『チェイサー』:2017、アメリカ

シングルマザーのカーラ・ダイソンは6歳になる一人息子のフランキーを待たせて、ダイナーで仕事をしている。交代のアグネスが遅刻しているため、カーラは予定を過ぎても仕事を続けていた。客からの注文を受けた彼女は、苛立った様子を隠せなかった。コックのデルがアグネスと連絡を取ってくれたため、ようやくカーラは仕事を終えることが出来た。彼女はフランキーを車に乗せて、シティーパークへ出掛けた。彼女の元夫であるデヴィッドは不動産業者で、シェリルという恋人と交際していた。
カーラはベンチに座り、フランキーとかくれんぼ遊びを始めた。隣に座っていた男性から「何歳かな?」と問われたカーラは、「6歳よ」と答えた。カーラはフランキーを連れてショーを見に行くが、弁護士から電話が掛かって来た。彼女はフランキーに待っているよう告げ、席を外した。弁護士からデヴィッドが親権を要求していると聞かされ、カーラは激しく動揺した。電話を終えたカーラは、フランキーが姿を消していることを知った。
カーラが慌てて公園内を捜索すると、中年女性のマーゴがフランキーをマスタングに押し込んでいた。カーラは発進した車にしがみつくが、振り落とされた。彼女は自分の車に乗り込み、マスタングを追跡する。高速道路に入ったカーラは警察に通報しようとするが、携帯電話を紛失していた。マーゴはタイヤを道路に落とし、カーラの追跡を阻止しようとする。慌ててハンドルを切ったカーラは隣の車とぶつかり、後ろの車はタイヤが激突して横転した。
カーラが犯人の車と並走すると、運転手のテリーはナイフを見せて脅しを掛けた。「フランキーを殺す」という脅迫を理解したカーラは別の車線に移るが、すぐに戻って再び追跡した。後ろから白バイが迫って来るが、カーラが停止を命じられた。カーラが必死で状況を説明していると、テリーが車を近付けて白バイを挟み込む。白バイは転倒し、カーラと犯人の車は離れて停止した。カーラは車を降り、犯人に向かって「何が望みなの?」と叫んだ。
ナイフを手にしたテリーが車から降り、カーラに向かって走り出した。カーラは車に戻ってバックするが、逆にテリーを追い掛けた。車を停めた彼女は、外へ出て「何が欲しいのよ?」と叫んだ。彼女は財布を投げ付けてクレジットカードの暗証番号を明かし、「息子を返してくれれば警察には言わない」と約束する。テリーは財布を拾い、車に戻った。すると今度はマーゴが出て来たので、カーラは車に戻った。するとマーゴは窓に近付き、ドアを開けるよう要求した。
マーゴに「1万ドル持ってる?」と質問されたカーラは、用意できると告げる。マーゴは「あの人はアンタを殺すと言ってる。1万ドルで計画を練り直せると説得した」と語り、自分を車に乗せるよう促す。カーラは悩んだ末に、マーゴを後部座席へ乗せた。マーゴは彼女に、マスタングを追うよう指示した。車が発進すると、マーゴはカーラに「お金が手に入ったら、彼に電話して息子を返す」と告げる。しかしトンネルに入った時、マーゴはカーラに襲い掛かって殺そうとする。カーラは反撃し、マーゴを車から投げ落とした。
カーラはマスタングを追い掛けるが、テリーがドアを開けてフランキーを突き落とす動きを見せたので道を外れた。カーラは海辺で子供と釣りをしている男性を見つけ、「息子が誘拐された。通報して」と頼む。彼女は犯人の車種と色と年式を伝え、ハイウェイに戻った。事故が起きている現場へ赴いた彼女は、マスタングが乗り捨てられているのを目にした。カーラは現場にいた男性に質問し、犯人がフランキーを連れて逃走したことを知った。
カーラは車を走らせ、チェスターの保安官事務所へ駆け込んだ。しかし保安官は1人しかおらず、捜索には1時間も掛かると聞いて彼女は焦った。カーラは電話を借りてデヴィッドに連絡し、留守電に息子が誘拐されたことを吹き込んだ。行方不明になった子供たちを捜索する何枚ものポスターが貼られているのを見たカーラは、「この子たちの親は待ってただけ」と呟く。自力で息子を奪還しようと決意した彼女は、事務所を後にした。カーラはテリーとフランキーの乗る黒いボルボを発見し、事故を起こしながらも必死で追跡する…。

監督はルイス・プリエト、脚本はクネイト・グウォルトニー、製作はロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ&エリク・ハウサム&ジョーイ・トゥファーロ&グレゴリー・チョウ&ハル・ベリー&エレイン・ゴールドスミス=トーマス、製作総指揮はビル・ジョンソン&ジム・セイベル&アラ・ケシシアン&D・J・グゲンハイム&タッカー・トゥーリー&ライアン・カヴァナー&トッド・トロスクレア&ドリス・プファードレッシャー&クネイト・グウォルトニー、製作協力はJ・M・ローガン、撮影はフラヴィオ・ラビアーノ、美術はセーラ・ウェブスター、編集はアヴィ・ユアビアン、衣装はルース・カーター、視覚効果監修はロジャー・ナル、音楽はフェデリコ・フシド。
出演はハル・ベリー、セイジ・コレア、クリス・マクギン、リュー・テンプル、ジェイソン・ウィンストン・ジョージ、クリストファー・ベリー、アーロン・シヴァー、カーティス・ベッドフォード、カーメラ・ライリー、ブライス・フィッシャー、ジェニー・ヴェントリス、ティモシー・ファノン、アンディー・ワグナー、マレア・ローズ、ジル・アレクサンダー、ホリー・オクイン、アンディー・アベル、アンディー・ディラン、ロバート・ウォーカー・ブランチャード、ケヴィン・ジョンソン他。


主演のハル・ベリーがプロデューサーも兼任した作品。原題は「Kidnap」で、そのまんま「誘拐」という意味だ。
監督は英語リメイク版『プッシャー』のルイス・プリエト。
脚本を手掛けたのは、『ジャッカス3D』のコンセプトを担当していたクネイト・グウォルトニー(クネイト・リー)。脚本の執筆は、監督も務めた2016年の『Cardboard Boxer』に続いて2度目。
カーラをハル・ベリー、フランキーをセイジ・コレア、マーゴをクリス・マクギン、テリーをリュー・テンプルが演じている。

この映画は全米で公開されるまでに、紆余曲折があった。
当初は2015年10月9日に公開される予定だったが、製作したRelativity Mediaが連邦破産法11条の適応を申請したことを受け、2016年2月26日に延期された。
これだけなら、まだ傷は小さくて済んだだろう。だが、その後も複数に渡って延期され、ついには公開が中止された。
Aviron Picturesが配給権を買い取ったことで何とか公開に漕ぎ付けたものの、延期の連続によって1300万ドルという予算が余計に掛かる羽目になった。
ただ、そんな公開の遅延は、映画の評価とは何の関係も無い。この映画の評価が低いのは、単純に出来栄えが悪いからだ。

冒頭、ダイナーには若いカップルがいて、クレアという女の方が「最悪の店」と文句を言っている。彼女の注文に、カーラは苛立ちを示す。別の席には家族がいて、カーラは息子の注文したベーコンと間違えてポテトを出してしまう。後からポテトを追加注文されたカーラは、こちらでもストレスを感じる。
この辺りの描写が後の展開にどう絡むのかというと、何一つとして関係が無い。
ダイナーにいる客も従業員も、そこだけの出番だ。
そこで起きている出来事も、カーラがイライラしていることも、後の展開には全く影響が無い。

冒頭シーンで観客に提示しておくべき情報は、「カーラがシングルマザーで、一人息子のフランキーを育てている」ってことぐらいだろう。
そして、そこからの展開を考えると、前述した描写は不必要というだけでなく、余計なトコに意識を向けさせる邪魔な情報と言ってもいい。
そんなことを描くより、「いかにカーラがフランキーを愛しているか、大切に思っているか」をアピールしておいた方が絶対に得だ。
本編に入る前に2分ほど使い、幼児の頃のフランキーを撮影したホームビデオの映像を流しているが、そんなのカットしていいから現在のシーンで「カーラのフランキーに対する愛の強さ」を描いた方がいい。

フランキーがテリー&マーゴの夫婦に拉致されると、そこからは「カーラが犯人夫婦の車を追跡する」というカーチェイスが延々と続くことになる。
カーラは「必ず息子を取り戻す」と強く誓っているが、「様々な策を講じて息子の居場所を突き止める」とか、「奪還のための作戦を練る」とか、そういう展開を用意している話ではない。カーラが犯人の車を見失うことはなくて、ずっと追い掛け続けるのだ。
なのでザックリ言っちゃうと、これはカーアクション映画なのである。
それを考えると、カーラはただのシングルマザーじゃなくて、アクションに向いているキャラ設定にした方がいいんじゃないか。そして、「犯人はただのシングルマザーだと思っていたが、実はカーラの正体は」みたいな話にしちゃった方が面白くなったんじゃないか。
そんな設定にしたら本作品とは全く異なるテイストに変わっちゃうけど、この映画よりは絶対に面白くなると断言できるよ。
何しろ、この映画はビックリするぐらい何も無いからね。

ハル・ベリーの見た目が汚いってのも、大きなマイナスになっている。
ハル・ベリーは決してブスじゃないけど、表情も含めて、この映画では「キツいな」と感じさせられる。この作品のハル・ベリーは、ハッキリ言って不細工だ。そこら辺にいるような、冴えないオバサンにしか見えない。
オスカーを獲得した『チョコレート』じゃないけど、たぶん意図的にハル・ベリーは「美しい見た目」を避けたんだろう。
ただ、その手のリアルさがプラスに働いているかというと、答えはノーだ。そんなリアリティー、この映画には不要だ。
何の見所も無いような作品で、おまけに絵面が汚いってのはキツいぞ。

カーラはテリーにナイフで脅されると、別の車線に移る。でも、すぐに元の車線へ戻り、また追い掛ける。
なので、犯人の脅しはほとんど無意味になっている。
だからと言って、カーラは息子を奪還するために色んな方法を取るわけではない。「自分が手配されているから警察が追って来るはず」ってことで、犯人の車を追跡するだけだ。
そりゃあフランキーが乗っているから車をぶつけるような荒っぽい真似は難しいだろうが、それにしてもあまりに無策だ。

カーラには犯人を殺せるチャンスもあるが、そこで思い切った行動に出ることは無い。テリーがナイフで迫って来た時は、車で突っ込んで始末できるチャンスがあるが、ビビらせるだけでブレーキを掛ける。
まあ「テリーを殺したらフランキーがマーゴに殺されるかも」という恐れはあるが、そこまで考えて思い留まっているようには思えない。
「そこで人殺しをさせるのはマズいだろう」ってことかもしれないが、息子を奪還するため死に物狂いになっているという状況を考えると、そこは甘さに見えてしまう。
「犯人を殺してでも息子を奪還する」というぐらいの執念を見せた方が、感情移入しやすいぞ。
しかも、後半に入ると平気で車をぶつけているんだよね。

「カーラが延々と犯人の車を追い掛けている」という話が続いたら観客を退屈にさせちゃうことは製作サイドも理解していたようで、一応は幾つかの要素で変化を付けようとしている。しかし、そんなに大きな効果は無い。
白バイ警官の事故があった直後には、テリーがナイフで追い掛けてきたり、マーゴが取引を持ち掛けたりという展開があるが、ただ「犯人がバカな行動を取った」という印象しか受けない。
終盤に入ると、さすがにカーチェイスから離れた展開に入る。
ただ、そこまでカーチェイスを続けていただけに、それはそれで全くプラスに作用しないという厄介なことになっている。

マーゴがトンネルでカーラを殺そうとする行動に関しては、「そのタイミングで殺そうとする意味って何なのか」と言いたくなる。
運転している最中に襲ったら自分も事故死する恐れがあるわけで、どんだけボンクラなのかと。
それと、この時もカーラはマーゴを車から突き落とすだけで、殺そうとはしていないんだよね。だからマーゴは車をヒッチハイクして、家まで戻っちゃう。
そこで襲われた時にカーラはマーゴを殺しているけど、だったら車で格闘した時に始末しておけよ。

あと、テリーはいつの間にフランキーを家まで運び、天井裏に監禁したのかサッパリ分からない。
そんな行動を取れるチャンスってのは、たった1度しか無い。それは、カーラの車がガス欠で停まってしまった時だ。
この時、カーラは車を降りて走るが、テリーの車を見失う。その後、カーラは通り掛かった車に助けを求めて乗り込むが、そこへ戻って来たテリーが車を突っ込ませて事故が起きる。カーラが意識を取り戻してテリーの車に近付くと、発砲を受ける。
つまり、「カーラが意識を失っている間にテリーがフランキーを家まで連れ帰った」ということは有り得ない。そしてカーラが車を見失ってから、テリーが戻って来るまでは1分ほどしか経っていない。
その時間で、家まで戻ってフランキーを監禁するのは絶対に無理だろ。

(観賞日:2019年5月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会