『タロットカード殺人事件』:2006、イギリス&アメリカ

言論界の大物である名物記者のジョー・ストロンベルが亡くなり、葬儀が執り行われた。彼は大企業の妨害や酷い脅迫にも負けず、どんなに危険でもネタがある限り追い掛けてスクープをモノにしていた。同僚たちはジョーとの体験談を語り合い、全員が彼の記者魂を称賛した。死者となったジョーは死神の船に乗り、ジェーン・クックという女性と知り合った。ジェーンは生前、ライモン卿の息子であるピーターの個人秘書をしていた。ジョーが死因を尋ねると、彼女は「たぶん毒殺よ」と答えた。
ジェーンは政界進出も噂されるピーターの疑惑を確かめる矢先、何者かに殺されていた。その疑惑とは、ピーターがタロットカード連続殺人事件の犯人ということだ。殺人現場に残された年代物のカフスボタンはアールデコのレア物で、ピーターの所持品と同じだったのだ。しかもピーターは片方を紛失しており、ジェーンは弁護士に電話して通報すべきかどうか相談した。盗聴されていると感じた日、ジェーンは紅茶を飲んで急死していた。話を聞いたジョーは、もしもピーターが真犯人なら特ダネだと感じた。
映画監督のマイク・ティンズリーがドーチェスター・ホテルに到着すると、ジャーナリズムを専攻する大学生のサンドラ・プランスキーが待っていた。サンドラは事前に取材を申し込み、「ロンドンまで来れば会う」という手紙をマイクから受け取っていた。マイクは多忙を理由に断ろうとするが、仕方なく「手短に」と条件を付けて部屋に招き入れた。サンドラはマイクから酒を勧められ、彼とセックスしただけで終わってしまった。サンドラは何も覚えていなかったが、マイクはセックスが終わると電話が来てタイに飛んだ。
サンドラは友人のヴィヴィアンに失敗談を語り、「クールな才女を演じたら取材できたのに」と悔しがった。ヴィヴィアンは弟が好きなショーに、サンドラも連れて行く。ショーには人気マジシャンのスプレンディーニが登場し、サンドラは手伝いとしてステージに呼ばれる。彼女が協力を頼まれたのは、箱に入った人間を分子分解させるマジックだ。サンドラが箱に入るとジョーが出現し、「ジャーナリストだろ?記者のジョーだ。タロットカード連続殺人事件の真犯人はピーター・ライモンだ」と告げて姿を消した。スプレンディーニが箱を開けると、マジックは成功したので観客は拍手した。
サンドラは困惑し、タロットカード連続殺人事件についてネットで検索した。彼女はスプレンディーニの元へ行き、「箱に入ったら幽霊が現れたの」と話す。スプレンディーニはシドニー・ウォーターマンという本名を教えた上で、彼女の話を全く信じなかった。サンドラはシドニーに頼んで再び箱に入れてもらうが、今度は何も起きなかった。しかしシドニーがサンドラを帰らせようとすると、ジョーが現れて「サンドラ、しっかり書き留めろ」と指示した。
ジョーは「ピーターは黒いショートヘアの娼婦を何人も殺してる。止めなければ殺人は続く」とサンドラに言い、「警察に通報しなきゃ」という彼女の言葉に「逆効果だ。億万長者のセレブを証拠も無しに訴えるのは無理だ」と述べた。ジョーは一生に一度の特ダネを掴むよう言い、死神と共に姿を消した。サンドラが手伝いを頼むと、シドニーは関わることを嫌がる。しかしサンドラは「真相を突き止めて新聞社に売り付ける」と意気込み、「どうすればピーターに会える?」と彼に尋ねた。
ネットに掲載されていたピーターの写真が不鮮明だったため、サンドラは彼の顔が良く分からなかった。彼女はシドニーとオフィスビルを張り込み、ピーターと思わしき男性を尾行する。しかし骨董品店に入った男性は、整体師のジェリー・バークという全くの別人だった。呆れたシドニーは「もう疲れた。家に帰る」と言い、サンドラを残してその場から立ち去った。サンドラはヴィヴィアンから、ピーターが「ガバナーズ・クラブ」で毎日泳いでいるという情報を教えてもらう。ヴィヴィアンはサンドラニ、父親の仲間がメンバーなのでコネで入れてもらえると告げた。
サンドラはシドニーを連れてガバナーズ・クラブへ赴き、プールで泳いでいるピーターを発見した。サンドラが知り合う方法を思案していると、シドニーは「彼の前で溺れろ」と指示した。サンドラがシドニーの助言に従って芝居を打つと、ピーターが駆け付けて救助した。サンドラはジェイド・スペンスという偽名を使い、女優だと自己紹介した。ピーターから日曜に父が別荘で開くガーデン・パーティーに招待されたサンドラは、「父も一緒でいい?」と尋ねる。そこへシドニーが戻って来たので、サンドラは父親としてピーターに紹介した。シドニーが余計なことばかり喋るので、サンドラは迷惑そうな表情を浮かべた。
日曜日、サンドラとシドニーが別荘へ行くと、ピーターは父親のスティーヴンライマン卿を紹介した。ピーターは父に促され、サンドラとシドニーに別荘の中を案内した。サンドラはピーターにフライフィッシングを教えてほしいと頼み、2人きりになって会話を交わした。シドニーは庭へ移動し、招待客に手品を披露した。彼はピーターの鞄を探り、封筒を盗み出した。ピーターはサンドラに「君は他の女性と違う。とてもセクシーだ」と言い、一目惚れしたことを告白した。
サンドラはピーターからダンスに誘われて喜び、シドニーに「彼は凶悪犯じゃないわ」と告げた。シドニーは彼女に盗み出した封筒を見せ、「ベティーG」という落書きがあることを教えた。「手掛かりになる」と彼は言うが、サンドラは泥棒行為に腹を立てた。連続殺人犯が新たにメアリー・トンプソンという娼婦を殺害し、新聞で大きく報じられた。これを受けて、サンドラはシドニーに「私情を捨てて徹底的に調べるべきね」と告げた。
サンドラはピーターを探るため、彼の自宅を訪れた。ピーターは大量の楽器が置いている地下室へ彼女を案内し、キスをした。シドニーが劇場でショーに出演していると、箱の中からジョーが現れた。彼は「16-21-12を覚えておけ」と言い残し、姿を消した。サンドラは寝室でピーターとセックスし、彼が席を外している間に室内を調べた。彼女が母親のアルバムを見ていると、ピーターが戻って来た。ピーターは「美人だが厄介な女性だった。浮気性だった」と言い、一緒にいてほしいと頼む。サンドラは「父が歯痛で具合が悪いの」と嘘をついて、ピーターの家を去った。
シドニーはカフェでサンドラと会い、ジョーから番号を覚えておくよう言われたことを明かした。彼は金庫の暗証番号だと思っていたが、サンドラは「金庫は無かった」と告げる。サンドラはピーターの母のエレノアが被害者と同じくショートカットの黒髪だと語り、「もう彼を嗅ぎ回るのは嫌よ」と言う。しかし「彼に惚れて特ダネを捨てるのか」とシドニーが口にすると、彼女は「高価な楽器を入れた地下室の暗証番号よ」と思い付いた。
サンドラはピーターから土曜日のパーティーに招待され、シドニーを伴って参加した。ジョーがシドニーに教えたのは、やはり地下室の暗証番号だった。しかし何も発見できず、ジョーが来たので慌てて地下室を出た。サンドラはピーターから「今夜は泊まって」と頼まれ、承諾してセックスした。彼女は改めて地下室を調べ、タロットカードを発見した。シドニーはサンドラに「タロットカードを持っていても犯罪じゃないわ」と言われ、「君は彼を騙したのがバレて捨てられるのが怖いのさ」と指摘する。サンドラは「告白するには証拠が必要だと言ってるの。ピーターが犯人なんて警察は信じない」と反論し、調査を続けることにした。
ピーターはサンドラに誕生日プレゼントを渡し、「大事な仕事でロンドンを数日離れる。戻ったらお祝いしよう」と告げた。サンドラはピーターにプロポーズされるかもしれないと考え、どうすればいいか悩む。するとジョーが現れ、「手掛かりを積み上げれば証明できる」と言う。サンドラが「状況証拠ばかり。全て偶然よ。貴方が間違ってるのよ」と反発すると、彼は「違う。決定的な証拠が無いだけだ。失望させるなよ」と告げて姿を消した。
サンドラが誕生日に食堂でシドニーと夕食を取っていると、ロンドンに出張しているはずのピーターが通りを歩いていた。2人は後を追うが、すぐに見失ってしまう。その近くで首を絞められた女性の遺体が発見され、現場にはタロットカードが落ちていた。サンドラたちは本物の記者であるマルコムに話すが、決定的な証拠が無いので相手にされなかった。さらにマルコムは、犯人が逮捕されたことを2人に教えた。ヘンリー・バンクスという男が犯人しか知り得ない情報を自白し、現場で採取されたDNAも一致していた。
サンドラはピーターが犯人でなかったことを喜び、彼に全てを打ち明けた。ピーターは腹を立てず、「2人の未来を考えよう」と告げた。しかしシドニーはピーターへの疑念を捨てておらず、「ベティーG」が被害者のエリザベス・ギブソンのことだとサンドラに話す。彼はピーターがタロットカード連続殺人を利用し、邪魔なエリザベスを始末したという推理を語る。しかしサンドラはピーターを愛しており、シドニーに激しく反発した…。

脚本&監督はウディー・アレン、製作はレティ・アロンソン&ギャレス・ワイリー、共同製作はヘレン・ロビン&ニッキー・ケンティッシュ・バーンズ、製作総指揮はスティーヴン・テネンバウム、共同製作総指揮はジャック・ローリンズ&チャールズ・H・ジョフィー、撮影はレミー・アデファラシン、美術はマリア・ジャコヴィック、編集はアリサ・レプセルター、衣装はジル・テイラー。
出演はウディー・アレン、ヒュー・ジャックマン、スカーレット・ヨハンソン、イアン・マクシェーン、チャールズ・ダンス、ロモーラ・ガライ、ケヴィン・R・マクナリー、ジュリアン・グローヴァー、フェネラ・ウールガー、メグ・ウィン・オーウェン、キャロリン・バックハウス、ヴィクトリア・ハミルトン、ティナ・ラス、クリストファー・ゴッドウィン、アンソニー・ヘッド、アレクサンダー・アームストロング、ジム・ダンク、キャロライン・ブラキストン、リチャード・ジョンソン、サム・フレンド、マット・デイ、ウィリアム・ホイランド他。


『メリンダとメリンダ』『マッチポイント』のウディー・アレンが脚本&監督を務めた作品。
シドニー役で主演も務めている。
ピーターをヒュー・ジャックマン、サンドラをスカーレット・ヨハンソン、ジョーをイアン・マクシェーン、マルコムをチャールズ・ダンス、ヴィヴィアンをロモーラ・ガライ、マイクをケヴィン・R・マクナリー、ライマン卿をジュリアン・グローヴァー、ジェーンをフェネラ・ウールガー、ライモン家の家政婦をメグ・ウィン・オーウェンが演じている。

スカーレット・ヨハンソンは前作『マッチポイント』で、ウディー・アレンの新たなミューズとなった。
そんな彼女はウディー・アレンの魂を受け継いだかのように、饒舌に無駄話を喋る。
わざわざロンドンまでマイクの取材に来たのに、彼に質問する前に「本当は大学に行かず、姉のように歯科衛生士になる予定だったの。歯科衛生士は立派な職業よ。歯と歯茎は大事だもの。家は矯正歯科医院」「上流家庭のイギリス人と友達なの。母が当てたフロリダ旅行に行った時、その孫娘のヴィヴィアンと知り合って」などとベラベラ喋る。

それに負けじと、もちろんウディー・アレンも饒舌に喋る。
「ユダヤ系にこだわる神経症っぽいお喋り男」「余計な言動で周囲の人間を苛立たせる男」というキャラクターは、年を取っても変わらない。
しばらく主演から外れていたウディーが今回はサンドラとコンビを組むシドニー役で出演しているのは、間違いなく「少しでも多くスカーレット・ヨハンソンと一緒にいたい。しかも出来るだけ近くで」ってことだ。
『マッチポイント』では出演していなかったので、「やっぱりスカーレットと共演したい」と思ったのだろう。

サンドラは取材精神が旺盛なので、ジョーが教えてくれた特ダネに飛び付くのは分かる。しかし、シドニーが彼女に協力する理由は全く分からない。
彼はジョーを目撃しても、まるで好奇心は刺激されていない。腰が引けているだけで、「プロの記者に任せるべきだ」「警察に話すべきだ」と言っている。
なので、サンドラから協力を頼まれても、「勝手に取材してくれ」と突き放せばいいだけだ。
なのに臆病な態度を見せながらも手伝うのは、どういうことなのかと。その心情がサッパリ分からんぞ。
サンドラに弱みを握られているわけでもないし、昔からの腐れ縁ってわけでもないんだし。

そんでシドニーはサンドラの尾行に付き合うんだから、そのまま「渋々ながらも協力する」という流れになるのかと思いきや、別人だと分かった途端に「もう疲れた」と早々に立ち去るのよね。
そんなに簡単に手伝いを終わらせるぐらいなら、最初から協力を拒んでおけよ。
そのシーンでシドニーが付き合っている意味なんて、まるで無いんだからさ。
そこはサンドラだけで行動させて、その後で「サンドラから協力を求められたシドニーが承諾する」という流れに持って行けばいいでしょ。

ただし、どっちにしても、何の得も無いし危険を嫌がっているシドニーが協力を承諾する理由は必要になる。そういうのが何も無いので、「疲れた」と早々に立ち去ったシドニーが、ガバナーズ・クラブへサンドラが行く時に同行しているのは「なんでだよ」と言いたくなる。
しかも彼はパーティーに行く話が決まると「危ない橋は渡りたくない。ストーカー行為で逮捕されるのは嫌だ」と言うくせに、サンドラが「1人でやるわ」と告げると「手伝わないとは言ってない。まずは調査だ」と前向きな態度を示すのよね。
「協力する気はあるくせにヘソ曲がりな態度を取っている」ってことなのかもしれないけど、ただ支離滅裂なだけにしか見えんよ。
しかも、そんなシドニーの「嫌がっているけど、なんだかんだ言って手伝う」という態度が、ギャグとして面白いわけでもないし。

そもそも、シドニーが協力する意味って実は全く無いのよね。協力を要請するのなら、「シドニーがいないと成立しない行動」があるべきでしょ。でも、そんなの何も無いのよ。
サンドラだけでも、ピーターの調査は充分に可能だ。ピーターと思わしき男性を尾行するのも、クラブに潜入してピーターと接触するのも、パーティーに行くのも、全てサンドラだけで成立する。彼女がシドニーに協力してもらう意味って、ほぼ無いのよね。
なので、なぜ彼女がシドニーに協力を頼んだのか、そこからして良く分からない。
むしろシドニーの余計なお喋りにサンドラが邪魔をされているシーンが多くて、「それが分かったら、後は1人で動けよ」と言いたくなる。

実はサンドラとコンビを組む相棒としてふさわしいのって、シドニーじゃなくてジョーだと思うんだよね。
「サンドラはジャーリナスト志望だが経験が浅くてミスが多い。でも生きているから様々な人に接触して調査活動が可能」「ジョーは経験豊かな大物記者だが、死んでいるから調査活動が制限される」という対照的な関係性なので、ここでコンビネーションの面白さを作れるはずなのよ。
せっかく序盤で「死んだ大物記者のジョーが特ダネを掴む」という手順を描いているのに、ジョーの扱いが弱すぎるんだよね。
ぶっちゃけ、これなら彼を出さずに話を構築した方が良かったんじゃないかと思うぐらいなのよ。

完全ネタバレを書くが、シドニーがサンドラに伝えた「ピーターはベティー消すためにタロットカード連続殺人を利用した」というジョーの推理は正解だ。
そしてピーターはシドニーに見抜かれたと知り、ボートで湖に連れ出したサンドラを突き落とす。ガバナーズ・クラブの芝居があったので、彼はサンドラが泳げないと誤解していたのだ。でもサンドラは泳ぎが得意なので岸に上がり、ピーターは逮捕される。
でも、この終盤の展開、ちっとも盛り上がらないんだよね。
まずサンドラがピーターを信じ切っているのがアホすぎるし、湖に落としても彼女が無事なのは分かり切っているからハラハラもしないし。そこへ駆け付けようとピーターは車を走らせているけど、間に合わないのは明白だから緊迫感は無いし。
ミステリーとしては謎解きの醍醐味が皆無だし、サスペンスとしても腑抜けた終わり方だ。

(観賞日:2021年10月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会