『タラデガ・ナイト オーバルの狼』:2006、アメリカ

スピード狂のリース・ボビーは産気付いた妻のルーシーを車に乗せて突っ走り、病院を通り越してしまう。車中で誕生した息子のリッキーは幼少時代からスピード狂で、5歳の頃には母の目を盗んで車を運転した。セミプロのカーレーサーでタトゥー・アーティストでもあるリースは女好きで、ずっと家に帰らなかった。リッキーが10歳の時のキャリアズ・デーに、彼は10年ぶりで戻って来た。リースは子供たちに「最も速い奴が女と金を手にする」と話し、警備員に追い出された。リースが去る時に言い残した「1位じゃなければビリだ」という言葉は、リッキーの生きる指標となった。
それから15年後、リッキーはNASCARのピット・クルーとして働いていた。ハーシェルやグレン、カイルといった仲間の中には、リッキーの幼馴染であるキャルの姿もあった。彼らのチーム「デニット・レーシング」は最下位ばかりで、NASCARの世界では笑い者になっていた。タラデズ・スピードウェイでレースが開かれている最中、レーサーのテリーは「小便だ」と言って車を降り、サンドウィッチを食べ始めた。監督のルーシャスが「誰か速く走ってやろうという奴はいないか」と問い掛けたので、リッキーは名乗りを上げた。
リッキーが車に乗り込むと、ルーシャスは「壊したら20万ドルの弁償だ。慎重に走れ」と指示する。リッキーは「悪いが、本気で走る」と命令を無視し、3位でフィニッシュした。デニット・レーシングのオーナーであるデニット・シニアは、彼をレーサーとして雇うことにした。正式なレーサーとなったリッキーは勝利を重ね、あっという間に人気者となった。シニアは新車を投入する際、リッキーの希望を受け入れてキャルをパートナーに起用した。
リッキーはキャルのサポートを受け、さらに勝利を重ねる。キャルは2位が最高で、常にリッキーのサポートに回った。やがてリッキーはカーリーという女性と結婚し、ウォーカーとテキサス・レンジャーという2人の子供に恵まれた。リッキーは2人を、大人に反抗的で生意気な子供として育てた。カーリーの父であるチップは、彼の子育てを批判した。だが、リッキーは「勝者は何をしてもいいんだ」と主張し、カーリーも賛同した。
ある日のレースでリッキーは1位になるが、下品な行動で大会本部から減点を食らう。シニアの後を継いでオーナーとなった息子のラリーから注意されたリッキーは、無礼な態度で受け流した。そんなリッキーの前にフランス人のF1レーサーであるジャン・ジラールが現れ、「君を負かすために来た」と宣戦布告した。ラリーはリッキーに、「彼はウチの新しいレーサーだ。彼で総合優勝を目指す」と告げた。ジャンにはドッグ・トレーナーをしているグレゴリーというゲイの夫がいた。
ローズ・モーター・スピードウェイのネクステル・カップ予選で、ジャンはトラックの新記録を叩き出した。リッキーは左腕を骨折していたが、本選に強行出場した。キャルの車が故障してサポートが受けられない中で、リッキーは強引にジャンを抜こうとしてクラッシュした。リッキーの負った怪我は軽いものだったが、精神的なショックが大きすぎて下半身麻痺になった。病院へ見舞いに来たキャルとルーシャスの言葉がきっかけで、その麻痺は治った。
リッキーはキャルから「お前が休んでいる間は、俺に勝たせてくれよ」と言われ、「それは駄目だ」とキッパリと拒絶した。リッキーが「俺を失ってラリーも落胆しているだろう」と言うと、キャルとルーシャスは顔を伏せる。ジャンが勝利を重ねてスターになり、リッキーがいなくてもチームは全く問題が無かったからだ。リッキーは復帰のためのテスト走行に挑むが、恐怖心から全くスピードが出せないだけでなく、パニックになってしまった。
ラリーはキャルに「お前がチームのナンバー1だ」と言い、リッキーは解雇を通告された。カーリーはリッキーに愛想を尽かし、キャルと結婚することを決めた。リッキーはカーリーに追い出され、息子たちを連れて実家へ戻った。リッキーは宅配ピザの店で働き始めるが、恐怖心から自転車に乗ることしか出来なかった。そんな彼の前に、25年ぶりにリースが姿を現した。リッキーは拒絶する態度を取るが、ルーシーは「私が居場所を教えたの。お前には彼が必要よ」と告げた。
リースはリッキーに、「恐怖を克服させてやる」と述べた。彼は車にクーガーを乗せ、運転するようリッキーに指示した。リッキーはクーガーに襲われ、運転どころではなかった。次にリースは、目隠しをして運転するようリッキーに命じた。「道を感じ取るんだ」と指示されたリッキーは車を発進させるが、民家に突っ込んでしまった。リースは「警察に追われるのが一番だ」と言い、コカインを車に隠して通報した。リッキーはパトカーから逃げるために車を猛スピードで走らせ、恐怖を克服することが出来た。パトカーを振り切った彼が調べると、車に隠してあったのはコカインではなくシリアルだった。
リッキーは免許証も取得して幸せな気分になり、家族全員でレストランに出掛けた。しかしリースがウェイトレスに難癖を付けて暴れ出し、つまみ出されてしまう。リッキーが文句を言うと、リースは「俺は生まれ付き、幸せを楽しめない人間なんだ」と口にした。リッキーが「レースに勝ったのはパパのためだ。1位じゃなきゃビリだと言われたからだ」と話すと、彼は「あの時はヤクをやってたんだ。1位じゃなくても、2位や3位でもいいじゃないか」と告げて姿を消した。
リッキーはバーに置いてあるレースゲームに挑むが、惨敗して苛立った。そこへチームのアシスタントだったスーザンが現れた。彼女は現在、NASCARのマーケティング担当者になっていた。スーザンは「貴方はレースに戻るべきよ。考えるより行動すべき」と熱く語り、2人はキスを交わした。リッキーはレースへの復帰を決意し、ルーシャスに連絡を入れる。彼はガソリンスタンドの店長に転職し、元クルーを雇っていた。ルーシャスたちは二つ返事で協力を了承し、リッキーはタラデガで復帰することになった…。

監督はアダム・マッケイ、脚本はウィル・フェレル&アダム・マッケイ、製作はジミー・ミラー&ジャド・アパトー、製作総指揮はウィル・フェレル&アダム・マッケイ&デヴィッド・ハウスホルター&ライアン・カヴァナー&リチャード・グローヴァー&サラ・ネッティンガ、製作協力はジョシュ・チャーチ&アンドリュー・ジェイ・コーエン、撮影はオリヴァー・ウッド、編集はブレント・ホワイト、美術はクレイトン・R・ハートリー、衣装はスーザン・マシスン、音楽はアレックス・ワーマン、音楽監修はハル・ウィルナー。
出演はウィル・フェレル、ジョン・C・ライリー、サシャ・バロン・コーエン、ゲイリー・コール、マイケル・クラーク・ダンカン、レスリー・ビブ、ジェーン・リンチ、エイミー・アダムス、アンディー・リクター、モリー・シャノン、グレッグ・ジャーマン、デヴィッド・ケックナー、ジャック・マクブライヤー、イアン・ロバーツ、ヒューストン・タムリン、グレイソン・ラッセル、テッド・マンソン、パット・ヒングル、エルヴィス・コステロ、モス・デフ、デイル・アーンハートJr.、ジェイミー・マクマレー他。


『俺たちニュースキャスター』のアダム・マッケイ(監督&脚本)、ジャド・アパトー(製作)、ウィル・フェレル(主演&脚本)が再び結集した作品。
リッキーをウィル・フェレル、キャルをジョン・C・ライリー、ジャンをサシャ・バロン・コーエン、リースをゲイリー・コール、ルーシャスをマイケル・クラーク・ダンカン、カーリーをレスリー・ビブ、ルーシーをジェーン・リンチ、スーザンをエイミー・アダムス、グレゴリーをアンディー・リクター、ラリーの妻をモリー・シャノン、ラリーをグレッグ・ジャーマン、ハーシェルをデヴィッド・ケックナー、グレンをジャック・マクブライヤー、カイルをイアン・ロバーツが演じている。
他に、ウォーカーをヒューストン・タムリン、テキサス・レンジャーをグレイソン・ラッセル、チップをテッド・マンソン、デニット・シニアをパット・ヒングルが演じている。
また、歌手のエルヴィス・コステロ、ラッパーのモス・デフ、NASCARレーサーのデイル・アーンハートJr.とジェイミー・マクマレー、モータースポーツ・アナリストのダレル・ウォルトリップ、レース・アナリストのラリー・マクレイノルズ、スポーツ・アナウンサーのボブ・ジェンキンズなどが本人役で出演している。

メリハリや緩急を上手く付けられておらず、テンションは高めだけど、何となくズルズルと流れて行くような印象を受ける。
それと、余計なことを盛り込みすぎており、そのせいで特に序盤の慌ただしさがハンパない。
リッキーの誕生秘話や、幼少時代の出来事はバッサリと削り落としてしまっていい。
リースが後で物語に関与して来るので、そのために幼いリッキーと父の関係性を描いておきたいってことはあるんだろうけど、リースとの関係性を使ったエピソードごとバッサリと切ってもいいぐらいだし。

「クルーだったリッキーがレーサーになり、たちまち人気者になり、キャルがパートナーに起用され、ますます勝利を重ねる」という展開が、5分ほどでダイジェストのように処理されている。
そんな雑な処理で済ませるぐらいなら、そこもバッサリと削り落として、いきなりリッキーを「大人気のトップレーサー」として登場させちゃってもいい。
キャルとの関係性は、10歳のシーンで幼馴染であることが描写されているが、15年後のシーンで「親友」として初登場させても大差が無い。
そういう意味でも、幼少時代は要らない。

リッキーの成り上がり人生を描くのなら、もっと丁寧に時間を割いて描くべきだ。「クルーとして働いているがレーサーに憧れており、密かに訓練を積んでいる」というのを描くとかね。最初に幼少時代の出来事を描いているので、「クルーのはずがチョー速い」というところのサプライズは無いわけだし。
ともかく、成り上がりの経緯を淡白に済ませるのなら、「リッキーがクルーからレーサーになって、一躍スターダムに」という設定にしている意味が全く無い。
あと、細かいことを言うと、ルーシャスが志願者を募る時には速い奴を求めるのではなく、「完走しないとスポンサーが怒るので、誰でもいいから車に乗る奴が欲しい」ということにしておいた方がいい。
それと、彼は「車を壊さないように慎重に走れ」と言っているのに、リッキーが本気で走り出した途端に喜んでいるのはどうなのよ。まずは批判的な態度を示して、でもホントに速くて次々に抜くから興奮する、という手順は踏むべきでしょ。

序盤に関しては、ラリーがリッキーを快く思っていないという提示がイマイチ弱いとか、そもそもシニアを登場させている意味が無いとか、アシスタントのスーザンがチョイ役みたいに雑に処理されるとか、色々と細かい問題もある。
特にスーザンに関しては、「リッキーがファンにサインをしている流れで、スーザンにもサインしようとしてしまう」というところで初登場し、それだけで消えてしまう。
その後、当分は登場しないので、ホントにその勘違いネタをやるためだけのキャラなのかと思っちゃったぐらいだ。

実は大まかなストーリー展開だけを抽出すると、そこにコメディーとしての要素はほとんど含まれていない。
「主人公はNASCARのレーサーとしてデビューし、勝利を重ねて人気者になる。有頂天になっていた彼の前に新しいドライバーが登場し、エースの座を奪う。主人公は事故を起こした恐怖心では走れなくなり、すっかり落ちぶれる。しかし特訓を積んで恐怖を克服し、レースに復帰する」という筋書きだけなら、熱いスポーツ映画として成立する。
『デイズ・オブ・サンダー』とでも題名を付けた映画にすればいい。

例えばリッキーが最初のレース後のインタビューで上手く話せないとか、細かいトコロでコメディーの要素はあるが、レース内容がすごくハチャメチャってわけでもないし、基本的には雰囲気が明るいだけで、真っ当な熱血スポーツ映画としての路線を走り続ける。
では本作品をコメディーたらしめている要素は何なのかというと、それはキャラクター造形だ。
「オーソドックスなレース映画をコミカルなキャラにやらせてみたら、こうなりました」ということだ。
だから仕上がりとしては、パロディー映画に近いモノがある。

それまでは存在感の著しく低かったスーザンが、残り30分ぐらいになって急にヒロインのような位置に格上げされるなど、登場人物の出し入れが総じてマズい。
そもそも主要キャラとして扱われている人数が多すぎるから、ちゃんと捌くことが出来ていないのだ。
例えばリッキーの家族にしても、カーリーだけで充分であり、息子たちは要らない。
実家に戻ってからルーシーの尽力で息子たちが更生するとか、そんな展開、どうでもいいわ。リッキーが恐怖を克服するドラマに集中すればいい。

「リッキーが実家に戻り、恐怖を克服してレース復帰を目指す」という展開に入ると、それまで主要キャラとして扱われていた連中がバタッと消えてしまうのも、構成としては上手くない。
せめてキャルぐらいは残すべきだ。
そのためには、チームのナンバー1として指名されるのはジャンにしておいて、キャルはリッキーの復帰をサポートする役回りにすればいい。つまり、リースのポジションをキャルに担当させればいいのだ。
前述したように、リッキーとリースの関係を使ったドラマはバッサリと削ぎ落としても構わない。

もしくは、前半からスーザンの扱いを大きくしておいて、キャルではなく彼女をリッキーのサポート役にしてもいいだろう。
その場合でも、キャルがリッキーからナンバー1の座とカーリーを奪い取っているのは、あまり好ましい展開とは思えない。
それもあって、リッキーのライバルとしてジャンが登場しているのに、そこの対決の構図が弱くなってしまっている(まあ他の要素を盛り込みすぎているってのも大きいんだけど)。
クライマックスのレースでは、リッキーの戦う相手がジャンとキャルの2人になってしまい、途中でキャルが味方になってくれるものの、ちょっとピントがボヤけてしまうし。

あと、この映画って日本公開版だと121分もあるんだけど、それは明らかに長すぎる。
シリアスな映画であっても、2時間を超えるのは一部の例外を除くとマイナス査定にしているんだけど、コメディー映画で121分ってのはダメでしょ。
それは「欲張って詰め込み過ぎた」「まとめる力が無かった」と言っているようなモンだぞ。
108分の編集版もあるけど、それでも長いなあ。
この映画なら、100分以内に収めることが出来るし、そうすべき。

(観賞日:2014年1月29日)


第29回スティンカーズ最悪映画賞(2006年)

受賞:【最悪の映画タイトル】部門

ノミネート:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[グレイソン・ラッセル]
ノミネート:【ザ・スペンサー・ブレスリン・アワード(子役の最悪な芝居)】部門[ヒューストン・タムリン]
ノミネート:【最も腹立たしい言葉づかい(男性)】部門[ウィル・フェレル]
ノミネート:【最も腹立たしい言葉づかい(男性)】部門[ジョン・C・ライリー]

 

*ポンコツ映画愛護協会