『ダンジョン&ドラゴン』:2000、アメリカ
イズメール王国は魔法を操る貴族“メイジ”によって支配されており、平民は奴隷のような扱いを受けている。女王サヴィーナは平和で平等な世界を望んでいたが、宰相プロフィオンは彼女が杖で操るゴールデン・ドラゴンを奪おうと企んでいた。
サヴィーナは魔術師ヴィルダンから、プロフィオンに対抗するためにはレッド・ドラゴンを操るサブリールの杖が必要だと告げられる。それを知ったプロフィオンは、杖の場所を記した巻紙を入手するため、部下ダモダーをヴィルダンの魔法大学へ向かわせた。
盗賊のリドリーと相棒スネイルズは魔法大学に侵入するが、見習い魔法使いのマリーナに魔法で拘束されてしまう。その時、別の部屋でヴィルダンがダモダーに脅されていた。ヴィルダンは駆け付けたマリーナに巻物を渡し、ダモダーに殺害される。
マリーナは巻紙を手に取り、魔法を使って現場から逃亡した。マリーナに拘束されていたリドリーとスネイルズも、彼女と行動を共にすることになった。ダモダー率いるクリムゾン大隊に追われた3人は、ドワーフのエルウッドの手助けで危機を脱出した。
プロフィオンの仕掛けた罠により、リドリー達はヴィルダン殺害の犯人として手配されてしまう。サヴィーナは、エルフのノルダにマリーナ捜索を命じた。一方、リドリー達は、「サブリールの杖は大戦を招く」という言葉を亡霊達から聞いた。
リドリー達は、サブリールの杖を使うためには“ドラゴンの瞳”が必要だと知った。ドラゴンの瞳を持つ盗人ギルドのザイラスに会うため、リドリー達はイレヴン村へと向かう。リドリーは試練の迷宮でドラゴンの瞳を入手するが、そこへダモダー達が現れる。リドリー達は戦うが、ダモダーに巻物を奪われ、マリーナを連れ去られてしまう。
リドリー達はノルダの一行に捕まり、ダモダーの城へ同行することになった。ノルダは、リドリーとスネイルズの2人だけを城に侵入させた。だが、スネイルズがダモダーに殺され、リドリーが重傷を負う。マリーナはリドリーを連れて、魔法で脱出した。
エルフの魔法で回復したリドリーは、洞窟でサブリールの杖を手に入れた。だが、ダモダーの一味によって、仲間が捕まってしまう。一方、杖を手放せという評議会の決定を拒否したサヴィーナは、ドラゴンの大群を呼び寄せてプロフィオン達を攻撃する…。監督はコートニー・ソロモン、脚本はトッパー・リリエン&キャロル・カートライト、製作はトーマス・M・ハメル&キア・ジャム&コートニー・ソロモン、製作総指揮はネルソン・レオン&ジョエル・シルヴァー&アラン・ゼマン、撮影はダグラス・ミルサム、編集はキャロライン・ロス、美術はブライス・ペリン、衣装はバーバラ・レイン、音楽はジャスティン・ケイン・バーネット。
出演はジャスティン・ワリン、ジェレミー・アイアンズ、ゾーラ・バーチ、ブルース・ペイン、マーロン・ウェイアンズ、ゾー・マクラーレン、リー・アレンバーグ、クリスティン・ウィルソン、リチャード・オブライエン、エドワード・ジュイスバリー、トム・ベイカー、ロバート・ミアノ、トマス・ハヴリク、ロバート・ヘニー、ロマン・ヘマラ、スタニスラフ・オンドリセク、ジリ・マチャセク他。
1974年に世界で最初に発売されたテーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム(以下、TRPG)をベースにした映画。
メガホンを執ったコートニー・ソロモンは、これが初めての監督。ちなみに母親は、映画やテレビのプロダクション・コーディネイター(『栄光のエンブレム』や『ドリーム・チーム』などに携わっている)。
コートニー・ソロモンはゲームの熱狂的ファンで、20歳の頃に映画化権を取得している。そこから東奔西走して金策に駆け回り、大物プロデューサーのジョエル・シルヴァーと手を組んで、権利取得から10年経って、ようやく製作に漕ぎ付けている。リドリー(もしくはルーク・スカイウォーカーの出来損ない)をジャスティン・ワリン、プロフィオン(もしくはダース・ベイダーの出来損ない)をジェレミー・アイアンズ、サヴィーナ(もしくはクイーン・アミダラの出来損ない)をゾーラ・バーチが演じている。
他に、ダモダー(もしくはダース・モールの出来損ない)をブルース・ペイン、スネイルズ(もしくはジャー・ジャー・ビンクスそのもの)をマーロン・ウェイアンズ、マリーナ(もしくはレイア姫の出来損ない)をゾー・マクレランが演じている。邦題を付けた担当者のセンスには、大きな疑問がある。
この映画のベースになったTRPGは、日本では英語をそのままカタカナ表記した『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、D&D)という名前で発売されている。
であるからして、この映画も同じように『ダンジョンズ&ドラゴンズ』にすべきだった。
迷宮も竜も単数形にするのは、完全なる愚行である。TRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』には、ルールや世界観は用意されているが、決まった主人公や明確なストーリーがあるわけではない。モジュールと呼ばれるシナリオはあるが、状況や場所の説明があるだけで、物語を作り上げるのはプレイする人だ。
つまり、この映画を作るにあたっても、一からストーリーを練り上げていく必要がある。
だが、この映画の脚本家は、マトモにシナリオを作り上げることを拒否したようだ。
そして監督も、マトモにストーリーを構築する意識、ドラマを盛り上げる意識は無いようだ。そもそも、階級差が当たり前に存在することで成立している世界観に、王女や主人公が平等な社会を目指しているという設定を持ち込んだ時点で大失敗だ。そんなところにモチベーションを用意したら、このファンタジー世界を崩してしまうことになりかねない。
TRPG『D&D』では、戦士、僧侶、魔法使い、盗賊、エルフ、ドワーフ、ハーフリング(いわゆるホビット)という7つのキャラクターが用意されている。だが、この映画の主人公グループには、戦士、僧侶、ハーフリングは存在しない。ドワーフやエルフにしても、ほとんど活躍することも無いし、何のために登場したのか良く分からない。ドラゴンは圧倒的に強い存在のはずなのに、最初にプロフィオンに捕まっており、しかも簡単に殺される。終盤には大量のドラゴンが登場し、「1匹でも圧倒的な存在」という価値観を下げる。
しかも、『D&D』ではゴールド・ドラゴンが最も強いはずなのに、なぜかレッド・ドラゴンが最も強い設定になっている。
でも、実際は劇中でもゴールドの方が強い。TRPG『D&D』をプレイする時、キャラクターは、それほど大層な目的意識は持っていない。冒険者達は、場合によっては、あんまり意味は良く分からないけど迷宮に突っ込んで行ったりする。
しかし、それでは映画にならない。だから普通に考えれば、この映画に登場する冒険者達には、大層な目的を作ってやらねばならないだろう。
だが、リドリー達の行動理由は、良く分からない。リドリーとスネイルズは、どうやら最初は宝石目当てのようだ。ところが、いつの間にか命を賭けて王女のために戦っている。で、何だか良く分からないが、終盤には唐突にリドリーが大義に目覚めている。エルウッドは、一応は褒美を要求しているものの、やはり行動理由は良く分からない。リドリーとマリーナが地図の中に吸い込まれたのに、スネイルズは全く気にせず女を口説きに行く。地図の中で何があったのかは後で語られるだけで、映像として描写されることは無い。ついでに、サヴィーナの指示をノルダが受けるシーンも描かれない。ドワーフの身長は妙に高い。盗賊ギルドには、なぜかザイラスの子分としてデミヒューマンがいる。
ノルダは、全く理由は分からないが、なぜかリドリーとスネイルズの2人だけを城に侵入させる。このノルダ、エルフだから魔法が使えるはずなのに、なぜか戦闘の時は武器を使うだけで魔法は全く見せない。盗賊のリドリーは、戦士のような剣を使う。敵はプロフィオンの一味だけで、ゴブリンなどのモンスターと戦うことは全く無い。最初に盗賊2人、魔法使い1人、ドワーフ1人というバランスの悪いパーティーを組んでしまう。で、バランスを取るためなのか、エルフを加え、盗賊の1人を殺してしまう。この盗賊がコメディー・リリーフだったため、そこでコミカルさが一気に無くなるという急激なテイストの変化を起こす。
まあ、騒がしいのが消えて、せいせいするのだが。これは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』だが、なかなかダンジョンは登場しない。ようやく試練の迷宮が登場するが、そこに入るのはリドリーだけ。しかも、それはモンスターが登場したり部屋を調べたりするような迷宮ではなく、ザイラスが眺めて楽しむアトラクションだ。
やがて城が登場するが、中に入るのはリドリーとスネイルズだけ。しかも、別々に行動する。「パーティーを組んで冒険する」というシーンは皆無に等しい。終盤には杖の洞窟が出てくるが、ここもリドリーだけが入る。しかも、すぐに探検は終了する。マリーナは見習いのはずなのに、最初からレヴェルの高い魔法を使っている。しかし、盗賊ギルドで襲われた時は、なぜか魔法を使おうとしない。城から逃げようとする時も、魔法を使ってリドリー達を助けようとせず、棒で敵を殴ったりしているだけ。
どうやら、何か媒体(魔法の粉とか)を使わなければ魔法が使えない設定のようだ。でも、『D&D』に、そんなルールは無い。
というか、そもそも最初にリドリー達を捕まえる時、マリーナは何も道具を使っていなかったはず。それに、もしも何か媒体が必要なのだとしても、それを観客に説明しておかないと、ワケが分からないのである。終盤に入ると、リドリー達が杖を探したりダモダーと対峙したりしている間に、サヴィーナとプロフィオン達の戦いが始まっている。しかも、仕掛けたのはサヴィーナ。敵に襲撃されたわけでもないのに、自分からドラゴンの大群を呼び寄せてプロフィオン達を攻撃する。全く容赦は無い。
なんだか、悪の独裁者みたいな行動である。
というか、あれだけのドラゴンを操れるのなら、サブリールの杖なんて要らないのである。実際、最後にリドリーが、あっさりと杖を壊してしまう。で、プロフィオンはゴールド・ドラゴンに食べられる。
サブリールの杖を探す冒険は、全くの無意味だったわけだ。
第23回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の作品】部門
ノミネート:【最悪の演出センス】部門[コートニー・ソロモン]
ノミネート:【最悪の助演男優】部門[ジェレミー・アイアンズ]
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[ゾーラ・バーチ]
ノミネート:【最悪のグループ】部門[『ダンジョン&ドラゴン』の全キャスト]
ノミネート:【最も笑えないコメディー・リリーフ】部門[ジャー・ジャー・ビンクスを演じたマーロン・ウェイアンズ]
ノミネート:【チンケな“特別の”特殊効果】部門
ノミネート:【最もでしゃばりなメジャー映画の音楽】部門