『トータル・フィアーズ』:2002、アメリカ

ジャック・ライアンは、CIAでロシア担当の情報分析官をしている。このことは、付き合い始めた研修医のキャシーには内緒だ。ある日、ロシア大統領ゾルキンが急死し、新大統領にネメロフという男が就任することになった。ライアンは以前からネメロフについては詳しかったが、アメリカ政府首脳にとっては完全にノーマークの人物だった。
ライアンはCIA長官ウィリアム・キャボットに同行し、核解体施設の査察でロシアへ飛んだ。アルザアズの施設を訪れたライアンは、科学者が報告書よりも3人少ないことに気付く。交通事故で死亡したと聞かされた科学者が運転できないと知り、ライアンは不審を抱いた。
アメリカに戻ったライアンは、ホワイトハウス主催のパーティーに出席した。そこへ、ロシアがチェチェンの首都に毒ガス攻撃を仕掛けたという緊急連絡が入る。ライアンは政府首脳に対し、ネメロフの意志ではないはずだと否定する。ネメロフは自分の決断だという声明を発表するが、実際には軍部の旧体制派による勝手な行動だった。
ライアンはCIA工作員クラークと共に、行方不明となっている3人の科学者を探す。研究所に潜入したライアンとクラークは、3人の科学者の死体を発見した。ライアンは、ボルティモアに核爆弾が持ち込まれたことに気付く。ボルティモアではスーパーボウルの試合が行なわれており、スタジアムの観客席には大統領とキャボットの姿もあった。
ライアンの連絡を受け、キャボットは大統領を連れて慌ててスタジアムを後にした。核爆弾は爆発し、近くの病院で働くキャシーも爆風に吹き飛ばされる。ライアンの乗ったヘリコプターも墜落してしまった。ヘリから脱出したライアンはキャボットを発見するが、彼は息を引き取った。やがてライアンは、事件の黒幕が実業家ドレスラーだと知る…。

監督はフィル・アルデン・ロビンソン、原作はトム・クランシー、脚本はポール・アタナシオ&ダニエル・パイン、製作はメイス・ニューフェルド、製作総指揮はトム・クランシー&ストラットン・レオポルド、撮影はジョン・リンドレー、編集はニコラス・デ・トス&ニール・トラヴィス、美術はジャニーン・クローディア・オッペウォール、衣装はマリー=シルヴィー・デュヴォー、音楽はジェリー・ゴールドスミス。
出演はベン・アフレック、モーガン・フリーマン、ジェームズ・クロムウェル、リーヴ・シュレイバー、シアラン・ハインズ、アラン・ベイツ、ブリジット・モイナハン、フィリップ・ベイカー・ホール、ブルース・マッギル、ロン・リフキン、マイケル・バーン、リチャード・マーナー、ジョエル・ビソネット、ジョセフ・ソマー、リュボミール・ミキティウク、ジェイミー・ハロルド、プラグナ・デセイ他。


トム・クランシーのベストセラー小説『恐怖の総和』を映画化した作品。
ライアンをベン・アフレック、キャボットをモーガン・フリーマン、アメリカ大統領をジェームズ・クロムウェル、クラークをリーヴ・シュレイバー、キャシーをブリジット・モイナハンが演じている。

これまで“ジャック・ライアン”シリーズは3作の映画が作られている。
最初の『レッド・オクトーバーを追え!』ではアレック・ボールドウィン、続く『パトリオット・ゲーム』と『今そこにある危機』ではハリソン・フォードが、それぞれジャック・ライアンを演じていた。
そして今回、4代目のジャック・ライアンを演じるのが、ベン・アフレックだ。
思いきり若返りを図ったということだろうか。設定としても、「ライアンが結婚する前」ということになっており、時代を遡っている。
しかしベンアフって、どことなくアホ面なのよね。だから、本来はジャック・ライアンに備わっているはずの知性は、どうにも感じられない。

事件の黒幕はドレスラーだが、「世界中の右翼政党や国粋主義者、ネオナチに白人至上主義者が一致団結しました」という設定は、かなり荒唐無稽に思える。そのリーダー格としてドレスラーが演説をぶつのだが、007的なバカっぽさがある。
普通、核爆弾が大都市の中心地で爆発するのだから、そこには地獄絵図が広がり、観客は恐ろしい惨劇、悲劇として受け止めることになるだろう。しかし、この映画には、そんな悲劇的な色は全く無い。むしろ、荒唐無稽、あるいは悪趣味なジョークになっている。
しかし、製作者はギャグとして作っているのではなく、大マジなのである。

核爆弾についての説明がデタラメもいいところだが、それに関して「被爆国に生まれた人間として云々」などとヒステリックに非難する気にはならない。ただ、「なるほど、徹底的に致命的にバカなんだな、この映画って」と呆れ果てるだけである。
だってさ、思いっきり爆発しちゃってるのよ。にも関わらず、ライアンは「広島の時よりも規模が小さい」だの、「風向きが逆だから放射能は心配無い」だのと、メチャクチャな言い訳をして(それは自分に対してではなく、観客に対するエクスキューズだ)、爆心地に向かうのよ。
で、どう考えても被曝してるはずなのに、へっちゃらなのよね。

ジャック・ライアンだけじゃなくて、他の人が被爆した様子も全く出てこない。キャシーも完全に被爆したはずなのに、平気な様子。放射能による影響はほとんど無いかのように、話は進んで行く。おいおい、あれだけ中心地で爆発したら、被害は甚大だろうに。
この映画では、核爆弾ってのは「人々は放射能に汚染され、その後も長く汚染が続く恐るべき兵器」ではなく、「単なるスケールの大きな爆弾」に過ぎないのよね。
ワザと性能を無視しているのか、単純に勉強不足なのか。
どっちにしてもダメだろ、それって。

たぶん撮影段階では、「ジャック・ライアンを始めとする面々は全てサイボーグに改造されており、だから被曝しなかったのだ」という展開があったのだろう。
しかし、それは時間の関係で、公開前にカットされてしまったに違いない。
違いないったら違いない。
そうでもなかったら、幾ら無理を通しても説明が付かないもんなあ。

 

*ポンコツ映画愛護協会