『タイムリミット』:2003、アメリカ
バニアン署の署長を務めるマット・リー・ウィトロックはアン・マレー・ハリソンから電話を受け、強盗に入られたと言われる。マットが家に行くと、アンは1人だった。マットは家に入り、強盗について質問した。アンは返答しながら、マットと抱き合った。2人は不倫関係にあり、最初から密会のために電話で連絡を取っていたのだ。2人がベッドでセックスを始めようとすると、マットに部下のトニーから連絡が入った。バーで喧嘩騒ぎが起きていることを知らされたマットは、仕方なく仕事に向かった。
翌朝、マットはダイナーへ行き、証拠の麻薬を押収した自分が大きく取り上げられている朝刊の記事を読んだ。彼が朝食を取っていると、アンが夫のクリスと共にやって来た。クリスに挨拶されたマットは、何食わぬ顔で言葉を交わした。バニアン署に戻ったマットは、検視官のチェイと話す。そこへ別居している妻のアレックスが来て、荷物を取りに行くので家の鍵を貸してほしいとマットに告げる。一緒に行くとマットが言うと、アレックスは「結構よ」と断る。マットは嫌味を浴びせ、アレックスと口論になった。
アンはクリスの留守中を狙い、マットと密会する。「まだ奥さんを愛してるのね」とアンに指摘されたマットは、「愛してる」と答える。「なのに離婚?」と言われると、彼は「君は?」と返す。するとアンは、「彼には私が必要よ。チームをクビになってから荒れてる」と口にした。マットと一夜を共にしたアンは、病院から電話を受けた。彼女は病院へ出向き、同行したマットを兄と紹介する。フリーランド医師はアンに、癌が転移して余命半年だと宣告した。
アンがショックを受けて病院を飛び出すと、追い掛けたマットは「なぜ黙ってた?」と問い掛ける。「貴方と一緒にいると忘れられた」と言うアンに、マットはフリーランドから聞いた代替治療について話す。アンは助かる可能性の低さに言及し、「宝くじでも当たらないと治療費が払えない」と述べた。後日、マットはアンに呼び出され、生命保険の書類を見せられた。アンは40万ドルの保証金だと説明するが、書類を見たマットは100万ドルになっていることに気付く。アンは彼に、クリスが上げたのだろうと告げた。
クリスが帰宅したので、マットは勝手口から外へ出た。クリスはアンが医師と浮気していると疑い、暴力を振るった。マットは玄関のドアをノックし、クリスが応対に出ると「通報があった。怪しい奴を見たか?」と質問する。クリスが「見てない」と答えると、マットはアンに「周りを調べる。何かあったら叫べ」と言って去った。次の日、マットはアレックスと共に弁護事務所へ赴き、家の共同所有を抹消したと告げられた。そこへアンから電話が入り、スイスで治療法が見つかったと聞かされた。
マットがアンの元へ行くと、彼女は「命の贈り物社」の営業マンと会っていた。アンは命の贈り物社を受取人にして生命保険を買い取ってもらい、75万ドルを貰う契約を交わそうとしていた。マットは疑念を抱くが、アンは前向きな考えだった。病院の警備員をしているクリスは看護師から手伝いを頼まれ、遺体を確認した。アンはマットに、「あの会社は保険を買わないそうよ。あと2日しか無い。丸1年経つと受取人を変えられない」と話した。
マットがバーで飲んでいると、クリスがやって来た。クリスからアンとの浮気について問われたマットは、「彼女と寝た男は、こう言うだろう。君は最低の男で、アンが気の毒だと」と話す。クリスが「その男には、アンに近付いたら殺すと言う」と凄むと、マットは「本気なら法的処理を取る」と通告した。翌日、アンはマットを訪ね、保険の受取人を彼に変更した証書を渡した。マットは困惑するが、彼女は「クリスから逃げるために町を出る」と告げて去った。
マットがバニアン署に戻ると、アレックスから巡回裁判所の婚姻解消通知が届いた。アンが車でバニアン署に来ると、マットが出て来て鞄を乗せた。彼が「金が入ってる。スイスへ行くんだ」と口にすると、アンは中身が押収した金だと気付いた。アンが「返せと言われたら、どうするの?」と驚いて質問すると、マットは「再審が認められるまで、押収品は署が管理する。再審まで2年は掛かる」と話した。彼は荷物をまとめて夜11時に家まで来るよう指示し、署に戻った。
マットが帰宅すると、チェイが来ていた。マットはチェイを帰らせるが、夜11時を過ぎてもアンは来なかった。彼は電話を掛けるが、全く繋がらなかった。マットは様子を見にハリソン家へ行くが、犬に吠えられた。隣人であるジュディーの母が窓から覗いたので、マットは立ち去った。早朝、ハリソン家が火事になり、それを知ったマットは駆け付けるが全焼していた。消防署長は彼に、プロパンのボンベの爆発だと告げた。
殺人課刑事であるアレックスが、現場検証にやって来た。消防署長は仕掛けを見つけ、放火だとアレックスに告げた。マットはトニーから「ジュディーの母親が不審な男を目撃しています。アレックスに知らせますか」と訊かれ、「俺が話すから署に帰れ」と指示した。マットはアレックスからバニアン署に捜査本部を置いて指揮することを告げられ、案内役を任された。アンが勤務していたシャイダー歯科へ2人が行くと、シャイダーは「彼女は昨日で辞めた。末期癌だった」と述べた。
歯科助手が「アンは浮気してた。ロージー生花店から花が届いたこともある」と言うと、マットは生花店に電話を掛けるフリをする。彼はロージーと話しているように装い、「送り主はクリスだ」とアレックスに嘘を教えた。アレックスが「アンの主治医に会う」と言い出すと、マットは理由を付けて別行動を取ろうとする。しかし結局は不審に思われることを避けるため、病院へ同行した。アレックスは主治医のドノヴァンと会い、「彼女は癌じゃない。2ヶ月前に定期検診に来たが健康だった」と告げられた。
主治医がフリーランドではなかったことに、マットは当惑した。彼は病院内を捜し回ってフリーランドを見つけるが、以前に会った人物とは別人だった。マットはフリーランドを威嚇し、ペンを持ち去った。彼がバニアン署に戻るとジュディーの母親が来ており、不審人物の似顔絵が作成されていた。マットを見たジュディーの母親は、「あの人よ」と指差した。しかし周囲の人間は「彼は署長よ」と軽く笑い、誰もマットが不審人物とは思わなかった。マットはトニーにペンを渡し、マイアミ本署のギスン刑事に渡して指紋照合してもらうよう指示する。麻薬取締局のスターク捜査官から電話が入り、マットは「押収金の回収に部下を向かわせる」と告げられた。
アレックスや部下のバステたちはクリスの小切手帳を発見し、生命保険に加入していたことを知る。アレックスは「殺しの動機になる」と言い、マットに銀行へ問い合わせて生保会社の住所を調べるよう頼んだ。マットはトニーに電話を掛け、指紋の照合を急ぐよう指示した。バステが依頼した通信記録が電話会社からファックスで届くと、マットは「自分への連絡だ」とアレックスに嘘をついて回収した。彼はパソコンで自分の情報を削除し、捏造した記録をファックスで送信した。
警察署に戻って来たチェイは、「放火された時、既に2人は死んでいた」とマットやアレックスに教えた。マットは通信記録にバニアンの公務員として残っていた記録を消し忘れていたため、それに気付いたアレックスが番号に掛けようとする。マットは携帯の着信をバイブに変更し、慌てて誤魔化した。それに気付いたチェイは、アレックスに自分の番号だと嘘を告げた。彼は「バーで飲もうとクリスに電話を掛けた」と証言し、マットを助けた。
チェイはマットと2人になり、事情を尋ねた。マットはアンと寝たこと、彼女とクリスに騙されて押収金を奪われたことを明かし、チェイからアレックスに話すよう勧められると、「俺には殺しの動機がある。しかも家の外で目撃された。アリバイは無い」と述べた。マットはトニーから電話を受け、指紋の主がポール・キャボットという前科者だと知らされた。彼がチェイと共にポールの家へ乗り込むと、誰もいなかった。マットは室内を調べ、死体安置所係のネームプレートを発見した。
マットが署に戻る、アレックスは生命保険の受取人について電話で尋ねていた。電話を受けた社員は、以前はクリスになっていたこと、アンが変更したが内容は登録されていないことを説明する。アレックスが「後で担当部署に掛ける」と言うのを聞いたマットは友人のビルに電話を掛け、ポールが最後にカードを使った場所を調べてもらう。アレックスはアンの車でポールの使った領収書を発見し、カードを使用した場所を調べさせた。
マットはビルから、カードがコーラル・ホテルで使われていること、チェックインが昨日であることを告げられる。バニアン署を出た彼はスタークの部下たちと遭遇し、「押収金は部下に届けに行かせた」と嘘をついた。彼はホテルへ向かい、従業員を騙してポールの部屋番号を突き止めた。一方、ポールはホテルの部屋からクリスに連絡し、早く来るよう要求していた。クリスは偽造免許が完成したことを教え、車に乗り込んだ。
ホテルに着いたマットはフロント係を騙して鍵を手に入れ、部屋へ乗り込んだ。ポールに襲われた彼は格闘し、タックルでバルコニーに飛ばされる。バルコニーが壊れてマットは宙吊りになるが、形勢は逆転してポールは転落死する。部屋に戻ったマットは、スーツケースに金が入っているのを見つけた。マットはスーツケースをホテルから持ち出そうとするが、アレックスが来たので見つからないよう逃げ出す。彼は自らアレックスの前に姿を現し、着いたばかりだと装った。ホテルを脱出したマットはアレックスに何か隠しているのではないかと怪しまれるが、真実を明かそうとはしなかった…。監督はカール・フランクリン、脚本はデイヴ・コラード、製作はニール・H・モリッツ&ジェシー・ビーフランクリン、製作総指揮はケヴィン・レイディー&ダミアン・サッカーニ&ジョン・バーグ&アレックス・ガートナー、製作協力はスティーヴ・トラクスラー&ダン・ジェネッティー&ジーナ・ホワイト、撮影はテオ・ヴァン・デ・サンデ、美術はポール・ピータース、編集はキャロル・クラヴェッツ=エイカニアン、衣装はシャレン・デイヴィス、音楽はグレーム・レヴェル。
主演はデンゼル・ワシントン、共演はエヴァ・メンデス、サナ・レイサン、ディーン・ケイン、ジョン・ビリングズリー、ロバート・ベイカー、アレックス・カーター、アントニ・コローネ、テリー・ローリン、ノーラ・ダン、ジェームズ・マータフ、ペギー・シェフィールド、エヴリン・ブルックス、エリック・ヒッソム、トム・ハルマン、パリス・バックナー、アリアン・アッシュ、マイク・ニュースキー、ヴェリル・E・ジョーンズ、ティム・ウェア、ジェシー・ビーフランクリン、エドワード・アマトルド他。
『母の眠り』『ハイ・クライムズ』のカール・フランクリンが監督を務めた作品。
脚本はTVドラマ『ファミリー・ガイ』のデイヴ・コラード。
マットをデンゼル・ワシントン、アレックスをエヴァ・メンデス、アンをサナ・レイサン、クリスをディーン・ケイン、チェイをジョン・ビリングズリー、トニーをロバート・ベイカー、ポールをアレックス・カーター、バステをアントニ・コローネ、スタークをテリー・ローリン、ドノヴァンをノーラ・ダンが演じている。冒頭、アンから強盗が入ったと電話を受けたマットは彼女の家へ行き、「怪我は?」と尋ねる。「無いわ」とアンが言うと「では中へ」とマットが告げ、「どうぞ」と家に招き入れられる。「犯人の姿を見ましたか?」というマットの質問に、アンは「背は貴方と同じぐらいよ。肉付きも顔も似てたわ」と答える。マットが「私に?じゃあハンサムだ」と口にすると、彼女は「いいえ、タイプじゃない」と告げる。
ここまでの会話や様子だけでも、この2人が不倫関係にあること、情事のために電話で会ったことはバレバレだ。
ところが、その後も「刑事と被害者」の芝居を続け、トータルで3分ぐらい続くのだ。
それ、すんげえ面倒だわ。無意味で回りくどい手順にしか思えないわ。不倫を小粋に描こうとしているんだろうけど、カッコ付けてカッコ悪くなる典型的な例になっている。
っていうか、「そこって逆の方が良くないか」と感じるんだよね。
何が逆って、マットがクリスから挨拶されるシーンと、アンとの不倫を明かすシーン。
ここ、先に「マットがクリスとアンと出会い、挨拶を交わす」ってのを描いて、その後で「実はアンと不倫中」ってのを明かす流れにした方が効果的なんじゃないかなと。マットは警察署に来たアレックスと話すが、すぐに嫌味を浴びせるなどして口論になっている。そのまま仲直りせず、アレックスに鍵を叩き付けている。
険悪な雰囲気なのだが、アンから「奥さんを愛してるのね」と言われると「愛してる」と即答するので「どないやねん」ツッコミを入れたくなるぞ。
完全ネタバレだが、最終的にマットとアレックスは復縁するので、だから「まだ愛はある」という設定にしておきたかったんだろう。
ただ、それなら最初の「もう修復不可能なぐらい険悪」という描写は邪魔でしょうに。「別居しているけど、まだ愛はある」という見せ方にしておいた方がいいでしょうに。ただ、「マットはアレックスを今も愛している」ってのを最初に示すと、今度は「それなのにアンと不倫しているのは何なのか」ってことになっちゃうんだよね。
どっちにしても、マットがアンと不倫している設定の処理は上手く行っていない。
「クリスがDV男」とか「アンの病気にマットが同情する」という要素で、マットを擁護したくなるように仕向けようとしているんだろう。
でも、ただの浮気男じゃなく好感のもてる主人公に仕立て上げようとして、下手な言い訳をしているように感じるぞ。マットは押収した証拠の金に手を付けるが、そこに至る彼の苦悩や葛藤は全く見えない。
「どうにかしてアンを救いたい。必死になって色んな方法を模索したが無理だった。だから悩んだ末に、ついに違法行為に手を染める」という経緯が全く描かれていない。ただ衝動的に、軽率な行為に出ただけにしか見えない。
だから全く同情心は誘われないし、彼が追い込まれてもハラハラドキドキしない。
仮にマットの犯行が露呈しても自業自得としか思えない野で、冷めた気持ちになるだけだ。放火事件が発生した後、アンの癌が嘘であること、フリーランドが偽医者であることが判明した時点で、「アンとクリスがマットを騙して金を手に入れた」ってことは明らかになる。
証拠が揃っているわけじゃないけど、ほぼ確定事項と言ってもいい。しばらくすると、マットもチェイとの会話で「2人にハメられた。金を奪われた」と語るしね。
なので、もちろん「放火事件でアンとクリスは死んでいない」ってことも確定している。
だからミステリーとしては、全く機能していない。そうなると、後は「マットがアンとクリスの居場所を突き止め、金を取り戻す」という行動を見ることになる。警察が捜査しているので、「マットは自身の関与が露呈しないように誤魔化し、警察より早く問題を解決しようとする」という展開になるわけだ。
ただ、「どんなに頑張ったところで、絶対にボロが出るのは避けられないだろ」と思っちゃうんだよね。
マットが偽証や細工を重ねても、警察が裏付けのための調査を怠ることは考えにくい。
なので、どこかのタイミングで必ずマットが絡んでいることはバレると思うのよ。マットがアンと不倫関係にあったことも、保険の受取人に金を持ち出したことも、アレックスが捜査を開始した時点では全くバレていない。
「濡れ衣を着せられた主人公が潔白を証明するために奔走する」というパターンの作品は幾つもあるけど、それとは異なっている。
この映画の場合、もちろん放火殺人に関しては潔白だけど、アンとの不倫も金の持ち出しも事実だ。彼は潔白を証明するためではなく、不貞と横領を誤魔化すために必死で頑張るのだ。
そう言われると、なんか応援したくなる気持ち、イマイチ湧かなくないかね。そもそも、チェイに助言されたように、アレックスに全て話せば良かったんじゃないかと思うのよね。
これが「マットはアレックスに恨みを買っていて、絶対に殺人犯として逮捕される」という関係性なら、自力で何とかしようとするのも分かる。アレックスと特別な関係性が無くても、やはり理解は出来る。
でも元夫婦で、今も愛があって、出来ればヨリを戻したいと思ってるんでしょ。
そんな相手なのに「殺しの動機があるから」と真実を話さないのは、信頼していないってことになるんじゃないか。
真実を明かさずに隠蔽工作に走るのは、それも含めて裏切り行為と言えるんじゃないか。マットはホテルでポールの部屋に赴いた時、「警察だ」と告げて乗り込んでいる。だけど、そこはホテルの従業員を装った方が得策でしょ。
もちろん、それでも相手は警戒するだろうけど、少なくとも隠れていたポールに急襲されることは避けられたはず。
で、マットはポールに襲われて激しい格闘になるんだけど、アクションシーンなんか邪魔なだけなのよね。
面倒なポールを排除したいとか、マットを余計に難しい立場に追い込みたいとか、そういう理由があったんだろう。
だけど安易なアクションに頼るんじゃなくて、もっとサスペンスとしての面白さで頑張ろうぜ。完全ネタバレを書くが、アンはクリスに脅されて従ったわけではなく、むしろ彼女が計画の首謀者だ。
彼女はクリスを射殺して、マットに「少しは愛していたけど、貧乏は嫌なの」と銃を構える。この時の彼女の様子は、「卑劣で冷酷な悪党」って感じじゃなくて、どことなく怯えや迷いを感じさせる。
でも、それはキャラ造形が中途半端だわ。どうせ計画の首謀者でマットも始末しようとするぐらいなんだから、徹底して「マットを利用して金を奪おうとしたクソ」にしておけよ。
あと、事件が解決すると、全て知った上でアレックスはマットとヨリを戻すんだけど、「なんで?」と呆れるわ。マットへの愛が再燃するような要素なんて、何も無かったでしょうに。(観賞日:2022年3月16日)