『ドラキュリア』:2000、アメリカ
1897年、英国へ向けて航行中の帆船デメテル号で、全ての乗組員が怪死した。2000年、ロンドン。ヴァン・ヘルシング卿が経営する カーファクス遺物館で、甥のサイモンは助手を務めている。ヴァン・ヘルシングの祖父は吸血鬼退治の話で有名な人物だが、そのことを サイモンから言われると「彼はただの医者だった」と否定する。サイモンは館員のソリ−ナに惚れているが、「仕事仲間とは付き合えない」 と交際を断られる。
サイモンは遺物館を去り、ヴァン・ヘルシング卿は館長室で血液を自らに注射した。そんな中、遺物館にはマーカス率いる泥棒一味が潜入 した。彼らは警備員を昏倒させ、金庫を開けた。実は、マーカスの恋人であるソリーナが一味を手引きしていたのだ。だが、洞窟のように なっている金庫を奥へと進んでも、金目の物は何も見つからなかった。
最奥まで進んだマーカスたちは、銀の棺桶を発見した。それを開けようとした時、仕掛けられた罠が作動し、2人が串刺しになった。一味は 爆弾で壁に穴を開け、棺桶を持ち出すことにした。物音に気付いてヴァン・ヘルシング卿が駆け付けた時、既に一味は逃亡した後だった。 一方、アメリカのニューオリンズに暮らすマリーは、見知らぬ男が登場する悪夢に悩まされている。彼女はルームメイトのルーシーと共に、 マルディグラで賑やかな街へと繰り出した。
遺物館に戻ったサイモンは事件を知り、警察に連絡すべきだと主張する。だが、ヴァン・ヘルシングは拒否し、「自分でカタを付ける」と 口にした。彼は旅に出る準備を整え、留守を任せるとサイモンに告げた。同じ頃、マーカスたちはケイマン諸島へ向かう小型機に乗っていた。 一味の1人ナイトシェードが棺桶を開けようとするが、びくともしない。無理に開けようとして怪我をしてしまい、その血が棺桶に落ちた。 すると簡単に棺桶が開き、中に入っていた死体が起き上がった。死体の男は、一味を次々に襲撃した。
マリーは、夢の男が小型機の面々を次々に殺害し、ソリーナの首筋に噛み付く幻覚に襲われた。それまでとは違い、現実感に満ちた光景 だった。マリーは幼馴染みの牧師デヴィッドの元を訪れ、幻覚のことを相談する。さらに彼女は、「亡くなった母は霊的なものを恐れて いた。何か秘密を打ち明けられたのでは?」と問い掛ける。だが、デヴィッドは「告白は教えられない」と返答した。
アメリカに着いたヴァン・ヘルシングは、ニューオリンズの100キロ東に飛行機が墜落したニュースを空港で知った。操縦席の死体は 手が操縦桿に巻き付けられており、それ以外の死体と積まれていた銀の棺桶はクラークの町役場に運ばれたという。一方、墜落現場で取材 をしていたTVリポーターのヴァレリーは、現れたドラキュラに魅了され、吸血鬼に変身させられた。
深夜、ヴァン・ヘルシングは役場に潜入するが、そこへサイモンが現れた。彼は密かに後を付けていたのだ。ヴァン・ヘルシングは「始末 する」と告げ、銀の銃弾を装填した銃をソリーナの死体に向けた。慌ててサイモンが反発している間に、ソリーナは起き上がった。ヴァン ・ヘルシングはサイモンに武器を渡し、「奴らは吸血鬼だ。心臓を狙え」と命じた。蘇った死体の襲撃を受け、サイモンは反撃する。 しかしソリーナを殺すことには躊躇を抱き、攻撃することが出来なかった。
警察が駆け付けたため、ヴァン・ヘルシングとサイモンは役場から退散した。ヴァン・ヘルシングは詳しい事情の説明を始めた。かつて 吸血鬼は全て退治されたはずだったが、最初に誕生したドラキュラだけは例外だった。ヴァン・ヘルシングはドラキュラを殺そうとしたが、 どんな手を使っても死ななかった。これまでヴァン・ヘルシングはドラキュラを祭室に保管し、奴の血を自分に注射して生き続けてきた。 そしてドラキュラを滅ぼす方法を研究してきたのだという。
ヴァン・ヘルシングはサイモンに、蘇ったドラキュラが自分と同じ血を持つ者を探していると語った。そして彼は、一枚の写真を見せた。 そこには、12年間も音信不通である彼の娘マリーが写っていた。一方、ゴートルー刑事はソリーナを捕まえ、分析医セワードを取調室に 呼んでいた。そこへドラキュラが現れ、ソリーナと共にゴートルーとセワードを殺害した。
ヴァン・ヘルシングはマリーの家へ赴くことに決め、サイモンには彼女が働くヴァージン・メガストアへ行くよう指示した。サイモンが 到着するより前に、ドラキュラがヴァージン・メガストアに現れるが、マリーは幻覚に襲われて店を出ていた。ドラキュラはルーシーに声 を掛け、たちまち彼女を魅了した。ドラキュラはルーシーの招きで家へ赴き、彼女を吸血鬼に変身させた。
店に戻ったマリーの元にサイモンが現れ、地下駐車場で話をしようとする。だが、マリーは怖がって逃げ出した。追い掛けようとした サイモンの前に、マーカスが出現した。マーカスの襲撃を受けたサイモンだが、返り討ちに遭わせた。一方、ヴァン・ヘルシングはマリー の家に潜入する。だが、ドラキュラに襲われ、あえなく命を落とした。
帰宅したマリーは、ヴァン・ヘルシングの死体を発見した。そこへ吸血鬼となった3人娘が現れ、彼女を取り囲んだ。さらにドラキュラも 姿を現すが、マリーは家から飛び出した。駆け付けたサイモンがマリーを車に乗せて逃走し、詳しい事情を説明した。サイモンとマリーは 、文献を当たってドラキュラのことを調べようとする。だが、そこへドラキュラが出現し、2人は分断される…。監督はパトリック・ルシエ、原案はジョエル・ソワソン&パトリック・ルシエ、脚本はジョエル・ソワソン、製作はW・K・ボーダー& ジョエル・ソワソン、共同製作はダン・アルレドンド、製作協力はトニー・ステインバーグ、製作総指揮はウェス・クレイヴン&マリアンヌ・ マッダレーナ&ボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&アンドリュー・ローナ、撮影はピーター・パウ、編集はパトリック ・ルシエ&ピーター・デヴァニー・フラナガン、美術はキャロル・スピアー、衣装はデニース・クローネンバーグ、メイク・アップ効果は ゲイリー・J・タニクリフ、視覚効果監修はエリック・ヘンリー、音楽はマルコ・ベルトラミ、音楽監修はエド・ガーラード。
出演はジョニー・リー・ミラー、ジャスティン・ワデル、クリストファー・プラマー、オマー・エップス、ジェラルド・バトラー、 コリーン・フィッツパトリック、ジェニファー・エスポジート、ダニー・マスターソン、ジェリ・ライアン、ロックリン・マンロー、 ショーン・パトリック・トーマス、ティグ・フォング、トニー・マンチ、シェーン・ウェスト、ネイサン・フィリオン、トム・ケイン、ジョナサン・ウィテカー、ロバート・ ヴァーラク他。
ホラー映画界のビッグネームとなったウェス・クレイヴンが製作総指揮を務め、クレイヴン作品の編集マンであるパトリック・ルシエが 監督した作品。
脚本は『ハイランダー/最終戦士』のジョエル・ソワソン。
サイモンをジョニー・リー・ミラー、マリーをジャスティン・ワデル、ヴァン・ヘルシングをクリストファー・プラマー、マーカスを オマー・エップス、ドラキュラをジェラルド・バトラー、ルーシーを「バイタミンC」名義での歌手活動もしているコリーン・ フィッツパトリック、ソリーナをジェニファー・エスポジート、ナイトシェードをダニー・マスターソン、ヴァレリーをジェリ・ライアン が演じている。原題は「DRACULA 2000」だが、日本で公開された時には『DRACULA 2001』と表示された。
日本での公開が本国より1年後だったため、そこをいじったわけだ。
こういう「まるで原題が異なるかのような修正」ってのは、たまに見受けられるが、ややこしいし無意味だと思う。
ちなみに邦題は『ドラキュリア』だが、劇中では「ドラキュラ」という呼称になっているし、ジェラルド・バトラーの役目もドラキュラだ。
ここも字幕では、御丁寧に全て「ドラキュリア」に変更してあるんだけどさ。『ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ』の監督&脚本家であるスコット・デリクソンによると、ある時、本作品の製作総指揮を 担当したハーヴェイ・ワインスタインから電話があった。
「やあスコット、実は『Dracula 2000』っていう企画を購入したんだ」
「それって面白いの?」
「いや、クソだよ」
「だったら、なぜ買ったの?」
「だって『Dracula 2000』ってタイトルが面白そうだったんだよ。だから脚本を書き直してくれない?」
などというやり取りがあって、スコットは脚本をリライトしたが、それは使われず、アーレン・クルーガーが書き直した脚本で映画は 作られたらしい。まず遺物館を入ってすぐに、祭室(金庫)の入り口があるという設計はいかがなものか。
普通、そういうのって施設の最も奥に隠しておくものじゃないかと思うが。
で、マーカスたちは指紋認証や網膜スキャンのシステムを突破するなど周到に準備を整えて乗り込んでいるんだが、そこまでやるぐらい なら、普通に銀行かどこかを狙った方がいいと思うよ。
遺物館という施設を考えると、値打ちがあって、しかも簡単に換金できるような物品がそう簡単に見つかるとも思えない。そんで実際、 目ぼしい物は見つからない。
ソリーナはマーカスたちの元へ来て「金やダイヤは?」と聞くが、お前さ、そこで働いているんだから、そんなモノが無いことぐらい 分かるだろ。そういう下調べもせずに強盗に入ったのかよ。
そんで棺桶を見つけた一味は「宝がザクザクだ」と断言するが、そりゃ無理がある考え方だと思うよ。棺桶の盗難があった後、マリーが悪夢を見てうなされ、ルーシーと一緒にマルディグラに出掛ける展開が入る。そして再びロンドンに戻り 、サイモンとヴァン・ヘルシングの会話シーンになる。
ここは、先に「ヴァン・ヘルシングが旅に出るのでサイモンに留守を任せる」という展開をやるべきだ。 マリーのサイドで何か動きがあればともかく、ただ登場させただけだし。
小型機で棺桶を調べていたナイトシェードは、蓋が開いてもマーカスたちへの報告に行かない。
「中は宝物がザクザク」と思っていたはずなのに、死体が入っていても全く驚かないし、がっかりもしない。
っていうか、ナイトシェードの血が棺桶に吸い込まれて、ドラキュラは普通に復活してるんだよな。
処女の美人じゃなくて、オッサンの血でも全く平気なんだね。ドラキュラは「上品で気品のある紳士だが残忍さを秘めている」というクラシカルなイメージではなく、単なる野蛮人になっている。
意外性というところでのインパクトや魅力があるわけではなく、中途半端。
エレガントじゃない一方で、固定観念を思い切り覆すほどの捻りがあるわけでない。見た目も言動も態度も、全てにおいて「ごく普通の サイコ野郎」でしかないんだよな。
マーカスがサイモンを襲撃するところで、マーシャルアーツの動きを見せる。マーカスが黒人なので、それって『ブレイド』のウェズリー ・スナイプスの質の低い物真似なのかと思ってしまう。
終盤に入ると、ソリーナやドラキュラも格闘アクションを見せる。ただし、「格闘アクション映画」というほどのモノではない。
そこも中途半端なんだよな。ショッカー映画としての味わいも無いし(ホラー映画としての怖さは全く無い)。ヴァン・ヘルシング役にクリストファー・プラマーを据えたことだけは、「分かってるなあ」と思う。
ところが、ヴァン・ヘルシングが物語の途中で、あっさりと殺されてしまう。
そこで完全に、映画は息の根を止められてしまう。まさに銀の銃弾を打ち込まれ、心臓に杭を突き刺され、太陽の光で焼き尽くされた ような状態だ。後には燃えカスぐらいしか残らない。
というのも、この脆弱な映画を何とか支えているのは、クリストファー・プラマー演じるヴァン・ヘルシングだからだ。
後に残るサイモンやドラキュラには、それ以降も観客を惹き付けるだけの魅力は無い。
そもそもサイモンがマリーを守ってドラキュラと戦う理由が弱い。
「ヴァン・ヘルシングに拾ってもらった恩義がある」って、モチベーションとして厳しいでしょ。
なんで「実はドラキュラ、もしくはマリーと関わりのある人物だった」という設定にでもしておかなかったのかと。完全ネタバレだが、この映画では「ドラキュラの正体は、キリストを裏切ったユダだった」という設定になっている。
それはドラキュラの新解釈と言えるが、それがストーリー展開にほとんど影響を及ぼしていない。
なぜなら、「ドラキュラの正体は何者なのか」を探っていくミステリーとしてのストーリー進行ではないからだ。
謎解きをしようとするのは、後半の短い時間だけだ。たぶん「ドラキュラの正体はユダ」というアイデアから企画が始まっていると思うんだが、そこを活かし切れていない。
ドラキュラがキリスト教を憎んでいるなど、伏線らしきモノはあるが、それが伏線としての機能を上手く果たさない話の運び方なのだ。
マリーが序盤から何度もドラキュラの幻覚を見ている設定も、特に意味のあるものになっておらず、ただのコケ脅しで終わっている。
考えてみれば、なぜドラキュラがマリーを探し求めるのかも、イマイチ分からないんだよな。
っていうか終盤に「実はドラキュラがユダでした」と明かされても、「だから?」「それは分かったから、そこからの展開は?」としか 思わないんだよな。
いっそ中盤辺りでドラキュラの正体を明かして、そこから「相手がユダだということを踏まえて、どうやれば殺すこと が出来るのという方法を探っていく」というストーリーの転がし方にした方が良かったかもしんない。
まあ、どうやったとしても、たぶん焼け石に水なんだろうが。(観賞日:2008年1月30日)
第23回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【誰も要求していなかったリメイク・続編】部門
<「タイトルに“2000”が付いた全作品」の中の1本として、ノミネート>
ノミネート:【最も苛立たしいプロダクト・プレイスメント】部門[ヴァージン・メガストア]