。仁は肩を脱臼しながらも、吉光 を倒した。一八は平八を拘束させ、鉄拳衆に選手の連行を命じた。
クリスティーとスティーヴは仁を連れて逃げようとするが、鉄拳衆に捕まってレイヴンと同じ檻に入れられる。そこへ一八が現れ、「今 まで分からなかったが、ここに権力があることに気付いた。さっきの試合は過去最高の視聴率を記録した。そこで残りの試合は、どちらか が死ぬまで続行する。大会は明日から再開する」と告げて去った。レイヴンは警備兵を倒して銃を奪い、仁たちは檻から脱出した。
檻に入っている平八を見つけた仁は、憎しみをぶつけて罵った。平八は表情を変えず、「私は何も奪ってはいない」と静かに言う。「出口 の暗証番号を教えろ」とスティーヴから要求された平八は、「私を助けるなら教えてやる」と持ち掛ける。スティーヴは取引を承諾し、 平八を檻から出した。逃げる途中でレイヴンが捕まるが、他の4人はアンヴィルに辿り着き、仁の隠れ家へ向かう。一八は鉄拳衆を率いて アンヴィルに入り、仁たちの捕獲命令を出した。
平八は仁に、「TEKKENとは単なる企業ではなく、混沌を終わらせる手段だ。我々の目的は世界再生だ。荒廃した世界に秩序を生んだ」と 語る。「TEKKENは恐怖だ。お前の手は、俺の母親の血で染まってる」と仁は怒鳴る。平八に「私は彼女の命を救ったんだぞ。十数年前、 大会の後でレイプされた彼女を見つけ、私が街の外に助け出した。息子は昔から残忍な男だった。お前の父だ」と聞かされ、仁は驚愕する 。その時、隠れ家に鉄拳衆が乗り込んで来た。スティーヴは撃たれて死亡し、他の3人は捕獲されてしまった…。

監督はドワイト・リトル、脚本はアラン・B・マッケルロイ、製作はベネディクト・カーヴァー&スティーヴン・ポール、共同製作はキム ・ウィンザー&ジェームズ・コイン&ランプトン・イノックス、製作総指揮は中村雅哉&テツ・フジムラ(藤村哲也)&スコット・ キャロル&ダニエル・ダイアモンド&カーステン・ロレンツ、撮影はブライアン・J・レイノルズ、編集はデヴィッド・チェセル、美術は ネイサン・アマンドソン、衣装はショーン・ホリー・クックソン、ファイト・コレオグラファーはシリル・ラファエリ、スタント・ コーディネーターはエリック・ノリス、VFX監修はアンソニー・リアッツィー、音楽はジョン・ハンター。
出演はジョン・フー、ケリー・オーヴァートン、ルーク・ゴス、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、イアン・アンソニー・デイル、カン・リー 、ダリン・デウィット・ヘンソン、ミルチェア・モンロー、タムリン・トミタ、キャンディス・ヒルブランド、マリアン・ザピコ、 ゲイリー・ダニエルズ、ロジャー・フエルタ、ジョン・パイパー・ファーガソン、ラティーフ・クラウダー、アントン・カサボフ他。


バンダイナムコゲームスの対戦格闘ゲーム『鉄拳』シリーズを基にした映画。
監督は『ホワイトハウスの陰謀』『アナコンダ2』のドワイト・リトル、脚本は『バリスティック』『ネバー・サレンダー 肉弾凶器』の アラン・B・マッケルロイ。
仁をジョン・フー、クリスティーをケリー・オーヴァートン、スティーヴをルーク・ゴス、平八をケイリー=ヒロユキ・タガワ、一八をイアン・アンソニー・ デイル、ロウをカン・リー、レイヴンをダリン・デウィット・ヘンソンが演じている。

登場キャラクターの見た目をなるべくゲームに似せようとしていたり、日本人である三島親子に日系三世のケイリー=ヒロユキ・タガワと 日本人の母親を持つイアン・アンソニー・デイルを起用していたりと、それなりに頑張っていることは認める。
ただしイアン・アンソニー・デイルは、まるで日本人っぽくないよな。
あと、平八は体格の部分で問題があるけど、まあ「ムキムキでアクションの出来るジジイ」を見つけて来るのは難しいから、そこは仕方が ないかな。
だから平八にアクションをさせないのも、まあ正解かな。

で、それなりに頑張っていることは認めるが、残念ながら全く足りていない。
登場キャラのチョイスに関しては、なぜゲームの全シリーズに登場するポール・フェニックスとキングが除外されているのか。
スティーヴがファイターじゃなくて仁のマネージャーってのも、ゲームのファンからすると「なんでだよ」と言いたくなるポイントかも しれない。
あと、準と鉄拳衆にチラッとだけカタコトの日本語を喋らせているけど、そんな中途半端なことをするぐらいなら、全て英語にした方が マシでしょ。
どうせ舞台はアメリカだから、日本人が英語を喋っていても、そんなに変じゃないし。

格闘スタイルの変更にも疑問がある。
クリスティーに関しては、ゲーム通りにカポエイラという設定だとエディーと被るので、そこを変更するのは良しとしよう。それに、格闘 の技術が無いケリー・オーヴァートンにカポエイラをやらせるってのは、無理があるしね。
ただし、ウィリアムズ姉妹を骨法と合気道に変更した意味は何なのか。
じゃあ劇中で骨法と合気道を使うのかというと、まるで使わない。ニーナはパンチとキックばかりだし、アンナに至っては試合シーンが 無い。
だったらゲーム通りに「暗殺格闘術」で良かったでしょ。

ウィリアムズ姉妹に限らず、選手たちは設定にあるような格闘スタイルを全く見せてくれない。ほとんどの選手が、キック・ボクシングを 主体にしたような、同じようなファイト・スタイルで戦う。
明確に違いが分かるのは、ゴルドのカポエイラぐらいかな。
レイヴンの戦いに、忍術の片鱗は皆無。忍術っぽさを格闘の中で見せるのは難しいだろうけど、ただの打撃系総合格闘家になっている。
ミゲルはジポタ柔術(って何?)の使い手なのに、パンチとキックばかりで、ほとんどキックボクサーだ。
ドラグノフも、コマンドサンボっぽい動きは全く見せてくれない。
それに、各選手はゲームでの得意技も全く使わないし。

ストライクフォース世界ミドル級王者のカン・リー、総合格闘家のロジャー・フエルタ(ミゲル役)、テコンドー世界王者のアントン・ カサボフ(ドラグノフ役)、アクション俳優のゲイリー・ダニエルズ(ブライアン役)とラティーフ・クロウダー(ゴルド役)と、格闘の 出来る複数のメンツを起用しているのだが、前述のように格闘スタイルが似ていることもあり、アクションシーンの高揚感に乏しい。
多くの選手を登場させたのなら、少なくとも格闘技やアクションの出来るメンツに関しては、クライマックスに集団戦闘のシーンを用意 して、そこで活躍させてやればいいものを、全く使おうとしないし。
コマンドサンボの使い手というキャラにテコンドー王者を起用するとか、どういうつもりなのよ。

冒頭、発砲してくる連中から仁が逃げるシーンではパルクールも盛り込まれているけど、最初にアクションから入るなら、格闘シーンに すべきでしょ。
なんで銃撃とパルクールなのよ。
しかもパルクールは少しで、むしろガンアクションの印象が強い。
そこで主人公の格闘術の腕前を見せておかず、しかも逃げまくっているだけだし、「そんなに強い奴には見えないのに、試合に出たらに 急に強い」という感じになっちゃう。

いや、そりゃあ「そんな風に見えなかったけど、実は戦ったら強い奴」というギャップを使った面白さを意図的に出そうとしているのなら 、それでもいいよ。
だけど、単純に強さアピールの計算が出来ていなかったとしか見えない。
「ストリートファイトで戦っていた」というセリフがあったり、太極拳をやっている準が「お前は一番の弟子よ」と言ったりと(って いうかゲームだと彼女の格闘スタイルは古武術なのだが)、仁が格闘に長けていることを示すようなセリフはあるしね。
だから、ただの手落ちとしか感じない。

仁が母に反発して家を飛び出す設定には、あまり意味が無い。
「言うことを聞いていれば母さんは殺されずに済んだのに」と自戒の念にさいなまれるとか、そういうことは全く無いんだし。
「家にいるべきだった。行くなと言われたのに」と口にするシーンはあるけど、それも自分を責めるというところへは働かず、三島平八 への怒りだけが沸いているので、あまり意味は無い。
普通に仲の良い親子で、ケンカせずに家を出ていたという設定でも、物語の展開には何の差も出ない。

もう風間家が燃やされて準が死亡した時点で、それが平八の指示ではなく、一八の独断による攻撃だと観客は知っている。
だから仁が平八への復讐に燃えても、「それは間違えているよ」と言いたくなってしまう。
そこは、観客も仁と同様に、平八が指示したと思い込んでいる方がいいんじゃないのか。
準が殺された時点で、それが一八の仕業だとバラしてしまうのは、得策とは思えないんだけど。

仁はアンヴイルでカーラという恋人がいたのに、そんなことはすっかり忘れてクリスティーに夢中になっている。
だったら、カーラなんて要らないでしょ。どうせ全く存在価値の無いキャラなんだし。
家を飛び出した時は、男の親友と会っていた設定にでもすればいいだけだ。
仁がトーナメントで戦って勝利する様子をカーラが見ているという描写があるけど、どう受け止めればいいのよ、こっちは。

まだトーナメントの途中なのに、仁とクリスティーは平気でラブラブになっている。
クリスティーも、すぐに仁を誘っちゃうんだから、すげえ尻軽だよな。
恋愛劇を盛り込みたいのは分からないでもないけど、それはチープだなあ。
大体さ、クリスティーは企業の代表としてトーナメントに参加しているはずでしょ。なのに、その最中に他の選手と関係を持つってのは、 プロ意識の欠如としか思えないぞ。

一八が父に反乱を起こすタイミングがカード変更の拒否ってのは、なんて陳腐なのかと思ってしまう。
あと、TEKKENコーポレーション所属じゃないウィリアムズ姉妹や吉光が一八の配下として動いているってのも、展開がグダグダだ。
その吉光は武器を持っているキャラなのに、こいつを選手として出しちゃうから、1試合だけ互いに武器を使っての戦いがあるという妙な ことになっているし。
しかも、そうなると、仁が拳を怪我しているとか、パワーグローブで保護しているとか、そういうのが何の意味も無くなってしまう。

仁が拳を怪我してスティーヴからグローブを借りたのなら、そこを活かした戦いにすべきじゃないのか。
武器で戦うのなら、拳を怪我していてもいなくても、あまり支障が無いじゃねえか。
途中で武器を捨てて戦うけど、それでも拳を怪我していることは何の影響も与えない。ラストも何の迷いもなくパンチで勝つし。
そこまでに「拳をかばっているから上手く戦えない」という描写は無いし、「なるべく拳を守ろうとしたけど、それだと勝てないから 思い切ってパンチを入れる」とか、そういう流れがあるわけでもない。

平八は仁が吉光の戦いでボコボコにされるのを見て「こんな試合に名誉など無い」と吐き捨てるけど、それまでの戦いと、その戦いと、 具体的に何が違うのかサッパリだよ。
それまでの戦いがクリーンなファイトで、その試合が急にダーティーで殺伐とした内容になっているようには感じないぞ。
仁が1回戦でミゲルを倒した時だって、我を忘れて殴りまくっていたでしょ。
それと大して変わらんぞ。

平八は「トーナメントでの優勝が世界支配に繋がる」と語っているが、メチャクチャな設定だな。
で、トーナメントなんだから8人か16人の出場者にしておけばいいのに、10人という半端な数になっている。
しかも、トーナメントと言いながら、まだ他の選手が戦わない内に、仁の2試合目が来てしまう。メチャクチャな大会だな。どういう試合 日程なんだよ。
で、仁たちが捕まった後、いつの間にかドラグノフとブライアンの準決勝になっている。
そこまでの試合はどうなったんだよ。

ドラグノフとブライアンの準決勝は、槍とチェーンという武器を使っての戦いだから、コマンドサンボとキックボクシングという設定も 全く意味が無くなっている。
しかも、戦い始めてから1分も経過しない内に、2人とも武器を手放してしまう。なんだ、そりゃ。
でも、そこからも、やはりドラグノフはコマンドサンボなんて全く使わない。
どっちもキック・ボクサー同士みたいな戦いだ。

で、そんな戦いが行われている中、仁は捕まっているんだが、なぜか一八は彼を殺さず、「俺を殺したいなら、ブライアン・フューリーを 殺せ。それがアイアン・フィストだ」と言い、大会に出させる。
もうね、何がしたいのかサッパリだよ。
で、仁とブライアンの戦いが決勝になっているんだけど、なぜ仁は準決勝を戦っていないのに、いきなり決勝戦に進出しているんだよ。
どういう規定なんだよ。

仁がブライアンに勝つと、一八は「こうなったら俺が奴を倒す。ファイナル・マッチだ」と、わざわざ会場に現れて仁と戦う。
いやいや、仁を始末したいのなら、誰も見ていない場所で殺せよ。なんで観客のいる会場へノコノコと出て行くのか。
しかも、両手に斧を持って戦うとか、メチャクチャだよ。
一方の仁にしても、奪った斧で一八はの腹を切り裂いて戦いを終わらせるって、なんだ、そりゃ。
「鉄拳」なんだから、最後はパンチでノックアウトすべきじゃないのか。なんで最後の攻撃が武器によるものなのよ。

ただし、格闘ゲームの実写映画化という時点で、ポンコツになることは、ほぼ決まっていると言っても過言ではないんだよね。
というのも、格闘ゲームの映画化だから、当然のことながら格闘シーンを充実させなきゃいけない。
しかもゲームのキャラクターを、なるべく大勢出さなきゃいけない。
そうなると、格闘シーンを多く用意したり、キャラを多く登場させたりするために、物語の中身は犠牲にせざるを得ないという部分が あるんだよな。

それでも「主人公が次々に襲ってくる色んな敵と戦う」という流れなら、まだスッキリした構成に出来るかもしれんけど、そういうわけ にもいかないしね。
主人公とは別のキャラ同士が戦うアクションシーンも、やはり作らないといけないよな。
この作品なんかだと、やはり格闘トーナメントという設定を使わなきゃいけないという「縛り」があるわけで、その時点で「物語の面白さ 」「ドラマの充実」という部分は、ほぼ諦めざるを得ないよな。
10回ぐらいの連続TVシリーズでやれたら話は別だけど、1本の映画の尺で収めなきゃいけないわけだし、格闘トーナメントを描いて いたら、そこだけで精一杯だよな。

(観賞日:2012年6月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会