『DRAGONBALL EVOLUTION』:2009、アメリカ&香港&イギリス

遥か昔、宇宙の彼方からやって来た残忍な魔王ピッコロが、平和だった世界に闇と混沌をもたらした。破壊者と呼ばれる手下の大猿を 引き連れたピッコロは、人類を絶滅寸前に追い込んだ。世界中の町が滅ぼされ、大勢の犠牲者が出た。しかし勇敢な戦士たちが出現し、 魔封波と呼ばれる呪文によってピッコロを地球の地下深くに封印した。大猿も姿を消し、地球は元の姿へ戻っていった。
現在。高校生の孫悟空は、祖父の悟飯から武術を学んでいた。本気になれば、クラスメイトなど片手で吹き飛ばせるほどの実力がある。 だが、武術を喧嘩に使うことは禁じられているため、学校ではイジメを受けている。18歳の誕生日を迎えた悟空は、悟飯からお祝いとして ドラゴンボールの四星球を貰う。ドラゴンボールは7つあり、全て揃えば持ち主の願いが1つだけ叶うと言われているらしい。
登校した悟空は、いじめっ子のフラーやアガンデスたちに自転車を潰された。悟空は腹を立てるが、フラーたちから挑発されても手を 出さずに我慢した。同じ頃、封印を脱出したピッコロは手下とのマイを引き連れ、ある村を破壊した。村の巫女セキは少女を連れて、瓦礫 の下に隠れた。マイが捜索に来た時、少女が見つかりそうになった。セキは少女を助けるため、マイの前に姿を現す。セキは「貴方が 欲しがっている物は、ここにあるわ」と言い、ドラゴンボールを差し出した。マイが拳銃を構えると、ピッコロが現れた。
悟空はクラスメイトのチチに対して、密かに好意を寄せていた。ロッカーが開かなくなって困っている彼女を発見した悟空は、こっそり 気のパワーを使って助けた。しかしチチは悟空に気付き、「気を使ったのね」と声を掛けた。チチが気のパワーについて知っていたので、 悟空は驚いた。悟空はチチから、その夜のホームパーティーに招かれた。四星球も持って出掛けると、アガンデスと仲間たちが追い払おう とする。悟空は襲い掛かってくる連中の動きを見極め、相討ちにさせた。フラーが怒って襲い掛かって来るが、それも見極め、アガンデス と相討ちにさせる。チチは悟空の強さを目の当たりにして、好意を寄せた様子だった。
その頃、ピッコロとマイが悟飯の元に現れた。ドラゴンボールが無いことを知ると、ピッコロは悟飯に致命傷を与えて家を破壊した。異変 を察知した悟空が急いで帰宅すると、悟飯が瓦礫の下敷きになっていた。瀕死の悟飯は、悟空に「もう時間が無い。ピッコロが戻って来た 。ドラゴンボールを狙っている。パオズの町にいる亀仙人を捜せ。ピッコロを倒すためにドラゴンボールを集めろ。日食が起きる前に」と 言い残して息を引き取った。
翌朝、悟空は悟飯を埋葬し、自分の部屋に戻る。そこにあった箱を開けると、亀のマークが刺繍された道着が納められていた。その時、 ブルマという女が家に侵入し、悟空に銃を構える。話を聞くと、ブルマの父が営むカプセル・コーポレーションに泥棒が入り、警備員を 殺してドラゴンボールを奪ったのだという。彼女はドラゴンボールのシグナルを追い掛け、ここまで来たらしい。ブルマは自分で作った ドラゴンレーダーを使い、ドラゴンボールのシグナルをキャッチしていた。
悟空はドラゴンボールを集めるため、ブルマと協力することにした。パオズの町に到着すると、悟空は亀仙人の住処を悟った。その場所に 、ドラゴンレーダーも反応していた。玄関の鍵が開いていたので、ブルマは勝手に中へ入った。寝ていた亀仙人が目を覚まし、悟空を泥棒 と思い込んで襲い掛かってくる。しかし悟空が祖父から教わった技を使ったので、亀仙人は彼が泥棒ではないことに気付いた。亀仙人は、 かつて悟飯を育てた武術の達人だった。
悟空は亀仙人に、ピッコロが戻ったことや祖父が死んだことを伝える。亀仙人もドラゴンボールを所有していた。彼は「予言が本当なら、 今から7日後に日食が起きる。それが世界の破滅の始まりだ」と語る。悟空とブルマの旅に、彼も同行することになった。一方、ピッコロ は新たなドラゴンボールを入手していた。亀仙人は悟空を鍛えるため、秘密の修行場であるストーン・テンプルに向かう。しかし秘密の はずなのに、チチも含めた大勢の人々が武術の修業に励んでいた。みんな武道大会に出るために練習しているらしい。
ブルマのレーダーがシグナルを関知したので、すぐに悟空たちは移動する。その間も亀仙人は、悟空に修業を積ませる。さらに先へ進もう とする中、悟空たちは深い落とし穴に落ちてしまった。盗賊のヤムチャが現れ、引き上げる代わりに金を出すよう要求してきた。悟空たち は取引に応じず、夜になった。亀仙人は悟空とブルマに、「ピッコロを倒すには、ドラゴンボールを集めて神龍を呼び出し、願いを叶えて もらう以外に無い。まともに戦ってもピッコロには勝てない」と語った。
ブルマのドラゴンレーダーが、ドラゴンボールが地下にあるというシグナルをキャッチした。亀仙人は気のパワーで穴から飛び出し、 ヤムチャに「遊びは終わりだ。時間を無駄にできない。梯子を降ろせ」と告げる。「儲けの3分の1を渡す」と亀仙人が持ち掛けると、 ヤムチャは掘削機を使って協力した。洞窟を進んだ一行が溶岩の前で立ち止まっていると、ピッコロの差し向けた怪物が襲って来た。悟空 は怪物を倒して溶岩に放り込み、向こうへ渡るための飛び石代わりにする。
悟空が六星球を手に入れると、マイが現れて盗み取った。しかし悟空は反撃し、あっさりと奪い返した。ドラゴンボールを手に入れる度に 、悟空は未来の映像を見ていた。そのことを亀仙人に指摘された彼は、「みんな大猿に殺される。そいつは全てを破壊する。僕が大猿を 倒さないとダメだ」と口にした。日食まで残りは2日となり、ブルマは「もう残りを集める時間は無いわ」と漏らす。すると亀仙人は、 「ピッコロを倒す方法は他にもある。唯一のチャンスはトイ山にある」と告げた。
亀仙人は師父ノリスの元を訪れ、「かつて疑ったことは事実と分かりました」と詫びを入れる。「封印の壺が必要です。他に方法は無い。 私が魔封波を唱えるしかないんです」と、彼はノリスに助けを求めた。その頃、悟空はチチが出場する武道大会の見物に来ていた。チチと 対戦したマイは、自分から場外に出て負ける。大会に参加したのは、チチに傷を付けて彼女の血を採取することが目的だった。
亀仙人は悟空に、空気を操る最終奥義「かめはめ波」を習得させることにした。悟空は「爺ちゃんからも聞いているけど、僕には早いよ」 と尻込みするが、亀仙人は「だが時間が無い」と言い、やり方を教える。亀仙人はかめはめ波を使い、燈籠に火を灯した。彼は「燈籠の 全てに火を灯してみろ。朝になったら来る」と告げて立ち去った。悟空は奥義を会得しようとするが、全く成功しなかった。
悟空が蝋燭の火を使ってインチキをしようとしていると、チチが現れた。彼女は「1つ火を灯すごとに、1歩ずつ私に近付いていいわ。 全て消したら、私の隣に来られる」と、悟空を誘うように言う。悟空はかめはめ波を会得して全ての灯篭に火を灯し、チチとキスを交わす 。マイはチチの姿に化けて建物に侵入し、ドラゴンボールを奪った。本物のチチはマイと遭遇し、激しい戦いになった。悟空はチチを 助けようとするが、間違って彼女を攻撃してしまう。動揺している隙に、マイは悟空を撃って逃走した。
悟空は瀕死の状態に陥るが、亀仙人がかめはめ波で蘇生させた。亀仙人はノリスから壺を受け取り、悟空たちはドラゴンテンプルへ向かう 。そこではピッコロがマイを伴い、集めたドラゴンボールで神龍を呼び出そうとしていた。悟空たちは車でダイブし、その儀式を阻止した 。悟空は道着に着替え、ピッコロに「僕が大猿を倒す」と言い放つ。するとピッコロは高笑いを浮かべ、「お前の正体こそが大猿なのだ」 と言い放つ。その時、日食が発生し、悟空は大猿に変身してしまう…。

監督はジェームズ・ウォン、原作は鳥山明、脚本はベン・ラムジー、製作はスティーヴン・チョウ(チャウ・シンチー)、共同製作は ロドニー・リベル&リッチ・ソーン、製作総指揮は鳥山明&ティム・ヴァン・レリム、撮影はロバート・マクラクラン、編集はマット・ フリードマン&クリス・ウィリンガム、美術はブルトン・ジョーンズ、衣装はメイズ・C・ルベオ、視覚効果監修はアリエル・ヴェラスコ ・ショウ、特殊メイクアップ効果デザイン&創作はアレック・ギリス&トム・ウッドラフJr.、音楽はブライアン・タイラー。
出演はジャスティン・チャットウィン、チョウ・ユンファ、エミー・ロッサム、ジェイミー・チャン、ジェームズ・マースターズ、パク・ ジュンヒョン、田村英里子、ランダル・ダク・キム、アーニー・ハドソン、テキサス・バトル、関めぐみ、 イアン・ワイト、リチャード・ブレイク、ジョン・ヴァレラ、ラファエル・ヴァルデス、マイク・ウィルソン、フレディー・ブイグ、 シェヴォン・カークシー他。


鳥山明の漫画『ドラゴンボール』を20世紀フォックスが実写映画化した作品。
監督は『ファイナル・デスティネーション』『ザ・ワン』のジェームズ・ウォン、脚本は『ビッグ・ヒット』『ラヴ&ブリット』のベン・ ラムジーで、チャウ・シンチーがプロデューサーを務めている。
悟空をジャスティン・チャットウィン、亀仙人をチョウ・ユンファ、ブルマをエミー・ロッサム、チチをジェイミー・チャン、 ピッコロをジェームズ・マースターズ、ヤムチャをパク・ジュンヒョン、マイを田村英里子、悟飯をランダル・ダク・キム、ノリスを アーニー・ハドソン、フラーをテキサス・バトル、セキを関めぐみが演じている。

鳥山明が製作総指揮に携わっているのだが、その彼が予告編で「脚本やキャラクター造りは原作者としては『え?』って感じはありますが 、監督さんや俳優の皆さん、スタッフなど、現場は超優秀な人達ばかりです。ボクやファンの皆さんは別次元の『新ドラゴンボール』と して鑑賞するのが正解かもしれません。もしかしたら現場のパワーで大傑作になっているかもしれませんよ! おおいに期待しています!!」 というメッセージを寄せている。
そのメッセージが示す通り、この映画は、原作とは全く別物である。
「原作者としては『え?』って感じはありますが」とあるが、原作者だけでなく、原作を読んでいた人間からしても、やはり「え?」と いう印象だ。
ただし残念ながら、これを別次元の『新ドラゴンボール』として観賞することは、かなり難しい作業だろう。
「原作についてボンヤリした情報しか持っていない連中が、自分たちで勝手に内容を想像して実写化したモノ」を別次元の『新ドラゴン ボール』と解釈できるのなら、何とかなるかもしれないが。

製作サイドは何を考えたのか、「孫悟空がチチと惹かれ合い、ブルマ、亀仙人、ヤムチャと出会い、ドラゴンボールを7つ集め、ピッコロ を倒す」という内容を、1本の映画に収めようとした。
まず世界観を説明したり、主要キャラを紹介したりするだけでも、それなりに時間が必要だろうに。
しかも、その時点で無謀なのに、なんと上映時間は87分しか無い。
そのせいで、ドラゴンボールは世界中に散らばっているはずなのに、簡単に発見できている。
で、ただでさえ時間が足りないのに、高校生活の描写で無駄にダラダラしている。

まあハッキリ言えるのは、製作サイドには原作へのリスペクトが皆無ってことだな。
リスペクトがあったら、こんな仕上がりにはならないだろう。
とにかく、原作を踏襲した部分を見つけ出す方が難しいんじゃないかと感じるぐらい、間違いだらけだ。
まず、孫悟空が高校生という時点で、どう頑張っても『ドラゴンボール』にならない。
見た目からして、原作に似せようという気も無いってことだしね。

悟空だけでなく、チチにしろ、ブルマにしろ、ヤムチャにしろ、名前が出て来るまで、そいつが誰なのかは判別できない。
亀仙人なんて、甲羅を背負っていないだけでなく、ハゲじゃないしサングラスも掛けていないし、見た目は単なるオッサンだ。
そもそも劇中では亀仙人と呼ばれていない。
『レッドクリフ』を降板している一方、本作品には平気で出演しているチョウ・ユンファの作品選びのセンスは、かなりヤバいことに なっていると思うぞ。
ただし、そんなボンクラ魂の持ち主、個人的には嫌いじゃないけどさ。

悟空はごく普通の高校生らしい異性への欲情を持っており、チチに惚れている。
彼は純真無垢な少年ではなく、かめはめ波を会得できない時にインチキをやろうとするような悪知恵を持っている。
悟空は筋斗雲で空を飛ばないし、如意棒も使わない。
チチは田舎の純朴娘ではなく、悟空を誘惑するエロいキャラになっている。
ヤムチャはイケメンの若者ではなく、「山賊の首領」みたいなキャラが似合いそうなゴツゴツした風貌をしている。

ピッコロは手下を卵で口から吐き出すのではなく、血液から誕生させる。
悟空はかめはめ波を簡単に会得しており、しかも「チチとイチャイチャしたいから」という欲望の力で会得する。
そのかめはめ波を使っても、灯篭に火を灯す程度のパワーしかない。
その一方で、なぜか悟空を蘇生させる力もある。
大猿になった悟空は、そんなに巨大じゃなくて、微妙なサイズに留まっている。
ピッコロは殺されず、最後はサキに介抱されて布団で休んでいる。

「原作との違い」という部分を抜きにしても、色々とツッコミを入れたくなる箇所は多い。
穴に落ちた時、亀仙人はその気になれば簡単に脱出できるのに、なぜか夜中になるまで外に出ようとしない。
で、ドラゴンレーダーをシグナルをキャッチしてから、ようやく外に出てヤムチャに「遊びは終わりだ。時間を無駄にできない。梯子を 降ろせ」と言う。
なぜ、それまでは時間を無駄にしていたのか。

日食まで残り2日となり、ブルマが「もう残りを集める時間は無いわ」と漏らすと、「ピッコロを倒すには神龍にお願いするしか方法が 無い」と言っていたはずの亀仙人が、「ピッコロを倒す方法は他にもある。唯一のチャンスはトイ山にある」と言い出す。
悟空はドラゴンテンプルに到着すると、そのタイミングで唐突に道着へと着替える。
それに着替える必然性は無い。っていうか、それまで、その道着を彼が持ち歩いていたことさえ分からなかった。
悟空がドラゴンボールを集めて神龍に叶えてもらう願い事は「亀仙人を生き返らせてくれ」というものであり、だから亀仙人だけが復活 して、ピッコロに殺された大勢の人々は死んだまま。

とにかく漫画の『ドラゴンボール』とは全くの別物で、原作と比較すると、ツッコミ所の連続だ。
しかし実を言うと、この映画の抱えている致命的な問題は、そこではないような気がする。
この映画が抱える本当の問題点は、完全に「漫画とは別物」として割り切った場合、ホントに何の見どころも無いボンクラなC級映画で しかないということだ。
原作と比較してツッコミを入れることによって、ようやく本作品を楽しむ方法が生じているのだ。
漫画と比較することによって、「何の見所も退屈なB級映画」が、「ツッコミを入れることの出来るバカ映画」へと昇華しているのだ。

この映画は紛れもなくポンコツだが、誰が監督や脚本を担当したとしても、どの会社が製作したとしても、そもそも実写化しようという 段階で無謀だと思う。
原作になるべく近付けようとしても、まず孫悟空の配役の時点で止まってしまうだろう。
ローティーンの少年を起用しても、孫悟空のアクションをやらせることは無理だろうし、そこを吹き替えや編集で誤魔化そうとすると、 それはそれで陳腐になる。
他にも色々と難しいだろうし、結局、どう頑張っても実写化は無理だと思うぞ。

(観賞日:2012年5月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会