『DUNE/デューン 砂の惑星』:2021、アメリカ

惑星アラキスでは昼間の暑さを避け、夜になると余所者が香料を採取する。ハルコンネン男爵は香料の生産で莫大な富を得たが、皇帝の命令によって去った。10191年、アトレイデス家の領地であるカラダン。謎の女が登場する夢ばかり見ているポール・アトレイデスは、母のレディー・ジェシカと朝食を取った。ジェシカは彼に、皇帝の使者が来る儀式の前に礼服に着替えるよう指示した。水を取るようポールが頼むと、ジェシカは声を使うよう要求した。ジェシカはポールに、ベネ・ゲセリットの修行には何年も掛かると告げた。
ポールは書物を読み、アラキスについて学んだ。高温と荒々しい気候のため、アラキス奥地での生活は危険を伴う。砂嵐は金属も切り裂き、先住民のフレメンだけが生態系に適応できている。その砂漠には、シャイー=フルードという砂虫も生息している。長年に渡って香料に晒されてフレメンの目は青く変色し、「イバードの目」と呼ばれている。香料無しに惑星間の移動は不可能なため、宇宙における最も重要な物質となっている。
ポールは父のレト・アトレイデス公爵や武術指南役のガーニイ・ハレックたちと共に、パーディシャー皇帝シャダム4世の伝令役を礼服で出迎えた。伝令役は帝国宮廷のメンバーや宇宙ギルドの代表、ベネ・ゲセリットの修道女を伴っており、「アラキスの管理者になって我に仕えよ」という皇帝の命令を伝えた。ポールは先遣隊としてアラキスへ向かうダンカン・アイダホに、一緒に連れて行ってほしいと頼む。彼が「アラキスの夢を見た。お前がフレメンと一緒にいて、戦闘で殺されていた。一緒に行けば助かったかも」と話すと、ダンカンは「俺は死なない」と告げた。
ポールはレトに、ダンカンと一緒に行かせてほしいと訴えた。レトは「数週間後、我々と発て」と諭し、アラキスは政治的に危険な場所だと語る。皇帝は我々に脅威を抱いている。彼は「ハルコンネン家からアラキスを奪って両家を争わせれば、どちらも勢力を失う」と説明し、フレメンと手を組めば当家は最強になると言う。ガーニイはポールに剣術を指南し、「お前はハルコンネンを知らない。奴らはケダモノだ。心して掛かれ」と警告した。
ハルコンネン家の領地、惑星ジエディ・プライム。ウラディミール・ハルコンネン男爵は甥のグロッス・ラッバーンから、「アラキスから最後の船が出た」と報告を受けた。ラッバーンが「なぜ皇帝はアラキスを奪い取って公爵に?」と憤りを吐き出すと、彼は「贈り物だと思うか?アトレイデス家は勢いがある。皇帝は嫉妬深い男だ」と述べた。また謎の女を見ていたポールは、ジェシカに起こされた。彼は母から、ベネ・ゲセリット学院の恩師で皇帝の読真師となった教母が、夢のことで会いに来たことを知らされた。
ユエ医師はバイタルを調べる名目でポールに近付き、「ベネ・ゲセリットには大義があります。ご用心を」と告げた。教母のモヒアムが待つ部屋に赴いたポールは、箱に右手を入れるよう指示された。ポールが従うとモヒアムは彼の首筋に毒針を突き付け、「手を引き抜けば死ぬ」と試練を与えた。ポールが箱の苦痛に耐えると、彼女は夢の内容を尋ねた。ポールはアラキスの若い娘が出て来ること、何度も同じ夢を見ていることを説明した。
モヒアムはジェシカと2人きりになり、規則を破ってポールに修行させたことを批判する。彼女は「極限まで試す必要があった。あの子は死んでいたかもしれない。本物でも、覚醒までに炎に飛び込もうとしておる。あの子がダメでも、次に希望を繋ぐ」と語り、ジエディ・プライムを去った。ジェシカは話を聞いていたポールから「本物とは?」と問われ、「ベネ・ゲセリットは大領家に仕えながら、政治を陰で操る目的がある。数千年に渡って血統を操作してきた。目的は明るい未来を導く精神。その者は、すぐ近くにいる」と述べた。
アラキスに到着したポールたちは、先遣隊のスフィル・ハワトと会った。ポールは自分を見たフレメンが「リサーン・アル=ガイブ」と繰り返すのを聞いて、ジェシカに言葉の意味を尋ねた。ジェシカは「外世界からの声。彼らの救世主。ベネ・ゲセリットの工作よ」と言い、フレメンが何世紀にも渡って救世主を待っていることを教えた。ジェシカ使用人候補の中でシャダウト・メイプスを選び、武器を隠し持っていることを指摘した。メイプスは「これは贈り物です」と言い、クリスナイフを差し出した。
ポールはハンター・シーカーを捕まえ、ハワトたちは操手の死体を発見した。アトレイデスは激怒し、早急にスパイを捕まえるよう命じた。モヒアムはハルコンネンとメンタートのパイター・ド・ヴリースに会い、アトレイデス家の情報を提供した。彼女は「公爵は不要ですが、妻と息子は守るべき者」と告げ、ポールとジェシカは追放処分にするよう求めた。ハルコンネンは「2人を傷付けない」と約束するが、守る気など無かった。
地下洞窟でフレメンと一緒に過ごしていたダンカンが帰還し、レトに報告を入れた。彼はフレメンの部族長のスティルガーを連れて来ており、レトは住処を荒らさないと約束して共闘を求めた。ポールを見たスティルガーは、「お前を知っている」と告げて立ち去った。視察に来た帝国監察官のリエト・カインズ博士も、ポールに特別な物を感じた。ポールたちは香料の採取現場へ視察に赴き、巨大な採取機に接近する砂虫を目撃した。運搬機が採取機を吊り上げようとするが、1本の足が固定されなかった。
レトは乗員の救助に向かい、ポールは砂漠に降りて指示を出した。チャニの姿を見た彼が動かなくなったため、ガーニイが駆け付けて救出した。レトが「奴らが残した機器はガラクタ同然だ。香料が減産すれば私はどうなる?」と憤りを示すと、カインズは「アラキスの統治者が変わるだけ」と述べた。ポールはジェシカに「自分が殺されるのを見た。ナイフが重要な意味を持つ。誰かが僕に手渡す」と言い、母の妊娠を言い当てた。
帝国軍の惑星、サルーサ・セクンドゥス。親衛軍のサーダカーは皇帝の命令を受け、ハルコンネン軍に三個大隊を貸すと約束した。レトはジェシカに、「ベネ・ゲセリットの力でポールを守ってくれるか」と問い掛けた。ジェシカが「なぜそんなことを?貴方らしくない」と困惑すると、彼は「時間が無いのだ」と答えた。ユエの裏切りでシールドが落ち、ハルコンネン軍が襲来した。ユエはレトに矢を放ち、妻が人質に取られていることを明かした。彼はポールを守るのでハルコンネンを殺してほしいと依頼し、強く噛むと毒ガスが出る差し歯をレトに埋め込んだ。
ポールとジェシカはハルコンネン軍に捕まるが、ヴォイスを使って敵を操り、脱出に成功した。ユエは生き残った者のために、ビーコンを残していた。ユエは妻を解放してもらうため、レトを連行したハルコンネンの元へ赴いた。ハルコンネンはユエを始末し、レトも殺そうとする。ハルコンネンが顔を近付けると、レトは差し歯を噛んだ。毒ガスの放出で手下は絶命するが、ハルコンネンは無事だった。脱出したダンカンはカインズを発見し、「何も言うなと命令された」という言葉で皇帝の策略だと悟った。
ポールはジェシカに「聖域の炎が宇宙に燃え広がる。皆が僕の名を呼ぶ」と語り、怯えた様子を見せる。ジェシカが勇気付けようとすると、彼は「貴方のせいだ。ベネ・ゲセリットが僕を怪物にした」と非難した。ダンカンはカインズを伴い、ポールとジェシカの元へやって来た。カインズはポールたちを環境生態学試験場へ案内し、全ては皇帝の策略だと教えた。サーダカーが試験場に襲来すると、ダンカンは相手を引き受けてポールたちを逃がした…。

監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ、原作はフランク・ハーバート、脚本はジョン・スペイツ&ドゥニ・ヴィルヌーヴ&エリック・ロス、製作はメアリー・ペアレント&ドゥニ・ヴィルヌーヴ&ケイル・ボイター&ジョー・カラッチョロJr.、製作総指揮はタニア・ラポイント&ジョシュア・グロード&ハーバート・W・ゲインズ&ジョン・スペイツ&トーマス・タル&プライアン・ハーバート&バイロン・メリット&キム・ハーバート&リチャード・P・ルビンスタイン&ジョン・ハリソン、共同製作はクリス・カレラス&ジェシカ・ダーハマー、製作協力はヴァスコ・シュー、撮影はグリーグ・フレイザー、美術はパトリス・ヴァーメット、編集はジョー・ウォーカー、衣装はジャクリーン・ウェスト&ロバート・モーガン、視覚効果監修はポール・ランバート、音楽はハンス・ジマー。
出演はティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、ハヴィエル・バルデム、シャーロット・ランプリング、ジェイソン・モモア、デイヴ・バウティスタ、シャロン・ダンカン=ブルースター、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ゼンデイヤ、チャン・チェン、デヴィッド・ダストマルチャン、バブス・オルサンモクン、ゴルダ・ロシューベル、ロジャー・ユアン、ベンジャミン・クレメンティーン、スアド・ファレス、セウン・ショーテ、ニール・ベル、オリヴァー・ライアン、スティーヴン・コリンズ、チャーリー・ラウズ、リチャード・カーター、ベン・ディロウェイ、エルミ・ラシード・エルミ他。


フランク・ハーバートのSF小説『デューン』シリーズ第1作『砂の惑星』を基にした作品。
監督は『メッセージ』『ブレードランナー 2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
脚本は『プロメテウス』『パッセンジャー』のエリック・ロス、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』『アリー/スター誕生』のジョン・スペイツによる共同。
ポールをティモシー・シャラメ、ジェシカをレベッカ・ファーガソン、レトをオスカー・アイザック、ガーニイをジョシュ・ブローリン、ハルコンネンをステラン・スカルスガルド、スティルガーをハヴィエル・バルデム、モヒアムをシャーロット・ランプリング、ダンカンをジェイソン・モモア、ラッバーンをデイヴ・バウティスタ、カインズをシャロン・ダンカン=ブルースター、ハワトをスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、謎の女性のチャニをゼンデイヤ、ユエをチャン・チェンが演じている。

知っている人も少なくないだろうが、『砂の惑星』は1984年にも映画化されている。
その時は監督と脚本をデヴィッド・リンチが担当したが、酷評を浴びて完全にコケた。
デヴィッド・リンチは「自分の撮りたい物だけを撮る」という目的を実現するために、ナレーションと台詞で大半のことを説明する手法を取った。そのため、序盤から延々と言葉による説明が多くて辟易させられた。
そんなリンチ版と比較すると、本作品は真逆で、説明が全く足りていない。

次から次へと意味ありげな会話や独特な用語が出て来るが、何が何だか良く分からないまま、どんどん話が進んでいく。
例えば、香料無しに惑星間の移動は不可能という理屈が良く分からない。この物語の世界観では、香料が燃料の役目を果たしているのか。
ベネ・ゲセリットが何なのかも良く分からない。そのトレーニングとしてジェシカが「ヴォイス」を使うよう指示すると、ポールは集中する様子を見せる。彼の口の動きより遅れて、「水をくれ」という声が聞こえる。
つまり、いっこく堂みたいなことになるわけだが、これが何の能力なのかサッパリ分からない。

モヒアムとジェシカの「本物」に関する会話も、どういうことかサッパリ分からない。
ポールが捕まえるハンター・シーカーがどういう存在なのか、具体的にどうやって操作しているのか、なぜ操手が死んでいるのか、その辺りも分からないことだらけだ。
なぜモヒアムがジェシカを非難するのか、その理由も良く分からない。モヒアムがポールに試練を与えるのは、どういう意図があるのか良く分からない。
ポールにとってチャニがどういう存在なのかも、最後まで良く分からないままだ。

皇帝がハルコンネン男爵からアラキスを取り上げてレトに管理を命じたのは、勢いがあるアトレイデス家を潰すための策略だ。
だけど、そんな手間を掛ける必要があるのかな。
ハルコンネン家にしろアトレイデス家にしろ、皇帝の命令には無条件で従っている。それぐらい、皇帝は圧倒的な権力を持っているのだ。
そんな強大な存在であるならば、他に幾らでも方法はありそうだぞ。
難癖を付けて責めてもいいし、理不尽な命令で領土を奪ってもいいだろうし。

1時間20分ぐらい経過した辺りでハルコンネン軍がアラキスに襲来し、大規模な戦闘が勃発する。
ただし、ほぼ一方的にハルコンネン軍が攻撃するだけなので、アトレイデス側のキャラを活躍させることは難しい。
しかもポールは簡単に捕まり、せいぜいヴォイスを使って脱出する行動が精一杯だ。
それ以外だと、戦闘艇はすぐに着陸するので、大勢の人間が剣で戦うのが少し描かれる程度。
ダンカンが敵と戦う様子がチラッと描かれるが、見せ場になるほどの力は無い。

ダンカンは環境生態学試験場でも敵と戦う様子がフィーチャーされるが、ただのソードアクションなのよね。
『スター・ウォーズ』だってソード・アクションはあったけど、一応はライトセーバーというギミックがあった。
でも、こっちはホントに剣を振り回して戦うだけで、「これってSFじゃなくてもいいよね」と感じさせる。
あと、ネタバレを書くとダンカンはポールたちを逃がして死ぬのだが、そこに悲劇のカタルシスはゼロで単なる「無駄死に」にしか見えないし。

スペース・オペラじゃない上に、物語の途中で終わっていることもあり、盛り上がる要素に乏しい。
採取機の乗員を救出するシーンではデカい機械を動かしてアクションを描いているけど、そんなにワクワクしないし。
トンボのように翼を羽ばたかせる「オーニソプター」という飛行機はセールスポイントと言ってもいいんだろうけど、何度も出て来ると慣れてしまう。
ポールとジェシカを乗せたオーニソプターが暴風に突っ込むシーンは、本来なら「緊張感のあるアクションシーン」でもおかしくないはずだが、画面が砂嵐に覆われるので何がどうなっているのか良く分からない。

とにかくアクションにもガジェットにも、既視感が強いのよね。
また、序盤からずっとポールが陰気で辛気臭いので、作品自体も暗くて重い雰囲気に包まれており、これもキツい。
アクションシーンに引き付ける力は弱いし、話も陰気で退屈。舞台が砂の惑星なので、景色としての絵変わりにも乏しい。地味で色合いも見栄えがしない。
「圧倒的な映像美」みたいなことで評価する意見も多いみたいだが、そっち方面でも魅力は感じなかったなあ。

終盤にはポールがフレメンのジャミスに決闘を要求される展開があるが、話のスケールはデカいのに、クライマックスに配置されるのが「主人公と雑魚キャラの剣によるタイマン」って、どういう計算なのかと言いたくなるぞ。
前半から2人の因縁や対立を描いているならともかく、ジャミスって直前に出て来ただけのキャラだし。
だから、ちっとも気持ちが高まらないまま、映画が終わってしまう。
「俺たちの戦いは、これからだ」的な、続編の期待感を煽ることも無いエンディングになっている。

(観賞日:2023年8月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会