『デンジャラス・ラン』:2012、アメリカ

CIAに所属するマット・ウェストンは、南アフリカのケープタウンに赴任して1年になる。彼は隠れ家の客室係を務めているが、今の仕事に辟易していた。彼は上司のデヴィッド・バーローに電話を掛け、パリの後任に推薦してほしいと訴える。しかし「気持ちは分かるが簡単じゃない」と言われ、マットは苛立った。元CIAのトビン・フロストは、1千万ドルでファイルを渡す交渉を電話で行った。彼はバーでMI-6のアレック・ウェイドと接触し、オリジナル・ファイルを受け取った。
トビンはトイレでファイルのデータをスマホにコピーし、オリジナル注射器に隠した。彼はトイレに来た刺客を始末し、店にいた男性客と服を交換して外にいた刺客の狙撃を回避した。トビンはアレックを脅し、車を運転するよう指示した。アレックは「信じてくれ、私は何も知らない」と釈明し、狙撃を受けて死亡した。トビンは車を抜け出し、デモ隊の紛れて逃亡を図る。殺し屋のヴァルガスたちに追われた彼は、アメリカ総領事館に出頭した。
CIA本部のキャサリン・リンクレイターはトビン出頭の知らせを受け、副長官のハーラン・ホイットフォードに報告した。かつてトビンは優秀なCIA諜報員だったが、10年前に決別してからはスパイ容疑で指名手配されていた。デヴィッドはイエメンにいる尋問チームを送ろうと考えるが、キャサリンはヨハネスブルグにいる自分のチームを使うと主張した。デヴィッドは「相手はフロストだぞ」と意見するが、ハーランはヨハネスブルグのチームを使うよう指示した。
マットは隠れ家を使う連絡を受け、慌てて準備を整えた。恋人のアナ・モローから電話を受けた彼は、「同僚に急ぎの仕事を任された」と嘘をついた。尋問チームのキーファーたちは隠れ家に到着し、トビンを連れて取調室に入った。キーファーはマットに取調室の監視カメラを切るよう指示し、トビンを拷問して情報を吐かせようとする。しかし重武装したヴァルガスたちが隠れ家に乗り込んで来たため、彼らは迎撃に向かった。
マットはトビンの見張りを指示され、緊張しながら拳銃を握る。トビンは彼に、「奴らは俺を拉致するため、お前を殺す。客の命を守れ」と話し掛けた。尋問チームの全滅を知ったマットは、トビンの手錠を外して裏口から連れ出した。彼は拳銃で運転手を脅して車を奪うと、トランクに入るようトビンに指示した。マットは車を運転しながら本部に連絡を入れ、状況を説明した。彼が総領事館に向かっていることをキャサリンに伝えると、ハーランが「総領事館はマズい」と囁いた。
ハーランは外交問題を避けるため、マットに時間を稼がせるようキャサリンに命じた。キャサリンはマットに、追跡をかわすよう指示した。マットはヴァルガスたちの追跡を撒くが、トビンがトランクから脱出して襲い掛かって来た。マットは反撃して制圧し、車を運転させた。トビンは「なぜ奴らは南アフリカにいると知っていた?隠れ家の場所は極秘なのに、奴らは知っていた。君が知る誰かが教えたんだ」とマットに告げ、「君は利用される。連中は君に罪を着せるため、俺との繋がりを捏造する」と述べた。
ヴァルガスはアヴナーという男に「ファイルは失われた」と通信を入れ、再入手を要求された。マットはトビンを連れて安ホテルに入り、アナに電話を掛けた。窓の外に警察の車が停まっていることを確認した彼は、友人の家へ移るようアナに指示した。彼はトビンに、「奴らの狙いは何だ?」と質問する。しかしトビンは返答せずにマットとアナの関係ばかり語り、いずれ別れることになると予告した。マットが本部に連絡すると、デヴィッドは「市外に隠れ家を用意した。スタジアムのメトロレールにある駅のロッカーにバッグを入れた。バッグのGPSを使って隠れ家に行け」と説明した。
マットはトビンを連れてスタジアムに赴き、駐車場に車を停めた。トビンは「手を引くべきだ」と忠告するが、マットは耳を貸さなかった。マットはロッカーでGPSを入手し、隠れ家の場所を確認した。彼は隠れ家へ向かおうとするが、トビンはスタジアムを警備する警官たちの近くで「助けてくれ、誘拐される」と大声で叫んだ。マットは手錠を掛けられて拘束され、トビンは医務室に運ばれた。トビンは警備員を倒してジャケットを奪い、医務室から逃亡した。
マットは監視カメラの映像を警官たちに確認させ、トビンの逃亡を知らせる。拘束を解いてもらえなかったため、彼は見張りの警官たちを倒してトビンを追い掛ける。警官に発砲された彼は、射殺してトビンを追跡した。しかし待ち伏せしていたトビンに制圧され、逃げられてしまった。キャサリンはハーランに、トビンがケープタウンに来た目的はアレックと接触するためだと知らせた。ハーランはデヴィッドに、アレックの調査だけでなくキーファーと部下たちの調査も命じた。
マットは本部に連絡し、トビンを見失ったことを報告する。キャサリンが総領事館に向かうよう指示すると、彼はトビンを追い掛けようとする。しかしハーランは彼に、後は任せるよう告げた。ハーランはキャサリンとデヴィッドに、ケープタウンへ飛んでトビンの国外脱出を阻止するよう命じた。警官殺しで手配されたマットはアナを駅へ呼び出し、CIAに雇われていることを打ち明けた。彼は街を出るよう告げ、ヨハネスブルグ行きの切符を渡して別れた。
マットはトビンがランガ地区へ向かおうとしていたことを思い出し、ネットカフェのパソコンで書類偽造屋というカルロス・ヴィラルに目を付けた。彼の検索情報は、ハーランたちに届いていた。トビンはカルロスの家を訪れ、ファイルを見せた。その中身は極秘機関への送金データであり、「これをどうする?」と訊かれたトビンは「金に換える」と答えた。彼はカルロスに、新しい身分証を用意してほしいと頼んだ。カルロスはすぐに、偽造身分証を作成した。
キャサリンはケープタウンへ向かう途中、マットについて「寝返ってトビンを逃がした」と言う。デヴィッドは彼女の考えを否定し、「彼は実力を認めてもらいたがっていた。自分でフロストを捕まえる気だ」と言う。ヴァルガス一味はランガ地区に入り、カルロスの家を襲撃した。カルロスは射殺され、トビンは家から脱出する。現場に着いたマットは、車でトビンを追った。彼は一味に発砲し、トビンを車に乗せた。一味の攻撃を受けたトビンとマットは、車を捨てて逃亡する。マットは追って来た殺し屋と戦い、制圧して暴行を加えた。彼が誰に雇われたのか詰問すると、殺し屋は「ヴァルガス。CIA」と答えた…。

監督はダニエル・エスピノーサ、脚本はデヴィッド・グッゲンハイム、製作はスコット・スチューバー、製作総指揮はデンゼル・ワシントン&アダム・メリムズ&スコット・アヴァーサノ&アレクサ・フェイジェン&トレヴァー・メイシー&マーク・D・エヴァンス、撮影はオリヴァー・ウッド、美術はブリジット・ブロック、編集はリチャード・ピアソン、衣装はスーザン・マシソン、音楽はラミン・ジャヴァディー。
出演はデンゼル・ワシントン、ライアン・レイノルズ、ヴェラ・ファーミガ、ブレンダン・グリーソン、サム・シェパード、ルーベン・ブラデス、ノラ・アルネゼデール、ロバート・パトリック、リアム・カニンガム、ヨエル・キナマン、ファレス・ファレス、ジェナ・ドーヴァー、スティーヴン・ライダー、ダニエル・フォックス、トレイシー・トムス、サラ・アーリントン、ケネス・フォック、ブライアン・ヴァン・ニーカーク、ニコール・シャーウィン、ポープ・ジェロッド、アレン・アーウィン、ジェイク・マクラフリン、エイダン・ベネッツ、ヴァーノン・ウィレムス他。


デンゼル・ワシントンが主演と製作総指揮を兼任した作品。
監督は『イージーマネー』のダニエル・エスピノーサ。
脚本のデヴィッド・グッゲンハイムは、これがデビュー作。
トビンをデンゼル・ワシントン、マットをライアン・レイノルズ、キャサリンをヴェラ・ファーミガ、デヴィッドをブレンダン・グリーソン、ハーランをサム・シェパード、カルロスをルーベン・ブラデス、アナをノラ・アルネゼデール、キーファーをロバート・パトリック、アレックをリアム・カニンガムが演じている。

具体的な証拠が示されているわけじゃないけど、トビンが悪党じゃないのは早い段階でバレバレになっている。そうなると、彼が裏切ったCIAの方に何かしらの問題があるんだろうってのも、何となく推測できる。
そして前半の内に、キャサリンの尋問チームが襲撃されて全滅する展開が訪れる。そこにトビンが送られた情報を知っていて、しかも殺し屋一味が隠れ家に簡単に乗り込めてしまうってことは、CIAの人間が黒幕なのは明らかだ。
そして容疑者について考えると、早い段階で1人に絞られちゃうよね。黒幕候補は3人しかいないわけで。
途中でキャサリンにミスリードしようとする動きもあるけど、そう匂わせようとするデヴィッドの発言が余計に怪しいし。

トビンが出頭した後、キャサリンたちが彼に関する情報を説明する手順がある。
この時に、「トビンは心理作戦に優秀な能力を持ち、多くの重要人物をCIAに取り込んだ」と説明されている。
トビンが車を運転しながらマットに「なぜ奴らは南アフリカにいると知っていた?」などと語るシーンは、たぶん「敵を取り込む能力の高さ」をアピールするために用意されているんだろう。
そして、「彼の説明が真実か嘘か分からない」という見せ方をしたかったのかもしれない。

ただ、トビンの説明が事実であることは、分かり切っているんだよね。
何しろ、そんなのは説明されなくても簡単に気付けることだし。
ってことは、マットもトビンから指摘されなくても、ちょっと考えれば分かることなのよ。かなりのボンクラならともかく、マットも優秀なCIA職員のはずなんだし。
なので、「トビンの言葉でマットが動揺し、彼のペースに飲み込まれる」という展開に持って行こうとしても、ちょっと無理がある。

マットがトビンを車に乗せてヴァルガスの一味から逃げている時、キャサリンは「トビンの安全を確保して追跡をかわせ」と指示をする。
それはキャサリンの独断ではなく、ハーランの要求を受けて出した指示だ。
でも、簡単に言うなよ。トビンを守って追跡をかわすのが困難な状況だからこそ、総領事館へ向かおうとしていたんだろうに。
CIAは外交問題を避けようとしているけど、下手すりゃマットが殺されてトビンを拉致されることになるわけで、そっちの方がマズいんじゃないのか。

トビンがスタジアムの外で騒ぎを起こすのは、下手すりゃ大勢の人々が巻き込まれる恐れもあるわけで、「自分が助かるためなら一般人を犠牲にしても平気な奴なんだな」と感じる。
ただ、それより何より、「そこまでに逃げるチャンスは無かったかのかね」と言いたくなる。
大きな騒ぎを演出するために、トビンにボンクラな行動を取らせているように感じてしまう。
あと、そこで「向こうが発砲して来たから」という言い訳はあるものの、警官を射殺するマットは、主人公の行動としてマズすぎるだろ。

デンゼル・ワシントンは自分なりの「ジェイソン・ボーン」シリーズをやってみたくなったのか、撮影監督にオリヴァー・ウッドを起用している。
そして、やたらと手持ちカメラをブレさせたり、細かくカットを割ったりして、アクションシーンを演出している。
でも本家の「ジェイソン・ボーン」シリーズでもそうだったけど、目がチカチカして見にくいだけだ。
あと、「何曜日の何次何分」という表記が何度も入るけど、タイムリミットが設定されているわけじゃないし、時間トリックを凝らしているわけでもないので、何の意味も無い。

「CIAが邪魔者を始末するために嘘を教えて工作員に仕事をさせている」とか、「汚職局員の情報を告白しようとする人間を悪者扱いして始末しようと目論む」とか、良くあるパターンを幾つも組み合わせて構成されている。
「手堅くまとめている」とは言えるのかもしれないけど、まあ凡庸ってことだわな。登場人物にもシナリオにも、脇の甘さが目立つし。
あとさ、アナってホントに必要だったのかね。
途中でトビンがマットとアナの関係に意見するシーンがあるけど、それがドラマとしての厚みに繋がることも無いし。

本編の残り20分ぐらいになっても、まだマットが「トビンをCIAに引き渡す」と決めて隠れ家へ向かうのがアホすぎて萎えるなあ。
あと、「トビンは心理作戦に優秀な能力を持ち、多くの重要人物をCIAに取り込んだ」という設定なのに、ちっともマットを味方に出来ていないってことになるだろ。そんでマットは隠れ家の客室係に襲われて深手を負うんだけど、「まるで優秀じゃないな」と呆れるわ。
で、最終的にトビンがデヴィッドに殺されてマットが生き残るけど、そこは逆でいいよ。もちろん、2人とも生き残る形でもいいけど。
トビンが隙を見せてデヴィッドに撃ち殺されるのが、筋書きとして「急にマヌケになっちゃったな」と呆れてしまうんだよね。

(観賞日:2022年9月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会