『小さな巨人』:1970、アメリカ
老齢のジャック・クラブは歴史家の取材を受け、「ワシは間違いなく、最後の西武の古老さ。リトル・ビッグホーンの戦いで、白人で唯一、生き残った。カスター将軍の最後の戦いだ」と話す。歴史家が「私が興味を感じているのは、将軍のホラ話じゃありません」と言うと、彼は「嘘つき呼ばわりするのか」と腹を立てる。歴史家が「そうじゃなくて、お聞きしたいのは先住民の暮らしです。西部の冒険話ではありません」と述べた。
ジャックが「お前にとってリトル・ビッグホーンの戦いは、ただの冒険か」と言うと、歴史家は「リトル・ビッグホーンは白人と先住民の対立を代表する戦いではありません。実際には先住民の大虐殺が行われていた」と指摘し、「でも実際に先住民と戦った貴方は、認めないでしょうけどね」と告げる。ジャックは「カスター将軍の人柄は知ってる。先住民がどんな連中なのかも分かってる」と言い、10歳だった111年前からの物語を喋り始めた。
10歳のジャックは両親や姉のキャロラインたちと共に広大な草原を旅していた時、ポーニー族の襲撃を受けた。彼と姉以外の面々は、全員が殺されるか連れ去られた。ポーニー族が去った後、シャイアン族の戦士である「目に映る影」が仲間を率いて現れた。姉弟は死を覚悟するが、「目に映る影」は集落へ連れ帰って族長の「テントの皮」に会わせた。キャロラインは「レイプする気よ」と言うが、そんな気配は皆無だった。しかし男に縁の無いキャロラインはジャックを置き去りにして、夜中に集落から逃走した。
シャイアン族はジャックに親切な振る舞いを見せ、「テントの皮」は彼を養子にした。ジャックは「目に映る影」や「赤い日焼け」から、多くのことを教わった。ジャックは先住民として生きるようになったが、年齢の割に背が低いことを同年代の「若い熊」から馬鹿にされた。突き飛ばされてカッとなったジャックは、思わずパンチを浴びせてしまった。シャイアン族には無い行為なので、「若い熊」は動揺した。ジャックは慌てて謝るが、「若い熊」は余計に屈辱を感じた。
「小さな馬」のようにおとなしい性格の子供は、戦士にならなくても構わなかった。しかしジャックは戦士になることを望み、ポーニー族の集落へ向かう「目に映る影」たちに同行した。彼はポーニー族に殺されそうになった「若い熊」を救うが、ますます敵視される羽目になった。ジャックは立派な勇者として認められ、「テントの皮」から「小さな巨人」という名前を与えられた。白人たちが集落の女子供を皆殺しにしたため、「テントの皮」は戦いを決意した。「テントの皮」はジャックに白人だったことを教え、「無理に戦わなくてもいい」と告げる。しかしジャックは死ぬ覚悟を口にして、行動を共にすると宣言した。
いざ戦いが始まると、シャイアン族は棒で叩いて教訓を与えようとするだけだった。武器は棒と弓矢だけで、銃で戦う白人の相手に勝てるはずも無かった、シャイアン族は散り散りに逃亡し、捕まったジャックは白人だと明かすことで助かる道を選んだ。彼は町に連れて行かれ、ペンドレイク牧師に引き渡された。ペンドレイク牧師は「腐った性根を叩き直す」と厳しい態度を取るが、夫人は優しく接した。彼女はジャックを入浴させて体を洗い、「誘惑に負けてはいけない。純潔を大事にするのよ」と説いてキスをした。
ジャックは学校に通わせてもらって読み書きと計算を学び、ペンドレイク夫人も手伝ってくれた。若い娘と馬小屋で抱き合ったジャックは、牧師に見つかって鞭で背中を打たれた。夫人から善良であることの大切さを聞かされた彼は信仰生活に入り、教会で賛美歌を歌った。洗礼も受けた彼は、夫人を信じて真面目に暮らすようになった。しかし彼は商店に出掛けた時、ペンドレイク夫人が地下室で密かに店主と情交する様子を目撃した。ジャックはペンドレイク家を飛び出して放浪生活に入り、二度と讃美歌は歌わなかった。
ジャックはペテン師のメリウェザーと出会って相棒になり、一緒にインチキな薬を売った。彼は暴漢の一味に捕まってリンチを受けるが、首領のキャロラインは弟だと気付いた。彼女はジャックを自宅に連れて行き、これから家庭生活を始めるのよ」と告げた。ジャックは姉から銃の撃ち方を教わり、才能があると感じて「ソーダ・キッド」の異名を持つガンマンになった。しかし酒場でガンマンのワイルド・ビル・ヒコックが命を狙う敵を射殺する現場に同席した彼は、すっかり怖くなって銃を姉に返した。
キャロラインは弱腰のジャックに呆れ果て、彼の元を去った。ジャックは相棒を見つけて商店を経営し、スウェーデン娘のオルガと結婚した。しかし相棒が泥棒だったため、すぐに店を失った。ジャックは町に来たカスターに「仕事が無い」と吐露し、西部へ行くよう助言された。オルガが先住民を怖がると、カスターは「安全は保障する」と軽く告げた。しかし西部へ向かう駅馬車が襲撃され、オルガは拉致された。ジャックは3つの州を捜し回るが、オルガを見つけることは出来なかった。
ジャックはシャイアンの土地に入り、「目に映る影」たちに捕まって殺されそうになる。しかしジャックが「小さな巨人」であることを告げて彼らの情報を語ると、集落へ案内された。ジャックは「テントの皮」に歓迎され、「小さな馬」や「若い熊」たちと再会した。彼は「テントの皮」に、シャイアン族と同じぐらい勇敢なカスター将軍という白人がいると語った。集落を去ったジャックはカスターの元へ行き、「妻を捜すため、偵察隊にしてほしい」と頼んで採用された。
ジャックは川の近くにいるポーニー族を襲う騎兵隊に同行し、女子供も平気で殺す様子を目撃した。阻止しようとしたジャックは反逆者とみなされ、隊長に発砲されて逃げ出した。ジャックは「目に映る影」に襲われ、窮地に陥った。しかし騎兵隊の隊長が「目に映る影」を射殺したため、ジャックは助かった。彼は物陰で女児を出産する先住民の娘を発見し、「目に映る影」が彼女を守っていたのだと悟った。彼女は「目に映る影」の娘の「輝き」で、夫は白人に殺されていた。
ジャックはオルガとの交換に使えると考え、「輝き」をシャイアン族の集落へ連れて行く。すると「テントの皮」は妻子を殺され、視力を失っていた。ジャックは彼らと行動を共にして、大統領と議会が認めた先住民の保留地に辿り着く。ジャックは「輝き」と結婚し、未亡人となった彼女の姉3人も妻として迎えることになった。やがて保留地には「若い熊」が現れ、ジャックは彼の妻になったオルガと再会した。しかしオルガは先住民の生活に染まっており、ジャックのことを全く覚えていなかった…。監督はアーサー・ペン、原作はトーマス・バーガー、脚本はカルダー・ウィリンガム、製作はスチュアート・ミラー、製作協力はジーン・ラスコー、撮影はハリー・ストラドリングJr.、美術はディーン・タヴォラリス、編集はデデ・アレン、衣装はドロシー・ジーキンス、音楽はジョン・ハモンド。
主演はダスティン・ホフマン、共演はフェイ・ダナウェイ、マーティン・バルサム、リチャード・マリガン、チーフ・ダン・ジョージ、ジェフ・コーリー、エイミー・エックルズ、ケリー・ジーン・ピーターズ、キャロル・アンドロスキー、ロバート・リトル・スター、カル・ベリーニ、ルーベン・モレノ、スティーヴ・シーメイン、ジェームズ・アンダーソン、ジェス・ヴィント、アラン・オッペンハイマー、セイヤー・デヴィッド、フィリップ・ケニアリー、ジャック・バノン、ノーマン・ネイサン、アラン・ハワード、レイ・ディマス、ウィリアム・ヒッキー、ジャック・ムラニー、スティーヴ・ミランダ、ルー・カテル、M・エメット・ウォルシュ、エミリー・チョー他。
トーマス・バーガーの同名小説を基にした作品。
監督は『俺たちに明日はない』『アリスのレストラン』のアーサー・ペン。
脚本は『ヴァイキング』『片目のジャック』のカルダー・ウィリンガム。
ジャックをダスティン・ホフマン、ペンドレイク夫人をフェイ・ダナウェイ、メリウェザーをマーティン・バルサム、カスターをリチャード・マリガン、「テントの皮」をチーフ・ダン・ジョージ、ヒコックをジェフ・コーリー、「日の光」をエイミー・エックルズ、オルガをケリー・ジーン・ピーターズ、キャロラインをキャロル・アンドロスキー、「小さな馬」をロバート・リトル・スター、「若い熊」をカル・ベリーニが演じている。ジャックはシャイアン族に助けてもらい、仲間として暮らすようになる。すっかり先住民に馴染み、白人との戦いでも命を捨てる覚悟を口にする。
だが、いざ戦いで窮地に陥ると、すぐに「自分は白人だ」と明かすことで生き延びる。先住民であることを簡単に放棄し、白人の暮らしに戻る。
彼はペンドレイク夫人に感化され、熱心なクリスチャンになる。
しかし夫人が言葉とは裏腹に浮気していることを知り、今度は信仰を捨ててペテン師の片棒を担ぐようになる。メリウェザーはジャックに、「お前をダメにしたのはテントの皮だ。生きた秩序が宇宙にあると信じ込ませた。たが秩序など無い。人間が星に夢を馳せるのは虚しいことだ」と話す。
ジャックはキャロラインと再会すると、今度は家族としての生活を始める。
銃の才能があると感じると、軽いノリでガンマンになる。
しかし人を撃つことは出来ず、殺し合いを見た途端にビビってしまう。
あっさりとガンマンの道を捨てた彼は、相棒と一緒に店の経営を始める。オルガを拉致されたジャックは、白人の偵察隊になる。しかし騎兵隊がポーニー族の女子供を殺すと、それは邪魔しようとする。
また彼はシャイアン族の元へ戻り、一緒に暮らし始める。オルガを捜す目的は脇に追いやり、「輝き」との結婚生活を始める。
ジャックは何の信念も無く、コロコロとスタンスを変えている。それも、「それなら理解できる」と思わせるような一貫したルールがあるわけでもなく、ただ成り行きに身を委ねて風見鶏になっているだけだ。
ジャック・クラブは西部劇の主人公として異色のキャラクターだし、お世辞にも魅力的とは言い難い。
「西部劇の皮を被ったアメリカン・ニューシネマ」と解釈しても、やはりヘンテコなキャラ造形だ。どうやら、この映画はベトナム戦争を意識しているらしい。
それを踏まえた上で、改めて考察してみよう。
ジャックが白人サイドにいる時も先住民サイドにいる時も、戦争は行われている。その内、冷酷非道に描かれているのは、明らかに白人の方だ。
ポーニー族がジャックの両親を殺したという説明はあるが、直接的な殺人描写は無い。
その後、ポーニー族は白人に女子供を惨殺される被害者として登場している。また、シャイアン族は一貫して「白人に女子供も含めて殺される被害者」である。白人と先住民の戦いは、「白人が集落を襲って女子供も殺そうとするので、自衛として先住民も立ち上がる」という形で起きたモノとして描かれている。先住民が白人に対して残虐な行動を取ることは、一切無い。
「テントの皮」はジャックに、「シャイアンは人間や動物だけでなく、水や土や石も生きていると信じてる。しかし白人は全て死んでると信じてる。自分の仲間の人間もだ。生きようとする命も、白人どもは殺してしまう。ここが我々と違う」と語る。
先住民の保留地は、大統領と議会によって正式に認められた場所のはずだ。
しかしカスターと騎兵隊は平気で襲撃し、シャイアン族を容赦なく殺害していく。そんな白人と先住民の戦いをベトナム戦争に重ね合わせることは、そう難しくないだろう。先住民をベトコンに置き換えれば、それで簡単に出来上がりだ。
ベトコンは自分たちの命や土地を守るための戦いであり、アメリカ人は他国に進軍して住民を殺している。
ジャックは「テントの皮」にカスターが勇敢な白人だと語る時、「黒人を自由にする白人同士の戦いに勝った」と説明している。だが、そんな「黒人を守る戦いの英雄」であるカスターは、先住民を皆殺しにする凶悪な作戦を指揮している。正義の名の下に、大虐殺を実行するのだ。
それはまさに、ベトナム戦争におけるアメリカ軍の行為に重ねることが出来る。ジャックは保留地の襲撃で「輝き」や「テントの皮」を殺され、「シャイアン族の捕虜になっていた」と嘘をついて生き残る。
だが、それまでと違い、この行為はシンプルに「生き残るため」だけのモノではない。今回のジャックには、復讐という目的がある。
しかしカスターのテントに赴いて銃を構えたジャックは、怖がって発砲できない。彼は騎兵隊を去り、酔いどれのフーテンになって再び白人社会に戻る。
その後も色々とあって再び騎兵隊に戻り、今度はカスターを欺いてリトル・ビッグホーンの戦いに持ち込む。ジャックがコロコロとスタンスを変えながら生きる様子を描く中で、「懐かしい人々との再会」もある。
映画の終盤に入ると、ジャックはヒコックやペンドレイク夫人、メリウェザーと次々に再会する。
ヒコックはガンマン生活を続けているが、父の仇討ちに燃える少年に殺害される。
ペンドレイク夫人は売春婦になっているが、それなりに幸せそうな様子だ。
メリウェザーは相変わらずペテン師で、その代償として以前にも増して体の一部が欠損している。ベトナム戦争だけでなく、アメリカが抱える様々な問題も描き出そうとしているんじゃないだろうか。ようするに、『フォレスト・ガンプ 一期一会』のように、ジャックを通して「アメリカの光と影」「アメリカの欺瞞や腐敗、多くの問題点」を描こうとしているってことだ。
ジャックは単なる狂言回しではなく、彼自身が「アメリカという国家の象徴」という意図があるのかもしれない。
しかし私のボンクラな脳味噌では、残念ながら理解するには至らなかった。
ひょっとすると、この映画をちゃんと理解するには、アメリカに関する豊富な知識が必要なんじゃないか。
そんな気がする、今日この頃である。(観賞日:2024年11月17日)