『チア・アップ!』:2019、アメリカ

老女のマーサは癌を患い、自分の所持品であることを隠して遺品整理セールの露店を出した。彼女は46年暮らしたアパートを引き払い、車に乗ってジョージア州サン・スプリングスへ向かった。彼女は途中で主治医に電話を入れ、「診察はキャンセルするわ。今後の予定も取り消す。もう化学治療は受けない」と告げた。マーサがサン・スプリングスのシニアタウンに着くと、派手な格好をしたヴィッキーが友人のバーバラとゲイルを伴って陽気に挨拶してきた。彼女はマーサに植木をプレゼントし、案内役を買って出た。
シニアタウンにはテニスコートやボウリング場やプールなどがあり、娯楽施設が充実していた。ヴィッキーはマーサに、「多くのクラブがあって、必ず1つは入る決まりよ。自分で立ち上げてもいい。最大のイベントがシニア発表会よ」と説明した。マーサが早々に切り上げて家へ行こうとすると、ヴィッキーは「安全講習を受けなきゃ」とカール警備部長の元へ連れて行く。カールは有志のドリスを率いており、基本的には問題があっても呼び出すだけだと述べた。
マーサが家に着くと、すぐに隣人のシェリルが訪ねて来た。シェリルが「ギャンブルは禁止だけど、仲間とポーカーをやる」と遊びに来るよう誘うと、マーサは「今日は朝から大変だったから」と丁重に断った。夜、マーサは隣が騒がしいので全く眠れず、ドアをノックした。しかし応答が無かったので、カールに電話を掛けて来てもらうことにした。するとシェリルは仲間を引き連れてマーサの家へ押し掛け、酒を飲みながらポーカーを始めた。1人だけゲームに参加しない若い男性がいたのでマーサが「あれは誰?」と尋ねると、シェリルの仲間の男性が「シェリルの庭師のベンだ」と答えた。
次の日、マーサはカートに乗ったシェリルに声を掛けられ、「昨夜のお礼よ。ランチに行きましょう」と誘われる。マーサは遠慮しようとするが、シェリルは「ノーとは言わせないわ。他に用事は無いでしょ」とカートに乗せた。すると彼女は見知らぬ人の通夜が行われている家を訪れ、平気で食事を始めた。シェリルは「葬儀の情報は新聞に掲載される。タダ飯にあり付ける」と言い、鞄に料理を詰めた。マーサは棺の遺体を見て、「もう帰る」と立ち去った。
翌日からマーサは家に閉じ篭もり、シェリルからビンゴやボウリングに誘う電話が入っても無視した。彼女がテレビを見ていると、遺灰を花火として打ち上げる会社の広告が流れた。その夜遅く、物音で目を覚ましたマーサが警戒しながら様子を見に行くと、シェリルが侵入していた。彼女は「何日も出て来ないから心配したわ」と言い、ワインでも飲みましょうと持ち掛けた。ダンボール箱に入っているチアのユニフォームを見つけたシェリルの質問を受け、マーサは「オーディションに3度も落ちたけど、最後の学年でチームに入れた。だけどデビュー前日に母が重病と判明し、諦めて看病した。だから人前でチアをしたことは無い」と語る。「今からやればいいのに」とシェリルは軽く言うが、マーサは消極的な態度を示した。
翌朝、マーサが隣家へ行くとシェリルは不在で、ベンが留守番をしていた。「貴方、庭師じゃないわね」と指摘されたベンは、「55歳未満は住めないから姿を消してる」とシェリルの孫であることを明かす。彼はシェリルについて「小遣い稼ぎで代理教師として高校へ行った」と話し、恥ずかしいので自分は病欠と嘘をついて休んだと述べた。シェリルは古典文学の時間なのに性感染症に関するビデオを流し、生徒のクロエから不快感を向けられた。
マーサは学校へ赴いてシェリルと会い、自分も教師だったと告げる。彼女は「チアリーディングクラブをやる。自分で作る」と言い、仲間に入るよう誘った。シェリルは条件としてベンに運転を教えるよう頼み、「私は免許を持ってないから」と語る。マーサは無理だと言うが、結局はクラブのために承諾した。マーサは評議会へ行き、クラブ創設を申請した。するとヴィッキーは「町の品性を落とす」と認可せず、「私はチアリーダーだった。思った以上にキツいのよ」と話す。メンバーが2人しか集まっていないことを聞いた彼女は、「クラブを立ち上げるには8人が必要なのよ」と教えた。
マーサとシェリルはチラシを作り、メンバーを募集した。チアの経験者はいなかったが、タンゴやエアロビクスなど他のダンスを経験した老女はやって来た。オーディションに来たのは、オリーヴ、ヘレン、フィリス、イヴリン、ルビーの5名だった。ベンはマーサから運転を教わるが、誤ってクロエの車にぶつかってしまい、怒りを買った。オーディションに応募したアリスが来なかったため、マーサとシェリルは彼女の家を訪れた。するとアリスは2人に、「夫が家を空けると嫌がるし、だらしない女だと言われた」と話す。彼女はマーサたちに説得され、改めて夫と話す。戻って来た彼女は、「死ぬまで許さんと言われた」とマーサたちに語った。その直後、アリスの夫は薬の量を間違えて死去した。
マーサたちは娯楽室で練習を始めるが、全員が何かしらの持病を持っており、すぐに体の痛みを訴えた。マーサはヘレンの息子のトムから、クラブに100ドルが必要だと言われたことについて質問される。「俺が金を管理してる」とトムが語るので、マーサはユニフォーム代に必要だと説明する。トムは呆れた様子で、「ミニスカの老女を誰が見たがる?」と告げた。マーサは練習時間の延長を評議会に申請するが、シェリルから却下の電話が入った。
マーサはベンが車を買う金が欲しがっていると知り、練習の音楽係として雇った。彼女はポンポンを用意して踊りを合わせようとするが、まるで上手く行かなかった。2週間後のシニア発表会に向けて練習時間を増やしたいマーサから相談を受けたシェリルは、「校長に話してみる」と告げた。マーサたちが高校へ行くと、ベンは慌てて「恥さらしになる」と言う。マーサはシェリルが壮行会に出る話を受けていたと知り、驚いて「まだ大勢の前で踊るなんて早い」と告げた。するとシェリルは、「もう断れないわ」と口にした。
そこへチアリーダーのクロエやペイジたちが現れ、「私たちの練習時間が削られた」と文句を言う。壮行会では先にクロエたちが登場し、見事なパフォーマンスを披露した。続いて登場したマーサたちは動きがバラバラで嘲笑を浴び、クロエはスマホで動画を撮った。ヘレンはぶつかって転倒し、足首を骨折して入院を余儀なくされた。ペイジが動画をネットにアップすると、それを知ったクロエは「呆れた」と口にして同調しなかった。
評議会が開かれ、満場一致でチアリーディングクラブの活動禁止を決定した。クラブのメンバーは、すっかり塞ぎ込んでしまった。マーサはシニア発表会の会場前まで行くが、中には入らずに通り過ぎた。シェリルから「壮行会に出たのは間違ってた」と謝罪されたマーサは、「貴方のせいじゃないわ」と告げた。2人が動画を撮影していたのがクロエだと気付き、彼女の元へ赴いて批判する。しかし「知らない間に投稿されたの」とクロエが泣いて謝罪したので、マーサたちは慌てて慰めた。
マーサはクロエに、自分たちの振付を担当してほしいと頼んだ。彼女はメンバーを集めて活動の再開を宣言し、チアを披露できる場所を見つけると約束した。3週間後にコンテストが開かれることを知ったマーサは、出場することにした。彼女たちはキルトクラブを詐称し、娯楽室で練習を積む。マーサはコンテスト用の曲のマッシュアップを、ベンに要請した。ヴィッキーはカールに、「あの女たちの企みを見抜けないなんて。手を打たないとクビにするわよ」と脅しを掛けた。
マーサは自分のアイデアを振付に取り入れてもらうが、体調を崩して席を外すことが増えた。しかし彼女は癌のことをメンバーに明かさず、元気なフリをして練習を続ける。メンバーがガレージで練習している時、トムが来てヘレンを辞めさせたいと告げた。「足首を痛めた上に、また恥をかかせるのか」と彼が文句を言うと、クロエが「勝手に決めないで」と反発する。「尻軽女は口を出すな」と怒鳴った彼は失言だと気付き、慌てて謝罪する。しかしシェリルが腹を立てて睨み付け、彼を追い払った。その日の練習を終えたマーサは路上で倒れ、、ついに入院してしまう…。

監督はザラ・ヘイズ、原案はザラ・ヘイズ&シェーン・アトキンソン、脚本はシェーン・アトキンソン、製作はケリー・マコーミック&アレックス・サックス&ローズ・ガングーザ&アンディー・エヴァンス&エイド・シャノン&セリン・ジョーンズ&ショーン・マーレイ、製作総指揮はニック・マイヤー&マーク・シャバーグ&ダイアン・キートン&ウィル・グリーンフィールド&ロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&ローレル・トムソン&キャスリーン・イハスツ&ニコール・イハスツ、製作協力はポール・ベイカー&ロバート・クラーク&ラッセル・ハーパー、撮影はティム・オアー、美術はセリーン・ディアノ、編集はアネット・デイヴィー、衣装はアマンダ・フォード、振付はマーガレット・デリックス、音楽はデボラ・ルーリー、音楽監修はウィラ・ユデル。
出演はダイアン・キートン、ジャッキー・ウィーヴァー、リー・パールマン、ブルース・マッギル、パム・グリア、セリア・ウェストン、フィリス・サマーヴィル、アリーシャ・ボー、チャーリー・ターハン、パトリシア・フレンチ、ギニー・マッコール、キャロル・サットン、アレクサンドラ・フィッケン、デイヴ・マルドナード、カレン・ベイヤー、シャロン・ブラックウッド、アフェモ・オミラミ、フランク・ホイト・テイラー、スーハイラ・エル=アッター、ジェシカ・ロス、アンジェラ・クローネンバーグ、アニー・ジェイコブ、ジャクリーン・クレイ・チェスター他。


ドキュメンタリー畑で活動してきたザラ・ヘイズが、初めて手掛けた劇映画。
脚本のシェーン・アトキンソンは、これが初長編。
マーサをダイアン・キートン、シェリルをジャッキー・ウィーヴァー、アリスをリー・パールマン、カールをブルース・マッギル、オリーヴをパム・グリア、ヴィッキーをセリア・ウェストン、ヘレンをフィリス・サマーヴィル、クロエをアリーシャ・ボー、ベンをチャーリー・ターハンが演じている。

マーサはヴィッキーから声を掛けられた時、明らかに迷惑そうな様子を見せるが、愛想笑いで付き合う。シェリルの時も同様で、早々に挨拶を切り上げようとしている。
そこまでは「迷惑でも愛想笑いで付き合う」ってのも分かるのだが、シェリルと仲間が押し掛けて来た時、長時間に渡って居座って遊ぶのを許容するのは「なぜ?」と言いたくなるぞ。
押しに弱い性格なのか、頼まれたら断れない性格なのかというと、そうでもないでしょ。
そんな奴なら、すぐに苦情の電話を掛けたりしないでしょ。とりあえず一晩は我慢するだろうし、いきなり隣家を訪れてノックもしないでしょ。

シェリルと仲間がマーサの家へ押し掛けて勝手に遊び始めるのは、ただの無神経で不愉快な行為であり、笑いになっていない。知らない人の通夜に言ってタダ飯を御馳走になるのも、やはりギャグになっていない。
そんなシェリルはマーサを遊びに誘う電話は掛けるが、「全く家から出て来ない」ってのを心配していたくせに、家を訪ねて呼び掛けたりはしない。そして、いきなり夜中に家へ忍び込む。
これも全く笑えないぞ。
ただ、なぜかマーサは全く怒らずに歓迎して一緒にワインを飲むので、「なぜ?」と言いたくなるぞ。/font>

マーサはシェリルとワインを飲みながら、「通夜では別のことで気が立っていて八つ当たりした」と詫びる。
でも、全く謝罪の必要なんか無いでしょ。どう考えても、一方的にシェリルが悪いでしょ。
で、シェリルは「勝手に連れて行った私が悪い。貴方は思ったようにやればいい」と言うんだけど、思ったようにされてくれなかったでしょうに。「ノーとは言わせない」と告げて、カートに乗せたでしょうに。
見事な言動不一致じゃねえか。

マーサは色んな荷物を整理したのに、なぜかチアユニフォームは持っている。高校生の頃の服なのに、まだ未練が残っているってことか。
そんな彼女は「またやれば?」と軽く言われると、翌日にはチアリーディングクラブを立ち上げることを決める。だけど、それはキャラに合っていないように感じるぞ。
そんな大胆な決断を長く迷うこともなく出来るような奴が、なんで迷惑な連中を追い出せなかったんだよ。
「苦情の電話を入れたけど、いざ押し掛けて来ると考えが変わった」ってことでもないだろうに。

マーサがシェリルと仲良くなるのも、クラブに勧誘するのも、違和感が強い。
シェリルが挨拶に来た時、明らかに彼女は疎ましそうな様子を見せていたでしょ。そして家に押し掛けてポーカーを始めた時も、迷惑に感じていたはずでしょ。それなのに、簡単に仲良くなるのは変じゃないか。
それよりも「最初は疎ましく思っていたが、次第に変化して」という展開の方が納得できるわ。
まさか、その段階はシェリルが深夜に侵入した時点で終了したという解釈なのか。だとしても、それは受け入れ難いわ。

クロエは壮行会の出番直前、マーサたちに文句を言う。そしてマーサたちがステージに出るとスマホで撮影し、馬鹿にする様子を見せる。
しかしヘレンが倒れて怪我をした途端、顔を強張らせる。そしてヘレンが動画を投稿すると、露骨に不快感を見せる。
でも、それはキャラの動かし方として不自然だわ。
動画を撮影したのは自分でしょ。それは馬鹿にするために撮影していたんでしょ。
なのに「私は馬鹿にするつもりなんて無かった」みたいな態度は、ただの卑怯な奴になっちゃってねえか。

チア活動が禁止されてマーサが落ち込むのは分かるけど、他のメンバーが彼女以上に塞ぎ込むのは違和感を覚える。そこまでチアへの情熱を持って取り組んでいたようには見えなかったからだ。
みんな「チアがやりたい」ってことよりも、「仲間と集まりたい」という意識の方が遥かに強かったように感じるのよ。
いや、実際のシニアサークルなら、それでも別にいいと思うのよ。でも映画としては、「最初は素人だったけどチアの楽しさを感じ、もっと上手くなりたいと思うようになって」という方向へ進めた方が良くないか。
「チアじゃなくても、仲間で集まれれば何だって良かったのでは」と観客に思われたらマズいんじゃないか。

シニア発表会の2週間前の段階で、踊りはバラバラで酷い有り様だ。基本的なステップさえ、満足に出来ていない。だから当然のことだが、壮行会でも無様な姿を晒している。
それなのにマーサは、3週間後のコンテスト出場を決めてしまう。自分で「もっと練習時間が必要」と焦るぐらい酷い状態だったのに、なぜそうなるのか。「クロエがいるから大丈夫」と言うけど、そんな簡単な問題じゃないだろ。
ただ、そんな風に思っていたら、ダイジェスト処理の間に、一気に技術が向上するんだよね。
なんちゅう都合の良さだよ。

ヴィッキーは「町の品性を落とす」という理由でチアリーディングクラブの申請を認可せず、その後も何かに付けて妨害工作を繰り返す。
だが、他のクラブは認可しているヴィッキーがチアだけを目の敵にして潰そうとする理由が、サッパリ分からない。
最初に「かつてチアをやっていた」と話すので、きっと過去に何か嫌な思い出があったんだろうと推理していたのよ。ところが最後まで、何も明かされないのだ。
でも、そこは絶対に特別な理由が必要なトコでしょうに。

「稽古を重ねて少しずつチアが上達していく」とか「大きな壁にぶつかるが乗り越える」といった努力の過程がキッチリと描かれていないため、クライマックスとなるコンテストのシーンが訪れても、感動や高揚感が弱くなっている。
あと、ヴィッキーを憎まれ役のままで放り出すのは、ものすごく雑な扱いだわ。
そこはヴィッキーがチアを敵視していた理由を明かした上で、マーサたちと和解させて終わらせるべきだよ。
何なら彼女もクラブに参加する展開を用意したっていいんだし。

(観賞日:2022年5月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会