『ドント・ブリーズ2』:2021、アメリカ

一軒家が炎に包まれ、近くの道路に幼女のフェニックスが倒れて意識を失った。8年後、成長したフェニックスは追って来る犬のシャドーから森を逃走し、車に置いてある拳銃を手に取って安堵する。その直後に盲目の老人であるノーマン・ノードストロームが現れ、背後から捕まえて銃を奪い取った。それはノーマンによる訓練で、フェニックスに「最後まで油断するな」と告げた。シャドーを差し向けたのも、ノーマンの仕業だった。フェニックスはノーマンのことを、パパと呼んだ。
家に戻ったフェニックスは、母のことをノーマンに尋ねた。写真は無いのかと問われたノーマンは、「火事で焼けた。救い出せたのはお前だけだった」と答えた。フェニックスは3ヶ月も町に行っていなかったが、ノーマンは全ての訓練に合格することを要求した。彼は植物を家まで届けてくれるヘルナンデスから、「手綱を緩めないと、いずれ逃げ出すよ」と忠告された。そこでノーマンは夕方までに戻ることを条件に、フェニックスの外出を許可した。
フェニックスはヘルナンデスの車に乗せてもらい、町へ向かった。ヘルナンデスはノーマンに内緒で、廃墟になっているフェニックスの家に立ち寄った。テレビのニュースでは、臓器売買グループのリーダーであるヘニマン医師を警察が州全域を指名手配したことが報じられていた。フェニックスはコベナント養護院の子供たちが公園で遊ぶのを目撃し、少しだけ混ぜてもらった。帰る前にトイレに立ち寄った彼女は、レイランという不気味な男に声を掛けられた。フェニックスが不安を覚えてトイレを出ようとすると、レイランは立ちはだかる様子を見せる。そこへシャドーが来るとレイランは見送り、手下のデュークが運転する車で尾行した。
夜、ヘルナンデスがフェニックスを送り届けて帰路に就くと、待ち伏せていたレイランたちが殺害した。フェニックスはノーマンに、来年は学校へ行きたいと要望した。ノーマンが「家が安全だ」と言うと、彼女は「安全なんていい、普通になりたい」と訴える。ノーマンが「娘を一人失った。お前まで失いたくない」と告げると、フェニックスは「でも寂しい」と口にする。彼女は友達が欲しい思いを吐露するが、ノーマンは「孤独を分かってない」と突き放した。
レイランは手下のデューク、ジャレッド、ジム=ボブを率いて、ノーマンの家へ向かった。シャドーは気配を感じて森へ向かい、レイランたちに始末された。餌をやろうとしたノーマンは、シャドーがいないので捜索に向かった。その間にジャレッドとジム=ボブは家へ侵入し、フェニックスを捕まえようとする。侵入者に気付いたフェニックスは、身を隠しながら家の中を逃げ回った。ノーマンは森でシャドーの亡骸を発見し、殺されたことに気付いた。
フェニックスはデュークに見つかり、拳銃を向けられた。そこへジム=ボブが来てデュークを羽交い絞めにすると、フェニックスに「箱へ行け」と指示した。ジム=ボブに反撃を受けたノーマンはガレージへ行き、傷を手当した。フェニックスはデュークに見つかるが、地下室の箱に避難した。ガレージにジム=ボブが来ると、ノーマンはグルーガンで口を封じて逃亡した。デュークは箱に水を入れ、フェニックスに出て来るよう要求した。ジャレッドはジム=ボブを発見し、頬に穴を開けて呼吸できるようにした。
デュークはジャレッドから、ノーマンが地下室へ向かったことを知らされる。デュークはフェニックスが溺死しそうになっていることを明かし、ノーマンに姿を見せるよう脅しを掛ける。ノーマンはデュークを始末し、フェニックスを救助した。彼は地下道を使って外へ出るが、レイランたちが来たので温室に隠れた。レイランはフェニックスに向かって、「怖いのは俺じゃない、隣にいる男だ。何者か知らないが、嘘をついてる」と呼び掛けた。
レイランが「言っていいか」と口にすると、ノーマンが感情的になって飛び出した。レイランは殴り倒すと、フェニックスに「俺を覚えてないか」と帽子を脱いで頭髪の白い部分を見せる。彼は「昔、家が火事になり、俺のせいにされた。刑務所で8年だ」と語り、ノーマンがフェニックスを見つけて自分の物にしたんだろうと言う。彼の予測は的中していた。8年前、覚醒剤密造所だったレイランの家で火事が発生し、娘のフェニックスは逃げ出して記憶を失っていた。彼女が家を訪ねた時、奥にいたレイランが目撃していた。
レイランはジャレッドたちに、外でノーマンを殺すよう命じた。しかしノーマンは隙を見て逃走し、レイランは「娘を車へ。奴を捜す」と告げて温室を出た。ジャレッドはレイランを運び出そうとするが、農機具で足を刺される。激怒したジャレッドは彼女を殺そうとするが、潜んでいたノーマンにシャベルで殴打される。彼は執拗に殴り付け、フェニックスが「止めて」と叫んでも無視して殺害した。その声を耳にしたレイランは、急いで温室へ戻った。
レイランが温室に入ると、ノーマンは姿を消していた。ノーマンは家に戻り、追わせようと目論む。レイランは彼の策略に気付き、猛犬を放った。ノーマンはフェニックスに逃げるよう指示し、天井裏に入って猛犬と戦う。フェニックスは窓から脱出するが、レイランの手下のラウルに捕まって気絶させられた。レイランは家に火を放ち、フェニックスを車に乗せて逃亡した。フェニックスが意識を取り戻すと、レイランたちがアジトにしている廃ホテルにいた。レイランは彼女に、「ドアは開いてる。自由に出て行ける」と告げた。
レイランはフェニックスに、本当の名前がタラであること、母親はジョセフィンという名前であることを教えた。フェニックスは養護施設へ行くと言い、ホテルを去ろうとする。しかしジョセフィンが姿を見せたので、留まることにした。ジョセフィンはフェニックスが赤ん坊だった頃の写真を見せ、激しく咳き込んで吐血した。彼女は衰弱しており、「私、死ぬの。化学物質から出た煙で血が汚れて、心臓がダメになった」と話す。彼女は適合ドナーの心臓が必要だと言い、レイランはジュースに混入した薬でフェニックスを眠らせた。レイランがフェニックスを拉致したのは、心臓を取り出してジョセフィンに移植するためだった…。

監督はフェデ・アルバレス、キャラクター創作はフェデ・アルバレス&ロド・サヤゲス、脚本はフェデ・アルバレス&ロド・サヤゲス、製作はフェデ・アルバレス&サム・ライミ&ロブ・タパート、製作総指揮はネイサン・カヘイン&ジョー・ドレイク&エリン・ウェスターマン&アンドリュー・フェファー&リック・ジェイコブソン&スティーヴン・ラング、共同製作はロド・サヤゲス&ケリー・コノップ&ブレディー・フジカワ&ロメル・アダム、製作協力はクリストファー・ランドリー、撮影はペドロ・ルケ、美術はデヴィッド・ウォーレン、編集はヤン・コヴァチ、衣装はカルロス・ロサリオ、音楽はロケ・バニョス。
出演はスティーヴン・ラング、ブレンダン・セクストン三世、マデリン・グレイス、ステファニー・アルシラ、フィオナ・オシャーグネッシー、ロッチ・ボーイ・ウィリアムズ、クリスチャン・ザギア、ボビー・スコフィールド、アダム・ヤング、ディアーナ・バブニコワ、ソフィア・ストヤノヴィッチ、ステファン・ロードリ、ミオドラグ・ツヴェトコヴィッチ、イブラヒム・イスハーク、エイデル・フランシスコ・バルブエナ、ロン・ロジェル。


2016年の映画『ドント・ブリーズ』の続編。
監督と脚本のフェデ・アルバレス、脚本のロド・サヤゲスは、いずれも前作からの続投。
老人役のスティーヴン・ラングとラウル役のクリスチャン・ザギアは、前作からの続投。
ノーマン役のスティーヴン・ラングとラウル役のクリスチャン・ザギアは、前作からの続投。レイランをブレンダン・セクストン三世、フェニックスをマデリン・グレイス、ヘルナンデスをステファニー・アルシラ、ジョセフィンをフィオナ・オシャーグネッシーが演じている。

ちょっと良く分からなかったのが、ラウルの立ち位置。
前作で彼は、空き巣にノーマンの家を教える故売商として登場していた。そんな彼が、今回はレイランの一味として登場している。
しかもノーマンとの関係性は、まるで無かったかのような様子なのだ。
前作から本作品までに、何があって故売商からレイランの手下に転職したのか。もしかすると演者と名前が同じだけど、前作のラウルとは別人という設定だったりするのか。
こいつが変な意味で、謎の存在になっている。

前作が予想以上のヒットを記録したので、続編を作りたくなるのは理解できる。ただし前作の内容を考えると、かなり難しいとも感じる。
何をどう頑張っても、前作の焼き直しになるイメージしか湧かない。無理して前作の焼き直しを避けようとすると、それはそれで続編としての意味を持たない作品になりそうな予感しか無い。
そんな中でフェデ・アルバレスとロド・サヤゲスが生み出したのは、予想の斜め上を行く続編だった。
ただし、その予想外は、決して歓迎できるモノではない。

「盲目の老人が、家に侵入した悪党を残忍に始末していく」というパターンは、前作と同じだ。
大きく異なるのは、ノーマンを「少女を守るために戦う」という設定にしていることだ。ようするに、まるでヒーローのような扱いになっているわけだ。
だけど何をどうやっても、今回のノーマンの立ち位置には無理があり過ぎる。ノーマンはヒーローどころか、アンチ・ヒーローやダーク・ヒーローになることさえ絶対に無理なぐらいの外道だからね。
だから、今回もノーマンを主人公として扱うのなら、「外道と外道の戦い」として描く以外に方法は無いはずなのよ。

ヘルナンデスがノーマンに、「自分はクズだ、罪を犯して来たと思ってるでしょ。戦争は人を変える。汚れずに戻れる者はいない」と話すシーンがある。
ヘルナンデスもノーマンと同じ退役軍人で、「気持ちは分かる」と言いたいわけだ。そしてヘルナンデスが「でも彼女は関係ない」とフェニックスに言及すると、ノーマンは「分かってる」と告げる。
だけどノーマンは戦争と無関係で、醜悪で残忍な行為を重ねていたのだ。それが前作で描かれていたのだ。
仮に戦地での出来事について罪悪感を抱いていたとしても、前作で描かれたヘドの出るような行為に関しては、何も思っちゃいないのだ。
もしも前作で描かれた犯罪についても罪悪感を抱いている設定だと捉えても、それで全て許されるようなことじゃないし。

レイランはフェニックスの実父だが、ノーマンから拉致する目的は「娘を取り戻したいから」ってことじゃなくて、ジョセフィンに心臓を移植するためだ。
そのために彼は、フェニックスを生かしたまま心臓だけ摘出させようとしている。
そこに娘への愛は皆無なので、彼の行為は全面的に悪だ。
しかも、ジョセフィンを救おうとするのも妻への愛ではなく、「覚醒剤の製造係なので、彼女がいないと商売が成り立たない」ってことだ。

フェニックスか父親に連れ戻されたまま放置すると、殺されることになる。なのでノーマンが一味を倒して彼女を連れ出そうとするのは、そこだけを抽出すれば、確かにヒーロー的な行動と言えるだろう。
今回の映画に限定すれば、ノーマンが戦う相手はフェニックスを拉致して心臓を取り出そうとする連中だ。
なので相手を残酷な方法で殺しても、サイコキラーのような印象は薄い。
フェニックスを騙して娘として育てていたのは犯罪だが、今回の内容だけなら、ノーマンを「応援したくなる主人公」と捉えても問題は無いかもしれない。

しかし、これは『ドント・ブリーズ』の続編なのだ。
前作においてノーマンは、引くぐらいの変態殺人鬼であることが明らかにされていた。
本作品の終盤でノーマンが「人を殺してきたし、レイプもした」とフェニックスに告白するけど、そんな短い台詞だけで済まないぐらいのドイヒーまっしぐらな奴なのだ。
今さら「私は悪い奴でした、だから殺されても仕方が無い」みたいな言葉を口にしても、その程度でチャラになることは無いのよ。そして、もちろんヒーローになるのも無理なのよ。

終盤、ラウルはレイランがフェニックスから心臓を取り出そうとすると、「こんなのは間違ってる」と言い出す。
そしてノーマンがホテルに乗り込んで一味を次々に始末すると、ラウルはフェニックスの居場所を教える。
決してノーマンに殺されるのが怖くて情報を売ったわけじゃなくて、フェニックスを助けるために協力するのだ。
でも、そんなヌルいキャラなんて要らないなあ。レイランの一味は、一括りで「完全無欠の外道」にしておくべきだわ。

終盤、フェニックスは自分が助かるためとは言え、ジョセフィンの腕を切断する。さらに、レイランがノーマンを始末しようとすると、腹を突き刺して殺害する。
つまり結果として、フェニックスは両親を殺しているわけだ。そのシナリオは、どう考えても醜いだろ。
しかも、フェニックスはホテルを脱出した後、養護施設へ出向いて、そこで暮らす子供たちに笑顔で挨拶するんだぜ。
いやいや、その感覚は完全にイカれてるだろ。
あと、育ての親であるノーマンが殺されてフェニックスが泣くのは、理解は出来るけど、なんか根本的に話として大きな問題があると感じるなあ。

(観賞日:2023年7月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会