『ドアマン』:2020、アメリカ

ルーマニアのブカレスト、アメリカ大使館。海兵隊員のアリは大使の娘であるニラを護衛し、大使のSPであるラフリンたちと共に車で出発した。しかしテロリスト集団に襲撃され、SPは全滅した。アリは次々に敵を倒すが、大使とニラを守ることは出来なかった。現在、彼女はニューヨークに戻り、亡き母の弟であるパットと会った。パットは「職場のアパートで働き口がある」と言い、改装工事があるから大半の住人がいなくなることを教えた。
翌日、アリがキャリントン・アパートへ赴くと、パットはドアマンのボルスと会うよう指示した。ボルスは彼女に、「明日のイースターは人がいないから休んでいい」と告げた。アリは制服に着替え、仕事を始めた。住人のハーシュ老人は、妻に車椅子を押してもらっていた。夫人はアリに、「改装中も残っていいと言われてるの。夫が7年前に脳卒中になったから」と語った。アリは夫人から、自分の亡くなった姉を知っていること、家族がアパートで暮らしていることを聞かされた。
アリはパットの元へ行き、「隠してたの?」と姉の家族について尋ねる。パットは「言うつもりだった。家族の近くにいられる」と釈明し、アリは姉の家族が暮らす10Cの部屋へ赴いた。部屋では姉の夫であるジョン・スタントン、息子のマックス、娘のリリーが住んでいた。ジョンはアリから「貴方が仕組んだんでしょ?」と言われ、何も知らなかったと告げる。飼い猫のジャスパーが逃げ出すと、リリーはアリに協力を求めた。彼女は部屋でマリファナを吸っていたマックスを「パパに言う」と脅し、手伝いを承知させた。
アリはマックスから、使用人が部屋を行き来する隠し扉があること、地下では鉄道のトンネルを掘っていたが資金不足で封鎖されたことを教えてもらった。アリはジャスパーを見つけ、部屋に連れ帰った。リリーは明日の夕食会にアリを誘い、「私が作るの」と言う。一度は断ろうとしたアリだが、リリーが懇願するので承諾した。翌朝、パットは退勤の時間が過ぎても、ハーシュ夫妻の電子レンジを修理するために残っていた。ボルスはパットを殴り付けて始末し、ロッカーを出た。リリーが来ると、彼は「休めと言っただろ」と告げる。リリーは「夕食に誘われたの」と言い、ボルスは部屋で食事を取ることを確認してエレベーターに乗る彼女を見送った。
強盗団のヴィクトル・デュボワたちが武装して現れ、ボルスはアパートに迎え入れた。ヴィクトルの手下であるマルティネスやピーウィー、レオ、アンドレたちは、電波妨害機を設置して配電盤を破壊した。アリは一味の動きを何も知らず、夕食会の準備を進めた。ボルスはハーシュ夫妻の部屋へ行き、夫人に「ご主人の旧友が来ている」とヴィクトルを紹介した。ヴィクトルは「30年前にベルリンで一緒に仕事をした」と語り、当時のハーシュの名前はエリク・ドレシュラーだと告げた。
夫人は「人違いじゃないかしら?夫はヨーロッパに行ったことは無いわ」と怪訝そうに言うが、ヴィクトルは構わずフランス語で「絵画はどこにある?」とハーシュに質問した。ボルスは夫人を「座ってろ」と恫喝し、何も答えないハーシュをナイフで刺した。ハーシュは絶叫し、ヴィクトルの脅しを受けると「絵は壁の中だ」と証言する。どの壁なのか彼が覚えていなかったため、ヴィクトルは手下たちを呼び寄せて破壊するよう命じた。
ジョンはマリファナの匂いがするマックスを叱り、「部屋に行け」と命じた。マックスは「ママならそうしない。パパが死ねば良かった」と反発し、自分の部屋に入った。アリはミントソースと松の実を貰うため、ハーシュ家へ行くことにした。ヴィクトルの手下たちは全ての壁を破壊するが、絵は見つからなかった。ヴィクトルはハーシュ夫人の言葉で、ハーシュが脳卒中で倒れるまでは10Cで住んでいたことを知る。ヴィクトルが10Cへ行こうとすると、ボルスは「人がいる」と報告した。ヴィクトルは「この夫婦以外は不在のはずだぞ」と告げ、10Cの住人を何とかするよう命じた。ボルスは部屋を去る際、ハーシュ夫妻を射殺した。
ジョンはアリと2人になり、「君を求めたのは過ちだった」と詫びる。彼が「君のおかげで理想の自分になれた気がした。それなのに、急に消えるなんて」と話すと、アリは「姉の結婚を壊したくなかった」と述べた。アリはハーシュ家を訪れ、夫妻の遺体を発見した。彼女はロビーに連絡し、ハーシュ夫妻が死んでいることをボルスに伝える。ボルスは「良く聞こえない」と誤魔化し、ロビーに来るよう指示した。ヴィクトルは一味を率いてスタントン家へ乗り込み、おとなしくするようジョンとリリーに要求した。
アリがロビーに行くと、ボルスは隠し持った拳銃で始末しようと目論む。生きていたパットがボルスを殴り付けるが、射殺された。アリは逃走してエレベーターに飛び込むが、ボルスが停止させた。ジョンは隙を見て警察に連絡しようとするが、気付いたヴィクトルは「圏外になっている」と教えた。そこへボルスが来て「女をエレベーターに閉じ込めた」と告げ、ピーウィーに始末してくるよう命じた。マックスは父と妹が一味に捕まっているのを知り、隠し扉から廊下へ脱出した。
エレベーターから抜け出したアリは、襲って来るピーウィーを始末した。ボルスは無線で呼んでもピーウィーの応答が無いため、レオとアンドレに「様子を見て来い。ロビーでエレベーターを動かせ」と命じた。アリはマックスが来たので、知っていることを教えるよう促す。マックスは彼女に、父と妹が男たちに捕まっていることを伝えた。レオとアンドレが来たので、2人は身を隠した。ピーウィーの遺体を発見したレオたちは、無線でボルスに報告した。
アリとマックスはレオたちに見つかり、その場から逃亡する。マックスはパットに教わった隠し扉を開き、壁の裏にある潜り酒場にアリを連れ込んだ。ヴィクトルはボルスからアリの名を聞いてネットで検索し、勲章を貰ったこともある海兵隊保安警備隊員だと知った。アリはマックスから「ママと何があったの?」と訊かれ、「話せば長くなる」と返答を避けた。「じゃあパパは?」という質問に、彼女は「酷い男だった」と答えた。マックスが「今もだ」と言うと、アリは「悪い人じゃないわ」と告げる。しかしマックスは「弱虫だ」と述べ、交通事故でママが死んだ時に同乗していたジョンは何もしなかったと批判した。
レオとアンドレが潜り酒場を発見したので、アリとマックスは逃亡した。ヴィクトルはスタントン家が引っ越して来る前から本棚があったと知り、「ドレシュラーは本を読まない」と調べる。本棚の裏に隠し金庫を見つけた彼は、マルティネスに開けるよう命じた。彼は1時間で開けるよう要求し、ボルスに金庫を破壊するドリルを冷やすよう指示した。ジョンはヴィクトルたちに気付かれないよう、ノートPCをリリーに渡してソファーで隠した。リリーは一味の目を盗み、助けを求めるメッセージを入力した。しかしボルスがリリーの動きに気付き、ヴイクトルはメッセージを消去するよう命じた。
アリとマックスは管理人室へ行き、切断されたコードを繋いで火災報知器を鳴らした。サイレンの音を耳にしたヴィクトルは、ボルスに対処を命じた。アリとマックスはレオとアンドレに見つかって拳銃を向けられ、静かにするよう要求された。消防署員がアパートに来ると、ボルスはドアマンとして応対した。彼は誤作動だったと説明し、消防署員を立ち去らせた。アリはボルスたちを攻撃して消火器を噴射し、マックスに敵から奪ったライフルを渡して「出口を探して」と指示した。
アリはマックスと別行動を取り、追って来たレオ&アンドレと戦った。彼女はアンドレを始末し、その場から逃走する。ボルスはレオに、「ガキを捜せ。女は俺が殺す」と告げた。マックスは脱出口を発見し、アパートの外へ出た。彼はパトカーを停めていた警官のオルセンにテロリストがいることを伝え、助けを求めた。しかしオルセンもヴィクトルの一味だったため、マックスは捕まってしまった。ヴィクトルはアリに対し、15分以内に武装解除して降伏するよう要求した…。

監督は北村龍平、原案はマシュー・マカリスター&グレゴリー・ウィリアムズ、脚本はリオール・シャフェッツ&ジョー・スワンソン&デヴォン・ローズ、製作はジェイソン・モリング&ハリー・ウィナー&マイケル・フィリップ&ピン・グリン&シェイン・パッツロッチャー&サラ・シャーク、製作総指揮はロン・モリング&マーク・パディラ&サイモン・ウィリアムズ&ダニエル・ネグレット&ジョー・シンプソン&コリー・チェン&ノーマン・メリー&ピーター・ハンプデン&ティモシー・マーロウ&ジェネヴァ・ワッサーマン&ゲイリー・ドラモンド&ジョー・フェラーノ&クレイグ・ロシアン&スチュ・スターキー&ニック・スタグリアーノ&スタンリー・プレスチュッティー&ジョナサン・ブロス&ジョナ・ループ&ショーン・ハスヴァー、共同製作はジョー・マー&ボビー・バーバシオル、撮影はマティアス・シューバート、美術はルカ・トランキーノ、編集はマシュー・ウィラード&北島翔平、追加編集はミッチ・マーティン、衣装はリサ・ノーシア、音楽はアルド・シュラク、音楽監修はローラ・カッツ&ジャスティン・フェルドマン。
出演はルビー・ローズ、ジャン・レノ、キラ・ロード・キャシディー、アクセル・ヘニー、ルパート・エヴァンス、ジュリアン・フェーダー、ルイス・マンディロア、ダン・サウスワース、伊藤英明、デヴィッド・サクライ、フィリップ・ウィットチャーチ、アンドリーア・ヴァシール、アンドリーア・ヴァレンティナ・アンドローネ、ハワード・デル、ティディー・ハーガン、ペトル・モラル、デリアンヌ・フォーゲット、ジェイミー・サッタースウェイト、ルーク・ルイス、ジョー・マー、プイウ・ミーシア・ラスカス、ステファン・ダンシア、バニカ・ゲオルゲ、レイナー・ヴァン・デ・ウォーター、マテイ・ネグレスク他。


『ルパン三世』『ダウンレンジ』の北村龍平が監督を務めた作品。
北村監督は2008年の『ミッドナイト・ミートトレイン』でアメリカに進出しており、これが向こうで手掛けた4作目の映画になる。
アリをルビー・ローズ、ヴィクトルをジャン・レノ、リリーをキラ・ロード・キャシディー、ボルスをアクセル・ヘニー、ジョンをルパート・エヴァンス、マックスをジュリアン・フェーダー、マルティネスをルイス・マンディロア、ピーウィーをダン・サウスワース、レオを伊藤英明、アンドレをデヴィッド・サクライが演じている。

冒頭シーン、なぜSPの中で1人だけ海兵隊員がいるのか、なぜ大使の娘を彼女が警護しているのか、その理由が良く分からない。
後から特殊な事情が明かされるようなことも無いので、だったら海兵隊員じゃなくてSPにしておけばいいんじゃないのかと思ってしまう。
また、ここでアリは大使親子を目の前で殺されてバズーカで吹き飛ばされるのだが、ニューヨークに戻ってから仇討ちを果たすわけでもない。
そうなると、ルーマニアの一件は、「大使親子を守れなかった上に犯人にも逃げられた」ってことになるので、それでホントにいいのかと思ってしまうぞ。

アリがドアマンになる意味や必要性が、全く見出せない。
「ただのドアマンだと思っていたら、実は高い戦闘能力の持ち主」という流れで見せるのであれば、そんなアイデアの作品は幾らでもあるが、仕掛けとしては成立する。しかし冒頭で海兵隊員だった経歴が示されているため、アリが戦闘能力の高い女性なのはバレている。
だったら、ドアマンじゃなくてもいいでしょ。たまたまスタントン家を訪問している時に、事件に巻き込まれるという形でもいい。
ただし、その場合でも、アリが海兵隊員だったことは最初に明かさない方が効果は得られただろうと思うけどね。

「アリが海兵隊員だったせいで、ドアマンとして上手く仕事が出来ない」という様子は全く無い。彼女は住人に最初から愛想良く振る舞うことが出来ているし、特に講習を受けたわけでもないのに普通に仕事をこなしている。
「カタギの仕事に上手く順応できない」ってわけじゃないので、ここでも「冒頭シーンは何のため?」と言いたくなる。
また、アリが「ブカレストで大使親子を守れなかった」ってことを引きずっている様子も無い。
そこを心の傷として使用する気が無いのなら、ますます冒頭シーンは邪魔なだけだ。

アリがドアマンとして働き始めた後、強盗団が乗り込んで来るのは翌日のシーンになる。ここで事件の発生を翌日に持ち越しているのは、話のテンポを悪くして間延びさせているだけだ。
アリが仕事を始めたその日の内に、片付けてしまった方がいい。2日にまたがる話にしているメリットは、何も無い。
「イースターで人がいない日を狙って強盗団が乗り込む」という都合で翌日に持ち越しているのだが、そこを何とか工夫してでも1日の出来事にした方がメリットは遥かに大きい。
しかも、アリの仕事が休みの日に強盗団が乗り込む設定だから、ますますドアマンという設定の意味が無くなるでしょうに。

ボルスはパットを殴り付けるが、ちゃんと死を確認せずにロッカーを出たもんだから、後から生きていた彼に反撃を食らう。
さらに彼は、「ハーシュ夫妻以外の住人は不在」という環境をヴィクトルが求めていたのに、スタントン家の面々がいることを許容する。
そして休日にアパートへ来たアリも、そのまま通してしまう。「10階なら関係ないだろう」という考えだが、それが甘すぎて計画は大きく狂ってしまう。
このように、ボルスは序盤から隙だらけのボンクラなトコを見せている。

その一方、ハーシュ夫妻の部屋を去る時に2人を始末する仕事は、ボルスが担当する。また、ピーウィーが無線に応答しなかった時には、ヴィクトルが「無線が壊れただけだろう」と軽く考えるのに、ボルスが「あらゆる事態に備える」と言ってレオとアンドレを差し向ける。
ヴィクトルとボルスのキャラが、その場によって変化しているように感じる。
でも、そこで無理をしないと話を先が進まないわけではない。ハーシュ夫妻を始末するのは別のキャラに担当させて、ピーウィーの応答が無い時に「何かあったな」と感じて手下を差し向けるのはヴィクトルに担当させればいい。
何も難しいことなんて無いのだ。

アリはピーウィーと対峙した時、目的や正体を尋ねる。しかし戦いが始まると情報を聞き出す意識は消えてしまい、あっさりと片付ける。
「情報を聞き出そうとするが、ピーウィーが頑なに口を割らないので始末する」という手順を踏んでいるわけではない。
また、ピーウィーに襲われたアリが、尋問の余裕を失って仕方なく殺害するわけでもない。彼女は余裕で始末しているので、その気になれば尋問のチャンスはあったはずだ。
なので、そこで尋問せずに殺害するのは、ただのアホにしか見えない。

アリはジョンの元カノで、どうやらジョンは今も未練がありそうな気配を見せている。マックスは交通事故で母が死んだ時にジョンが何もしなかったと感じており、そのことで今も親子関係がギクシャクしている。
だが、そういった家族関係における設定は、まるで上手く使いこなせていない。
いっそのこと、開き直ってアクションだけに特化しても良かったんじゃないか。
他の要素は削ぎ落として、次から次へとアクションで畳み掛ける展開にしちゃった方が、少しはマシだったんじゃないだろうか。

ジョンはリリーにパソコンを使わせている間、ヴィクトルの注意を引き付けるために質問を繰り返す。ヴィクトルは何の疑いも持たず、自分たちの情報をベラベラと喋る。ジョンが携帯を使おうとした時は即座に気付いたのに、パソコンには気付かない都合の良さだ。
リリーがパソコンを使っていると気付くのはボルスで、リリーに暴力を振るおうとするとヴィクトルが制止する。
この辺りも、やはりヴィクトルとボルスのキャラがフラフラしている印象が強いぞ。
一味の中でマトモにキャラを勃てようとしているのはヴィクトルとボルスしかいないけど、その2人が定まっていないという始末なのだ。

アリはマックスを捕まえたヴィクトルから降伏するよう要求された時、ブカレストでのテロ事件を回想する。
たぶん「ブカレストではニラを守り切れなかったので、今回は必ず守る」という形で関連付けたいんだろう。
ただ、そのシーンに至るまで、アリがブカレストの事件を回想することなんて全く無かったからね。リリーが捕まっていると知っても、マックスと一緒に行動しても、まるで重ねることは無かったからね。
なので、取って付けたような印象しか受けないよ。

終盤に入り、分け前を巡ってヴィクトルとボルスが内輪揉めを起こす。
敵が金を巡って内輪揉めを起こす場合、その作戦は必ず失敗する。それだけでなく、大抵の場合は映画としても失敗に終わる。
ちなみにネタバレを書くと、その時はボルスの要求をヴィクトルが受け入れて収まるが、その後にはボルスが全額の横取りを目論んでヴィクトルを始末する展開がある。
そこでボルスを残す理由は、最後にアリとのタイマンを描くためだ。どちらかと言えば、ボルスの方が格闘アクションに向いているからね。
とは言え、そこにクライマックスとしての力がどれぐらいあるのかと問われると、まあ乏しいよね。

(観賞日:2022年7月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会