『地下室の悪夢』:1990、アメリカ

田舎町にやってきた流れ者のジョン・ホール。求人票で見つけたバックマン紡績工場で働くことになった。そこはネズミが大量に棲み付いているような最低の環境。おまけに、工場では最近、従業員が謎の死を遂げるという事件が続いていた。
夜11時から朝の7時までの深夜勤務に就いたホールは、ネズミの存在に悩まされる。工場ではネズミを退治するために、駆除業者のタッカーを雇っていた。タッカーはホールに、ベトナム戦争でネズミがアメリカ兵の肉を食べていた話など、ネズミの恐ろしさを語る。
独立記念日の週は工場の仕事が休みになるが、数人のメンバーが集められて工場の大清掃をすることになった。工場長ウォーウィックから倍額の給料を出すと言われ、ホールも清掃メンバーに加わることに。他のメンバーと共に清掃を始めたホールは、地下へ通じる落とし戸を見つける…。

監督はラルフ・S・シングルトン、原作はスティーヴン・キング、脚本はジョン・エスポジート、製作はウィリアム・J・ダン&ラルフ・S・シングルトン、製作協力はジョーン・V・シングルトン&アンソニー・ラボンテ、製作総指揮はボニー・シュガー&ラリー・シュガー、撮影はピーター・スタイン、編集はジム・グロス&ランディ・ジョン・モーガン、美術はゲイリー・ウィスナー、衣装はサラ・レミア、音楽はアンソニー・マリネッリ&ブライアン・バンクス。
出演はデヴィッド・アンドリュース、ケリー・ウルフ、スティーヴン・マック、アンドリュー・ディボフ、ヴィク・ポリゾス、ブラッド・ダーリフ、ロバート・アラン・ビュース、イロナ・マーゴリス、ジミー・ウッダード、ジョナサン・エマーソン、マイナー・ルーテス、ケリー・L・グッドマン、スーザン・ロウデン、ジョー・パーハム他。


スティーヴン・キングの初期の短編小説を映画化。
短編だった文章を長編映画のシナリオにする際、物語を厚くする作業が行われなかったようで、中身はスカスカである。
スリルを醸し出す演出も弱く、ただ薄暗い工場で人間とネズミが動いているだけ。

冒頭で従業員が襲い掛かって来た巨大な影に殺される場面を描いているので、観客は工場に殺人者が存在し、それがネズミでも人間でもないことを知っている。
この場面を最初に描いたのは失敗。
最初の内は、殺人クリーチャーがいることを隠しておくべきだった。

前半は登場人物の説明と配置に費やされ、物語は一向に進まない。
ホールを苛める従業員や、工場長の愛人などが登場し、そこでの人間関係が描かれているが、そんなことには全く意味が無い。
前半の人物描写が、後半の展開に生かされることは無いからだ。

とにかく「何かが起きる」という場面が少なすぎる。
人間がウダウダと喋ったり、ウダウダと動いたりしている場面ばかり。
ホラー的な出来事がなかなか起きない。
後半になっても人間関係のゴタゴタを描くばかりで、一向に恐怖は訪れてくれない。

最初からネズミを恐怖の対象として描いているのだが、それは失敗だろう。
最初は何気なくネズミを登場させて、次第に主人公が恐ろしく感じ始めるという展開にすべきだった。そして、最後は大量のネズミが襲ってくるという展開にすれば、それなりのB級ホラーになるだろう。

ただ、この作品はネズミが襲いかかってくる作品ではない。
さんざんネズミに関する前振りをしておきながら、それは捨ててしまう。
たぶん、「敵がネズミだと思わせておいて、実は別の敵がいる」という演出意図があるのだろうが、完全に外している。

そもそも、人間が襲われるシーンがあまり多くないし、何か恐ろしいクリーチャーがいると思わせるシーンも少ない。
後半になって、ようやくホラーっぽい動きは見せるものの、謎の殺人者よりも狂った工場長ウォーウィックの方が怖いという困った始末。

で、殺人者の正体は、巨大コウモリみたいなクリーチャー。
全く怖くないし、バカバカしさに笑うことさえ無い。
いっそ、狂った工場長が人を殺していくという物語にした方が面白くなったような気がする。工場長を演じるスティーヴン・マックは、それだけの雰囲気を出しているのだし。

 

*ポンコツ映画愛護協会