『DENGEKI 電撃』:2001、アメリカ

デトロイト警察21分署のオーリン・ボイドは、手荒で暴力的な捜査が多い刑事だ。ある時、彼はテロリストの襲撃から守るために副大統領を川に放り込んだ。これが上司のフランクやヒンギス本部長の怒りを買い、ボイドは左遷されてしまう。
ボイドが転属になったのは、犯罪無法地帯の15分署だ。女署長マルケイヒーの命令で感情克服セミナーに出向いたボイドは、モーニング・ショーの司会者ヘンリー・ウェインと会った。ボイドは車を盗もうとした連中を退治し、セミナーの仲間から喝采を浴びる。
ラトレルという男が、相棒T.Kに見張りをさせて麻薬取り引きを行った。たまたま近くを通ったボイドは異変に気付いて現場に踏み込むが、ラトレルには逃げられてしまう。ボイドはラトレルの取り引き相手を捕まえるが、それは潜入捜査中の警官モンティーニだった。この失敗により、ボイドは交通整理の警官に格下げされてしまう。
ボイドはモンティーニと彼の相棒ユースルディンガーに挑発されるが、同僚ストラットが彼らを制止した。ボイドはモンティーニが追っていた相手がラトレルという男だと知り、独自に調査を開始した。ボイドが記録保管センターに出向くと、武装グループがヘロイン50キロを強奪しようとしていた。ボイドは、現場から事務員と家族を救出した。
ボイドはパトロール警官として現場に復帰し、ジョージとコンビを組むことになった。ボイドはT.Kがオーナーを務めるクラブ“スタティック”に乗り込むが、逃げられてしまう。ボイドは店の事務所で刑務所の面会パスを発見し、ラトレルが服役中のショーンという男に会っていることを知った。ショーンを半年前に逮捕したのは、モンティーニだった。
ボイドはモンティーニを監視し、彼がラトレルが密かに会っているのを目撃した。実は、モンティーニやストラット達は、ヘロインの密売に関わっていたのだ。ボイドは調査協力を要請したヘンリーから、ラトレルがショーンの兄だという情報を得た。ボイドは、ラトレルがインターネットを通じてヘロインを売りさばくつもりではないかと考えるのだが…。

監督はアンジェイ・バートコウィアク、原作はジョン・ウェスターマン、脚本はエド・ホロウィッツ&リチャード・ドヴィディオ、製作はダン・クラッチオロ&ジョエル・シルヴァー、共同製作はジョン・M・エッカート、アーネスト・ジョンソン、製作総指揮はブルース・バーマン、撮影はグレン・マクファーソン、編集はデレク・ブレッチン、美術はポール・D・オースターベリー、衣装はジェニファー・L・ブライアン、ファイト・テクニカル・アドバイザーはスティーヴン・クアドロス、マーシャルアーツ・ファイト・コレオグラファーはディオン・ラム、音楽はデイモン・“グリース”・ブラックマン&ジェフ・ローナ。
出演はスティーヴン・セガール、DMX、アイザイア・ワシントン、アンソニー・アンダーソン、マイケル・ジェイ・ホワイト、ビル・デューク、ジル・ヘネシー、トム・アーノルド、ブルース・マッギル、デヴィッド・ヴァディム、エヴァ・メンデス、マシュー・G・テイラー、パオロ・マストロピエトロ、シェイン・デイリー、ドラッグ=オン、ジェニファー・アーウィン、ダニエル・キャッシュ他。


映画カメラマン出身のアンジェイ・バートコウィアクが、監督デビュー作『ロミオ・マスト・ダイ』に続いてメガホンを執った作品。歴代のスティーヴン・セガール主演作品の中で、最大のヒットを記録した。原作は元警官ジョン・ウェスターマンが書いた小説。
ファイト・テクニカル・アドバイザーのスティーヴン・クアドロスは、本国では有名な格闘技キャスターらしい。マーシャル・アーツ・ファイト・コレオグラファーは、ユエン・ウーピンの弟子で『風雲 ストームライダース』などの武術指導者ディオン・ラムが担当している。
オーリンをスティーヴン・セガール、ラトレルをDMX、ジョージをアイザイア・ワシントン、T.Kをアンソニー・アンダーソン、ストラットをマイケル・ジェイ・ホワイト、ヒンギスをビル・デューク、マルケイヒーをジル・ヘネシー、ヘンリーをトム・アーノルド、フランクをブルース・マッギル、モンティーニをデヴィッド・ヴァディムが演じている。

スティーヴン・セガールというアクション俳優の持ち味と作品の内容が、どうも合っていない。スティーヴン・セガールという人は、良くも悪くも、無骨で真っ直ぐなアクション野郎なのだ。入り組んだ事件や複雑な人間関係があるような作品ではなく、単純明快に敵をバカスカと倒して行くような作品でこそ、持ち味が発揮される俳優なのだ。
しかも、セガール作品に合わない入り組んだ事件や複雑な人間関係を用意したにも関わらず、それを上手く捌き切れていないのだ。例えば終盤にラトレルの仲間として再登場するトリッシュという女なんて、「誰だっけ?」という程度の印象しか無い。

マルケイヒーは、これから主人公と行動を共にするのかと思った途端、あっけなく死亡する。フランクやヒンギスは、最初にチラッと登場した後は、終盤まで全く出てこない。ヒンギスなんて、終盤にフランクを射殺して「お前はクビだ」とカッコ良く宣告するキャラなのに、扱いが勿体無い(終盤では主人公を食っているような感さえあるぐらいなのに)。
伏線の張り方(というかキャラの出し入れ)が上手くないので、観客の裏をかこうとする展開にも、意外性の面白さは感じられない。謎めいた男としてラトレルを登場させておきながら、そのミステリアスさが話の展開において全く意味を成していない。

セガール自身、自らの作品の興業成績が芳しくないことに、色々と頭を悩ませていたはずだ。だからこそ今作品では、いつもとは違った色合いを出そうとしているのだろうる。だから、トレードマークであったポニー・テールをバッサリとカットしたのだろう。そして、全く似合わないワイヤー・アクションも、申し訳程度に取り入れたのだろう。
しかし、セガール主演作でワイヤー・アクションをやったところでジェット・リー主演作の足元にも及ばないわけで、その挑戦は無謀すぎる(まあセガール自身がワイヤー・ワークで飛んだり跳ねたりしているわけではないが)。『マトリックス』のヒット以来、ワイヤー・アクションがハリウッドでの流行だからといって、安易に乗ってどうする。

そもそも、セガールというアクション俳優は、“本物の格闘術”を売りにして成り上がった人ではなかったのか。リアル・アクション志向によってハリウッド映画界に居場所を見つけたセガールが、自身のアイデンティティーを安売りしてはいけないだろう。

セガールは自分の作品に足りないモノが何かということについて、考え違いをしているのではないだろうか。一連のセガール作品に決定的に欠けているのは、ドラマとしての深みだとか、意外性のある展開だとか、そういうことではないのだ。もちろん、アクションシーンに現実離れしたワイヤー・ワークが足りないというわけでもない。
セガール主演作品の1つの問題として、最近は年を取ったせいなのか、動きにキレが無くなってきたという問題がある。もう1つは、クライマックスに1対1でセガールとマトモに戦える敵の不在だ。それこそが、彼の主演作品が抱える大きな問題だろう。

その点、今回はマイケル・J・ホワイトが敵側にいるので、終盤にマトモな1対1の格闘バトルを繰り広げることが出来る。ところが、中途半端にワイヤー・ワークを使ってみるわ、格闘は煮え切らない内に途中で終わらせてしまうわ、並行してDMXとデヴィッド・ヴァディムの格闘を見せるわと、せっかくの見せ場を台無しにしている。
なんだか色々と文句を付けてきたが、セガール主演作の中では、間違い無くベスト3に入る作品だ。ただし、一連の“沈黙”シリーズの作品群が酷すぎるのために、これをベスト3に入れざるを得ないってだけのことだが。


第24回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[スティーヴン・セガール]

 

*ポンコツ映画愛護協会