『Dr.Tと女たち』:2000、アメリカ

産婦人科医サリー・トラヴィス、通称Dr.Tは、ダラスでクリニックを解説している。甘いマスクの持ち主であるDr.Tは大人気で、 クリニックの待合室はいつも患者で一杯だ。看護婦キャロリンらのサポートを受けながら、Dr.Tは多忙な日々を過ごしている。かつて Dr.Tは、妻ケイト、長女ディーディー、次女コニーの3人で暮らしていた。しかし現在は、離婚したケイトの妹ペギーが3人の幼い娘 と共に居候している。
ディーディーが結婚することになったため、ケイトとペギーはティファニーへ買い物に出掛けた。後からコニーとディーディーも現れ、店 で合流する。しかし以前から様子のおかしかったケイトは、皆が目を離した隙にフラフラと店外へ出ていった。一方、Dr.Tは週末に なるとハーラン、ビル、イーライという3人の友人とハンティングやゴルフに興じている。ある雨の日、ゴルフクラブへ行ったDr.Tは 、ハーランの友人だというアシスタント・プロ、ブリーと知り合って好意を抱いた。
精神に変調をきたしたケイトを、Dr.Tは心療内科医ハーパーに診察してもらった。ハーパーによれば、ヘスティア・コンプレックスが 原因の1つではないかという。ケイトの精神は子供に戻っており、精神療養施設に収容されることになった。Dr.Tはハーパーから、 しばらくケイトとは会わないよう勧められた。Dr.Tはゴルフクラブへ行き、ブリーにアプローチする。
ディーディーは怪我人が出たチア・チームに参加するが、練習の途中で携帯電話を使うなど態度は不真面目だった。彼女は陰謀博物館の ツアーガイドをしているコニーに電話を掛け、花嫁付添人に友人マリリンを呼ぶと告げた。コニーは大反対するが、ディーディーは聞く耳 を持たない。心配性のコニーは、湖畔という屋外での結婚式にも反対した。ディーディーはペギーに電話を掛け、自分に味方するよう 頼んだ。一方、コニーもペギーに同調を求める。ペギーは、ディーディーとコニーの両方に話を合わせた。
Dr.Tはブリーを食事に誘い、OKを貰った。ブリーは彼を自宅に招き、2人は肉体関係を持った。Dr.Tは友人たちから「ケイトに 会わせないのはおかしい」と言われ、精神療養施設に赴いた。Dr.Tが頼んでケイトに会わせてもらうと、彼女は笑顔で出迎えた。 しかしケイトは療養施設の患者たちにDr.Tを兄として紹介し、その後は自分の遊びに没頭した。
Dr.Tがクリニックで仕事をしていると、コニーとディーデイー、それにペギーと子供たちがやって来た。しばらく話をして女性たちは 立ち去るが、コニーだけが忘れ物をしたと嘘をついて留まった。待合室では患者のドロシーがイライラを募らせている。ランチの約束を していたブリーはクリニックに現れ、待合室に座った。コニーはDr.Tに「ディーディーの結婚をやめさせて」と頼み、姉とマリリンが レズビアン関係にあることを打ち明けた。
コニーが去った後、Dr.Tはキャロリンからブリーが来ていることを知らされ、診療室に通した。彼はブリーに、コニーから聞かされた 話を打ち明けた。するとブリーは、ありのままを受け止めるようアドバイスした。その直後、弁護士から電話があり、ケイトが離婚を 望んでいると告げた。待合室でトラブルを起こしたドロシーが転倒し、救急車で運ばれた。
結婚式の当日、ディーディーは花婿を無視してマリリンに抱き付き、2人は会場から走り去った。嵐が迫り来る中、Dr.Tは車を走らせ 、ブリーの家へと向かった。彼はブリーに「一緒に逃げ出そう」と誘いを掛けるが、それは出来ないと断られる。「何もしなくていい」 と言うDr.Tに、ブリーは「それを誰が望んでいるの?」と問い掛けた。ショックを受けたDr.Tは、ブリーの家を後にした。車を 走らせたDr.Tは嵐に飲み込まれ、メキシコまで吹き飛ばされてしまう…。

監督はロバート・アルトマン、脚本はアン・ラップ、製作はロバート・アルトマン&ジェームズ・マクリンドン、共同製作はデヴィッド・ A・ジョーンズ&グレアム・キング&デヴィッド・レヴィー&トミー・トンプソン、製作総指揮はシンディー・コーワン、撮影はジャン・ キーサー、編集はジェラルディン・ペローニ、美術はスティーヴン・アルトマン、衣装はドナ・グラナタ、音楽はライル・ラヴェット。
出演はリチャード・ギア、ヘレン・ハント、ファラ・フォーセット、ローラ・ダーン、シェリー・ロング、タラ・リード、ケイト・ ハドソン、リヴ・タイラー、ロバート・ヘイズ、マット・マロイ、アンディー・リクター、リー・グラント、ジャニン・ターナー、ホリー ・ペルハム=デイヴィス、ジャンヌ・エヴァンス、ラムゼイ・ウィリアムズ他。


ロバート・アルトマン監督が前作『クッキー・フォーチュン』に続いてアン・ラップの脚本を演出した作品。
Dr.Tをリチャード・ギア、 ブリーをヘレン・ハント、ケイトをファラ・フォーセット、ペギーをローラ・ダーン、キャロリンをシェリー・ロング、コニーをタラ・ リード、ディーディーをケイト・ハドソン、マリリンをリヴ・タイラーが演じている。

前半は、とにかく「淡々と進んでいく」という印象が強い。何か問題が起きても、それを後に引きずらず、次のシーンへ進む。
それぞれのシーンを線として繋げる作業に、あまり積極的ではない。ゼロではないが、極細の繋がりだ。
例えば、ケイトが精神に変調をきたして入院することになる。しかし、次のシーン以降、家族がそのことを気にする様子は全く無い。
まるでケイトの入院など無かったかのように、Dr.Tはブリーを口説き始め、ディーディーとコニーは結婚式に関して色々と話をする 。
それまでに、Dr.Tは結婚生活に倦怠感を抱いていたわけではない。おかしくなったケイトのことで精神的に疲労し、ブリーに安らぎを 感じたというわけでもない。ブリーを口説くに当たって、ケイトの存在がストッパーになることも無い。
ビフォー&アフターにおいて、何かがDr.Tの心情に影響を及ぼすことを出来る限り避けて通り、常にフラットな状態に保とうとする。

Dr.Tはブリーのことを「今までに出会ったことの無いタイプ」と称するが、その新鮮味やスペシャリティーをアピールするような演出 は無い。常に抑制したテイストになっている。
Dr.Tは、施設でケイトに「兄さん」と紹介された時には、深刻な表情を見せる。
だが、ケイトが入院してから面会するまでに、妻を心配するような素振りは全く無かった。
また、面会の後も、そこでの出来事を引きずるようなことは全く無い。
波を立てることは、出来る限り避けようとしている。

ディーディーの結婚というのが大きなイベントとして存在しており、彼女やコニーたちはそれに向けた準備の中で色々と行動している 。
ところが、結婚式を巡る動きの中に、Dr.Tは全く入って行かない。結婚するディーディーを心配することも無ければ、ジコチューな 彼女や日和見主義のペギーに翻弄されることも無い。
Dr.Tの話と娘をの話は、完全に独立分業制と化している。
家族のことで何の感情も揺り動かされず、生活に何の影響も生じないのであれば、それを「Dr.Tと女たち」と解釈するのは難しい。

後半、コニーから「ディーディーとマリリンはレズビアン」と打ち明けられる辺りで、ようやくDr.Tと娘の結婚問題に関わりが生じる。
しかし、それでもDr.Tは、積極的に関与しようという動きは見せない。
また、そこでは「娘がレズだと知る」「ケイトから離婚を要求される」「ドロシーが怪我をする」と立て続けに問題が起きるが、「これ まで少しずつトラブルが蓄積しており、それが次第に大きくなって一気に放出された」ということではない。
つまり、伏線回収のような形になっているわけではない。

結婚式での騒動はコミカルなモノとして描かれているが、いやいや、ちっとも笑えないって。
その後、Dr.Tは「馬鹿げた女どもから逃げ出してブリーと一緒になりたい」と感情を爆発させるが、そこまでに「問題を多く抱える中 で何とか感情を抑え付けてストレスが蓄積していた」という感じにも見えないし、そこに至る感情の変遷も見えないから、その爆発に 付いていけない。
そこから「車ごと嵐に吹き飛ばされてメキシコへ」という『オズの魔法使い』のような展開になるのは、寓話的(もしくは神話的)に やりたかったのかもしれんが、ただ唖然とさせられる。
最後に出産に立ち会って「男児だ」と喜ぶのは、どう解釈すればいいのか。「もう女は懲り懲りだ」ということなのか。
結局、これは「色んなタイプの有名女優が出てきて、色んなタイプのキャラを演じて、姦しく喋りまくって芝居をしていますよ」というのを 楽しむ、そしてロバート・アルトマンのマンネリズムを楽しむための群像劇なのかもね。ワシはちっとも楽しめなかったけど。

(観賞日:2008年4月30日)


第23回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪のグループ】部門[女たち]
ノミネート:【チンケな“特別の”特殊効果】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会