『ディラン・ドッグ デッド・オブ・ナイト』:2010、アメリカ
アメリカ・ニューオーリンズ。夕食の準備をしていたエリザベスは、2階にいる父のアルフレッド・ライアンに呼び掛ける。天井から血が滴り落ちていることに気付いた彼女は、急いで2階へ向かう。書斎に入ったエリザベスは、アルフレッドが惨殺されているのを発見する。部屋の中には、様々な動物の剥製が置いてあった。エリザベスが警戒しながら熊の剥製に歩み寄ろうとした時、部屋に潜んでいた獣人が窓ガラスを割って外へ飛び出した。
かつてディラン・ドッグは、アンデッドやモンスターと人間たちの間に入って問題を解決する仲裁役だった。しかしディランは闇の世界の住人の世話を焼くことから足を洗い、私立探偵として生活している。調査のせいで浮気がバレて財産を失ったハーキンはディランを逆恨みして事務所に押し入り、拳銃を向けた。しかしディランは落ち着いて対応し、隙を見せたハーキンの鼻を殴り付けて拳銃を奪った。「先に浮気したのは女房だ」とハーキンが言うと、ディランは自分に調査を依頼するよう持ち掛けた。
事務所に戻って来た助手のマーカスは、「この前のこと、考えてくれたか?俺は雑用だけじゃなくて、もっと危険な仕事で力になりたい。相棒になりたいんだ」とディランに言う。しかしディランは「俺に相棒は要らない」と告げた。依頼の電話があったと聞いたディランは、マーカスを伴ってエリザベスの家へ赴いた。彼女はディランに、父が死んだこと、身寄りが自分だけだったこと、警察が全く取り合ってくれないことを話した。
「なぜ俺たちを読んだ?」とディランが尋ねると、エリザベスは「祈りに来てくれた神父様がくれたの」と言い、一枚のカードを見せる。そこには「"No Pulse? No Problem."」と書かれていた。ディランは「悪いが、その方面からは足を洗ったんだ」と告げ、立ち去ろうとする。「父は怪物に殺されたの」とエリザベスが言っても、彼は「幻でも見たんだろ。俺では役に立てない」と耳を貸さなかった。
街で最も人気のあるクラブ「コーパス・ハウス」は、吸血鬼の根城になっている。彼らは店でドラッグとして自分たちの血を売り捌いており、それを飲んだ者は目が冴えて不死身の気分になれる。ガブリエルという男はオーナーのヴァーガスに、「昨夜、狼人間が貿易商を殺したらしい。アルフレッド・ライアンだ。ヨーロッパからの密輸品の噂を聞き付けたらしい」と語る。ヴァーガスは「よし、調べよう」と口にした。ヴァーガスはドラッグを飲んで暴れているロディーという客を見つけ、殴り倒して失神させた。
深夜、事務所に戻ったマーカスは、怪物に襲われた。後から帰宅したディランは、マーカスの死体を発見した。翌日、元の仕事に復帰することを決めたディランは、エリザベスの家を訪れた。彼は「昨夜、人間じゃない何かがマーカスを殺した。俺を事件から遠ざけたくて」と話す。書斎に残っている血痕を調べたディランは、エリザベスの父親を殺した犯人を狼人間と断定した。彼は「狼人間は我々の街にいて、普通に暮らしている。いつもは獣の心を制御しており、変身することも無い」と語った。
ディランは木の上に残されていた狼人間の毛を発見し、それを調べる。毛は女性の物で、年齢は18歳程度だと彼は分析した。ディランはエリザベスに、この街には4つの狼人間一族が住んでいることを語る。シスノス一族の毛だと突き止めた彼は、一族が経営する食肉工場へ赴いた。一族の長であるガブリエルは、ディランの知り合いだった。工場の社長室に忍び込んて配達リストをチェックしたディランは、わずか5キロの肉を注文している配達先があることが気になった。
社長室にガブリエルが現れ、ディランに「あんなことをしておいて、良く戻って来られたな」と嫌味っぽく告げた。ディランが「人間が殺された。犯人はアンタの身内だ」と言うと、ガブリエルは「私への侮辱は、一族への侮辱だ。かつての友情はどこに消えたんだ」と冷淡に告げる。「来たくて来たわけじゃない。また愛する者が殺された」と口にしたディランは机の上に飾られている写真に気付いた。それはガブリエルの娘であるマーラの写真で、彼女の年齢は17歳だった。
ガブリエルが脅しを掛けたので、ディランは去ることにした。ガブリエルは「カサンドラはいい女だった。あれは悲劇だったが、お前が過去をほじくり返して関わることを彼女は望んでいないはずだ」とディランに語る。ディランは工場で働くウルフギャングに殴り飛ばされ、「ここはお前の来る場所じゃない」と罵られる。「親父は吸血鬼一族からお前を助けた。放っておけばいいのに。卑劣な人間め」と彼は言い、狼人間に変身した。ディランは銀製のナックルダスターを使って反撃し、ウルフギャングを殴り倒した。
ディランは5キロの注文があった配達先の住所へ行き、そこに匿われていたマーラの死体を発見した。隠れていた吸血鬼が逃亡したので後を追うが、見失ってしまった。マーラが拷問されているのを知ったディランは、その理由を突き止めようと考える。それを聞かされたエリザベスが「あの怪物は殺されて当然よ」と言うと、彼は「一線を越えた今、戦争が起きかねない。君の父親は何に手を染めていた?君にも報いが来るぞ。そうなったら、誰も君を助けられない」と述べた。
エリザベスはディランに、父から「万が一のことがあったら」と託されていたコレクションの目録を見せた。目録に写真が貼られている美術品の価値は200万ドル相当で、その内の1つだけ現物が見当たらないのだという。それは特殊な十字架だった。今まで言わなかった理由を問われたエリザベスは、「どれも税関を通っていないから」と答えた。つまり、アルフレッドは密輸に手を染めていたのだ。
吸血鬼の集団が屋敷に押し入り、「ハートはどこだ?」とエリザベスに詰め寄った。ディランはマグネシウム照明弾で吸血鬼たちを怯ませ、その隙にエリザベスを連れて屋敷から逃亡した。ディランは彼女に、アンデッドたちが人間に紛れて暮らしていること、彼らが協定を結んで中立の立場の人間を仲裁役に選んだこと、それがかつての自分であることを話す。マーラの噛み傷がマーカスの時と似ていたため、ディランは同一犯ではないかと推測した。
ディランはモルグへ行き、解剖医をしているゾンビのセシルとフィルに会った。マーカスの死体を確認すると、左腕が無くなっていた。ゾンビとして蘇ったマーカスは、事情説明を受けて混乱した。マーカスとマーラを殺したのがセシルたちとは異なる肉食ゾンビだと察したディランは、その目的を探るためにビッグ・アルの修理工場へ向かった。情報屋のビッグ・アルは裏社会で肉体のパーツ屋を営んでおり、近所に住むゾンビたちが訪れていた。
ディランが「トゥルー・ブラッドの吸血鬼に襲われた。今のボスは誰だ?」と訊くと、アルは「ヴァーガスだ。ドラッグ売買で儲けてる。一族の経営幹部が全て殺されてから、人事が一新されてから商売が右肩上がりだ」と述べた。「お前がビネートだという噂がある。それを広めたのもヴァーガスだろう」と言うアルの言葉に、エリザベスが「ビネートって?」と質問する。ディランは「モンスター・ハンターを意味するラテン語だ」と教えた。
ディランが「この街にモンスター・ハンターが来ているのか」と言うと、アルは「アンデッドが何人も消息不明だ。モンスター・ハンターに狩られたらしいが、証拠は無い」と話す。情報が入ったら教えるよう頼んで立ち去るディランに、アルは「コーパス・ハウスには絶対に近付くなよ」と忠告した。ヴァーガスは墓地で仲間のロルカを拘束し、「修理工場の店員に聞いたが、狼女の家から一族の者が逃げて行ったそうだ。事の重大さに、お前はまだ気付いていないのか」と怒った。
ヴァーガスは「ここまで来るのに100年を費やした。俺たち一族は、やっと暗闇から抜け出して頂点に立とうとしている。もう惨めな生活に戻るのは御免だ。今や人類は滅びつつある。そこで必要なのはベリアルのハートだ。このロルカはハートの入手に失敗しただけでなく、ディランの目を我々に向けさせた」と集まった仲間たちに語り、ロルカに生き埋めの刑を宣告する。「俺は横取りなどしていない。ただ見つからなかっただけだ」とロルカが言うが、ヴァーガスは容赦なく生き埋めにした。
ディランはパーツ屋で見つけた臨時の腕をマーカスに取り付け、ゾンビとしての生き方を彼に教えた。しかしマーカスは、なかなか現実を受け入れることが出来なかった。ディランはマーカスとエリザベスに、吸血鬼の血に溺れた人間がグールであることを告げる。ディランはグールを装い、コーパス・ハウスに潜入した。マーラの隠れ家にいた若い吸血鬼のことを店員に質問していると、ヴァーガスの手下たちが現れて「上まで来てもらおうか」と凄んだ。
ヴァーガスの元へ連行されたディランは、「俺がモンスター・ハンターだと吹聴していると聞いたが」と問い掛けた。「俺が?お前には感謝してるのに」とヴァーガスはシラを切り、「お前が一族の重鎮たちを殺してくれたおかげで、俺はトップに立てたんだ」と述べた。「だったら教えてくれ。お前の手下は、なぜ狼女を殺したり、俺のクライアントを襲ったりした?」とディランが訊くと、「知らなかった。それは俺の手下じゃない」とヴァーガスは嘘をついた。
店を追い出されたディランはスレイクという吸血鬼を捕まえ、マーラのことを教えるよう脅した。「俺を殺したら後悔するぞ、あれのことを知ってるのは俺だけなんだからな」とスレイクは強がり、隙を見て逃げ出す。だが、そこにディランも見たことの無い巨漢の肉食ゾンビが現れ、スレイクを始末した。ディランが発砲しても、怪物には全く効果が無かった。ディランはその怪物に弾き飛ばされた。
ディランはマーカスを連れてスレイクの安アパートへ行き、室内を物色した。そこにはマーラとツーショットの写真があり、2人が交際していたことが判明した。ディランはマーラの葬儀へ赴き、ガブリエルにスレイクのことを尋ねようとする。しかし質問する前に、彼の方から「あの吸血鬼の青年が来て、全て話してくれた。彼は犯人ではない」と述べた。ディランが十字架の写真を見せると、「若い2人が争いを終わらせるために盗んだのだ。眠れる獣を呼び覚ますとは知らずに」と語った。
ディランが帰宅すると、エリザベスが勝手にカサンドラの写真を見ていた。苛立ちを示すディランに、彼女は「何があったの?無理にとは言わないけど」と口にする。少し考えてから、ディランは「あの夜、嫌な予感がしてコーパス・ハウスへ向かった。すると彼女はフロアに横たわっていた。動転した俺は、吸血鬼の重鎮たちに復讐した」と語った。ディランは800歳を超える吸血鬼のボレリを訪ね、十字架について尋ねる。口の重い彼を説得したディランは、それが堕天使ベリアルの封印された十字架だと聞かされる。
言い伝えによれば、満月の夜にベリアルを復活させることが出来る。そのために必要なのは、その十字架と、アンデッドの生贄だ。かつてモンスター・ハンターは、その十字架を使ってアンデッドの滅亡を目論んだ。しかしベリアルを復活させる前に全滅させられた。伝説によると、それ以来、ある狼人間の一族によってベリアルのハートは守られているという。その話を聞いたディランは、それがガブリエルの一族だと確信した。ディランが職人工場へ行くと、ガブリエルが何者かに襲われて瀕死の重傷を負っていた。彼は「もう時間が無い。皆に伝えろ、ハートはスクラヴィが持っている。スクラヴィを捜せ」と言い残し、息を引き取った…。監督はケヴィン・マンロー、原作はティツィアーノ・スクラーヴィ、脚本はトーマス・ディーン・ドネリー&ジョシュア・オッペンハイマー、製作はアショク・アムリトラジ&スコット・ミッチェル・ローゼンバーグ&ギルバート・アドラー、製作総指揮はクリストファー・マップ&マシュー・ストリート&デヴィッド・ウィーリー&ピーター・D・グレイヴス&パトリック・アイエロ&アーヴィン・ラステマジック&ラース・シルヴェスト&ウィル・フレンチ&スティーヴン・ロバーツ&ランディー・グリーンバーグ&ケヴィン・マンロー、共同製作はマニュ・ガルギ&ブライアン・アルトゥニアン&ギョーイ・デ・マルコ、撮影はジェフリー・ホール、編集はポール・ハーシュ、美術はレイモンド・パミリア、衣装はキャロライン・エスリン=シェーファー、音楽はクラウス・バデルト。
出演はブランドン・ラウス、サム・ハンティントン、アニタ・ブリエム、テイ・ディグス、ピーター・ストーメア、ブライアン・スティール、カート・アングル、ケント・ジュード・バーナード、ミッチェル・ホイットフィールド、マイケル・コッター、ローラ・スペンサー、ジェームズ・ヘバート、ダン・ブレイヴァーマン、マルコ・セント・ジョン、カイル・クレメンツ、ダグラス・M・グリフィン、ケヴィン・フィッシャー、ギャレット・ストロメン、ティファニー・レイフ、アンドリュー・センセニグ、コートニー・J・クラーク、バーナード・ホック他。
1イタリアで1986年に誕生し、アメリカでも販売されている大人気のフメッティー(イタリアのコミックのこと)、『Dylan Dog』シリーズを基にした作品。
監督は『ミュータント・タートルズ -TMNT-』のケヴィン・マンロー。
ディランをブランドン・ラウス、マーカスをサム・ハンティントン、エリザベスをアニタ・ブリエム、ヴァーガスをテイ・ディグス、ガブリエルをピーター・ストーメア、ベリアルをブライアン・スティール、ウルフギャングをカート・アングルが演じている。主演のブランドン・ラウスは、2006年に『スーパーマン リターンズ』でスーパーマン役に抜擢され、そこからスター街道を歩んでいくはずだった。『X−MEN』シリーズの1作目と2作目をヒットさせたブライアン・シンガーが監督を務め、大ヒットが約束されているはずだった。
ところが『スーパーマン リターンズ』は大コケして、シリーズ化の話も無くなった。
その後、2010年にはカナダのコミックを基にした『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』で、ブランドン・ラウスは主人公の敵を演じた。『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』のエドガー・ライトが監督と脚本を担当し、ヒットが確実視されたが、これまたコケた。
そんな風にコミック映画で痛い目を見ているブランドン・ラウスだが、また懲りずにコミック映画に出演しているわけだ。
そして、また今回もコケた。残念ながら、ブランドン・ラウスは明らかにミスキャスト。
ディラン・ドッグという男は、サム・スペードやフィリップ・マーロウほど古いタイプの私立探偵ではないが、だからと言って現代的なライフスタイルで健康&健全に暮らしているスペンサーのような私立探偵でもない。
それを考えると、ブランドン・ラウスはガタイが良すぎる。登場シーンで彼はランニング・シャツを着ているのだが、マッチョな体がハッキリと分かる。
でも、ディラン・ドッグって、そんなに筋肉があっちゃダメなんじゃないかと。原作は読んだことが無いけど、検索した画像を見た限り、ディラン・ドッグはもっと細身の男だ。怪物と戦うにしても、武器や道具を駆使しないと勝てないようなタイプのキャラクターにしておくべきなんじゃないのかと。
ところが本作品のディランって、怪物とタイマンで戦っても、勝てそうな気がしてしまうガタイの良さなんだよな。実際、ウルフギャングには銀製のナックルダスターを使わなきゃ勝てないが、それも形としては「パンチ一撃」だしなあ。
しかも、終盤には巨漢の肉食ゾンビと素手で戦い、何発もパンチを浴びせて建物の2階から落とし、勝利する。
おいおい、素手で怪物に勝てちゃうのかよ。もはや普通の人間じゃねえだろ。エリザベスの父が殺される事件が発生した後、ディランのナレーションによって、かつて彼がアンデッドと人間の仲裁役をしていたことが語られる。
でも、「なぜ足を洗ったのか」というのは、今回の物語に何の関係も無いことだし、最初から怪物関係の仕事をしている設定で始めてもいいんじゃないかと思うんだけどなあ。
「引退していたけど、また元の仕事に復帰する」という行程が、単なる無駄な手間にしか感じられないのだ。
しかも、「かつてアンデッドと人間の仲裁役をしていた」というのはナレーションで軽く説明されるだけで、具体的にどういう仕事をしていたのかは分からないし。この物語の世界観もボンヤリしている。
ナレーションで「アンデッドは人間に紛れて暮らしている」という説明があり、狼人間だけでなく様々な種類のモンスターが人間界に紛れて暮らしているという設定なのだが、そこを「皆さんは既に御存知ですよね」とでも言わんばかりの軽い処理で話を進めていくので、拒否反応が出てしまう。特異な世界観に観客を引き込み、馴染ませるための作業が上手く実施されていないのだ。
それは序盤でやるべき作業だと思うが、それをやる代わりに「足を洗っていたディランが元の仕事に復帰する」という作業をやっている。
そうではなく、ディランを「怪物の世話役」という職業設定で登場させて、プロローグとして、彼が怪物と関わる小さな事件を用意し、「ディランがどういう仕事をやっているのか」「どういう世界観なのか」を説明する形にした方が良かったんじゃないかと思う。この映画のように、最初にディランの仕事や世界観を説明するための手順を用意しなくても、ディランが事件を調査する中で少しずつ説明していく方法もある。
ただし、その場合、序盤にディランが「かつて彼がアンデッドと人間の仲裁役をしていた」「アンデッドは人々に紛れている」といった設定をナレーションで喋るのは、むしろ逆効果。
そういうことも含めて、物語を進める中で少しずつ明らかにしていく構成にした方がいい。ディランがガブリエルの食肉工場を訪れたり、セシルとフィルが働くモルグを訪れたり、ビッグ・アルが営むパーツ屋を訪れたりするのは、様々な種族を紹介する流れになっている。
また、トゥルー・ブラッドの連中に襲われたディランがエリザベスを連れて屋敷から逃げた後には、「この世には様々なアンデッドがいて、人間に紛れて暮らしている」ということを説明している。
そういう手順はあるんだが、前述のように、序盤で用意されているディランのナレーションが邪魔になっている。それと、物語を複雑に作り過ぎているのもマイナスだ。
ディランが様々な場所を訪れ、「こういう種族が、こういう場所で暮らしている」ってことを説明する手順に入っても、それと並行してミステリーの方も進行している。「アルフレッドを襲った犯人を見つけ出す」というシンプルな筋書きではなくて、犯人である狼人間が殺され、吸血鬼が絡んでいることが分かり、それはアルフレッドの持っていた十字架が関係していたことが分かり、ゾンビも絡んでいることが分かり、どんどん謎が謎を呼ぶ展開になっている。
これが普通のハードボイルド小説で、人間しか登場しないのであれば、相関関係や物語を難しくしても別にいいかもしれんよ。
だけど、この映画の場合、狼人間や吸血鬼、ゾンビに悪魔など、様々な種類の「闇の世界の住人」が登場するわけで。そこに入り込み、設定を把握するために、ある程度の時間が必要になる。
それなのに、そこが掴み切れていない状態で話がどんどん先に進んでしまう。だから、まるで気持ちが入らないまま、ストーリーを追い掛ける羽目になってしまう。しかも、ミステリーだけじゃなくて、「ディランの過去に何があったのか」という部分も小出しにして来るので、世界観の説明もあるし、意識が散らばってしまう。
ディランの過去に関する設定は排除するか、あるいは最初に全て明かしておいて、事件の構造も「ミステリーとしては物足りない」という程度の単純な内容にしてしまった方が良かったのではないか。
そして、この映画がヒットした場合に、2作目で本格推理をやるという考え方でも良かったんじゃないか。それと、「狼人間と吸血鬼一族の対立」というところで話を引っ張っておいて、実は今回の事件、ヴァーガスの一族がやらかしたわけではないんだよな。
「彼らも十字架を探していたけど、肉食ゾンビを使ってスレイクやガブリエルを始末したのは別の奴」という真相が終盤に明かされる。
吸血鬼一族って、ただ話をややこしくするために登場しただけに過ぎないんだよな。
さらにゾンビの連中も登場するけど、こいつらは肉食ゾンビを除けば、吸血鬼一族にも増して事件とは無関係だ。だったら、そいつらを出して無駄に話をややこしくしない方がいいんじゃないか。
途中で堕天使のベリアルという存在まで絡んで来るが、それはスケールをデカくしすぎていると感じるし。完全ネタバレだが、肉食ゾンビを操っていたのはエリザベスだ。実はモンスター・ハンターだった彼女は、ハートを手に入れてベリアルを復活させ、アンデッドを全滅させようと目論んでいたのだ。
ただ、アルフレッドを殺したのはマーラだし、そのマーラを殺したのはロルカなんだよな。だから、狼人間と吸血鬼も、それぞれに殺しはやらかしているわけで、どうにも話が無駄に入り組んでいるなあ。
それと、肉食ゾンビを使ってガブリエルを殺したのはエリザベスなのに、十字架を持っているのは引退して眠りに就いている吸血鬼のスクラヴィってのも良く分からん。
スクラヴィは、どうやって十字架を手に入れたんだろうか。ともかく、ハートを手に入れたエリザベスはヴァーガスを生贄に使い、ベリアルを復活させる。
こうしてベリアルは復活するのだが、巨大な怪物が出現するわけではなく、ヴァーガスの顔が変化してベリアルになるだけ。
だから、見た目では「ラスボス」としての圧倒的な強さが全く感じられない。肉食ゾンビよりサイズは小さいしね。
そして実際、戦っても、ディランが殴られて吹き飛ぶ程度。しかもベリアルは、普通に格闘アクションをやるのだ。その後、モードチェンジでベリアルのサイズは大きくなるが、彼を復活させた主人であるエリザベスがウルフギャングと仲間たちに始末されたことで、あっけなく死亡する。
その前にディランは鉄パイプをベリアルの腹に突き刺しているけど、そんなことをしなくても、ベリアルはエリザベスが死ねば消えちゃうんだよな。
だからディランって、最終対決において全く役に立っていないのよね。(観賞日:2013年11月3日)