『ドント・サレンダー 進撃の要塞』:2021、アメリカ

高齢者施設の「フォージ・マウンテン保養所」で暮らすロバート・マイケルズは、射撃練習場で的を撃った。その様子は監視カメラで撮影され、ベースキャンプの職員たちが観察していた。暗号資産会社「インヴェスピア」の設立者であるポール・マイケルズは、タクシーで保養所へ向かっていた。車のGPSは機能せず、ポールは運転手に道を指示した。男が車をマークしていたが、途中で信号が消えた。傭兵のユリシスは電話で指示を受け、手下のソフィアやヴラッドたちに「潜入して戻る。邪魔する奴は片付ける。標的は生きたままボスに渡す」と説明して出動した。
ロバートは保養所の責任者のケイト・テイラーから、息子のポールが会いに来ることを知らされた。ポールが保養所に着くと防護柵があり、幾つもの監視カメラが設置されていた。警備員のマシューズはポールに対し、立ち入り許可証の提示を要求した。そこへケイトが現れてポールを招き入れ、招待制の保養所だと説明した。彼女は鉄鉱石の電磁波妨害により、外部との通信は出来なくなると告げた。傭兵軍団はタクシー運転手を捕まえて脅し、ポールを送り届けた場所を聞き出してから始末した。
ケイトはポールに、「ここの売りは匿名性なのに、どうやってお父様の居場所を知ったの?」と質問する。ポールは父と疎遠であることを話し、「母方の資産管理をしてる弁護士から聞いた」と答えた。傭兵軍団はドローンを飛ばすが、森の中には何も見えなかった。ポールは3年ぶりにロバートと再会し、「母が死んで姿を消したことを恨んでいたが、関係を修復したい」と持ち掛けた。傭兵軍団は磁気パテで監視カメラを塞ぎ、フェンスに穴を開けた。ベースキャンプのオペレーターであるサンドラから報告を受けた上司のガーナーはワイヤーのショートだと考え、北の警備員にパトロールへ行かせるよう指示した。
傭兵軍団はフェンスの穴から、保養所に侵入した。ジョーンズはサンドラの指示を受け、様子を見に行った。ポールは会社のことを父に説明し、「主要な投資家が手を引いて、現金投入が必要だ」と話す。彼は500万ドルが早急に必要なのだと言い、亡き母の家族信託を担保に短期ローンを組んだと明かす。「相続分から借りる権利がある」と彼が主張すると、ロバートが「母さんは相続を放棄し、親族に背を向けたんだ」と述べた。
ジョーンズはフェンスの穴を発見し、ベースキャンプに知らせた。磁気パテが落ちて監視カメラの映像が復旧した直後、ジョーンズは傭兵に殺された。サンドラから報告を受けたガーナーはコード・ブラックを発令し、保養所には緊急警報が鳴り響いた。ロバートは拳銃を構え、ポールに「ここにいろ」と告げて外へ出た。傭兵軍団は入居者を脅してロバートの写真を見せ、居場所を教えるよう迫った。ケイトは傭兵に襲われ、すぐさま反撃した。ロバートが駆け付けて傭兵を射殺し、ケイトに「ポールをフォートレスへ」と頼んだ。
ケイトはポールを連れ出し、緊急避難所へ連れて行くと告げた。「なぜ父さんを狙う?」とポールが訊くと、ケイトは「自分で確かめて」と告げた。ポールは森を進む中、傭兵にテーザー銃で撃たれた。ケイトは傭兵を倒し、ポールに肩を貸して移動した。保養所のゲートにはボスのバルザリーを乗せた車が現れ、マシューズが射殺された。ポールとケイトは2人の傭兵に銃を向けられるが、駆け付けたロバートと迎えのカートを運転していたブレイン曹長に救われた。
ロバートはその場に残り、ポールとケイトはブレインのカートでフォートレスの入り口に到着した。ケイトは地下扉からフォートレスに入り、そこが以前は軍の秘密基地だったこと、危険に晒された元工作員が暮らす場所であることをポールに教えて総司令官のドブス准将に会わせた。警備の面々は傭兵たちに銃を向けて制圧しようとするが、バルザリーの一味に一掃された。ロバートがフォートレスに現れ、「奴はバルザリーだ。目的は私だ」と話した。
ガーナーの命令で元デルタフォースのブレインが出動し、敵の狙撃手2人を次々に始末した。ロバートはポールの質問を受け、自分が元CIAで欧州の金融市場を監視していたことを明かす。バルザリーは殺した警備兵の無線を使い、ドブスに「政府には恨みがある。顧客から預かった大金を奪った」と語る。彼はロシアのギャングに妻が捕まっていることを話し、裏切り者のロバートを出すよう要求した。ドブスが「ロバートはいないし、金は無い」と述べると、バルザリーは「鍵が掛かったままサイバー世界に眠ってる。そっちに向かう」と告げた。ロバートはバルザリーの組織に潜入し、運転資金の6億ドルを消していたのだ。バルザリーの一味はフォートレスに乗り込み、ドブスの裏切りでポールたちは捕まってしまう…。

監督はジェームズ・カレン・ブレザック、原案はエミール・ハーシュ&ランドール・エメット、脚本はアラン・ホースネイル、製作はランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&チャド・A・ヴェルディー&ルイージョ・ルイス、製作総指揮はティム・サリヴァン&シーザー・リッチボウ&アラン・ホースネイル&ニック・ダンジェロ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&ヘンリー・ウィンタースターン&アラステア・バーリンガム&ゲイリー・ラスキン&ポール・ワインバーグ&チャーリー・ドンベク&ダニー・チェン&マーク・スチュワート&リディア・ハル&ヴァンス・オーウェン&Chad A. Verdi Jr.チャド・A・ヴェルディJr.&マイケル・C・ロビンソン&テッド・フォックス&アルノー・ラニック&シリル・メグレット&ダイアナ・プリンシペ&マリリー・“ジジ”・レイエス、共同製作総指揮はライアン・ブラック、共同製作はベリー・トーレス&ボビー・ランゲロフ&クリス・シルヴァートソン&アラナ・クロウ、撮影はブライアン・コス、美術はピーター・コルドヴァ、編集はR・J・クーパー、衣装はアナ・C・ラミレス・ヴェレス、音楽はティモシー・スチュアート・ジョーンズ、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はジェシー・メトカーフ、ブルース・ウィリス、チャド・マイケル・マーレイ、ケリー・グレイソン、サーダリウス・ブレイン、マイケル・シロウ、シャナン・ドハーティー、カタリナ・ヴィテリ、ローレン・シフ、ショーン・カナン、ダニエル・サリナス、ナタリー・バーン、ルイージョ・ルイス、トレイ・アイルランド、サイモン・フィリップス、ピーター・J・コルドヴァ、キャスパー・スマート、キャニオン・プリンス、エリック・ウェスト、ルイス・ダシルヴァ、ジョン・ヒックマン、ジョナサン・カステラノス、レスリー・エメット、ジェームズ・カレン・ブレザック、カレイナ・コルドヴァ他。


『アクア・クリーチャーズ』『沈黙の鉄槌』のジェームズ・カレン・ブレザックが監督を務めた作品。
脚本は『ミッドナイト・キラー』のアラン・ホースネイル。
『ブルース・ウィリス ドント・サレンダー 進撃の要塞』のタイトルでテレビ放送されたこともある。
『イントゥ・ザ・ワイルド』や『スピード・レーサー』に出演していた俳優のエミール・ハーシュが、原案で参加している。
ポールをジェシー・メトカーフ、ロバートをブルース・ウィリス、バルザリーをチャド・マイケル・マーレイ、ケイトをケリー・グレイソン、ユリシスをサーダリウス・ブレイン、ブレインをマイケル・シロウ、ドブスをシャナン・ドハーティー、ソフィアをカタリナ・ヴィテリ、ガーナーをローレン・シフ、ヴラッドをショーン・カナンが演じている。

「ごく普通の一般人と思っていたら、実は凄い奴だった」というパターンの映画は、幾つもある。
「実は凄い奴」という部分は元特殊部隊や元CIAといった設定で、家に侵入したり襲って来たりする悪党どもを次々に始末するってのが、その手の映画のフォーマットだ。
この作品はザックリ言うと、その「実は凄い奴だった」という部分を集団バージョンにした内容だ。
そのアイデア自体は、B級アクション映画としては悪くない。でも残念ながら、そのアイデアを全く活かし切れていない。

序盤の描写からして、中途半端で失敗していると感じる。
ロバートが射撃練習をする様子や監視カメラの映像、信号が途中で切れるという描写などにより、「保養所が普通の高齢者施設じゃない」ってことを強く匂わせている。
一方、厳重に警備されている場所なのに、簡単に場所が漏れている。まだ傭兵軍団が突き止めたならともかく、ポールが母方の弁護士から聞き出している。
幾ら親子ではあっても、匿名性が売りで立ち入り許可書も必要なぐらい外部との接触には敏感なのに、そんな形で知られるのは脇が甘すぎるだろ。

磁気パテで監視カメラが塞がれると、ガーナーはワイヤーのショートだと軽く考える。フェンスに穴が開けられても、しばらく分からないままになっている。保養所の警備員は傭兵軍団によって簡単に殺され、入居者は簡単に捕まっている。
「実は凄い連中が暮らす場所」という保養所の設定は、あっさりと死んでしまう。
そもそも、保養所に秘密がある設定が大きな売りのはずなんだから、そこを襲う傭兵軍団の正体や目的に関しては、最初の段階で大半明かしちゃった方がいい。
そこに謎を持たせたままで進めても、無駄に話をややこしくするだけで何の得も無い。

ブレインはカートでポールとケイトをフォートレスまで送り届ける時、「さあ、盛り上がっていこう」と軽い口調で告げ、陽気な音楽を流す。
だけど、そんなトコに陽気なノリは全く要らない。緊張に対する緩和を狙っているとしても、完全に場違いなだけ。
そもそも、緩和が必要なタイプの映画にも思えないし。
ずっと緊張状態で進めばいいよ。どうせ会話シーンではダラダラして、ホントはダメな意味での緩和が生まれているし。

誰が主人公なのか、ものすごくボンヤリしている。だからって群像劇というわけでもないし、集団で主人公という感じでもない。単に話の軸が定まっていないだけ。
ビリングトップはジェシー・メトカーフとブルース・ウィリスだから、普通に考えればポールとロバートが主人公ということになる。
でもポールは戦闘力がゼロだし、基本的には巻き込まれて無力さを露呈しているだけ。
ロバートは戦闘力があるけど、彼をずっと中心に据えるわけではなく、消えている時間も少なくない。

ガーナーの指令を受けたブレインが狙撃手を次々に始末する展開があり、ここで一気に形勢が逆転するのかと思いきや、そうではない。
ブレインが2人を始末すると、ほぼ仕事は終了になる。そして、またバルザリー側が優位になる。
状況はコロコロと変わるのだが、それで話が面白くなることは無い。ただ行き当たりばったりで、全体の計算が全く出来ていないだけ。
どうせ狙撃手が死のうが死ぬまいが物語の展開に影響は無いので、ブレインというキャラ自体の存在意義が微妙だし。

バルザリーの一味がフォートレスに突入すると、待ち受けていたロバートたちが動きを制する。ところがポールが余計な行動を取ったせいで、あっさりと捕まってしまう。このタイミングで急にドブスが裏切り、ガーナーを射殺する。
彼女は最初からバルザリーと結託していた設定だけど、だったら一味が多くの犠牲を出す必要なんて無かったでしょ。フォートレスの場所だって、簡単に判明したはずでしょ。
それどころか、ドブスがグルならロバートを上手くバルザリーに引き渡すことも出来たんじゃないか。
「実はドブスもグルだった」という設定を成立させるための物語を、まるで構築できていないぞ。

バルザリーの一味はフォートレスを制圧するが、衛星通信が使えないので、金を手に入れるための電子決済システムに繋がらない。
ここでポールは「自分が開発した試作品のウェーブ・ライダーを使えば出来る」と言い出すが、見事なまでの御都合主義だ。
そんな試作品を彼が開発していたなんて、そこで初めて出て来る情報だからね。ウェーブ・ライダーとか、急に飛び出す用語だからね。
そんなことでも無いと、ポールを活躍させることが出来ないのだ。

このタイミングで、「バルザリーがインヴェスピアから投資ファンドを撤退させ、ポールがロバートに会うよう仕向けていた」という事実が明らかにされるが、これも取って付けたような印象しか受けない。
繰り返しになるけど、ドブスが最初から結託していたのなら、そんな手間を掛ける必要は全く無いのよ。
で、そんな無理をしてまでドブスを裏切り者にしたことが、物語を面白くしているわけでもないし。
裏切る理由が「地下の生活に耐えられなくなった。地上で暮らしたい」ってのも、すげえバカバカしいし。

序盤でユリシスが登場し、「傭兵軍団のリーダー」としての存在をアピールしている。だったらフォートレスを襲撃するグループも当然のことながら、「ユリシスの一味」であるべきだろう。
ところが、すぐにバルザリーが登場し、リーダーの座を奪ってしまう。だったら最初から、「バルザリーの一味」ってことでいいでしょ。
あと「バルザリーが妻を人質に取られている」という同情を誘うような要素は、ただ邪魔なだけだぞ。そんなの、何のメリットも無いだろ。
そんで映画は「死んだはずのバルザリーが起き上がる」という様子で終わるが、まさか続編を狙っているのかよ。アホすぎて何の意味も感じない匂わせ方だわ。

(観賞日:2023年8月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会