『TAXi ダイヤモンド・ミッション』:2018、フランス
アルジェリアの砂漠では、ハミッドという男がタクシーを猛スピードで走らせていた。町に着いた彼は、後部座席に乗せていたヤギに話し掛けた。待っていた男たちにヤギを引き渡した直後、ハミッドは甥のエディー・マクルーから電話を受けた。「車がに無いと殺される。ヤバい事件に関わった」とエディーが訴えると、ハミッドは「今さら返せない」と告げる。エディーが必死で訴えると、ハミッドは嘘をついて電話を切ってしまった。
1週間前。パリ警察のシルヴァン・マロは犯人を乗せ、パトカーを猛スピードで走らせた。怯えた犯人はボスの名前や居場所、取引の日時を白状した。警察署に戻ったシルヴァンは署長に呼び出され、関係を持った女性が警視総監の妻だったことを知らされる。シルヴァンは大した問題ではないと考えていたが、署長からマルセイユ警察への左遷を命じられた。シルヴァンは田舎での勤務を嫌がり、すぐに手柄を立てて特殊部隊に異動しようと考えた。
マルセイユ警察署長のアランはシルヴァンに、部下たちを紹介した。イタズラ好きのメナール、小人でクリスチャンのミシェル、妻を尾行の練習台に使って逃げられた変態のレジス、大食漢で小太りのサンドリーヌという顔触れだ。シルヴァンがパトカーに試乗すると、アランとサンドリーヌが同行した。ウーバー運転手のエディーは客を乗せて仕事をするが、左のドアが無いことを指摘される。彼は「ドアだけが車検中です」と適当な嘘をつくが、客は苛立った。
エディーは恋人のサンディーから電話を受け、「パパが留守なので、甘えたいから寄って」と誘われる。エディーは「行きたいけど、ルネの店に行くんだ」と話すが、サンディーに「本物の男が欲しいの」と言うとOKする。彼がスピードを上げてバス専用レーンに入ると、目撃したシルヴァンはサンドリーヌを乗せて追跡する。エディーは追跡に気付くが、撒いて逃げようとする。シルヴァンはサンドリーヌが嘔吐して前方が見えなくなり、車ごと海に転落した。そこへ国家警察のロペズとパオリが来てシルヴァンを殴り付け、「所轄が出る幕じゃねえ」と怒鳴る。シルヴァンは腹を立てるが、サンドリーヌがなだめてロペズたちに謝罪した。
エディーはサンディーの豪邸に行き、セックスを始めようとする。しかし誤って火事を起こしてしまい、慌てて消そうとしているところへサンディーの父が帰宅した。マルセイユ市長のジベールは警察署を訪れ、イタリア人の宝石強盗団について説明する。彼は5日後に開催される世界宝石展のことを話し、強盗団を逮捕する任務のリーダーにシルヴァンを指名した。
強盗団はフェラーリを使っており、シルヴァンは警察車両で捕まえるのは無理だと考える。アランは「ダニエルとエミリアンがいれば逮捕できるのに」と言い、彼らの功績についてシルヴァンに説明した。しかしエミリアンは引退し、ダニエルはマイアミに移住していた。彼が「ダニエルの甥に聞いてみようか」と提案すると、シルヴァンは賛成した。アランはシルヴァンに、「これからは相棒だ。お互いに助け合っていこう」と告げる。しかし彼は車にはねられて大怪我を負い、入院を余儀なくされた。
シルヴァンはダニエルの甥のエディーがバス専用レーンを暴走した犯人だと知り、警察署へ連行した。彼はエディーに、刑務所に行きたくなければダニエルのタクシーを引き渡すよう要求した。するとエディーは、「無理だ。アルジェリアの叔父に送った」と言う。エディーはシルヴァンに、「車を見つけたら、相棒にしてくれ。街を知り尽くしているし、ウーバーの仲間の協力も得られる。アンタの部下はカスばかりだ」と話す。そこへメナールが来て、エディーはウーバーで最低評価の運転手だとシルヴァンに教えた。
シルヴァンとエディーは港へ出向き、コンテナに積んであるダニエルのタクシーを発見した。エディーは運転しようとするがエンストを起こし、シルヴァンは彼がオートマ限定免許しか持っていないことを知った。シルヴァンはジベールからの電話で、「強盗事件だ」と出動を命じられる。シルヴァンは「罠ですよ」と言うが、ジベールは耳を貸さなかった。シルヴァンはタクシーを運転し、宝石を強奪した犯人たちの黄色いフェラーリを追跡する。ジベールもビション副市長と共に犯人を追うが、環境大臣を乗せた車も巻き込まれた事故に遭った。シルヴァンは路面電車に邪魔され、フェラーリを見失った。
翌朝、シルヴァンは新聞記事を見て、強盗事件の日は必ず他の事件が重なることから内通者の存在を疑う。エディーはタクシーを修理するため、姉であるサミアの元へシルヴァンを連れて行く。サミアに惹かれたシルヴァンは口説こうとするが、「もっと気の利いたセリフにしな」と軽くあしらわれた。エディーはルネのバーにシルヴァンを連れて行き、友人のババを紹介した。「イタリア人にコネはあるか」とシルヴァンが訊くと、エディーは「ラシッドという男を知ってる。この辺りじゃイタリア人で通ってる」と述べた。
エディーはシルヴァンを連れて、ラシッドのレストランへ行く。シルヴァンが刑事だと聞いたラシッドは、闇カジノや銃器収集のガサ入れだと誤解した。シルヴァンは彼を問い詰め、強盗団に武器を売ったこと、北のサーキットに運んだことを聞き出した。北のサーキットでは、強盗団のトニー・ドッグやロッコが手下たちの走行練習を見守っていた。そこへシルヴァンはタクシーで乗り込み、フェラーリと競って勝利した。彼が「あんなんじゃレースに勝てないぞ」と言うと、トニーは「腕はいい。明日の夜に来い」と誘った。
シルヴァンはサミアを水族館デートに連れ出し、サプライズを仕掛ける。しかし失態を犯し、サミアの怒りを買った。翌朝、出勤した彼は、トニーたちを捜査する計画を説明する。トニーは別荘を借りており、そこでパーティーを開くことになっていた。シルヴァンが同行者を募ると、サンドリーヌしか挙手しなかった。シルヴァンは彼女に現場での待機を命じ、ミシェルも連れて行く。エディーはバーテンダーに変装し、勝手にパーティー会場へ潜入した。ミシェルはシンシアという女性に惚れて、職務を放棄した。
エディーは書斎に忍び込み、次に強盗団が狙うダイヤの写真を発見した。誰かが近付く音がしたので、彼は慌てて窓から脱出する。ゴミ箱に転落した彼は、イケメンたちとパーティーに来ていたサンディーに見つかった。エディーは「潜入捜査をしている」と釈明するが信じてもらえず、サンディーに幻滅された。
エディーはシルヴァンを書斎に呼び、写真を見せた。トニーが部下のロッコやカルロたちと書斎に来たので、シルヴァンとエディーは身を隠した。トニーはテレビ電話で次の計画に関する打ち合わせを始め、シルヴァンはロペズとパオリがグルだと知った。打ち合わせを終えたトニーたちは、エディーを発見した。捕まったエディーは、すぐにシルヴァンの居場所を教えた。2人は別の部屋で椅子に縛られ、カルロが尋問を始めた。脅しを掛けられたエディーは、すぐにシルヴァンの職業と目的を暴露した。
シルヴァンはカルロが部屋を出た隙に、窓を突き破って脱出した。しかしエディーは怖がって取り残され、カルロに殺されそうになる。そこにミシェルが駆け付け、カルロを殴り倒してエディーを救出した。翌朝、シルヴァンは署員たちを集めて入手した情報を説明し、全員で気持ちを合わせて事件の解決に当たるよう説いた。トニーたちは警護を担当するロペズとパオリの協力を得て、スイスからヘリコプターで届くダイヤを強奪しようと目論んでいた。シルヴァンは計画を阻止して一味を逮捕するため、エディーや署員たちと共に出動する…。監督はフランク・ガスタンビド、脚本はフランク・ガスタンビド&ステファーヌ・カザンジャン&リュック・ベッソン、製作はリュック・ベッソン&ミッシェル・ペタン&ローラン・ペタン、撮影はヴァンサン・リシャール・“マルキ”、美術はサミュエル・テセール、編集はジュリアン・レイ、衣装はクレア・ラカーズ、音楽はコレ。
出演はフランク・ガスタンビド、マリク・ベンタルハ、ベルナール・ファルシー、サルヴァトーレ・エスポージト、エドュアルド・モントート、サブリナ・ウアザニ、アヌアル・トゥバリ、ムッシュ・プルベ、シシ・デュバルク、サンド・バン・ロイ、ムーサ・マースクリ、エリック・フラティセリ、ラムジー・ベディア、ソプラノ、ダヴィド・サール、エリース・ラーニコル、ロマン・ランクリー、フランソワ・レヴァンタル、ベングース、ファブリツィオ・ネヴォラ、ファッサ・ブヤハメド、ジャナン・ブーディリ、フレデリク・ソーレイロル、ピート・シアス、エリサ・ブジノウスキ、リオネル・ラジェ、グレゴリー・フロメンティン他。
シリーズ第5作。
監督は『パッタヤー』のフランク・ガスタンビド。脚本はフランク・ガスタンビド監督、『パッタヤー』のステファーヌ・カザンジャン、シリーズ1作目から携わっているリュック・ベッソンの共同。
シルヴァンをフランク・ガスタンビド、エディーをマリク・ベンタルハ、トニーをサルヴァトーレ・エスポージト、サミアをサブリナ・ウアザニ、ミシェルをアヌアル・トゥバリ、メナールをムッシュ・プルベ、サンドリーヌをシシ・デュバルク、サンディーをサンド・バン・ロイ、ロペズをムーサ・マースクリ、パオリをエリック・フラティセリが演じている。
ジベール役のベルナール・ファルシー、アラン役のエドュアルド・モントートが、これまでのシリーズから続投している。シリーズ4作目までは、ダニエルとエミリアンという2人がコンビを組んでいた。スピード狂のタクシー運転手であるダニエルと、運転が下手でヘマを繰り返す警官のエミリアンという関係性だった。
そんな2人を演じていたサミー・ナセリとフレデリック・ディファンタールが、今回は出演していない。
なので全く無関係の話にするとか、リブートするという手もあるのだが、「エディーはダニエルの甥」という設定にして繋がりを持たせている。
それだけでなく、途中で「ダニエルとエミリアンのコンビは凄かった」とアランが言い、過去シリーズの映像を挿入するシーンもある。ただ、そうやって過去の映像まで使っちゃうと、どうしても観客は比較したくなってしまうわけで。
私は過去のシリーズが傑作だったとは全く思っちゃいないが、でもヒットしたからこそシリーズ化されたのは事実なわけで。
かなり昔の作品ならリメイクでもいいが、過去の4作は1998年から2007年までに公開されているので、見たことがある人、覚えている人も少なくないはず。
なのでホントなら、サミー・ナセリとフレデリック・ディファンタールに再登場してもらった方がいい。『TAXi』シリーズの熱烈なファンだったフランク・ガスタンビドとマリク・ベンタルハは、リュック・ベッソンに新作を作りたいと直訴した。
その熱意を感じたリュック・ベッソンが了承し、5作目の製作が決定したという経緯がある。
ただ、別人がコンビを組んでいる時点で、この映画が成功する可能性は低い。
いっそ過去のシリーズをパロディーにしちゃうぐらい開き直れば、何とかなったかもしれない。
でもリュック・ベッソンの製作なので、どうにもならんわな。アランはシルヴァンにダニエルとエミリアンの話をした時、「ダニエルの訊に聞いてみようか」と持ち掛ける。
この話にシルヴァンは乗るが、具体的に何を期待しているのかが分かりにくい。「甥に訊けばダニエルの協力を得られるかも」ってことなのかと思ったら、そうではなくエディーを連行したシルヴァンはタクシーの引き渡しを要求する。
だけど、なぜエディーがダニエルの車を持っていると断定して取引を持ち掛けているのか。
「エディーはダニエルの車を譲り受けている」なんて情報は、どこでも入手していなかったはずでしょ。いつの間に、それが確定事項のようになって話が進んでいるのかと。冒頭でエディーからタクシーを返すよう頼まれたハミッドは、「今さら返せない」と断っている。しかしシルヴァンと取引したエディーが港へ行くと、コンテナにタクシーが積んである。
冒頭シーンの後で「1週間前」とテロップで出ているので、「まだアルジェリアに送る前のタクシーを見つけたけど、その後でアルジェリアに送った」ってことなのかと思ったが、そうではない。「ハミッドがエディーの頼みで送った」という設定だ。
だったら、返すよう求められて冷たく電話を切る冒頭シーンは邪魔だよね。
っていうか、そもそも冒頭シーン自体が不要だよね。ジベールは港にいるシルヴァンに電話を入れ、「強盗事件だ」と場所を指定して出動を命じる。ところが、その段階では、まだ強盗事件など発生していないのだ。
だったら、電話を掛けたのは変でしょ。もしも「強盗事件の情報が入って張り込んでいる」ってことなら、それを説明する必要があるし。
っていうか情報が入ったとしたら、シルヴァンが港へ行く前に知らせるべきだろ。港へ行った後で情報が入ったとしたら、その時点でジベールが現場にいるのは不可解だし。
今回はリュック・ベッソンだけでなくフランク・ガスタンビドとステファーヌ・カザンジャンも脚本に参加しているけど、内容が適当でデタラメなのは変わらないのね。メナールが「エディーはウーバー最低評価の運転手」と言っているのに、シルヴァンがエディーと組むことを承知するのは筋が通らない。
エディーは「街を知り尽くしている」と話すけど、そんなのは自己申告でしかなく。裏付けが取れているわけではない。
っていうか、彼がウーバー最低評価になっている理由も不鮮明なんだよね。バス専用レーンを暴走するシーンはあったけど、「いつもそんなことをやっている」ってな感じでの描写ではなかったし。
あと、ドアが片方外れたまま走っていて、ずっとそういう状態なら最低評価も納得だけど、「なぜドアが無いままにしてあるのか」という理由も不明だし。エディーはダニエルのタクシーを運転しようとする時にエンストを起こし、オートマ限定免許しか無いことを明かす。
どうやら、ここで「エディーは運転が下手」ってことをアピールしたいようだ。
だけど彼は登場シーンで客を乗せたまま車を猛スピードで走らせ、それだけでなくシルヴァンを見事に撒くほどのテクニックも披露していたでしょうに。それなのに、後になって「運転は下手」と言われても、辻褄が合わないじゃねえか。
シルヴァンが運転する助手席で猛スピードにビビるのも、自分はシルヴァンを撒く時に猛スピードで走らせていたから、これまた辻褄が合っていないし。この映画には致命的な欠点があって、それは「シルヴァンがエディーとコンビを組む必要性が全く無い」ってことだ。
前述したように、これまでのシリーズでは「ダニエルはスピード狂のタクシー運転手、エミリアンは運転が下手でヘマを繰り返す警官」という関係性だった。エミリアンは警官だが運転が下手なので、事件解決のために運転が得意なダニエルの力を借りる必要があった。
しかし今回はシルヴァンが「運転の得意な刑事」というキャラなので、彼だけで事足りるのだ。
彼に足りないのは性能のいい車だけだ。だからエディーはダニエルの車さえ引き渡せば、それで役目は終わりのはずなのだ。エディーはシルヴァンからダニエルのタクシーを貸すよう要求された時、「相棒にしてほしい」と持ち掛ける。それだけでなく、その後も積極的に事件の捜査に関わろうとしている。
でも、そんなに刑事の仕事をやりたがる理由がサッパリ分からない。
例えば「昔からダニエルに憧れていた」ってことを台詞で言わせるだけで、そこは納得できるようになる。そんなのは、誰でも簡単に思い付くことだろう。
しかし、そういう簡単な作業を怠っているのだ。エディーはシルヴァンに迷惑を掛けてばかりで、ほとんど役に立っていない。トニーに見つかるとシルヴァンの居場所を簡単に教えるし、少し脅されただけでシルヴァンの職業と目的もバラしてしまう。脱出できるチャンスも、怖がってフイにしている。
「書斎でダイヤの写真を見つける」ってのは手柄と言えるだろうが、そこへシルヴァンを呼び出しているのはボンクラだ。ほとんど役立たずのトラブルメーカーだし、何よりシルヴァンとのコンビとしての面白さが皆無に等しい。
なので、「こんな奴を排除して、もっと署員を使えばいいのに」と思ってしまう。
クセのあるキャラを揃えているし、2つの意味で(事件を捜査する人員としても、話を面白くするキャラクターとしても)、エディーよりは遥かに使えそうなんだね。(観賞日:2020年12月30日)