『ドミノ』:2005、アメリカ&イギリス&フランス

バウンティー・ハンターのドミノ・ハーヴェイは、ラスベガス警察の取調室にいた。FBIの犯罪心理学者タリン・ミルズが、ドミノの取り調べを担当していた。36時間前、現金輸送車から1000万ドルが強奪される事件が発生した。ダムに放置されていた輸送車の運転手はローカス・フェンダーで、犯人グループの一員であることは既にFBIが突き止めていた。ドミノの仕事は、犯人グループを捕まえてカジノのオーナーであるドレイク・ビショップに引き渡すことだった。
金の隠し場所を知ったドミノは、ボスのエド、仲間のチョコと共に、フェンダー牧場へ乗り込んだ。潜んでいたローカスの母エドナが発砲して来ると、ドミノは「おとなしく金を渡さないと、人質にしているアンタの息子を殺すぞ」と脅した。エドナが信じなかったので、エドは切断した息子の片腕を見せた。チョコは車へ戻り、運転手のアルフに「エドナに息子を見せる」と告げた。彼はチョコは車に乗せていたローカスを連れ出し、荒っぽく扱った。
ドミノたちがローカスの腕を切断したのは、そこに刻まれていた刺青が金庫の暗号だったからだ。チョコはローカスを家へ連れて戻り、ドミノはエドナに「銃を捨てろ」と要求した。エドナはローカスから嘆願され、暗号を使って金庫にしている冷蔵庫を開け始めた。テレビでは映画の『影なき狙撃者』が放送されていた。出演者のローレンス・ハーヴェイはドミノの父親で、彼女が幼い頃に死んでいた。
時間を遡り、ロサンゼルスの陸運局。フランセスという大学生は受付係のラティーシャに歩み寄り、「キキから」と告げて持参した紙を差し出した。そこにはフランセスと仲間たちの社会保障番号が記してあった。彼が「キキの話だと、今夜の内にアンタから免許証が貰えるって」と話すと、ラティーシャは「キキが何を言おうと知らない」と冷たく告げた。しかしフランセスが「分かってないな。俺はお前から仕事を取り上げることも出来るんだ」と脅すと、彼女は「今夜の8時までに」と承諾した。
ドミノが幼い頃に父が死んだ後、母は早速、金持ちの新しい男を探し始めた。母のソフィー・ウィンはドミノを寄宿学校に放り込んだ。飼っていた金魚が死んだ時、ドミノは1つの物に対して必要以上に感情を持たないよう心に決めた。成長したドミノはモデルとしての活躍を始めるが、些細なことで他のモデルに殴り掛かるなど、荒っぽい行動が目立った。ソフィーはTVドラマ『ビバリーヒルズ青春白書』を見て、ビバリーヒルズへ引っ越すことを決めた。
ソフィーはハードロック・カフェに出資するマーク・ウォルドマンという男と再婚した。ドミノは高校でも大学でも、全く馴染めなかった。嫌な先輩に暴力を振るった彼女は、退学になった。そんな時、彼女は「バウンティー・ハンター募集」という新聞広告を目にした。保釈金保証人のクレアモントが講師を務めるトレーニング・セミナーに参加した。既に賞金稼ぎとして活動していたエドは、クレアモントにゲストとして招かれていた。
クレアモントは「10分後にレクチャーを始める」と告げて休憩を入れるが、受講料だけ頂いて姿を消すつもりだった。彼は自分の取り分を懐に入れて立ち去り、エドはチョコに金を入れたバッグを渡して「5分後に窓から出ろ。エンジンを掛けておく」と指示した。チョコがトイレの窓を受けたので、警報が鳴った。その音を聞いたドミノは先回りし、エドとチョコが乗る車の前に立ちはだかって「私は仕事が欲しいんだよ」と声を荒らげた。突き放すような態度を取るエドに、彼女は12歳から訓練してきたことを生意気な態度で語った。エドは彼女を気に入り、車に乗るよう促した。
翌日、エドは早速、ドミノを仕事へ連れて行く。捕まえる相手は19歳のヘクター・マルドナードという男だ。彼は車から無差別に銃を乱射して逮捕され、母親が保釈金を出していた。ドミノたちは偽情報を掴まされ、ギャングが待ち受ける家に乗り込んでしまった。しかしドミノは余裕の態度をで対応し、色仕掛けでヘクターの居場所を聞き出した。その2週間後、ドミノたちはヘクターを捕まえた。
クレアモントはドミノたちに次々と仕事を与えた。彼は「陸運局にあらゆるデータが記録されている。だから内通者を潜り込ませている」と語る。事務所の壁には、彼がラティーシャを始めとする内通者たちと一緒に写っている写真が飾られていた。6ヶ月後、クレアモントは運転手のアルフを雇い入れた。2003年、ドミノは賞金稼ぎの年間最優秀者に選ばれた。ドミノはエド、チョコと強い絆で結ばれた。だが、ソフィーは2人に対する不快感を露骨に示した。
リアリティーTVのプロデューサーを務めるマーク・ハイスは、ソフィーの友人だった。彼はパーティーでドミノを知り、番組出演をオファーしようと考えた。ソフィーは反対し、エド&チョコと共にハイスの元を訪れるドミノに同行した。1週間の密着取材を依頼したハイスに対し、エドはメンバー全員を同等に扱うことを条件提示した。ソフィーは「事実を捻じ曲げられて、人生を食い物にされるわ」と反対するが、ドミノは「やるよ」と承諾した。
番組の共演者は、『ビバリーヒルズ青春白書』に出演していた俳優のブライアン・オースティン・グリーンとアイアン・ジーリングだった。ドミノは後になって、ソフィーが2人の起用をハイスに持ち掛けたことを知った。ハイスは助手のキミーから、アルフが番組で使うトレーラーを勝手に改装してしまったことを知らされた。アルフは車にドクロを飾り付けて、いかめしいデザインに変えていた。
クレアモントとラティーシャの孫娘ミーカは奇病を患い、白血球が減り続けていた。クレアモントは娘のキキから「お金が必要なの」と言われ、現金輸送車に狙いを付けた。ラティーシャは嘘をついてテレビ番組に出演したこと、ミーカを娘と偽って手術を申請したことを上司に知られ、2週間以内に陸運局を去るよう要求された。さらに上司は、FBI捜査官2名が会いに来ていることをラティーシャに教えた。免許偽造の通報があったため、捜査官のコスグレイヴとウィルソンが訪れたのだ。
しかしコスグレイヴとウィルソンの狙いは、ラティーシャを免許偽造で捕まえることではなかった。2人は彼女に、「フランセスという学生が10分ほどしたら偽造免許を作るよう頼みに来る。協力してくれ。彼の目的が知りたい」と語った。ラティーシャは脅しに負けて、フランセスが仲間3人と共に現金輸送車を襲撃することを暴露した。事件発生後、現金1千万ドルの本来の所有者であるビショップは、弁護士のバーク・ベケットを伴い、現金輸送車が発見されたダムの駐車場へやって来た。刑事のカドリッツが監視カメラの映像を見せると、犯人は全員が歴代ファースト・レディーの覆面を被っていた。
現金輸送車サービスの経営者でもあるクレアモントは、ビショップに電話を掛けた。彼は「ある筋から、4人の社会保障番号が書かれたメールを受け取りました。私が考えるに、その4人が犯人です。30万ドルの手数料さえ貰えれば、賞金稼ぎを使って犯人を捕まえます」と持ち掛け、ビショップは承諾した。ベケットは犯罪組織の親分アンソニー・シギリティーに電話を掛け、犯人が捕まれば手数料の半分を支払うよう要請した。1千万ドルは組織の金で、マネーロンダリングのためにビショップが関わっていたのだ。FBIはビショップとシギリティーの関係を暴くため、盗聴を行っていた。
ローカスは輸送車の運転手であり、クレアモントの部下でもあった。そして母親のエドナは陸運局の職員だった。ローカスは自宅に戻り、ガソリンスタンドで停車した時に仲間たちが金を置いたまま別の車で逃走したことをエドナに話した。狼狽するローカスに、エドナは「放っておけばいいんだよ。金を冷蔵庫に入れな」と告げた。ドミノたちは密着取材を受けながら、犯人グループの逮捕に向かう。ドミノはブライアンとアイアンから「犯人はどんな連中だ?」と問われ、クレアモントが用意した嘘情報を語った。
ドミノたちは、レスター・キンケイド、ハウイー・スタイン、そしてシギリティーの息子であるチャールズとフランセスの兄弟を次々に捕まえた。ドミノから電話連絡を受けたクレアモントは、4人をニードルズの陸運局の前へ連れて来るよう指示した。「そんな場所へ連行する理由は?4人の逮捕記録は見つからない」とドミノが疑問を呈すると、彼は「データが更新されてないだけだ」と告げた。
エドたちはトレーラーでニードルズへ向かうが、ドミノはクレアモントから4人の保釈契約書が届いていないことを知り、レスターたちが逮捕されていないと確信する。トレーラーは陸運局に到着し、エドたちは待ち受けていたビショップの部下たちに4人を引き渡した。だが、本当のファースト・レディー4人組は、ラティーシャと仲間のラシンドラ、ラシャンドラ、ラウルだった。そこまでは作戦通りだったが、シギリティーの息子を身代わりに選んだことは知らなかった。それを知ったクレアモントは、焦りを見せる…。

監督はトニー・スコット、原案はリチャード・ケリー&スティーヴ・バランシック、脚本はリチャード・ケリー、製作はサミュエル・ハディダ&トニー・スコット、製作総指揮はバリー・ウォルドマン&ザック・シフ=エイブラムズ&リサ・エルジー&トビー・エメリッヒ&ヴィクター・ハディダ&スキップ・チェイソン、共同製作はピーター・トゥマシス&デヴィッド・ハディダ、撮影はダン・ミンデル、編集はウィリアム・ゴールドバーグ&クリスチャン・ワグナー、美術はクリス・シーガーズ、衣装はB.、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。
出演はキーラ・ナイトレイ、ミッキー・ローク、クリストファー・ウォーケン、ルーシー・リュー、エドガー・ラミレス、デルロイ・リンドー、モニーク、ミーナ・スヴァーリ、メイシー・グレイ、ジャクリーン・ビセット、ダブニー・コールマン、ブライアン・オースティン・グリーン、アイアン・ジーリング、スタンリー・カメル、ピーター・ジェイコブソン、T・K・カーター、ケル・オニール、ションドレラ・エイヴリー、リュー・テンプル他。


実在した賞金稼ぎのドミノ・ハーヴェイを主人公にした映画。
映画が完成する直前の2005年6月に、彼女は35歳で死去している。
ドミノをキーラ・ナイトレイ、エドをミッキー・ローク、ハイスをクリストファー・ウォーケン、タリンをルーシー・リュー、チョコをエドガー・ラミレス、クレアモントをデルロイ・リンドー、ラティーシャをモニーク、キミーをミーナ・スヴァーリ、ラシャンドラをメイシー・グレイ、ソフィーをジャクリーン・ビセット、ビショップをダブニー・コールマンが演じている。
監督は『スパイ・ゲーム』『マイ・ボディガード』のトニー・スコット。

実在した女性が主人公なのだから、伝記映画なのかと思いきや、そうではない。劇中で描かれている内容は、ほぼフィクションとなっている。
実際のドミノ・ハーヴェイはドラッグ常習者でアルコール依存症のパーティー・ガールであり(死因も薬物の過剰摂取と見られている)、バウンティー・ハンターとして活動したのは数年に過ぎない(この映画が製作に入るより遥か以前に引退している)。
親のスネをかじりながら無軌道&自堕落な暮らしを続け、思い付きでチョロッとバウンティー・ハンターをやっただけに過ぎない人なのだが、ここでは思い切り美化されている。
何しろドミノ・ハーヴェイの執筆した自伝がベースになっているので、そりゃあ彼女が「独立心旺盛でタフなバウンティー・ハンター」として描かれるのも、当然っちゃあ当然のことだ。
そもそも、美化してフィクションだらけにしなけりゃ成立しないようなドミノの人生を、なぜ映画化しようと思ったのかという時点で疑問が沸いてしまうのだが、そこはひとまず置いておくとしよう(ホントは置いておくべきじゃない問題ではあるのだが)。

ドミノ・ハーヴェイを「孤独を抱えながら自分探しに迷走していた可哀想な女性」として描くことも出来たんじゃないかと思ったりもするけど、あくまでも「賞金稼ぎとしてクールに活躍したイケてる女」として描いている(まあ製作当時はドミノ・ハーヴェイ本人が生きていたし、気を遣う部分もあったかもしれない)。
で、そういうアプローチで、ドミノの名前と「バウンティー・ハンターをやっていた」という部分だけを拝借し、完全に架空の物語として描くのであれば、高揚感のあるアクション映画や緊張感のあるサスペンス映画など、分かりやすい娯楽映画として仕上げるのが普通の感覚ではないだろうか。
少なくとも商業映画を手掛ける映画人であれば、そういう感覚を持つべきじゃないかと思う。

しかし残念なことに、トニー・スコットには「自分は娯楽映画を手掛ける映画監督である」という意識が欠如していたようだ。
この映画で彼がやったのは、「映像で遊びまくり、時系列をいじりくまる」という作業だった。一言で言えば、無駄にややこしくて見づらい作品に仕上げたのである。
映像に凝っているのは、そこに「映画を面白くするため」という狙いがあるわけではない。トニー・スコットは、どんな内容であろうと、どんなジャンルであろうと、とにかく映像に凝りたがる人なのだ。
たぶん大半の観客は娯楽映画を見ようとしているはずだが、それなのに美術館で展示されている現代美術みたいな映像作品を見せられる羽目になるのである。

取調室のシーンから始まり、ドミノが過去を回想する形式で進行するのだが、回想の内容は時系列順に並んでいるわけではない。
ドミノが現金強奪事件の犯人の元へ乗り込むシーンがあったかと思うと、そこから遡ってフランセス&ラティーシャという2人の関わる出来事が描かれ、その後にはドミノの幼少時代の思い出が挿入されるといった感じである。
映像に凝りまくっているだけでも見づらい映画になっているのに、それに加えて時系列をシャッフルして構成しているため、ますますゴチャゴチャした印象になっている。
時系列のシャッフルも、映像遊びと同様、映画を面白くする効果に繋がっているわけではない。

フィクションだからって、一応は「実話っぽさ」を出した方がいいと思うんだが、「それってマジでやってんのか」と首をかしげてしまう描写もチラホラと目に付く。
特に引っ掛かったのは、っていうか苦笑してしまったのは、金を持ってトンズラしようとするエドたちの車を止めたドミノが、「自分がこの仕事出来ると思ってんのか」と言われて「12歳の頃から訓練して来た。ナイフ、銃、手裏剣、何が相手でも戦える」と言い、ヌンチャクを振り回すというシーン。
「どこに隠し持っていたんだ。って言うか、常にヌンチャクを携帯してるのか」というツッコミを入れたくなるし、賞金稼ぎの仕事にヌンチャクは向かないと思うよ。
フランセスを捕まえる時にヌンチャクを使っているけど、ヌンチャクだから上手く捕まえられたわけじゃないし。

ドミノの物語に集中すればいいものを、途中でラティーシャが『ジェリー・スプリンガー・ショー』に出演して混血人種の権利を主張するシーンが入るなど、ゴテゴテした余計な飾り付けがあまりにも多すぎる。
エド、チョコ、アルフがどういう人物なのかという説明も途中で入るが、それがストーリー展開に絡んだりドラマの厚みに貢献したりすることは全く無いので、そこも単に邪魔な飾りと化している。
アルフがアフガニスタンの闘士だったという設定は、ラスト近くでドミノたちが現金を返そうとした時に「金はアフガニスタンの解放資金に使うから返さない」と言い出して爆破装置を掲げるところで絡んで来るけど、唐突でバカバカしいだけだし。
途中で「クレアモントの孫娘が奇病を患っている」という要素が語られ、また余計なモノを放り込んで来たなあと思っていたら、そこに関連して、「クレアモントが現金輸送車を利用して30万ドルを手に入れようとする」という展開になり、ドミノが犯人だと疑われている事件と絡んで来る。
だから本筋と無関係ではないのだが、そもそも、そこを本筋にしてどうすんのかという不満がある。

カジノのオーナーも犯罪組織もFBIも関わる複雑な事件を持ち込んだことによって、完全に「ドミノの物語」は消え去っている。
その事件に関する描写が続いている間、説明のナレーションを担当しているのはドミノだが、彼女は「登場人物の1人」に過ぎない。
何か裏があるのかもしれないとドミノが気付いた辺りで、ようやく彼女は話の中心に戻って来るが、でも「複雑なトラブルに巻き込まれる女」という立場だ。ドミノの生き方を描くとか、賞金稼ぎとしての活躍を見せるとか、そういう内容ではない。
しかも、せめて事件に集中すればいいものを、ドミノに恋するチョコが思い通りにならずに苛立つとか、そういう余計な要素を挟んでしまう。

トレーラーが横転した後、唐突にドミノとチョコの濡れ場が入った時は、ヌンチャクを振り回すシーンと同じぐらい「おいおい、それってマジなのか」と言いたくなった。
そんな違和感しか無いような箇所で脱ぐのは、完全に脱ぎ損だろ、キーラ・ナイトレイ。
あと、預言者のトム・ウェイツが現れた時も、やっぱり「これってマジなのか」と言いたくなったぞ。
でもマジじゃないとしても、コメディーってわけでもないので、何をどう描きたいのかは良く分からん。
一つ感じたのは、時系列のシャッフルでバラバラにしたピースを組み合わせても、ちゃんとしたパズルが完成しないか、何の魅力も無いパズルが完成するか、どっちかだろうなあってことだ。

(観賞日:2013年11月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会